「脳脊髄液」の版間の差分

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== 脳脊髄液の産生と吸収  ==
== 脳脊髄液の産生と吸収  ==


[[ファイル:choroidplexus.jpg|300px|thumb|alt=図1 脈絡叢(サル)|図1 脈絡叢(サル)<br> 神戸大学医学部寺島俊雄教授 恵与<br> 神経解剖学講義ノートp184 寺島俊雄著 金芳堂より許可を得て転載]]
[[Image:Choroidplexus.jpg|thumb|300px|図1 脈絡叢(サル)<br /> 神戸大学医学部寺島俊雄教授 恵与<br /> 神経解剖学講義ノートp184 寺島俊雄著 金芳堂より許可を得て転載]] [[Image:Choroidplexus(em).jpg|thumb|300px|図2 脈絡叢の電顕像<br /> 佐賀大学医学部河野史教授 恵与]]  
[[ファイル:choroidplexus(em).jpg|300px|thumb|alt=図2 脈絡叢の電顕像|図2 脈絡叢の電顕像<br> 佐賀大学医学部河野史教授 恵与]]


 髄液は絶えず循環しており、24時間に約500ml(1分間に約0.35ml)産生されていることから、1日に約3〜4回入れ替わっている計算になる。
 髄液は絶えず循環しており、24時間に約500ml(1分間に約0.35ml)産生されていることから、1日に約3〜4回入れ替わっている計算になる。  


 髄液は主として[[脈絡叢]](choroid plexus)で産生され、脳室を出て脳表[[くも膜]]下腔に至り、主に旁矢状洞領域からくも膜顆粒(くも膜絨毛 arachnoid villi)を経て静脈系に吸収される。またくも膜顆粒から吸収されるだけでは脳脊髄液の動態を説明しきれないことが指摘されてきたが、脳脊髄液は脳に分布する毛細血管からも吸収されるとする報告<ref name=ref2><pubmed> 8881235 </pubmed></ref>が1996年になされた。また、リンパ管からの吸収が関与しているとする説<ref name=ref3><pubmed> 16174293 </pubmed></ref>もある。
 髄液は主として[[脈絡叢]](choroid plexus)で産生され、脳室を出て脳表[[くも膜]]下腔に至り、主に旁矢状洞領域からくも膜顆粒(くも膜絨毛 arachnoid villi)を経て静脈系に吸収される。またくも膜顆粒から吸収されるだけでは脳脊髄液の動態を説明しきれないことが指摘されてきたが、脳脊髄液は脳に分布する毛細血管からも吸収されるとする報告<ref name="ref2"><pubmed> 8881235 </pubmed></ref>が1996年になされた。また、リンパ管からの吸収が関与しているとする説<ref name="ref3"><pubmed> 16174293 </pubmed></ref>もある。  


 側脳室から第3脳室に通るときの穴はモンロー孔と呼ばれ、第4脳室からくも膜下腔に通る穴は中央のものをマジャンディ孔、両脇のものをルシュカ孔と呼ぶ。  
 側脳室から第3脳室に通るときの穴はモンロー孔と呼ばれ、第4脳室からくも膜下腔に通る穴は中央のものをマジャンディ孔、両脇のものをルシュカ孔と呼ぶ。  
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== 脳脊髄液の組成と性状  ==
== 脳脊髄液の組成と性状  ==


 正常髄液の外観は水様透明、比重は1.005~1.009、タンパク量10~40mg/dl、糖50~75mg/dlである。脳室穿刺で得た髄液より腰椎穿刺で得た髄液のほうが比重は大であり、タンパク量も腰椎穿刺で得た髄液のほうが多い。蛋白質は4.5%がプレアルブミン、52%が[[アルブミン]]、それ以外が[[グロブリン]]で&gamma;グロブリン分画は11%である。髄液中の糖は常に血糖値よりも低く、血糖の60%程度である。細胞数は1&mu;lあたり5個以下である。
 正常髄液の外観は水様透明、比重は1.005~1.009、タンパク量10~40mg/dl、糖50~75mg/dlである。脳室穿刺で得た髄液より腰椎穿刺で得た髄液のほうが比重は大であり、タンパク量も腰椎穿刺で得た髄液のほうが多い。蛋白質は4.5%がプレアルブミン、52%が[[アルブミン]]、それ以外が[[グロブリン]]でγグロブリン分画は11%である。髄液中の糖は常に血糖値よりも低く、血糖の60%程度である。細胞数は1μlあたり5個以下である。


 髄液圧は腰椎穿刺で50~180 mmH20が正常範囲であり、小児では髄液圧は成人より低い。呼吸、心拍による圧の変動は10~15 mmH20である。  
 髄液圧は腰椎穿刺で50~180 mmH20が正常範囲であり、小児では髄液圧は成人より低い。呼吸、心拍による圧の変動は10~15 mmH20である。  
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== Virchow-Robin 腔  ==
== Virchow-Robin 腔  ==


 脳実質内に分布する動脈と脳組織の間に生じる「血管周囲腔」は発見者の名前にちなんで“Virchow-Robin 腔”と呼ばれる。一般的に、脳表動脈の外膜と脳表の軟膜は動脈とともに脳実質内へと進入するので、クモ膜下腔とVirchow-Robin腔と自由な交通があり、機能的にも連携しているとされてきた。
 脳実質内に分布する動脈と脳組織の間に生じる「血管周囲腔」は発見者の名前にちなんで“Virchow-Robin 腔”と呼ばれる。一般的に、脳表動脈の外膜と脳表の軟膜は動脈とともに脳実質内へと進入するので、クモ膜下腔とVirchow-Robin腔と自由な交通があり、機能的にも連携しているとされてきた。  


 走査型・透過型電子顕微鏡による詳細な観察で、脳表の軟膜は“外軟膜”・“内軟膜”の2層構造を示し動脈とともに脳実質内へ進入する結果、脳実質内の動脈外壁と脳実質との間には2枚の軟膜による腔が形成されていると考えられるようになった30~33)。以上の形態学的根拠から、“血管周囲腔(=Virchow-Robin腔)”は細胞間隔室(intercellular compartment)と軟膜腔を合わせた“クモ膜下腔からは隔絶された三次元構造”であり、単に脳表から連続した軟膜と血管壁によって形成された“クモ膜下腔”と連続した間隙と定義づけるのは困難となっている。  
 走査型・透過型電子顕微鏡による詳細な観察で、脳表の軟膜は“外軟膜”・“内軟膜”の2層構造を示し動脈とともに脳実質内へ進入する結果、脳実質内の動脈外壁と脳実質との間には2枚の軟膜による腔が形成されていると考えられるようになった。以上の形態学的根拠から、“血管周囲腔(=Virchow-Robin腔)”は細胞間隔室(intercellular compartment)と軟膜腔を合わせた“クモ膜下腔からは隔絶された三次元構造”であり、単に脳表から連続した軟膜と血管壁によって形成された“クモ膜下腔”と連続した間隙と定義づけるのは困難となっている。  


== 脳脊髄液の機能的意義  ==
== 脳脊髄液の機能的意義  ==
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