「トランスジェニック動物」の版間の差分

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=== トランスポゾンなどを利用した遺伝子導入  ===
=== トランスポゾンなどを利用した遺伝子導入  ===


 多くの動物種では、単にDNAを注入しただけではゲノム中に取り込まれる確率が非常に低い。しかしこうした動物でも、トランスポゾンやウィルス、DNAエンドヌクレアーゼなどを利用することで、トランスジェニック動物の作製が可能となることがある。例えばショウジョウバエでは、P因子(P element)と呼ばれるトランスポゾンを利用する。このトランスポゾンは、トランスポゼースをコードする遺伝子と、トランスポゼースの認識配列からなる。導入したい遺伝子の前後に認識配列を付加し、トランスポゼースをコードする遺伝子も同時に胚に注入することで、トランスポゾンがゲノムに挿入されるのと同じ原理で目的の遺伝子が挿入される。現在では様々な脊椎動物・無脊椎動物において、各動物種への遺伝子導入に適したトランスポゾンが同定されている。
 多くの動物種では、単にDNAを注入しただけではゲノム中に取り込まれる確率が非常に低い。しかしこうした動物でも、トランスポゾンやウィルス、DNAエンドヌクレアーゼなどを利用することで、トランスジェニック動物の作製が可能となることがある。例えばショウジョウバエでは、P因子(P element)と呼ばれるトランスポゾンを利用する。このトランスポゾンは、トランスポゼースをコードする遺伝子と、トランスポゼースの認識配列からなる。導入したい遺伝子の前後に認識配列を付加し、トランスポゼースをコードする遺伝子も同時に胚に注入することで、トランスポゾンがゲノムに挿入されるのと同じ原理で目的の遺伝子が挿入される。現在では様々な脊椎動物・無脊椎動物において、各動物種への遺伝子導入に適したトランスポゾンが同定されている<ref><pubmed> 18047686</pubmed></ref><ref><pubmed> 19478801 </pubmed></ref>。


 なお線虫の場合は、生殖細胞に注入されたDNAがゲノムに挿入されることは滅多にないが、それでも細胞分裂の際に染色体とは独立に複製、分配される<ref><pubmed> 3837845 </pubmed></ref>。これは、線虫の染色体がセントロメアに特化した部位を要さない性質(holocentric)と関係すると考えられる<ref><pubmed> 22018540 </pubmed></ref>。  
 なお線虫の場合は、生殖細胞に注入されたDNAがゲノムに挿入されることは滅多にないが、それでも細胞分裂の際に染色体とは独立に複製、分配される<ref><pubmed> 3837845 </pubmed></ref>。これは、線虫の染色体がセントロメアに特化した部位を要さない性質(holocentric)と関係すると考えられる<ref><pubmed> 22018540 </pubmed></ref>。  
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=== マウス以外の動物種での標的遺伝子組換えの現状  ===
=== マウス以外の動物種での標的遺伝子組換えの現状  ===


 マウス以外のモデル動物でも標的遺伝子組換えの報告はあるが、マウスほど一般的な技法として普及はしていない。外来遺伝子の相同組換えによる挿入の確率が非常に低いことに加え、それよりもはるかに起こりやすいランダムな位置への挿入との簡単な識別方法などが十分確立されていないからである。ただし、近年のトランスポゾンやジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger nucleases;ZFNs)を利用した高効率な標的遺伝子組換え技術の開発により、今後は様々な動物種での標的遺伝子組換えの簡易化が期待される。これらの手法はゲノムDNAに損傷が生じた際の修復時に、相同組み換えが起こりやすいことを利用する。特にジンクフィンガーヌクレアーゼは、DNA結合ドメインのデザイン次第で特定のDNA配列に特異的なゲノムDNAの損傷を引き起こせることから大きく注目されている。こうした高効率な手法はマウスにおいても、従来の培養した胚性幹細胞を利用する煩雑な方法の回避につながることが期待される。
 マウス以外のモデル動物でも標的遺伝子組換えの報告はあるが、マウスほど一般的な技法として普及はしていない。外来遺伝子の相同組換えによる挿入の確率が非常に低いことに加え、それよりもはるかに起こりやすいランダムな位置への挿入との簡単な識別方法などが十分確立されていないことなどが理由と考えられる。ただし、近年のトランスポゾンやジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger nucleases;ZFNs)を利用した高効率な標的遺伝子組換え技術の開発により、今後は様々な動物種での標的遺伝子組換えの簡易化が期待される<ref><pubmed> 12730594 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17159906 </pubmed></ref>。これらの手法はゲノムDNAに損傷が生じた際の修復時に、相同組み換えが起こりやすいことを利用する。特にジンクフィンガーヌクレアーゼは、DNA結合ドメインのデザイン次第で特定のDNA配列に特異的なゲノムDNAの損傷を引き起こせることから大きく注目されている。こうした高効率な手法はマウスにおいても、従来の培養した胚性幹細胞を利用する煩雑な方法の回避につながることが期待される。


 なお現状では、マウス以外のモデル動物の遺伝子破壊には、突然変異を誘発する化学物質(化学変異原;chemical mutagen)やトランスポゾンによりランダムに突然変異を導入した中から、目的の遺伝子が破壊された突然変異体を検索する方法がよく用いられる。化学変異原としては、EMS(エチルメタンスルフォン酸;ethyl methanesulfonate)やENU(N‐エチル‐N‐ニトロソ尿素;N-ethyl-N-nitrosourea)やTMP(トリメチルプソラレン;trimethylpsoralen)などが用いられる。化学変異原を用いて得た突然変異体は組換え遺伝子を含まず、トランスジェニック動物ではない。  
 なお現時点では、マウス以外のモデル動物の遺伝子破壊には、突然変異を誘発する化学物質(化学変異原;chemical mutagen)やトランスポゾンによりランダムに突然変異を導入した中から、目的の遺伝子が破壊された突然変異体を検索する方法がよく用いられる。化学変異原としては、EMS(エチルメタンスルフォン酸;ethyl methanesulfonate)やENU(N‐エチル‐N‐ニトロソ尿素;N-ethyl-N-nitrosourea)やTMP(トリメチルプソラレン;trimethylpsoralen)などが用いられる。化学変異原を用いて得た突然変異体は組換え遺伝子を含まず、トランスジェニック動物ではない。  


== 一部の細胞や組織に外来遺伝子を導入し、次世代には継承されない場合  ==
== 一部の細胞や組織に外来遺伝子を導入し、次世代には継承されない場合  ==
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