「カリウムチャネル」の版間の差分

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== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==
== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==


 細胞は[[細胞膜|脂質二重膜]]に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔(ポア)を膜に持っている。[[電気化学ポテンシャル]]を駆動力として、カリウムイオン(K<sup>+</sup>)の選択的な膜透過をつかさどるタンパク質がカリウムチャネルである<ref>'''Y Kurachi, LY Jan, M Lazdunski'''<br>"Potassium Ion Channels: Molecular Structure, Function, and Diseases". Current Topics in Membranes, vol 46<br>''Academic Press, London'':1999 ISBN 0-12-153346-8.</ref><ref>'''B Hille'''<br>"Chapter 5: Potassium Channels and Chloride Channels". Ion channels of excitable membranes<br>''Sinauer Associate Inc, Sunderland, MA'':pp. 131–168:2002 ISBN 0-87893-321-2.</ref>。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁(ボルンエネルギー)を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは小孔の開閉を制御する特徴的なゲート機能を備えている。
 細胞は[[細胞膜|脂質二重膜]]に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔(ポア)を膜に持っている。[[電気化学ポテンシャル]]を駆動力として、カリウムイオン(K<sup>+</sup>)の選択的な膜透過をつかさどるタンパク質がカリウムチャネルである<ref>'''Y Kurachi, LY Jan, M Lazdunski'''<br>"Potassium Ion Channels: Molecular Structure, Function, and Diseases". Current Topics in Membranes, vol 46<br>''Academic Press, London'':1999 ISBN 0-12-153346-8.</ref><ref>'''B Hille'''<br>"Chapter 5: Potassium Channels and Chloride Channels". Ion channels of excitable membranes<br>''Sinauer Associate Inc, Sunderland, MA'':pp. 131–168:2002 ISBN 0-87893-321-2.</ref>。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁([[wikipedia:Self-energy|ボルンエネルギー]])を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは小孔の開閉を制御する特徴的なゲート機能を備えている。


=== 二次構造  ===
=== 二次構造  ===
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[[Image:KCh fig1.png|thumb|right|300px|<b>図1.カリウムチャネルの二次構造、結晶構造、ドメイン配置</b><br />2TM型の内向き整流性カリウムチャネル、4TM型のtwo-pore domainカリウムチャネル、6TM型の電位依存性カリウムチャネル・カルシウム活性化カリウムチャネルαサブユニットの二次構造(上段)、結晶構造のTop view(中段)そしてドメイン配置(下段)。結晶構造は、PBD Data Bankに登録されたPDBID 3SPI (Kir2.2)、3UKM (TWIK-1)、2R9R (Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)をもとにPyMolで作成。]]
[[Image:KCh fig1.png|thumb|right|300px|<b>図1.カリウムチャネルの二次構造、結晶構造、ドメイン配置</b><br />2TM型の内向き整流性カリウムチャネル、4TM型のtwo-pore domainカリウムチャネル、6TM型の電位依存性カリウムチャネル・カルシウム活性化カリウムチャネルαサブユニットの二次構造(上段)、結晶構造のTop view(中段)そしてドメイン配置(下段)。結晶構造は、PBD Data Bankに登録されたPDBID 3SPI (Kir2.2)、3UKM (TWIK-1)、2R9R (Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)をもとにPyMolで作成。]]


 ほとんどのカリウムチャネルはポアドメイン形成に関わるタンパク質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルが含まれる六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルが含まれる二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜貫通領域(セグメント)のS5とS6(2TM型ではTM1とTM2)はカリウムイオンを透過させるためのポアドメインを構成する。またこの二つの膜貫通領域間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここはイオン選択フィルター機能に関わる。一方、S1-S4で構成される領域は電位センサーとして機能し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca<sup>2+</sup>によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。このαサブユニットは二量体を形成しイオンチャネルとして機能する。ポアドメインを構成する領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルと呼ばれる。  
 ほとんどのカリウムチャネルはポアドメイン形成に関わるタンパク質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルが含まれる六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルが含まれる二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜貫通領域(セグメント)のS5とS6(2TM型ではTM1とTM2)はカリウムイオンを透過させるためのポアドメインを構成する。またこの二つの膜貫通領域間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここは[[イオン選択フィルター]]機能に関わる。一方、S1-S4で構成される領域は電位センサーとして機能し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。このαサブユニットは二量体を形成しイオンチャネルとして機能する。ポアドメインを構成する領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルと呼ばれる。  


=== 結晶構造  ===
=== 結晶構造  ===


 カリウムチャネルの結晶化とその構造解析が進んでいる。1998年の原核生物由来の2TM型カリウムチャネルKcsAのX線構造解析に始まり(図1,2)<ref name="ref3"><pubmed>9525859</pubmed></ref>、Ca依存的/活性化カリウムチャネル(MthK, hBK)、電位依存性カリウムチャネル(KvAP, Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)、Kirチャネル(KirBac、Kir2、Kir3)、K2Pチャネル(TRAAK、TWIK-1)と原核生物に留まらず近年では真核生物のカリウムチャネルの構造も相次いで報告されている。共通の性質として(図2)、①2つの膜貫通領域から水性のポアが形成される、②P領域がポアヘリックスとイオン選択フィルターを形成し、シグネチャ配列がイオン選択性フィルターの一部を形成し、それは細胞膜の中心から外側にかけて存在する、③イオン選択フィルターの細胞内側に中心腔(central cavity)とよばれる水性の空間が存在する、④ポアヘリックスが4対称軸の中心に向いておりC末側が中心腔に到達している、ことなどがあげられる。これらの水性ポアドメインの構造に関わる共通点から、カリウムチャネルの選択イオン透過機能に関わる立体構造はほぼ等価であるといえる。  
 カリウムチャネルの結晶化とその構造解析が進んでいる。1998年の[[wikipedia:ja:原核生物|原核生物]]由来の2TM型カリウムチャネルKcsAの[[wikipedia:ja:X線構造解析|X線構造解析]]に始まり(図1,2)<ref name="ref3"><pubmed>9525859</pubmed></ref>、Ca依存的/活性化カリウムチャネル(MthK, hBK)、電位依存性カリウムチャネル(KvAP, Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)、Kirチャネル(KirBac、Kir2、Kir3)、K2Pチャネル(TRAAK、TWIK-1)と原核生物に留まらず近年では[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]のカリウムチャネルの構造も相次いで報告されている。共通の性質として(図2)、①2つの膜貫通領域から水性のポアが形成される、②P領域がポアヘリックスとイオン選択フィルターを形成し、シグネチャ配列がイオン選択性フィルターの一部を形成し、それは細胞膜の中心から外側にかけて存在する、③イオン選択フィルターの細胞内側に中心腔(central cavity)とよばれる水性の空間が存在する、④ポアヘリックスが4対称軸の中心に向いておりC末側が中心腔に到達している、ことなどがあげられる。これらの水性ポアドメインの構造に関わる共通点から、カリウムチャネルの選択イオン透過機能に関わる立体構造はほぼ等価であるといえる。  


=== 選択的イオン透過機能を支える構造基盤  ===
=== 選択的イオン透過機能を支える構造基盤  ===
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[[Image:KCh fig3.png|thumb|right|300px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a.イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b.カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c.4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b.Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c.Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]
[[Image:KCh fig3.png|thumb|right|300px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a.イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b.カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c.4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b.Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c.Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]


 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、[[単一チャネル電流]]を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。
 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、[[単一チャネル電流]]を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い[[wikipedia:ja:静電場|静電場]]をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。


 特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、[[イオン選択フィルター]]の構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含む[[wikipedia:ja:カルボニル基|カルボニル基]]との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8[[wikipedia:ja:水和|水和]]様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は[[最適合close-fit説]]とよばれる。
 特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、[[イオン選択フィルター]]の構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の[[wikipedia:ja:酸素|酸素]]原子を含む[[wikipedia:ja:カルボニル基|カルボニル基]]との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8[[wikipedia:ja:水和|水和]]様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は[[最適合close-fit説]]とよばれる。


 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。
 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。


 イオンは膜を透過しようとすると[[wikipedia:ja:ボルンエネルギー|ボルンエネルギー]]というエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]の[[wikipedia:ja:双極子モーメント|双極子モーメント]]が空洞内に[[wikipedia:ja:陽イオン|陽イオン]]が留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は[[wikipedia:ja:疎水性|疎水性]]の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。
 イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]の[[wikipedia:ja:双極子モーメント|双極子モーメント]]が空洞内に[[wikipedia:ja:陽イオン|陽イオン]]が留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は[[wikipedia:ja:疎水性|疎水性]]の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。


 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明した[[wikipedia:ja:ロデリック・マキノン|ロデリック・マッキノン]]は2003年[[wikipedia:ja:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を受賞している。  
 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明した[[wikipedia:ja:ロデリック・マキノン|ロデリック・マッキノン]]は2003年[[wikipedia:ja:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を受賞している。


== 分子機構と構造による分類 ==
== 分子機構と構造による分類 ==

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