「身体図式」の版間の差分

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 習慣的な身体の運動を身につけようとする過程で、身体図式は組み替え更新され、拡張される。身体図式の可塑性を示す証拠として注目されてきたのが、道具使用である。Irikiら<ref name=ref14><pubmed>8951846</pubmed></ref>は、[[wikipedia:JA:ニホンザル|ニホンザル]]を用いた実験で、道具の使用が身体図式を拡張する契機になることを示した。ニホンザルに道具を使わせた時、頭頂連合野の視覚と体性感覚の多種感覚ニューロンの活動がどう変わるかを見るために、ニホンザルに熊手の形をした棒を持たせて、手の届かないところにあるエサを手元に引き寄せとらせる訓練をした。Irikiらは、例えば、サルの手のひらに[[触覚受容野]]があり、同時にその手近傍に入ってくる視覚刺激にも反応する多感覚ニューロンの活動を記録した。[[視覚受容野]]は、サルが道具を使用する前では手のひら周辺の空間にあったが、熊手を使った後では、熊手の先端まで拡張し、道具使用を終えると数分して元の大きさに戻った。以上の結果は、道具使用によって熊手の先に手の身体図式が更新され、拡張した生理学的な証拠を示した。
 習慣的な身体の運動を身につけようとする過程で、身体図式は組み替え更新され、拡張される。身体図式の可塑性を示す証拠として注目されてきたのが、道具使用である。Irikiら<ref name=ref14><pubmed>8951846</pubmed></ref>は、[[wikipedia:JA:ニホンザル|ニホンザル]]を用いた実験で、道具の使用が身体図式を拡張する契機になることを示した。ニホンザルに道具を使わせた時、頭頂連合野の視覚と体性感覚の多種感覚ニューロンの活動がどう変わるかを見るために、ニホンザルに熊手の形をした棒を持たせて、手の届かないところにあるエサを手元に引き寄せとらせる訓練をした。Irikiらは、例えば、サルの手のひらに[[触覚受容野]]があり、同時にその手近傍に入ってくる視覚刺激にも反応する多感覚ニューロンの活動を記録した。[[視覚受容野]]は、サルが道具を使用する前では手のひら周辺の空間にあったが、熊手を使った後では、熊手の先端まで拡張し、道具使用を終えると数分して元の大きさに戻った。以上の結果は、道具使用によって熊手の先に手の身体図式が更新され、拡張した生理学的な証拠を示した。


 Farne and Ladavas<ref name=ref15><pubmed>17533766</pubmed></ref>は、 頭頂葉損傷患者における道具使用後の[[受容野|感覚受容野]]の変化を調べた。両手に同時に刺激を提示した場合、正常なら両方が認識されるが、 右頭頂葉に損傷がある患者では、脳損傷とは反対側、つまり左手に加えられた刺激が知覚されない症状を呈する。これを[[消去現象]] (extinction) という。消去は視覚と触覚の異種感覚間をでも起こり、頭領連合野が視覚と体性感覚の異なる感覚入力を統合していることを示す。この現象についてさらに興味深いのは、視覚刺激に対する消去現象のインパクトは身体近接空間で強まることが知られている点である。すなわち、身体から5cm程度の距離に視覚刺激を提示すると、患者が刺激を無視する割合が高まる。Farneらは多種感覚の消去症状を呈する患者に、38cmの熊手を右手に持ってもらい、その熊手の先に視覚刺激を提示した。この条件では、左手への触覚刺激を検出できた確率は69%だった。ところが、しばらく熊手を使って物体をとる課題を遂行した後では、この確率が53%に下がった。つまり、熊手使用後には、視覚受容野が拡張した結果、触覚刺激に対する検出力が下がる(消去の影響が強まる)ことが分かった。
 Farne and Ladavas<ref name=ref15><pubmed>17533766</pubmed></ref>は、 頭頂葉損傷患者における道具使用後の[[受容野|感覚受容野]]の変化を調べた。両手に同時に刺激を提示した場合、正常なら両方が認識されるが、 右頭頂葉に損傷がある患者では、脳損傷とは反対側、つまり左手に加えられた刺激が知覚されない症状を呈する。これを[[消去現象]] (extinction) という。消去は視覚と触覚の異種感覚間でも起こり、頭領連合野が視覚と体性感覚の異なる感覚入力を統合していることを示す。この現象についてさらに興味深いのは、視覚刺激に対する消去現象のインパクトは身体近接空間で強まることが知られている点である。すなわち、身体から5cm程度の距離に視覚刺激を提示すると、患者が刺激を無視する割合が高まる。Farneらは多種感覚の消去症状を呈する患者に、38cmの熊手を右手に持ってもらい、その熊手の先に視覚刺激を提示した。この条件では、左手への触覚刺激を検出できた確率は69%だった。ところが、しばらく熊手を使って物体をとる課題を遂行した後では、この確率が53%に下がった。つまり、熊手使用後には、視覚受容野が拡張した結果、触覚刺激に対する検出力が下がる(消去の影響が強まる)ことが分かった。


== 応用 ==
== 応用 ==

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