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英語名:sleep disorder
英語名:sleep disorder


 睡眠障害とは、夜よく眠れない[[不眠症]]のみならず、[[過眠症]]、[[概日リズム障害]]、[[睡眠時異常行動]]などの睡眠の量的・質的・リズム的に異常のある状態が含まれる。現在は、[[睡眠障害国際分類第2版]](The International classification of sleep disorders, second edition:ICSD-2)<ref>'''American Academy of Sleep Medicine'''<br>International classification of sleep disorders, 2nd ed.:Diagnostic and cording manual'' American Academy of Sleep Medicine'':2005</ref>が広く臨床利用されており、不眠症群、概日リズム睡眠障害群、[[睡眠関連呼吸障害群]]、[[中枢性過眠症群]]、[[睡眠時随伴症群]]、[[睡眠関連運動障害群]]に6大別される。
 睡眠障害とは、夜よく眠れない[[不眠症]]のみならず、[[過眠症]]、[[概日リズム障害]]、[[睡眠時異常行動]]などの睡眠の量的・質的・リズム的に異常のある状態が含まれる。現在は、[[睡眠障害国際分類第2版]](The International classification of sleep disorders, second edition:ICSD-2)<ref>'''American Academy of Sleep Medicine'''<br>International classification of sleep disorders, 2nd ed.:Diagnostic and cording manual'' American Academy of Sleep Medicine'':2005</ref>が広く臨床利用されており、[[不眠症群]]、[[概日リズム睡眠障害群]]、[[睡眠関連呼吸障害群]]、[[中枢性過眠症群]]、[[睡眠時随伴症群]]、[[睡眠関連運動障害群]]に6大別される。




== 睡眠調節のメカニズム ==
== 睡眠調節のメカニズム ==


 睡眠は、[[皮質]][[脳波]]活動の上昇と筋弛緩、[[急速眼球運動]]などを示す[[REM(Rapid Eye Movement)睡眠]]と、睡眠深度依存性の脳波の徐化傾向を示す[[non-REM睡眠]]で構成されており、ヒトでは、1晩の睡眠中にこれらが周期的に出現する。睡眠と[[覚醒]]、REM睡眠とnon-REM睡眠の発現および切り替えを担う神経機構としては、脳内の[[コリン]]作動性、[[モノアミン]]作動性および[[GABA]]作動性ニューロン、[[ヒスタミン]]、[[オレキシン]]神経系の相互作用が重要な役割を果たすと考えられている。
 睡眠は、[[皮質]][[脳波]]活動の上昇と筋弛緩、[[急速眼球運動]]などを示す[[REM睡眠|REM(Rapid Eye Movement)睡眠]]と、睡眠深度依存性の脳波の徐化傾向を示す[[non-REM睡眠]]で構成されており、ヒトでは、1晩の睡眠中にこれらが周期的に出現する。睡眠と[[覚醒]]、REM睡眠とnon-REM睡眠の発現および切り替えを担う神経機構としては、脳内の[[コリン]]作動性、[[モノアミン]]作動性および[[GABA]]作動性ニューロン、[[ヒスタミン]]、[[オレキシン]]神経系の相互作用が重要な役割を果たすと考えられている。


 睡眠覚醒調節においては、[[睡眠恒常性維持機構]]と[[体内時計機構]]の2つが重要視される。恒常性維持機構は、活動によってもたらされる疲労や生体の損傷回復と関連しており、[[プロスタグランジン]]D2や[[アデノシン]]などの睡眠物質と関連して睡眠が誘導されるが、先行する睡眠の量的不足の度合いにより、その後の睡眠の長さや質が調節される。すなわち、睡眠不足の状態が続くと深いnon-REM睡眠が増加し、疲労に応じて[[大脳]]を休息させることがわかっている。一方、[[体内時計]]の中枢は[[視交叉上核]](suprachiasmatic nucleus: SCN)にあり、[[体温]]や[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]、[[wikipedia:JA:脈拍|脈拍]]などの[[自律神経]]系に加え、[[ホルモン]]分泌、[[wikipedia:JA:免疫|免疫]]系、[[wikipedia:JA:代謝|代謝]]系など、約24時間の周期をもってリズムを刻む生体活動を支配する。体内時計は概日リズムを発振すると共に、これを外界の明暗周期(昼夜のサイクル)に合わせる機能をもつ。体内時計が朝を認識すると、身体は日中の活動に適した状態になる。また、通常の起床時刻の14~16時間後に、眠りの準備が始まる(図1)<ref><pubmed>7185792</pubmed></ref>。 [[睡眠中枢]]は覚醒の抑制を引き起こし、睡眠を誘発するが、逆に、睡眠中枢が抑制されている場合は、[[覚醒中枢]]が活性化されて覚醒が維持される。このように睡眠中枢と覚醒中枢が交互に活動することにより睡眠覚醒の調節を行う生体機構を[[flip-flop機構]]と呼ぶ(図2)。  
 睡眠覚醒調節においては、[[睡眠恒常性維持機構]]と[[体内時計機構]]の2つが重要視される。恒常性維持機構は、活動によってもたらされる疲労や生体の損傷回復と関連しており、[[プロスタグランジン]]D2や[[アデノシン]]などの睡眠物質と関連して睡眠が誘導されるが、先行する睡眠の量的不足の度合いにより、その後の睡眠の長さや質が調節される。すなわち、睡眠不足の状態が続くと深いnon-REM睡眠が増加し、疲労に応じて[[大脳]]を休息させることがわかっている。一方、[[体内時計]]の中枢は[[視交叉上核]](suprachiasmatic nucleus: SCN)にあり、[[体温]]や[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]、[[wikipedia:JA:脈拍|脈拍]]などの[[自律神経]]系に加え、[[ホルモン]]分泌、[[wikipedia:JA:免疫|免疫]]系、[[wikipedia:JA:代謝|代謝]]系など、約24時間の周期をもってリズムを刻む生体活動を支配する。体内時計は概日リズムを発振すると共に、これを外界の明暗周期(昼夜のサイクル)に合わせる機能をもつ。体内時計が朝を認識すると、身体は日中の活動に適した状態になる。また、通常の起床時刻の14~16時間後に、眠りの準備が始まる(図1)<ref><pubmed>7185792</pubmed></ref>。 [[睡眠中枢]]は覚醒の抑制を引き起こし、睡眠を誘発するが、逆に、睡眠中枢が抑制されている場合は、[[覚醒中枢]]が活性化されて覚醒が維持される。このように睡眠中枢と覚醒中枢が交互に活動することにより睡眠覚醒の調節を行う生体機構を[[flip-flop機構]]と呼ぶ(図2)。  
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=== 不眠症 ===
=== 不眠症 ===


 不眠は、一般人口の4~5人に1人と有病率の高いcommon diseaseだが、近年不眠の長期化による抑うつ症状発現、QOLの悪化、[[wikipedia:JA:耐糖能障害|耐糖能障害]]や[[wikipedia:JA:高血圧発現|高血圧発現]]のリスクの上昇など、心身への悪影響が大きいことが明らかにされ、治療対応の重要性が強調されている。誰にでも起こり得る不眠がなぜ一部で慢性化するのかという点については、従来[[神経症]]的なメカニズムにより説明されることが多かったが、最近では、生理学的ならびに、認知心理学的過覚醒傾向と熟睡感の障害の問題が重視されるようになっている。急性ストレスでの不眠の発現は一般的な現象だが、これが慢性化する過程で、焦り、不安の増強と相まって過覚醒傾向を生じ、さらに飲酒量の増加や、床上時間の増加などの不適切な対処行動を生むことで悪循環に陥ると考えられる。不眠症のメカニズムを考えるときに、これらの認知行動学的側面に加えて、神経生理学的側面についても検討する必要がある。すなわち、[[徐波睡眠]]に関連するセロトニン神経系の機能変化や、[[間脳下垂体系副腎皮質]](hypothalamic pituitary adrenal axis:HPA)機能亢進による夜間の[[コルチゾール]]分泌量の上昇、覚醒系に関与するヒスタミンを含む[[後部視床下部]]に存在する結節乳頭核(tuberomammillary nucleus&nbsp;:TMN)の細胞群、オレキシン神経系の活動亢進により覚醒水準の上昇がおきる。それにより、[[網様体賦活系]]と睡眠中枢である[[腹外側視索前野]](ventrolateral preoptic area&nbsp;:VLPO)およびそれに関連する神経系の活動に変化がもたらされ、不眠症状が引き起こされる(図3)<ref><pubmed>19481481</pubmed></ref>。
 不眠は、一般人口の4~5人に1人と有病率の高いcommon diseaseだが、近年不眠の長期化による抑うつ症状発現、QOLの悪化、[[wikipedia:JA:耐糖能障害|耐糖能障害]]や[[wikipedia:JA:高血圧|高血圧]]発現のリスクの上昇など、心身への悪影響が大きいことが明らかにされ、治療対応の重要性が強調されている。誰にでも起こり得る不眠がなぜ一部で慢性化するのかという点については、従来[[神経症]]的なメカニズムにより説明されることが多かったが、最近では、生理学的ならびに、認知心理学的過覚醒傾向と熟睡感の障害の問題が重視されるようになっている。急性ストレスでの不眠の発現は一般的な現象だが、これが慢性化する過程で、焦り、不安の増強と相まって過覚醒傾向を生じ、さらに飲酒量の増加や、床上時間の増加などの不適切な対処行動を生むことで悪循環に陥ると考えられる。不眠症のメカニズムを考えるときに、これらの認知行動学的側面に加えて、神経生理学的側面についても検討する必要がある。すなわち、[[徐波睡眠]]に関連するセロトニン神経系の機能変化や、[[間脳下垂体系副腎皮質]](hypothalamic pituitary adrenal axis:HPA)機能亢進による夜間の[[コルチゾール]]分泌量の上昇、覚醒系に関与するヒスタミンを含む[[後部視床下部]]に存在する[[結節乳頭核]](tuberomammillary nucleus&nbsp;:TMN)の細胞群、オレキシン神経系の活動亢進により覚醒水準の上昇がおきる。それにより、[[網様体賦活系]]と睡眠中枢である[[腹外側視索前野]](ventrolateral preoptic area&nbsp;:VLPO)およびそれに関連する神経系の活動に変化がもたらされ、不眠症状が引き起こされる(図3)<ref><pubmed>19481481</pubmed></ref>。


  [[Image:Takaスライド3.PNG|thumb|300px|'''図3.不眠症における過覚醒発現の過程'''<br>(Riemann D et al 2010)]]  
  [[Image:Takaスライド3.PNG|thumb|300px|'''図3.不眠症における過覚醒発現の過程'''<br>(Riemann D et al 2010)]]  


 不眠症に対する薬物療法としては、ベンゾジアゼピン(benzodiazepine&nbsp;:BZ)ないしそのアゴニストの薬剤が第一選択となっている。BZ系睡眠薬の作用機序は、脳内の[[BZ受容体]]へ結合して、C<sup>l</sup>-イオンの細胞内への流入を促進することにより細胞の興奮を起こりにくくすることにある。BZ受容体は[[γ-アミノ酪酸]](γ-aminobutyric&nbsp;:GABA)受容体とともにGABA‐BZ‐C<sup>l</sup>-イオンチャンネル複合体を形成し、GABA系の活性を高める。BZ受容体はω1~ω5の5つに分類されるが、BZ系の睡眠薬のほとんどはω1、ω2受容体に非選択的に結合する。ω1受容体は脳全体に分布するが、特に[[小脳]]、[[淡蒼球]]、[[大脳皮質]]に高密度で、一方ω2受容体は[[大脳辺縁系]]、[[脊髄]]に多く分布している。現時点ではω1受容体は主に[[催眠]]・[[鎮静]]作用に関係し、ω2受容体は主に[[抗不安作用]]、[[筋弛緩作用]]に関係していると考えられており、睡眠薬ではω1選択性の高い薬剤が治療薬として選択される機会が比較的多い。BZ系睡眠薬は、緊張‐不安水準の抑制とともに、睡眠恒常性機構への作用(アデノシン・プロスタグランジンD2などとともにVLPOからTMNにいたる[[睡眠促進細胞群]]を活性化)に関与している可能性が推定されている。
 不眠症に対する薬物療法としては、[[ベンゾジアゼピン]](benzodiazepine&nbsp;:BZ)ないしそのアゴニストの薬剤が第一選択となっている。BZ系睡眠薬の作用機序は、脳内の[[BZ受容体]]へ結合して、C<sup>l</sup>-イオンの細胞内への流入を促進することにより細胞の興奮を起こりにくくすることにある。BZ受容体は[[γ-アミノ酪酸]](γ-aminobutyric&nbsp;:GABA)受容体とともにGABA‐BZ‐C<sup>l</sup>-イオンチャンネル複合体を形成し、GABA系の活性を高める。BZ受容体はω1~ω5の5つに分類されるが、BZ系の睡眠薬のほとんどはω1、ω2受容体に非選択的に結合する。ω1受容体は脳全体に分布するが、特に[[小脳]]、[[淡蒼球]]、[[大脳皮質]]に高密度で、一方ω2受容体は[[大脳辺縁系]]、[[脊髄]]に多く分布している。現時点ではω1受容体は主に[[催眠]]・[[鎮静]]作用に関係し、ω2受容体は主に[[抗不安作用]]、[[筋弛緩作用]]に関係していると考えられており、睡眠薬ではω1選択性の高い薬剤が治療薬として選択される機会が比較的多い。BZ系睡眠薬は、緊張‐不安水準の抑制とともに、睡眠恒常性機構への作用(アデノシン・プロスタグランジンD2などとともにVLPOからTMNにいたる[[睡眠促進細胞群]]を活性化)に関与している可能性が推定されている。


 不眠症の治療として、近年、[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy&nbsp;:CBT)の重要性が強調されている<ref><pubmed>17162986</pubmed></ref>。CBTは、不眠を遷延化させている悪循環の要因となっている生活習慣と認知パターンを修正させることで、問題の解決につなげるものである。不眠症患者の現在の症状・状況と行動パターンの関係についての機能分析を十分に行ったうえで、心理教育、睡眠衛生指導、リラクゼーション、刺激制御法(眠れなくなったら寝床を離れ、眠気がついてから寝床に戻るようにさせるもの)と睡眠制限療法(眠れなけば、寝床の上で過ごす時間を切り縮めるもの)を含めた睡眠スケジュール法、認知行動療法(睡眠に対する思い込みが行動・気分にどのような影響を及ぼしているかを明らかにし、悪循環から離れられるように気づかせていくもの)を組み合わせたパッケージを用いて治療を行う。CBTのプロセスは、患者自身に認知的過覚醒を理解させる方向に働くことは疑いのないところだが、これ以外の生理的な機構に直接働く可能性は乏しいと思われる。  
 不眠症の治療として、近年、[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy, CBT)の重要性が強調されている<ref><pubmed>17162986</pubmed></ref>。CBTは、不眠を遷延化させている悪循環の要因となっている生活習慣と認知パターンを修正させることで、問題の解決につなげるものである。不眠症患者の現在の症状・状況と行動パターンの関係についての機能分析を十分に行ったうえで、心理教育、睡眠衛生指導、リラクゼーション、刺激制御法(眠れなくなったら寝床を離れ、眠気がついてから寝床に戻るようにさせるもの)と睡眠制限療法(眠れなけば、寝床の上で過ごす時間を切り縮めるもの)を含めた睡眠スケジュール法、認知行動療法(睡眠に対する思い込みが行動・気分にどのような影響を及ぼしているかを明らかにし、悪循環から離れられるように気づかせていくもの)を組み合わせたパッケージを用いて治療を行う。CBTのプロセスは、患者自身に認知的過覚醒を理解させる方向に働くことは疑いのないところだが、これ以外の生理的な機構に直接働く可能性は乏しいと思われる。  


=== 概日リズム睡眠障害 ===
=== 概日リズム睡眠障害 ===
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 それに対し、睡眠相前進型は、睡眠時間帯が著しく前にずれ、極端な早寝早起きの状態となる。自由継続型は、24時間のリズムに適合できないために入眠・覚醒時刻が毎日1時間程度遅れ、定まった時刻に入眠および覚醒することができないために、昼夜の生活が逆転する期間が生じる。自由継続型は、体内時計に明暗情報が入力されないために、24時間周期に同調できない全盲者に多い。不規則型は、1日の中に睡眠エピソードが不規則に3回以上起こり、その持続時間も一定しない。この型の障害は[[アルツハイマー病|アルツハイマー]]型などの[[認知症]]高齢者に併発することが多い。
 それに対し、睡眠相前進型は、睡眠時間帯が著しく前にずれ、極端な早寝早起きの状態となる。自由継続型は、24時間のリズムに適合できないために入眠・覚醒時刻が毎日1時間程度遅れ、定まった時刻に入眠および覚醒することができないために、昼夜の生活が逆転する期間が生じる。自由継続型は、体内時計に明暗情報が入力されないために、24時間周期に同調できない全盲者に多い。不規則型は、1日の中に睡眠エピソードが不規則に3回以上起こり、その持続時間も一定しない。この型の障害は[[アルツハイマー病|アルツハイマー]]型などの[[認知症]]高齢者に併発することが多い。


 概日リズム睡眠障害の治療として、ヒトの体内時計位相変化部分に高照度光を照射する高照度光療法がある。早朝の時間帯に高照度光を照射すると[[wikipedia:JA:深部体温|深部体温]]リズムやメラトニンリズムなどの概日リズム位相が早まり、夜の就寝時刻前後に高照度光を照射すると概日リズム位相が遅くなる。光による生体リズムの同調は光パルスに対する位相反応曲線(phase response curve:PRC)によって説明することができる。恒暗条件下において光パルスを与えると、その照射時刻によってリズムの位相変位の度合いが変化するが、照射時刻と位相変位の関係を関数プロットしたものが位相反応曲線である(図4)<ref><pubmed>12717008</pubmed></ref>。高照度光療法は、これを応用して、光照射器を用いて高照度光を一定時間照射し、睡眠相を望ましい時間帯に矯正するという方法である。本療法には通常2500 lux以上の高照度光が用いられる。  
 概日リズム睡眠障害の治療として、ヒトの体内時計位相変化部分に高照度光を照射する[[高照度光療法]]がある。早朝の時間帯に高照度光を照射すると[[wikipedia:JA:深部体温|深部体温]]リズムやメラトニンリズムなどの概日リズム位相が早まり、夜の就寝時刻前後に高照度光を照射すると概日リズム位相が遅くなる。光による生体リズムの同調は光パルスに対する位相反応曲線(phase response curve:PRC)によって説明することができる。恒暗条件下において光パルスを与えると、その照射時刻によってリズムの位相変位の度合いが変化するが、照射時刻と位相変位の関係を関数プロットしたものが位相反応曲線である(図4)<ref><pubmed>12717008</pubmed></ref>。高照度光療法は、これを応用して、光照射器を用いて高照度光を一定時間照射し、睡眠相を望ましい時間帯に矯正するという方法である。本療法には通常2500 lux以上の高照度光が用いられる。  


 メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で、外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている。夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり、朝に投与すると逆に遅れる。これは夕の光が生物時計を遅らせ、朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である。このような特徴から、概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている。実際の投与法については、0.5~1㎎を実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前、または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である。
 メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で、外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている。夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり、朝に投与すると逆に遅れる。これは夕の光が生物時計を遅らせ、朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である。このような特徴から、概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている。実際の投与法については、0.5~1 mgを実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前、または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である。


  [[Image:Takaスライド4.PNG|thumb|300px|'''図4.光による位相反応曲線(Khalsa SB et al 2003)'''<br>光によるメラトニン分泌は、通常は午前2時〜3時頃が中点であり、その前後6時間で位相変化が最大となる。夕方に光を浴びるとリズムは後退し、午前中に光を浴びることでリズムは前進する。]]  
  [[Image:Takaスライド4.PNG|thumb|300px|'''図4.光による位相反応曲線(Khalsa SB et al 2003)'''<br>光によるメラトニン分泌は、通常は午前2時〜3時頃が中点であり、その前後6時間で位相変化が最大となる。夕方に光を浴びるとリズムは後退し、午前中に光を浴びることでリズムは前進する。]]  
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#混合型(mixed sleep apnea:MSA)では、無呼吸エピソード中に中枢型から閉塞型に移行する。このうち最も頻度が高いのがOSAであり、[[wikipedia:JA:中咽頭部|中咽頭部]]での閉塞によるものが最多である。
#混合型(mixed sleep apnea:MSA)では、無呼吸エピソード中に中枢型から閉塞型に移行する。このうち最も頻度が高いのがOSAであり、[[wikipedia:JA:中咽頭部|中咽頭部]]での閉塞によるものが最多である。


 閉塞性無呼吸をきたす原因は大きく機能的因子と形態学的因子に分けられる。機能的因子としては、入眠とともに[[wikipedia:JA:上気道開大筋群|上気道開大筋群]]の緊張低下により、上気道の保腔力が弱まって、気道が狭くなることがあげられる。特に仰臥位では、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]や[[wikipedia:JA:舌根|舌根]]が後方に沈下しやすく咽頭腔が狭くなる。上気道に構造的あるいは機能的異常がなければ、睡眠中に必要な換気は維持されるが、これに上気道の形態学的な狭窄が加わると、持続性の[[wikipedia:JA:いびき|いびき]]や無呼吸と覚醒反応に伴う[[wikipedia:JA:過換気|過換気]]からなるOSAを生じる。形態学的狭窄を生じる要因として、[[wikipedia:JA:扁桃肥大|扁桃肥大]]、[[wikipedia:JA:咽頭狭窄|咽頭狭窄]][[wikipedia:JA:肥満|肥満]]、[[wikipedia:JA:小顎|小顎]]や下顎後退、[[wikipedia:JA:鼻閉|鼻閉]]を生じる鼻疾患などがある。日本人は欧米人と比較して小顎傾向にあるため、肥満の程度が低くてもOSAを発症しやすい。
 閉塞性無呼吸をきたす原因は大きく機能的因子と形態学的因子に分けられる。機能的因子としては、入眠とともに[[wikipedia:JA:上気道開大筋群|上気道開大筋群]]の緊張低下により、[[wikipedia:JA:上気道|上気道]]の保腔力が弱まって、気道が狭くなることがあげられる。特に仰臥位では、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]や[[wikipedia:JA:舌根|舌根]]が後方に沈下しやすく咽頭腔が狭くなる。上気道に構造的あるいは機能的異常がなければ、睡眠中に必要な換気は維持されるが、これに上気道の形態学的な狭窄が加わると、持続性の[[wikipedia:JA:いびき|いびき]]や無呼吸と覚醒反応に伴う[[wikipedia:JA:過換気|過換気]]からなるOSAを生じる。形態学的狭窄を生じる要因として、[[wikipedia:JA:扁桃肥大|扁桃肥大]]、[[wikipedia:JA:咽頭|咽頭]]狭窄、[[wikipedia:JA:肥満|肥満]]、小顎や下顎後退、[[wikipedia:JA:鼻閉|鼻閉]]を生じる鼻疾患などがある。日本人は欧米人と比較して小顎傾向にあるため、肥満の程度が低くてもOSAを発症しやすい。


 OSAでは、無呼吸‐低呼吸により、[[wikipedia:JA:低酸素血症|低酸素血症]]、[[wikipedia:JA:高CO2血症|高CO2血症]]、過度の胸腔内陰圧の亢進、呼吸イベント終了時の覚醒反応の多発などが起こる。この無呼吸中の低酸素血症および覚醒反応に伴って、[[交感神経]]活動が亢進し覚醒直後に頂点となる血圧上昇がみられ、この血圧変動によりOSA患者は夜間睡眠中に高血圧になると考えられている。また、間欠的低酸素血症を生じるので、[[虚血]]・[[再潅流]]と同様な組織障害を起こすと考えられている。OSASによる低酸素血症は病態上特に重要視されており、交感神経活動の亢進、[[wikipedia:JA:血管|血管]]へのストレス、[[炎症]]、[[凝固機能]]の亢進、代謝機能障害を起こし、脳・心血管障害の誘因となる。
 OSAでは、無呼吸‐低呼吸により、[[wikipedia:JA:低酸素血症|低酸素血症]]、[[wikipedia:JA:高CO2血症|高CO<sub>2</sub>血症]]、過度の胸腔内陰圧の亢進、呼吸イベント終了時の覚醒反応の多発などが起こる。この無呼吸中の低酸素血症および覚醒反応に伴って、[[交感神経]]活動が亢進し覚醒直後に頂点となる血圧上昇がみられ、この血圧変動によりOSA患者は夜間睡眠中に高血圧になると考えられている。また、間欠的低酸素血症を生じるので、[[虚血]]・[[再潅流]]と同様な組織障害を起こすと考えられている。OSASによる低酸素血症は病態上特に重要視されており、[[交感神経]]活動の亢進、[[wikipedia:JA:血管|血管]]へのストレス、[[wikipedia:JA:炎症|炎症]]、[[wikipedia:JA:凝固機能|凝固機能]]の亢進、代謝機能障害を起こし、脳・心血管障害の誘因となる。


 OSAでは、昼間の眠気や集中力障害から患者自身のQOLが損なわれ、さらには交通事故の要因になるなど社会的な問題を生じ得る。また、1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)30以上の重症OSAでは心血管イベントが高率に発症し、死亡率を少なくとも3倍以上高めることから、積極的な治療が必要となる。
 OSAでは、昼間の眠気や集中力障害から患者自身のQOLが損なわれ、さらには交通事故の要因になるなど社会的な問題を生じ得る。また、1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)30以上の重症OSAでは心血管イベントが高率に発症し、死亡率を少なくとも3倍以上高めることから、積極的な治療が必要となる。


 OSAの治療としては[[wikipedia:JA:経鼻的持続陽圧呼吸療法|経鼻的持続陽圧呼吸療法]](nasal Continuous positive airway pressure: n-CPAP)が第一選択となる。n-CPAPは鼻腔から陽圧をかけて、気道を開存維持させるもので、中等症以上のOSAが適応となる。適切なn-CPAP治療により、呼吸障害の改善につれて夜間睡眠と日中の傾眠症状の改善が得られ、長期的にはOSAに起因する高血圧症や生命予後の改善がみられる。しかし、鼻腔通気が不良の場合、高齢者や自覚症状の少ない患者では[[wikipedia:JA:コンプライアンス|コンプライアンス]]が不良である。その他の治療法としては、睡眠時に下顎を前方に移動する口腔内装置や、[[wikipedia:JA:口蓋垂軟口蓋咽頭形成術|口蓋垂軟口蓋咽頭形成術]]などの手術療法があるが、重症例での有効性のエビデンスは乏しい。  
 OSAの治療としては[[wikipedia:JA:経鼻的持続陽圧呼吸療法|経鼻的持続陽圧呼吸療法]](nasal Continuous positive airway pressure: n-CPAP)が第一選択となる。n-CPAPは鼻腔から陽圧をかけて、気道を開存維持させるもので、中等症以上のOSAが適応となる。適切なn-CPAP治療により、呼吸障害の改善につれて夜間睡眠と日中の傾眠症状の改善が得られ、長期的にはOSAに起因する高血圧症や生命予後の改善がみられる。しかし、鼻腔通気が不良の場合、高齢者や自覚症状の少ない患者では[[wikipedia:JA:コンプライアンス|コンプライアンス]]が不良である。その他の治療法としては、睡眠時に下顎を前方に移動する口腔内装置や、[[wikipedia:JA:睡眠時無呼吸症候群#.E5.A4.96.E7.A7.91.E7.9A.84.E6.B2.BB.E7.99.82.EF.BC.88.E5.8F.A3.E8.93.8B.E5.9E.82.E8.BB.9F.E5.8F.A3.E8.93.8B.E5.92.BD.E9.A0.AD.E5.BD.A2.E6.88.90.E8.A1.93.EF.BC.89|口蓋垂軟口蓋咽頭形成術]]などの手術療法があるが、重症例での有効性のエビデンスは乏しい。  


=== レム睡眠行動障害 ===
=== レム睡眠行動障害 ===

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