「相互相関解析」の版間の差分

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ここで <math>{\mu}_X(t)</math> と <math>{\mu}_Y(t)</math> は <math>t</math> 番目のビンにおける細胞 <math>X</math> と細胞 <math>Y</math> の活動の平均を表す。相互共分散関数は、細胞 <math> X </math> の活動と細胞 <math> Y </math> の活動の間の相関(共分散)の度合いを表す(図2)。関数 <math>Cov_{XY}(\tau)</math> のことを相互相関関数と呼ぶ場合もあるので、注意が必要である。なお、上のように定義した相互共分散関数の値は計測時間や平均活動度の違いによって変化する。異なる実験間で結果を比較するために、相互共分散関数の正規化が行われる場合がある<ref><pubmed> 11222658 </pubmed></ref>。
ここで <math>{\mu}_X(t)</math> と <math>{\mu}_Y(t)</math> は <math>t</math> 番目のビンにおける細胞 <math>X</math> と細胞 <math>Y</math> の活動の平均を表す。相互共分散関数は、細胞 <math> X </math> の活動と細胞 <math> Y </math> の活動の間の相関(共分散)の度合いを表す(図2)。関数 <math>Cov_{XY}(\tau)</math> のことを相互相関関数と呼ぶ場合もあるので、注意が必要である。なお、上のように定義した相互共分散関数の値は計測時間や平均活動度の違いによって変化する。異なる実験間で結果を比較するために、相互共分散関数の正規化が行われる場合がある<ref><pubmed> 11222658 </pubmed></ref>。


 実際の実験においては、細胞活動の平均 <math>{\mu}_X(t)</math> 、 <math>{\mu}_Y(t)</math> は未知であるので、帰無仮説は計測した細胞活動をもとに設定しなければならない<ref name=perkel />。帰無仮説の設定は、同じ感覚刺激を繰り返し与えることで得た細胞活動データを用いて行う。通常、片方の細胞活動データの試行番号をランダムに並べ替えたり、試行番号を1つずらすことで、細胞活動が独立であった場合に得られるであろう相互相関関数を計算する。前者の帰無仮説設定法により得た相互共分散関数をシャッフル補正相互相関ヒストグラム(shuffle-corrected cross-correlogram)、後者の方法により得た相互共分散関数をシフト補正相互相関ヒストグラム(shift-corrected cross-correlogram)と呼ぶ。なお、スパイク活動の相関の有意性検定については、上記以外にも数多くの帰無仮説設定方法が考案されている<ref><pubmed> 19129298 </pubmed></ref>。  
 実際の実験においては、細胞活動の平均 <math>{\mu}_X(t)</math> 、 <math>{\mu}_Y(t)</math> は未知であるので、帰無仮説は計測した細胞活動をもとに設定しなければならない<ref name=perkel />。帰無仮説の設定は、同じ感覚刺激を繰り返し与えることで得た細胞活動データを用いて行う。通常、片方の細胞活動データの試行番号をランダムに並べ替えたり、試行番号を1つずらすことで、細胞活動が独立であった場合に得られるであろう相互相関関数を計算する。前者の帰無仮説設定法により得た相互共分散関数をシャッフル補正相互相関ヒストグラム(shuffle-corrected cross-correlogram)、後者の方法により得た相互共分散関数をシフト補正相互相関ヒストグラム(shift-corrected cross-correlogram)と呼ぶ。なお、スパイク活動の相関の有意性検定については、上記以外にも数多くの帰無仮説設定方法が考案されている<ref><pubmed> 19129298 </pubmed></ref>。
 
 相互相関解析はスパイク活動の他、膜電位、膜電流、カルシウム応答などに適用されている。


==解釈==
==解釈==
 相互共分散関数の形状から、神経回路の機能的結合関係を推定することができると考えられている。例えば、ある二つの細胞の活動から計算した相互共分散関数が時間差0に幅の狭い大きなピークを持つ場合(図2)、二つの細胞は共通の興奮性入力を受け取っていると考えられる<ref><pubmed> 1000297 </pubmed></ref><ref name=toyama><pubmed> 6267211 </pubmed></ref>。また、相互共分散関数のピークの位置、幅を分析することにより、細胞間の興奮性結合や抑制性結合を推定することも可能である<ref name=perkel /><ref name=toyama /><ref><pubmed> 14711977 </pubmed></ref>。
 相互共分散関数の形状から、神経回路の機能的結合関係を推定することができると考えられている。例えば、ある二つの細胞の活動から計算した相互共分散関数が時間差0に幅の狭い大きなピークを持つ場合(図2)、二つの細胞は共通の興奮性入力を受け取っていると考えられる<ref><pubmed> 1000297 </pubmed></ref><ref name=toyama><pubmed> 6267211 </pubmed></ref>。相互共分散関数のピークの位置、幅を分析することにより、細胞間の興奮性結合や抑制性結合を推定することも可能である<ref name=perkel /><ref name=toyama /><ref><pubmed> 14711977 </pubmed></ref>。


 相互相関解析は機能的結合を間接的に推定する方法であるため、結果の解釈には曖昧性が残る可能性が指摘されている。例えば、異なるメカニズムで働く神経回路から、同じようなピーク位置、幅を持つ相互相関関数が得られる場合がある<ref name=perkel /><ref><pubmed> 10490937 </pubmed></ref>。また、共通入力を受け取っていても、相互相関関数にピークが見られない場合もある<ref><pubmed> 20110507 </pubmed></ref>。
 相互相関解析は機能的結合を間接的に推定する方法であるため、結果の解釈には曖昧性が残る可能性が指摘されている。例えばシミュレーションによって、異なるメカニズムで働く神経回路から同じようなピーク位置、幅を持つ相互相関関数が得られる場合があることが示されている。<ref><pubmed> 10490937 </pubmed></ref>。
==関連項目==
同義語:覚醒中枢(脳幹網様体の解説で)
 
重要な関連語:室頂核、中位核、歯状核(小脳核の解説で)


==参考文献==
==参考文献==
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(執筆者:塩崎博史、担当編集委員:藤田一郎)
(執筆者:塩崎博史、担当編集委員:藤田一郎)
例えば細胞Xと細胞Yが同期して活動していた場合、 <math>C_{XY}(\tau)</math> の値は <math>\tau = 0</math> で最大となる(図A)。
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