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リソソーム内腔には生体高分子(タンパク質、脂質、糖質など)を構成単位(アミノ酸、リン脂質、糖、核酸など)にまで分解できる約60種類の加水分解酵素が存在する。プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼ、スルファターゼ、ホスホリパーゼなどがあり、多くは酸性域に至適pHを持つため、酸性加水分解酵素(acid hydrolase)と総称される。これらはA-B + H2O → A-H + B-OHという加水分解反応によって基質を分解する。 | リソソーム内腔には生体高分子(タンパク質、脂質、糖質など)を構成単位(アミノ酸、リン脂質、糖、核酸など)にまで分解できる約60種類の加水分解酵素が存在する。プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼ、スルファターゼ、ホスホリパーゼなどがあり、多くは酸性域に至適pHを持つため、酸性加水分解酵素(acid hydrolase)と総称される。これらはA-B + H2O → A-H + B-OHという加水分解反応によって基質を分解する。 | ||
リソソームに局在するプロテアーゼは20種類以上あり、それらはカテプシン(Cathepsin)と名付けられ、A- | リソソームに局在するプロテアーゼは20種類以上あり、それらはカテプシン(Cathepsin)と名付けられ、A-Zまで存在する。リソソームにはカテプシン以外の名称のプロテアーゼも存在する(Legumain、Napsin、TPP1など)。これらのプロテアーゼは活性中心のアミノ酸残基の違いから、システインプロテアーゼ(カテプシンB、C/J/DPP1、F、H/I、K/O2、L、O、S、V/L2/U、W、X/P/Z/Y、Legumain)、アスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシンD、E、Napsin)、セリンプロテアーゼ(カテプシンA、G、TPP1)に分類される。 | ||
カテプシンの多くは不活性型の前駆体として合成され、酸性環境下でプロセシングされて活性型となる。例えばヒトカテプシンDは、不活性型のプレプロ酵素として小胞体で翻訳された後、小胞体内腔でシグナルペプチドを除去され、ゴルジ体内腔で糖鎖付加を受けてプロ酵素(52 kDa)となる。その後、生合成経路で後期エンドソームに達すると、N末端のプロペプチドが切離され、活性型の一本鎖ポリペプチド中間体(48 kDa)となる。最終的にリソソームに達すると、カテプシンBあるいはLによって軽鎖(14 kDa)と重鎖(32 kDa)の2本鎖に切断され、軽鎖と重鎖がジスルフィド結合で繋げられて成熟体となる。 | カテプシンの多くは不活性型の前駆体として合成され、酸性環境下でプロセシングされて活性型となる。例えばヒトカテプシンDは、不活性型のプレプロ酵素として小胞体で翻訳された後、小胞体内腔でシグナルペプチドを除去され、ゴルジ体内腔で糖鎖付加を受けてプロ酵素(52 kDa)となる。その後、生合成経路で後期エンドソームに達すると、N末端のプロペプチドが切離され、活性型の一本鎖ポリペプチド中間体(48 kDa)となる。最終的にリソソームに達すると、カテプシンBあるいはLによって軽鎖(14 kDa)と重鎖(32 kDa)の2本鎖に切断され、軽鎖と重鎖がジスルフィド結合で繋げられて成熟体となる。 | ||
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===オートファジー経路=== | ===オートファジー経路=== | ||
マクロオートファジー(macroautophagy)は細胞質成分(サイトゾル、細胞小器官、細胞内病原体など)をまず隔離膜(isolation membrane/phagophore)で取り込み、二重膜のオートファゴソーム(autophagosome)を形成する。その後、オートファゴソームは後期エンドソーム、リソソームと融合し、オートファゴソームの内膜と細胞質成分は分解され、一重膜のオートリソソームとなる。ミトコンドリア、ペルオキシソーム、細胞内細菌なども選択的に分解可能であり、それぞれマイトファジー(mitophagy)、ペキソファジー(pexopaghy)、ゼノファジー(xenophagy)と呼ばれる。 | |||
シャペロン介在性オートファジー(chaperon-mediated autophagy)は、可溶性サイトゾルタンパク質がリソソーム膜を直接透過して内腔へ輸送される経路であり、哺乳類細胞で報告されている。この経路では、KFEQRモチーフを持つ基質タンパク質(GAPDHなど)が細胞質に局在するシャペロン(Hsc70など)によって特異的に認識され、LAMP-2A(LAMP-2のスプライシングバリアントの一つ)を介してリソソーム内腔へ輸送される。 | |||
ミクロオートファジー(microautophagy)は、リソソーム(酵母では液胞)の膜が内側に陥入して分離することで細胞質成分をリソソーム内腔へ輸送する経路である。酵母以外の生物種ではあまり報告されていないが、哺乳類細胞では後期エンドソームの多胞体(multivesicular body)との類似点が指摘されている。 | |||
==機能== | ==機能== | ||
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リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型Rag複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。 | リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型Rag複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。 | ||
さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素が細胞内のロイシン濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref> | さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素が細胞内のロイシン濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。ロイシルtRNA合成酵素は、細胞内ロイシン濃度が上昇するとRag複合体と結合し、細胞質からリソソーム膜上へ移行する。さらにRagDのGAPとして機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させると考えられている。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である<ref name="ref10"><pubmed> 22500735 </pubmed></ref>。一方、リソソーム内腔のアミノ酸がV-APTaseの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もあり<ref name="ref11"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。 | ||
==リソソーム病== | ==リソソーム病== | ||
リソソーム病(ライソゾーム病、リソゾーム病、リソソーム蓄積症、lysosomal disease、lysosomal storage disease)は、リソソーム酵素の欠損や輸送障害によって発症する遺伝性疾患である。1963年にden Hersによってリソソーム病の概念が確立された<ref name=" | リソソーム病(ライソゾーム病、リソゾーム病、リソソーム蓄積症、lysosomal disease、lysosomal storage disease)は、リソソーム酵素の欠損や輸送障害によって発症する遺伝性疾患である。1963年にden Hersによってリソソーム病の概念が確立された<ref name="ref12"><pubmed> 14280390 </pubmed></ref>。リソソーム酵素が欠損すると、リソソーム内に未分解の基質(脂質やムコ多糖など)が大量に蓄積する。現在までに約60種類のリソソーム病が知られており、多くは劣性遺伝形式である。罹病率は出生5000-8000人あたり1人である。我が国では「ライソゾーム病」という名称で国の特定疾患(難病)に指定されている。リソソーム病の症状は欠損酵素の種類によって異なるが、肝脾腫、骨変形、中枢神経障害(精神運動発達遅滞、痙攣など)、眼障害、腎障害、心不全などの様々な症状を呈する。治療法として一部の疾患で酵素補充療法、造血幹細胞移植などが行われている。 | ||
リソソーム病は欠損酵素の種類、蓄積物質の種類、リソソームタンパク質の種類など様々なカテゴリーで分類されている。リソソームタンパク質の種類に基づいた分類<ref name=" | リソソーム病は欠損酵素の種類、蓄積物質の種類、リソソームタンパク質の種類など様々なカテゴリーで分類されている。リソソームタンパク質の種類に基づいた分類<ref name="ref13"><pubmed> 15126978 </pubmed></ref>を表に示す。 | ||
{| border="1" cellspacing="1" cellpadding="1" | {| border="1" cellspacing="1" cellpadding="1" | ||
|+ '''表 | |+ '''表 リソソーム病と原因遺伝子(文献<ref name="ref13"><pubmed> 15126978 </pubmed></ref>より改変)''' | ||
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| '''リソソーム機能障害の種類''' | | '''リソソーム機能障害の種類''' | ||
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==リソソーム関連オルガネラ== | ==リソソーム関連オルガネラ== | ||
リソソーム関連オルガネラ(Lysosome-related organelle)は、リソソームの性質の一部を保持しながらも、細胞特異的に特殊な機能を担うようになったオルガネラである<ref name=" | リソソーム関連オルガネラ(Lysosome-related organelle)は、リソソームの性質の一部を保持しながらも、細胞特異的に特殊な機能を担うようになったオルガネラである<ref name="ref14"><pubmed> 10877819 </pubmed></ref>。リソソーム関連オルガネラの機能は主に生理活性物質の貯蓄、活性化、分泌である。制御性分泌を担うリソソーム関連オルガネラは分泌型リソソーム(secretory lysosome)とも呼ばれる。チェディアック・東症候群(Chédiak-Higashi syndrome)やヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome)などの疾患では、リソソームだけでなくリソソーム関連オルガネラの一部も機能障害を来たすことが報告されている<ref name="ref14" />。以下、代表的なリソソーム関連オルガネラの例を挙げる。 | ||
===メラノソーム=== | ===メラノソーム=== | ||
メラノソーム(Melanosome)はメラノサイト、虹彩色素上皮細胞、網膜色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref name=" | メラノソーム(Melanosome)はメラノサイト、虹彩色素上皮細胞、網膜色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref name="ref14" />。メラノソームにはメラニン色素が蓄積されており、エキソサイト―シスによって細胞外に放出される。放出された色素は皮膚では角化細胞に取り込まれる。 | ||
===溶菌性顆粒=== | ===溶菌性顆粒=== | ||
268行目: | 268行目: | ||
===リソソーム親和性アミン=== | ===リソソーム親和性アミン=== | ||
ド・デューブはリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質をlysosomotropism、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref name=" | ド・デューブはリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質をlysosomotropism、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref name="ref15"><pubmed> 4606365 </pubmed></ref>。これらの薬剤の多くはリソソーム(酸性コンパートメント)内に到達するとプロトン化され電荷を帯びるため、膜透過性が低下し、リソソーム内に蓄積する。リソソーム内の薬剤濃度は細胞外の約100-1000倍に達するため、しばしば浸透圧膨張によってリソソームの空胞化を引き起こす。塩化アンモニウム(ammonium chloride、NH4Cl)、クロロキン(chloroquine)、メチルアミン(methylamine、CH3NH2)などの弱塩基アミンは、リソソームのpHを上昇させ、リソソーム機能を抑制する。 | ||
===液胞型プロトンポンプ阻害剤=== | ===液胞型プロトンポンプ阻害剤=== |
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