「シナプス接着因子」の版間の差分

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シナプス接着因子の中で、[[自閉症]]や[[統合失調症]]などとの関連が示唆されるものが多い。
シナプス接着因子の中で、[[自閉症]]や[[統合失調症]]などとの関連が示唆されるものが多い。


接着に関わる細胞外ドメインには、LNS (laminin A, neurexin, and sex hormone-binding protein)ドメイン、Cadherinドメイン、Ig (immunoglobuline)ドメイン、LRR (leucine-rich repeats)などがあり、これらはしばしばリピート構造を呈している。
接着に関わる細胞外ドメインには、LNS (laminin A, neurexin, and sex hormone-binding protein)ドメイン、[[カドヘリン]] (cadherin)ドメイン、Ig (immunoglobuline)ドメイン、LRR (leucine-rich repeats)などがあり、これらはしばしばリピート構造を呈している。




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==Cadherin==
==カドヘリン==


Classical cadherinは、細胞外に5個のcadherin ドメイン(EC1-5)を有する1回膜貫通型タンパク質で、カルシウム依存性のホモ結合によって機能している。これらタンパク質はまずcis 2量体を形成し、このcis 2量体同士が細胞間でtransに結合し、強固な細胞接着を生み出している。Classical cadherinの細胞内領域は、Cateninファミリータンパク質と結合し、細胞骨格の再編などに関するシグナル伝達を誘導している。N-cadherinは、脳で発現する代表的なClassical cadherinであり、シナプスの前および後終末の両方に局在し、ホモ結合によりシナプスを架橋している。N-cadherinは、シナプスの発達において広汎な調節的な役割を果たしていると考えられ、Cateninシグナルを介して[[LTP]]に伴うシナプス後終末の形態変化を担ったり、シナプス前終末でのシナプス小胞の集積に関与していると考えられている。
古典的カドヘリン (classical cadherin)は、細胞外に5個のカドヘリンドメイン(EC1-5)を有する1回膜貫通型タンパク質で、カルシウム依存性のホモ結合によって機能している。これらタンパク質はまずcis 2量体を形成し、このcis 2量体同士が細胞間でtransに結合し、強固な細胞接着を生み出している。古典的カドヘリンの細胞内領域は、[[カテニン]] (catenin) ファミリータンパク質と結合し、細胞骨格の再編などに関するシグナル伝達を誘導している。N-カドヘリンは、脳で発現する代表的な古典的カドヘリンであり、シナプスの前および後終末の両方に局在し、ホモ結合によりシナプスを架橋している。N-カドヘリンは、シナプスの発達において広汎な調節的な役割を果たしていると考えられ、カテニンシグナルを介して[[長期増強]] (LTP)に伴うシナプス後終末の形態変化を担ったり、シナプス前終末でのシナプス小胞の集積に関与していると考えられている。


Protocadherinは、細胞外に4-7個のcadherinドメインを有し、Classical cadherinと異なり、細胞内領域にCateninファミリーとの結合モチーフを持たない。約80種類のProtocadherin遺伝子が同定されており、シナプスで機能するものも存在する。
プロトカドヘリン (protocadherin)は、細胞外に4-7個のカドヘリンドメインを有し、古典的カドヘリンと異なり、細胞内領域にカテニンファミリーとの結合モチーフを持たない。約80種類のプロトカドヘリン遺伝子が同定されており、シナプスで機能するものも存在する。


その他に、Drosophilaではcadherinリピートを有するGPCRであるFlamingoが、シナプスの特異性の獲得に関与していることが知られている。Calsynteninもcadherin関連タンパク質で、シナプス後膜肥厚に局在しているが、機能は今のところ不明である。
その他に、Drosophilaではカドヘリンリピートを有するGPCRであるFlamingoが、シナプスの特異性の獲得に関与していることが知られている。Calsynteninもカドヘリン関連タンパク質で、シナプス後膜肥厚に局在しているが、機能は今のところ不明である。




==Igドメインタンパク質==
==Igドメインタンパク質==


SynCAMは、細胞外に3個のIgドメイン、細胞内にPFRMとNeurexin類似のPDZドメイン結合配列をを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では4種類の遺伝子が知られている。カルシウム非依存的なホモ結合およびファミリータンパク質間のヘテロ結合による細胞接着を担う。SynCAM同士の結合強度はsialic acidなどのN-glycanによって制御されている。SynCAM 1 の過剰発現で興奮性シナプスの数が増加し、逆に、SynCAM1の欠損により、興奮性シナプスの数や伝達が減少することから、興奮性シナプスの形成維持に寄与していると考えられる。成熟シナプスにおいて、SynCAM1は長期抑制を負に制御し、空間学習記憶に影響を与えることが知られている。他のSynCAMファミリータンパク質の脳での機能はまだあまり解析されていないが、SynCAM2とSynCAM1が強く結合すること、SynCAM2がシナプスを誘導すること、SynCAM3/nectin-like molecule1が、軸策末端とグリア細胞の接触面に存在することから、これらがSynCAM1とシナプス形成において機能的にオーバーラップしている可能性が示唆される。
SynCAMは、細胞外に3個のIgドメイン、細胞内にPFRMとNeurexin類似のPDZドメイン結合配列をを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では4種類の遺伝子が知られている。カルシウム非依存的なホモ結合およびファミリータンパク質間のヘテロ結合による細胞接着を担う。SynCAM同士の結合強度はsialic acidなどのN-glycanによって制御されている。SynCAM 1 の過剰発現で興奮性シナプスの数が増加し、逆に、SynCAM1の欠損により、興奮性シナプスの数や伝達が減少することから、興奮性シナプスの形成維持に寄与していると考えられる。成熟シナプスにおいて、SynCAM1は[[長期抑制]] (LTD)を負に制御し、[[空間学習記憶]]に影響を与えることが知られている。他のSynCAMファミリータンパク質の脳での機能はまだあまり解析されていないが、SynCAM2とSynCAM1が強く結合すること、SynCAM2がシナプスを誘導すること、SynCAM3/nectin-like molecule1が、軸策末端とグリア細胞の接触面に存在することから、これらがSynCAM1とシナプス形成において機能的にオーバーラップしている可能性が示唆される。


LAR-type RPTPs (receptor phosphor-tyrosine phosphatase)には、LAR (leukocyte-associated receptor), RPTPσ, RPTPδがある。これらの細胞外領域は、3つのIgドメインと8つのfibronectin type III repeatからなる。LAR-type RPTPsは細胞内でα-liprinとの結合を介してシナプス形成を起こすと考えられている。細胞外の結合相手としてNGL (netrin-G ligands)と、neurotrophin 受容体のTrkCが知られており、これらのことからRPTPsがシナプス前終末で機能していることが示唆される。
LAR-type RPTPs (receptor phosphor-tyrosine phosphatase)には、LAR (leukocyte-associated receptor), RPTPσ, RPTPδがある。これらの細胞外領域は、3つのIgドメインと8つのfibronectin type III repeatからなる。LAR-type RPTPsは細胞内でα-liprinとの結合を介してシナプス形成を起こすと考えられている。細胞外の結合相手としてNGL (netrin-G ligands)と、neurotrophin 受容体のTrkCが知られており、これらのことからRPTPsがシナプス前終末で機能していることが示唆される。
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==LRR (leucine-rich repeat)タンパク質==
==LRR (leucine-rich repeat)タンパク質==


LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed>    20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンでAMPA受容体を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed>    19285470</pubmed></ref>。
LRRTMs (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。Neurexinと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、Neuroliginとともに、Neurexinを介したシナプス成熟因子として注目されている。Neuroliginがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独のshRNAのノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed>    20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンで[[AMPA受容体]]を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed>    19285470</pubmed></ref>。


SALMs (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一Igドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、PSD-95との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAやNMDAタイプのグルタミン酸受容体と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。
SALMs (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一Igドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、PSD-95との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAやNMDAタイプのグルタミン酸受容体と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。
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==Ephrin-Eph 受容体型チロシンキナーゼ==
==[[エフリン]] (ephrin) -Eph 受容体型チロシンキナーゼ==


Ephrin-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。Ephrinは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。
エフリン-Eph受容体型チロシンキナーゼは、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。エフリンは哺乳類では8種類のメンバーがあり、これらは構造の違いからAとBの二つのサブファミリーに分けられる。Ephrin A (Ephrin A1-5) は、GPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーによって細胞膜に結合しているタイプで、Ephrin B (Ephrin B1-3) は、1回膜貫通型タンパク質である。Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、Ephrin Aと相互作用するものをEphA (EphA1-8, EphA10), Ephrin B 相互作用するものをEphB (EphB1-4, EphB6)として分けられている。Ephrin AはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、Ephrin B, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にEphrin BとEphBは、双方向性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介してPICK1, syntenin, GRIP, PDZ-RGSなどと結合する。


EphBは、シナプス後終末に局在し、シナプス前終末のEphrinBと結合することによりシナプス後終末で、RhoAやRac1を含むいくつかのsmall Rho family GTPasesと連動し、スパインの[[アクチン]]細胞骨格を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、[[樹状突起]]のスパインの形態異常がみられる <ref><pubmed>        14691139</pubmed></ref>。[[海馬]]ニューロンの培養系において、EphB2はEphrinとの結合を介してシナプス前終末の分化を誘導することが示されている<ref><pubmed>  17122040</pubmed></ref>。更にシナプス後終末のEphB2はNMDA受容体とcisに相互作用することも示唆されている <ref><pubmed>      11136979</pubmed></ref>。一方、リガンドであるEphrin Bはシナプス前終末だけでなく興奮性のシナプス後終末にも存在することが示されており、スパインの密度と成熟やAMPA受容体の輸送を促進していると思われる <ref><pubmed>          17310244</pubmed></ref>。
EphBは、シナプス後終末に局在し、シナプス前終末のEphrin Bと結合することによりシナプス後終末で、RhoAやRac1を含むいくつかのsmall Rho family GTPasesと連動し、スパインの[[アクチン]]細胞骨格を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、[[樹状突起]]のスパインの形態異常がみられる <ref><pubmed>        14691139</pubmed></ref>。[[海馬]]ニューロンの培養系において、EphB2はエフリンとの結合を介してシナプス前終末の分化を誘導することが示されている<ref><pubmed>  17122040</pubmed></ref>。更にシナプス後終末のEphB2はNMDA受容体とcisに相互作用することも示唆されている <ref><pubmed>      11136979</pubmed></ref>。一方、リガンドであるEphrin Bはシナプス前終末だけでなく興奮性のシナプス後終末にも存在することが示されており、スパインの密度と成熟やAMPA受容体の輸送を促進していると思われる <ref><pubmed>          17310244</pubmed></ref>。




==Integrin==
==[[インテグリン]] (integrin)==


Integrinは、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。Integrinは1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。
インテグリンは、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。インテグリンはβ1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。


==参考文献==
==参考文献==
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