「テタヌス毒素」の版間の差分

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英:tetanus toxin、英語略: TeNT、独:Wundstarrkrampf、仏:  
英:tetanus toxin、英語略: TeNT、独:Wundstarrkrampf、仏:  


同義語: tetanus neurotoxin、tetanospasmin
同義語: tetanus neurotoxin、tetanospasmin  


 テタヌス毒素とは、土壌中に棲息するグラム陽性型の嫌気性細菌であるクロストリジウム属の''Clostridium tetani''により産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属にはボツリヌス毒素があり、これらは分子量約15万の1本のポリペプチド鎖として合成された後、限定分解を受け、分子量約5万の軽鎖と10万の重鎖の2本のポリペプチド鎖となり、これらは1つのジスルフィド結合により連結している。重鎖が、神経細胞の膜にあるガングリオシドに結合し、テタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。そして最終的に、重金属依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、神経伝達物質の開口放出を担うSNAREタンパク質のVAMPを分解することにより神経伝達物質の放出が抑制される仕組みとなっている。
 テタヌス毒素とは、土壌中に棲息するグラム陽性型の嫌気性細菌であるクロストリジウム属の''Clostridium tetani''により産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属にはボツリヌス毒素があり、これらは分子量約15万の1本のポリペプチド鎖として合成された後、限定分解を受け、分子量約5万の軽鎖と10万の重鎖の2本のポリペプチド鎖となり、これらは1つのジスルフィド結合により連結している。重鎖が、神経細胞の膜にあるガングリオシドに結合し、テタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。そして最終的に、重金属依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、神経伝達物質の開口放出を担うSNAREタンパク質のVAMPを分解することにより神経伝達物質の放出が抑制される仕組みとなっている。  


=  1 テタヌス毒素とは  =
=  1 テタヌス毒素とは  =
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  テタヌス毒素は神経筋接合部から神経終末膜を介して神経内に取り込まれる。テタヌス毒素は逆行性輸送され、脊髄前角に到達し、細胞膜を通過しシナプス前膜を通りさらに上位の中枢へと運搬される。そこで抑制性シナプスを遮断し、痙性麻痺を引き起こす。ついで興奮性シナプスも遮断し、筋は拘縮した状態となる。ちなみにこれは筋の弛緩を発生させるボツリヌストキシンの作用と逆となる。テタヌス毒素は、神経細胞に対して、(1) 毒素の結合、(2) 毒素のエンドサイトーシス、(3) 膜からの細胞質への移行、(4) 標的タンパク質であるVAMPの分解、といった4段階を介して作用する(図5)。現在もなおテタヌス毒素の受容体については不明であるが、テタヌス毒素のHcCドメインには、2つのガングリオシド結合部位がこれまでに同定され、ポリシアロガングリオシド分子と糖タンパク質にそれぞれ結合することが考えられている。実際にテタヌス毒素はGPI-アンカー型糖タンパク質と脂質ラフトに結合する。図5に示したように、運動神経終末での形質膜上に発現する受容体を介したエンドサイトーシスにより取り込まれるボツリナム毒素とは異なり、テタヌス毒素は脂質ラフトやガングリオシドであるGD1bを含む脂質タンパク質受容体複合体に結合するクラスリン依存的なエンドサイトーシスにより内部に入る。クラスリン被覆小胞によりいったん取り込まれたテタヌス毒素は、神経中枢の神経細胞体へ逆行性に運ばれ、さらにシナプスを越えて高次神経細胞のシナプス前部に到達する過程(Transcytosis)にHcが関与している。標識されたHcは取り込まれた後も中性を保ったコンパートメントで細胞体へと逆行性に運搬され、運動神経の樹状突起に集積される。BDNFやGDNFなどの神経栄養因子と比較すると、運搬速度や樹状突起への集積速度は同じ(1 μm/sec)であるが、シナプスを越えて次のシナプス前部への移行はHcの方がほぼ倍の速度で行われることが明らかにされた。  
  テタヌス毒素は神経筋接合部から神経終末膜を介して神経内に取り込まれる。テタヌス毒素は逆行性輸送され、脊髄前角に到達し、細胞膜を通過しシナプス前膜を通りさらに上位の中枢へと運搬される。そこで抑制性シナプスを遮断し、痙性麻痺を引き起こす。ついで興奮性シナプスも遮断し、筋は拘縮した状態となる。ちなみにこれは筋の弛緩を発生させるボツリヌストキシンの作用と逆となる。テタヌス毒素は、神経細胞に対して、(1) 毒素の結合、(2) 毒素のエンドサイトーシス、(3) 膜からの細胞質への移行、(4) 標的タンパク質であるVAMPの分解、といった4段階を介して作用する(図5)。現在もなおテタヌス毒素の受容体については不明であるが、テタヌス毒素のHcCドメインには、2つのガングリオシド結合部位がこれまでに同定され、ポリシアロガングリオシド分子と糖タンパク質にそれぞれ結合することが考えられている。実際にテタヌス毒素はGPI-アンカー型糖タンパク質と脂質ラフトに結合する。図5に示したように、運動神経終末での形質膜上に発現する受容体を介したエンドサイトーシスにより取り込まれるボツリナム毒素とは異なり、テタヌス毒素は脂質ラフトやガングリオシドであるGD1bを含む脂質タンパク質受容体複合体に結合するクラスリン依存的なエンドサイトーシスにより内部に入る。クラスリン被覆小胞によりいったん取り込まれたテタヌス毒素は、神経中枢の神経細胞体へ逆行性に運ばれ、さらにシナプスを越えて高次神経細胞のシナプス前部に到達する過程(Transcytosis)にHcが関与している。標識されたHcは取り込まれた後も中性を保ったコンパートメントで細胞体へと逆行性に運搬され、運動神経の樹状突起に集積される。BDNFやGDNFなどの神経栄養因子と比較すると、運搬速度や樹状突起への集積速度は同じ(1 μm/sec)であるが、シナプスを越えて次のシナプス前部への移行はHcの方がほぼ倍の速度で行われることが明らかにされた。  


= ==6 関連項目== =
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= ==7 参考文献== =
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