「行動の抑制」の版間の差分

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== <br>行動の抑制の発達  ==
== <br>行動の抑制の発達  ==


<br> 発達心理学においては,行動の抑制は乳児期に萌芽がみられ,幼児期に著しく発達し,児童期から青年期まで緩やかに発達が続き,老年期にはその能力が低下することが知られている<ref>'''森口佑介'''<br>わたしを律するわたし<br>''京都大学学術出版会(京都)'':2012</ref>.<br> 乳児に対しては,探索課題が用いられる.探索課題では,実験者がある場所に物体を隠し,乳児にその物体を探索させる.それを数試行つづけた後に,実験者が物体を別の場所に隠す.その際に,乳児が正しく物体を探索できるかが検討される.この課題を含め,9ヶ月から12か月頃に行動の抑制の発達が見られる.幼児に対しては,ストループ課題を修正したDay/Night課題が用いられる  <ref><pubmed>      7805351</pubmed></ref>  .この課題では,月を描いたカードと太陽を書いたカードを用意する.幼児は,月のカードには「昼」,太陽のカードには「夜」と反応するように教示される.幼児は,月のカードでは「昼」,太陽のカードでは「夜」と反応しやすいが,その傾向を抑制しなければならない.この課題を含め,3歳から5歳頃に行動の抑制は著しく発達する.児童期以降は,成人と同じStroop課題やGo/Nogo課題が用いられ,12歳から16歳頃までに緩やかに発達することが示されている.<br> 行動の抑制と関わりの深い前頭前野は,他の脳領域と比べても,成熟するのに時間を要することが知られている.例えば,シナプスの刈り込みの時期は視覚野に比べると,前頭前野は数年遅いし<ref><pubmed> 9336221</pubmed></ref>,前頭前野の灰白質の成熟は,他の脳領域と比べて,長期間を要するというMRIの知見もある<ref><pubmed> 10491603</pubmed></ref>.これは、行動の抑制が青年期にまでかけて発達が続くという行動の知見とも一致する.また,近年の神経イメージング研究により,行動レベルの発達と一致して,前頭前野の活動にも変化が見られることが示されている.例えば,3歳から5歳にかけてルールを抑制する能力が発達する際には,下前頭領域の活動が有意に変化することが示されている <ref><pubmed> 19332783</pubmed></ref>  .また,児童期以降では,Go/Nogo課題における成績が年齢とともに上昇するが,その際の前頭前野の活動は全体的な活動から局所的な活動に変化することも示されている<ref><pubmed> 16445387</pubmed></ref><br><br> <references />
<br> 発達心理学においては,行動の抑制は乳児期に萌芽がみられ,幼児期に著しく発達し,児童期から青年期まで緩やかに発達が続き,老年期にはその能力が低下することが知られている<ref>'''森口佑介'''<br>わたしを律するわたし<br>''京都大学学術出版会(京都)'':2012</ref>.<br> 乳児に対しては,探索課題が用いられる.探索課題では,実験者がある場所に物体を隠し,乳児にその物体を探索させる.それを数試行つづけた後に,実験者が物体を別の場所に隠す.その際に,乳児が正しく物体を探索できるかが検討される.この課題を含め,9ヶ月から12か月頃に行動の抑制の発達が見られる.幼児に対しては,ストループ課題を修正したDay/Night課題が用いられる  <ref><pubmed>      7805351</pubmed></ref>  .この課題では,月を描いたカードと太陽を書いたカードを用意する.幼児は,月のカードには「昼」,太陽のカードには「夜」と反応するように教示される.幼児は,月のカードでは「昼」,太陽のカードでは「夜」と反応しやすいが,その傾向を抑制しなければならない.この課題を含め,3歳から5歳頃に行動の抑制は著しく発達する.児童期以降は,成人と同じStroop課題やGo/Nogo課題が用いられ,12歳から16歳頃までに緩やかに発達することが示されている.<br> 行動の抑制と関わりの深い前頭前野は,他の脳領域と比べても,成熟するのに時間を要することが知られている.例えば,シナプスの刈り込みの時期は視覚野に比べると,前頭前野は数年遅いし<ref><pubmed> 9336221</pubmed></ref>,前頭前野の灰白質の成熟は,他の脳領域と比べて,長期間を要するというMRIの知見もある<ref><pubmed> 10491603</pubmed></ref>.これは、行動の抑制が青年期にまでかけて発達が続くという行動の知見とも一致する.また,近年の神経イメージング研究により,行動レベルの発達と一致して,前頭前野の活動にも変化が見られることが示されている.例えば,3歳から5歳にかけてルールを抑制する能力が発達する際には,下前頭領域の活動が有意に強くなることが示されている <ref><pubmed> 19332783</pubmed></ref>  .また,児童期以降においても、行動の抑制の発達と前頭前野の活動には密接な関連がある。Go/Nogo課題において年齢に伴った成績の変化が見られるが,その際の前頭前野の活動は全体的な活動から局所的な活動に変化する<ref><pubmed> 16445387</pubmed></ref><br><br> <references />
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