「メタ認知」の版間の差分

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英:metacognition、独:Meta-Anerkennung
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<font size="+1">中山 遼平、[http://researchmap.jp/yukoyy 四本 裕子]</font><br>
''東京大学 総合文化研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年10月11日 原稿完成日:2012年11月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>


自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」("cognition about cognition")、あるいは「知っていることを知っている」("knowing about knowing")とも言われる。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。
英:metacognition 独:Metakognition 仏:métacognition


メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決において、いつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる。現在では多くの教育現場で、メタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは、自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである。
{{box|text=
 自己の認知活動([[知覚]]、[[情動]]、[[記憶]]、[[思考]]など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」 (cognition about cognition) 、あるいは「知っていることを知っている」(knowing about knowing) ことを意味する<ref name=ref1>''' J Metcalfe, A P Shimamura '''<br>Metacognition: knowing about knowing.<br>''Cambridge, MA: MIT Press. ''1994</ref>。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。 メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決場面でいつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる<ref name=ref1 />。現在では多くの教育現場でメタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである<ref name=ref2>''' J Dunlosky, R A Bjork'''<br>Handbook of Metamemory and Memory.<br>''Cambridge, Psychology Press: New York. ''2008</ref>。
}}


文化研究においてメタ認知の事例が異文化間で共通してみられることは、メタ認知が人間社会における生活あるいは生存にとって普遍的に有用な能力であることを示唆している。こうしたメタ認知能力に関する最初の記述は、ギリシャの哲学者Aristotleの著作De AnimaとParva Naturaliaまで遡る。
==メタ認知とは==


= '''概要''' =
 メタ認知は1970年代に広まった概念で、メタ認知という用語はFlavell (1976)<ref>''' J H Fravell '''<br>Metacognitive aspects of problem solving.<br>''Nature of intelligence. ''1976, 12;231-236</ref> において初めて用いられた。


メタ認知という用語はFlavell(1976)において初めて用いられた。
 ''「メタ認知とは認知過程及びその関連事物(情報やデータなど)に関する自分自身の知識をさす。例えば、私がAよりもBの方が学習が困難であると気づいたとしたり、あるいはCが事実であると認める前にそれについて再確認しようと思いついたとしたら、それはメタ認知を行っているということだ。」—J. H. Flavell (1976, p. 232)''


「メタ認知とは認知過程及びその関連事物(情報やデータなど)に関する自己認知をさす。例えば、私がAよりもBの方が学習が困難であると気づいたとしたり、あるいはCが事実であると認める前にそれについて再確認しようと思いついたとしたら、それはメタ認知を行っているということだ。」
 自己の認知活動のモニタリングはメタ認知の根幹を成す。それは基本的な感覚応答から、行動目標を達成する上で複雑に組み合わされる脳内処理過程(高次認知機能)にまで及ぶ。モニタリングされた情報を意識的または[[無意識]]的に吟味することで、様々な認知活動の制御が可能となる。例えば、自分の能力と作業の難易度を照合し今後の行動に関して適切な判断を下すこと、行動目標に対して適切な課題を設定すること、状況に応じて適切な方略または道具を選ぶこと、モニタリングそのものを効率的に行うことなどである。これらの適応的な認知活動は、複雑な問題の解決にあたり、いつどのような知識に基づき行動するべきかを把握し実行する能力によって支えられている<ref name=ref1 /><ref>''' T O Nelson, L Narens '''<br>Metamemory: A theoretical framework and new findings.<br>''Academic Press. ''1990</ref><ref>''' J Dunlosky, M J Serra, J M C Baker '''<br>Handbook of applied cognition, Chapter6. <br>''Academic Press. ''2007</ref>。


自己の認知活動のモニタリングはメタ認知の根幹を成す。それは基本的な感覚応答から、行動目標を達成する上で複雑に組み合わされる脳内処理過程(高次認知機能)にまで及ぶ。モニタリングされた情報を意識的または無意識的に吟味することで、様々な認知活動の制御が可能となる。例えば、自分の能力と作業の難易度を照合し今後の行動に関して適切な判断を下すこと、行動目標に対して適切な課題を設定すること、状況に応じて適切な方略または道具を選ぶこと、モニタリングそのものを効率的に行うことなどである。これらの適応的な認知活動は、複雑な問題の解決にあたり、いつどのような知識に基づき行動するべきかを把握し実行する能力に支えられている。<br>  
 文化研究により、メタ認知の事例は異文化間で共通してみられることがわかっている。これは、メタ認知が人間社会における生活あるいは生存にとって普遍的に有用な能力であることを示唆している<ref>''' C D Güss, B Wiley '''<br>Metacognition of Problem-Solving Strategies in Brazil, India, and the United States.<br>''Journal of cognition and culture. ''2007, 7(1);1-25</ref>。
こうしたメタ認知能力に関する最初の記述は、[[wikipedia:ja:ギリシャ|ギリシャ]]の哲学者[[wikipedia:ja:アリストテレス|アリストテレス]] (Aristotle) の著作[[wikipedia:ja:霊魂論|De Anima]]と[[wikipedia:Parva Naturalia|Parva Naturalia]]まで遡る。


=== '''分類'''  ===
==分類==


メタ認知は大きく3つに分類されている。
 メタ認知の概念の呼び方や定義について、研究者間で必ずしも一致しているわけではないが<ref>'''楠見孝・高橋秀明'''<br>メタ記憶.安西祐一郎ほか(編) 認知科学ハンドブック<br>''共立出版 第5編第4章 ''1992</ref>、「認知についての知識」といった知識的側面と、「認知のプロセスや状態のモニタリングおよびコントロール」といった活動的側面とにおおきくわかれるという点では、研究者間の見解はほぼ一致しているため、以下のように分類できる<ref>'''三宮真智子'''<br>認知心理学4「思考」,市川伸一(編) 第7刷第7章 <br>''東京大学出版会 ''2009</ref>。


1、メタ認知的知識(metacognitive knowledge/awareness)は、認知に関する知識。自己だけではなく、他者の認知や記憶についての知識も含まれる(例「AさんはBさんよりも想像力に富んでいる」)。一般的にメタ記憶もこれに含まれる。
===メタ認知的知識===
Metacognitive knowledge/awareness


2、メタ認知的調整(metacognitive regulation)は、学習の制御を補うような行動を通し、認知や学習をの経験を調整することである。
 知識に関する知識。メタ認知的知識はさらに、人変数に関する知識、課題変数に関する知識、方略変数に関する知識に分類される。<br>


3、メタ認知的経験(metacognitive experiences)は、現在進行形のメタ認知的な経験(活動)のことである。<br>
====人変数に関する知識====
:人変数に関する知識とは、自分自身、他人、人という概念など、「人」についての知識をさす。「私は考えることは得意だがそれを表現することが苦手だ」というような個人内での比較にもとづく認知的な傾向や特性についての知識(個人内変数に関する知識)、「AさんはBさんよりも想像力に富んでいる」といった個人間の比較にもとづく認知的な傾向や特性についての知識(個人間変数に関する知識)、そして「注意を向けていなかったことは、あまり記憶に残らない。」などの人間の認知についての一般的な知識(一般的な人変数に関する知識)に分類できる。


= '''機能'''  =
====課題変数に関する知識====
:「科学論文を読んで理解するほうが、小説を読んで理解するよりも時間がかかる。」といった課題の性質が私たちの認知活動に及ぼす影響についての知識をさす。<br>


メタ認知は、学習場面において思考過程を制御している思考レベルに等しい。学習課題にアプローチする方法の計画や、モニタリングした認知活動に関する理解、課題遂行状況の評価などは、メタ認知的な特徴を持つスキルといえる。
====方略変数に関する知識====
:目的に応じた効果的な方略の使用についての知識をさす。


同様に、課題遂行に関する動機づけもメタ認知的スキルのひとつである。内的または外的な妨害刺激を知る能力や努力を継続する能力はメタ認知的な実行機能といえる。メタ認知は学習の成功を左右するため、教育の場では学生と教師の両者がメタ認知的スキルを身につけることが重要である。広範なメタ認知的スキルを発揮する学生は、試験ではより良い成績をあげ、仕事の効率も格段にあがる。そうした自律的な学習者は、適切な「道具」を用いて学習の方略とスキルを修正し、学習の効率を高めることができる。さらにメタ認知に優れれば、学習の障壁を事前に察知し対処したり、学習の方略とスキルを変更したりすることで目標を達成する。
===メタ認知的活動===
Metacognitive regulation


メタ認知者は、自己の長所や短所、取り組んでいる課題の特性、役に立つ(と思われる)「道具」またはスキルを把握することができる。「道具」のレパートリーが広範なほど成功しやすく、もしその「道具」が状況に依存しない一般的特性を備えるならば、様々な学習状況において通用する。
 [[気づき]]・感覚・予想・点検・評価といったメタ認知的モニタリングや、目標設定・計画・修正といったメタ認知的コントロールからなる。


メタ認知の特徴のひとつは、実行管理と方略知識である。実行管理は、計画、モニタリング、評価、思考の修正を含む。方略知識は、「何か」(事実/宣言的知識)、「いつ」や「なぜ」(条件的/文脈的知識)、「どのように」(手続き的/方法論的知識)といったことを含む。両方とも自律的な思考と学習には必要となる。<br>
===メタ認知的経験===
Metacognitive experiences


= '''メタ認知の発達'''  =
 メタ認知的経験は、現在進行形のメタ認知的な経験(活動)のことである。


メタ認知能力と言語能力との結びつきは強く、言語能力が未発達である新生児、乳児にはメタ認知能力は備わっていないと考えられてきた。メタ認知能力の発達は、行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、いくつかのメタ認知的機能について成人と同様の能力が有されていることがわかった。(Flavel, 1979; Lockl &amp; Schneider, 2006, 2007; Uehara, 2011)<br>
==機能==
 メタ認知は、思考のさまざまなプロセスにおいて重要な役割を果たす。


=== 他の動物におけるメタ認知能力  ===
 [[学習]]場面においては、学習課題にアプローチする方法の計画やモニタリングした認知活動に関する理解、課題遂行状況の評価、課題遂行に関する動機づけなどが、メタ認知的な特徴を持つスキルである。メタ認知は学習の成功を左右するため、教育の場では学生と教師の両者がメタ認知的スキルを身につけることが重要である。広範なメタ認知的スキルを発揮することで、試験や仕事における成績や効率が格段にあがる。そうした自律的な学習者は、適切な「道具」を用いて学習の方略とスキルを修正し、学習の効率を高めることができる。さらにメタ認知に優れれば、学習の障壁を事前に察知し対処したり、学習の方略とスキルを変更したりすることで目標を達成することができる。


メタ認知はサピエンスに特有の能力で、それゆえサピエンスの定義のひとつであると考えられてきた。しかし近年、マカクザルや類人猿、イルカなどが、自己の記憶知識に対する「確信度」「確かさ」の認識を持ち合わせていること、また不確実要素についてモニタリングを行っていることを示す知見が得られている。一方、鳥類のメタ認知能力に関する研究は結論に至っていない。2007年の研究でラットのメタ認知能力が報告されているが、さらなる分析ではラットは単にオペラント条件付けの法則に従ったとも考えられる。(Itakura,2007; Fujita, 2009)<br>  
 意思決定に関するメタ認知的知識と意思決定の間には、強い関連があることが示唆されている<ref><pubmed>1744255</pubmed></ref>。また、思考活動に注意を向け意識化することは、認知能力に大きく影響する。したがって、メタ認知は、さまざまな状況において優れた意思決定を下すために必要な能力であると言える。


= '''神経基盤''' =
 問題解決においては自分の理解の状況をモニターすることが必要である。Metcalfeは、問題解決の場面で「[[なんとなくできそうな感じ]]」を「[[もう少しでわかりそうな感じ]](Feeling of Warmth:FOW)」とよび、FOWで推定されるメタ認知の機構が記憶[[検索]]の過程とは独立である可能性を示した<ref>''' J Metcalfe '''<br>Premonitions of insight predict impending error. <br>''Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory and Cognition. ''1986, 12;623-634</ref>。


脳損傷患者の症例研究では、前頭前野(prefrontal cortex)がメタ記憶あるいはメタレベルの認知過程と深く関わっていることがわかってきている。
==メタ認知能力の発達==


課題遂行時とそれに関する二次的(メタ認知的)行動時の、神経活動あるいは人間以外の動物では個々の細胞の電気的活動を独立に記録する手法も取り入れられている。しかし、それらの手法ではメタ認知的過程に関する神経表現と行動そのものに関する神経表現の切り分けが課題となっている。<br>  
 メタ認知能力と言語能力との結びつきは強く、[[言語能力]]が未発達である[[wikipedia:ja:新生児|新生児]]、[[wikipedia:ja:乳児|乳児]]にはメタ認知能力は備わっていないと考えられてきた。メタ認知能力の発達は行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、いくつかのメタ認知的機能について成人と同様の能力が有されていることがわかっている<ref>''' J H Fravell '''<br>Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive-developmental inquiry. <br>''The American psychologist. ''1979, 34(10);906-911</ref><ref>''' K Lockl, W Schneider '''<br>Precursors of metamemory in young children: the role of theory of mind and metacognitive vocabulary. <br>''Metacognition and learning. ''2006, 1(1);15-31</ref><ref><pubmed> 17328698  </pubmed></ref>。<br>  


神経精神病の症例研究において、自身の病状のある面に関する洞察と他の面に関する洞察が全く結び付かないケースがある。また、統合失調症の患者では、健常者と異なり、自省時に前内側前頭前野(anterior medial prefrontal cortex)の活動がみられず、内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている。
==動物におけるメタ認知能力==


= '''研究動向''' =
 メタ認知は[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]に特有の能力で、それゆえヒトの定義のひとつであると考えられてきた。しかし近年、[[wikipedia:ja:マカクザル|マカクザル]]や[[wikipedia:ja:類人猿|類人猿]]<ref><pubmed> 19242741  </pubmed></ref><ref><pubmed>  20836592 </pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:イルカ|イルカ]]<ref name=ref5><pubmed> 19726218 </pubmed></ref>などが、自己の記憶知識に対する「確信度」「確かさ」の認識を持ち合わせていること、また不確実要素についてモニタリングを行っていることを示す知見が得られている。一方、[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]にはこれまでメタ認知能力は認められていない<ref name=ref5 />。2007年の研究で[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]のメタ認知能力が報告されているが、さらなる分析ではラットは単に[[オペラント条件付け]]の法則に従ったとも考えられている<ref><pubmed>  17346969 </pubmed></ref>。<br>


メタ認知研究の根源は、幼児が記憶方略を教示された直後には有効に実行するのにその後自発的には使用しないという現象が、メタ記憶の欠如として説明されたことに始まる。
==神経基盤==


=== 各分野におけるメタ認知研究 ===
 脳損傷患者の症例研究では、[[前頭前野]] (prefrontal cortex) がメタ記憶あるいはメタレベルの認知過程と深く関わっていることが示唆されている<ref name=ref2 />。課題遂行時とそれに関する二次的(メタ認知的)行動時の神経活動、あるいは人間以外の動物では個々の細胞の電気的活動を独立に記録する手法も[[取り入れ]]られている。しかし、それらの手法ではメタ認知的過程に関する神経表現と行動そのものに関する神経表現の切り分けが課題となっている<ref><pubmed> 22492751 </pubmed></ref>。<br>


発達心理学、教育心理学の分野では、主に子供の課題遂行能力や学習能力の向上という視点から研究が行われてきた。Piagetを中心とする自己制御(self-regulation)研究では、人間は「能動的に」調整/学習すると考えられた。
 神経精神病の症例研究において、自身の病状のある面に関する洞察と他の面に関する洞察が全く結び付かないケースがある。また[[統合失調症]]患者の[[fMRI研究]]では、統合失調症の患者では健常者と異なり、自省時に[[前内側前頭前野]](anterior medial prefrontal cortex)の活動がみられないことが報告されており、内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている<ref><pubmed> 22492746  </pubmed></ref>。


実験心理学では、モニタリング(自身の記憶に関する判断)と制御(判断を行動に結びつける)の間のメタ認知の質的な違いに注目した研究が多い。認知神経科学では、メタ認知的なモニタリングと制御は、他の皮質領野からの入力やフィードバックを受けた前頭前野における機能と考えられている。人工知能やモデリングの分野においても、メタ認知研究が行われている。<br>
==各分野におけるメタ認知研究==


= '''関連項目''' =
 発達心理学、教育心理学の分野では、主に子供の課題遂行能力や学習能力の向上という視点から研究が行われてきた。ピアジェ (Piaget) を中心とする[[自己制御]] (self-regulation) 研究では、人間は「能動的に」調整あるいは学習すると考えられてきた<ref name=ref7>''' H Otani, Robert L Wilner JR. '''<br>Metacognition: New Issues and Approaches Guest Editor's Introduction. <br>''The Journal of General Psychology. ''2005, 132(4);329-334</ref>。また レフ・ヴィゴツキー(Vygotsky) は、発達を言葉の発達という観点からメタ認知をみた。ヴィゴツキーの理論では、子供はまず他者に対して言葉を使う(外言)が、成長に従って自らの思考や行動を内言によって調整できることを示し、この外言から内言への移行こそが自らの思考への気づきの表れであるとした。<br>


教育心理学
 メタ認知は自らの思考への気づきであることから、[[心理療法]]にも利用されている。[[認知療法]]は、情緒障害を思考の障害として認識し、それを修正することにより改善をはかるものである。<br>


教育工学
 実験心理学では[[モニタリング]](自身の記憶に関する判断)と[[制御]](判断を行動に結びつける)の間のメタ認知の質的な違いに注目した研究が多い。認知神経科学においてメタ認知的なモニタリングと制御は、他の皮質領野からの入力やフィードバックを受けた前頭前野における機能と考えられている。[[wikipedia:ja:人工知能|人工知能]]<ref>''' M T Cox'''<br>Metacognition in computation: A selected research review.<br>''Artificial Intelligence. ''2005, 169(2);104-141</ref>やモデリングの分野においても、メタ認知研究が行われている。<br>


認識論
==関連項目==


目標定位
*[[教育心理学]] ([[wikipedia:Educational psychology|Educational psychology]])


内観
*[[教育工学]] ([[wikipedia:Educational technology|Educational technology]])


メタ記憶(metamemory)<br>メタ理解(metacomprehension)<br>メタ感情(meta-emotion)<br>メタ知識(metaknowledge)<br>メタ哲学(metaphilosophy)<br>メタ理論(metatheory)
*[[認識論]] ([[wikipedia:Epistemology|Epistemology]])


学習法
*[[目標定位]] ([[wikipedia:Goal orientation|Goal orientation]])


学習容易性判断(ease-of-learning judgments; EOL)<br>
*[[内観]] ([[wikipedia:Introspection|Introspection]])


既学習判断(judgments of learning; JOL)
*[[メタ記憶]] ([[wikipedia:metamemory|metamemory]])


既知感(feeling-of-knowing; FOK)
*[[メタ理解]] ([[wikipedia:metacomprehension|metacomprehension]])


もう少しで分かりそうな感じ(feeling of warmth; FOW)<br>
*[[メタ感情]] ([[wikipedia:meta-emotion|meta-emotion]])


心相續(mindstream)
*[[メタ知識]] ([[wikipedia:metaknowledge|metaknowledge]])


ミラーテスト<br>
*[[メタ哲学]] ([[wikipedia:metaphilosophy|metaphilosophy]])


2次サイバネティクス
*[[メタ理論]] ([[wikipedia:metatheory|metatheory]])


= '''参考文献'''  =
*[[学習法]] ([[wikipedia:Learning styles|Learning styles]])


Fravell, 1976; Metacognitive aspects of problem solving
*[[学習容易性判断]] (ease-of-learning judgments; EOL)


Fravell, 1979; Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive-developmental
*[[既学習判断]] (judgments of learning; JOL)


T. O. Nelson &amp; L. Narens, 1990;&nbsp;Metamemory: A theoretical framework and new findings
*[[既知感]] (feeling-of-knowing; FOK)


T. O. Nelson &amp; L. Narens, 1994; Metacognition. Knowing about knowing
*[[もう少しで分かりそうな感じ]] (feeling of warmth; FOW)


Shimamura, 2000; Toward a cognitive neuroscience of metacognition
*[[心相續]] ([[wikipedia:mindstream|mindstream]])


Otani &amp; Widner, 2005; Metacognition: New Issues and Approaches: Guest Editor's Introduction
*[[ミラーテスト]] ([[wikipedia:Mirror test|Mirror test]])


Lockl &amp; Schneider, 2006; Precursors of metamemory in young children: the role of theory of mind and metacognitive vocabulary
*[[2次サイバネティクス]] ([[wikipedia:Second-order cybernetics|Second-order cybernetics]])


Itakura,2007; メタ認知の系統発生と個体発生(特集:メタ認知研究のその後の展開)
==参考文献==


Lockl &amp; Schneider, 2007; Knowledge About the Mind: Links Between Theory of Mind and Later Metamemory
<references />
 
Dunlosky, Serra, &amp; Baker, 2007; Handbook of applied cognition
 
Schwartz, Bacon &amp; Shimamura, 2008; Handbook of metamemory and memory
 
Fujita, 2009; Metamemory in tufted capuchin monkeys (Cebus apella). Animal Cognition, 12, 575-85.
 
Uehara, 2011; メタ記憶の発達に関する考察ー概観と展望ー
 
David, Bedford, Wiffen &amp; Gilleen, 2012; Failures of metacognition and lack of insight in neuropsychiatric disorders
 
Fleming &amp; Dolan, 2012; The neural basis of metacognition ability
 
Smith, Couchman &amp; Beran, 2012; The highs and lows of theoretical interpretation in animal-metacognition research
 
Stephen, Raymond &amp; Christopher, 2012; Metacognition: computation, biology and function

2014年6月9日 (月) 15:48時点における最新版

中山 遼平、四本 裕子
東京大学 総合文化研究科
DOI:10.14931/bsd.2412 原稿受付日:2012年10月11日 原稿完成日:2012年11月7日
担当編集委員:入來 篤史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英:metacognition 独:Metakognition 仏:métacognition

 自己の認知活動(知覚情動記憶思考など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」 (cognition about cognition) 、あるいは「知っていることを知っている」(knowing about knowing) ことを意味する[1]。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。 メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決場面でいつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる[1]。現在では多くの教育現場でメタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである[2]

メタ認知とは

 メタ認知は1970年代に広まった概念で、メタ認知という用語はFlavell (1976)[3] において初めて用いられた。

 「メタ認知とは認知過程及びその関連事物(情報やデータなど)に関する自分自身の知識をさす。例えば、私がAよりもBの方が学習が困難であると気づいたとしたり、あるいはCが事実であると認める前にそれについて再確認しようと思いついたとしたら、それはメタ認知を行っているということだ。」—J. H. Flavell (1976, p. 232)

 自己の認知活動のモニタリングはメタ認知の根幹を成す。それは基本的な感覚応答から、行動目標を達成する上で複雑に組み合わされる脳内処理過程(高次認知機能)にまで及ぶ。モニタリングされた情報を意識的または無意識的に吟味することで、様々な認知活動の制御が可能となる。例えば、自分の能力と作業の難易度を照合し今後の行動に関して適切な判断を下すこと、行動目標に対して適切な課題を設定すること、状況に応じて適切な方略または道具を選ぶこと、モニタリングそのものを効率的に行うことなどである。これらの適応的な認知活動は、複雑な問題の解決にあたり、いつどのような知識に基づき行動するべきかを把握し実行する能力によって支えられている[1][4][5]

 文化研究により、メタ認知の事例は異文化間で共通してみられることがわかっている。これは、メタ認知が人間社会における生活あるいは生存にとって普遍的に有用な能力であることを示唆している[6]。 こうしたメタ認知能力に関する最初の記述は、ギリシャの哲学者アリストテレス (Aristotle) の著作De AnimaParva Naturaliaまで遡る。

分類

 メタ認知の概念の呼び方や定義について、研究者間で必ずしも一致しているわけではないが[7]、「認知についての知識」といった知識的側面と、「認知のプロセスや状態のモニタリングおよびコントロール」といった活動的側面とにおおきくわかれるという点では、研究者間の見解はほぼ一致しているため、以下のように分類できる[8]

メタ認知的知識

Metacognitive knowledge/awareness

 知識に関する知識。メタ認知的知識はさらに、人変数に関する知識、課題変数に関する知識、方略変数に関する知識に分類される。

人変数に関する知識

人変数に関する知識とは、自分自身、他人、人という概念など、「人」についての知識をさす。「私は考えることは得意だがそれを表現することが苦手だ」というような個人内での比較にもとづく認知的な傾向や特性についての知識(個人内変数に関する知識)、「AさんはBさんよりも想像力に富んでいる」といった個人間の比較にもとづく認知的な傾向や特性についての知識(個人間変数に関する知識)、そして「注意を向けていなかったことは、あまり記憶に残らない。」などの人間の認知についての一般的な知識(一般的な人変数に関する知識)に分類できる。

課題変数に関する知識

「科学論文を読んで理解するほうが、小説を読んで理解するよりも時間がかかる。」といった課題の性質が私たちの認知活動に及ぼす影響についての知識をさす。

方略変数に関する知識

目的に応じた効果的な方略の使用についての知識をさす。

メタ認知的活動

Metacognitive regulation

 気づき・感覚・予想・点検・評価といったメタ認知的モニタリングや、目標設定・計画・修正といったメタ認知的コントロールからなる。

メタ認知的経験

Metacognitive experiences

 メタ認知的経験は、現在進行形のメタ認知的な経験(活動)のことである。

機能

 メタ認知は、思考のさまざまなプロセスにおいて重要な役割を果たす。

 学習場面においては、学習課題にアプローチする方法の計画やモニタリングした認知活動に関する理解、課題遂行状況の評価、課題遂行に関する動機づけなどが、メタ認知的な特徴を持つスキルである。メタ認知は学習の成功を左右するため、教育の場では学生と教師の両者がメタ認知的スキルを身につけることが重要である。広範なメタ認知的スキルを発揮することで、試験や仕事における成績や効率が格段にあがる。そうした自律的な学習者は、適切な「道具」を用いて学習の方略とスキルを修正し、学習の効率を高めることができる。さらにメタ認知に優れれば、学習の障壁を事前に察知し対処したり、学習の方略とスキルを変更したりすることで目標を達成することができる。

 意思決定に関するメタ認知的知識と意思決定の間には、強い関連があることが示唆されている[9]。また、思考活動に注意を向け意識化することは、認知能力に大きく影響する。したがって、メタ認知は、さまざまな状況において優れた意思決定を下すために必要な能力であると言える。

 問題解決においては自分の理解の状況をモニターすることが必要である。Metcalfeは、問題解決の場面で「なんとなくできそうな感じ」を「もう少しでわかりそうな感じ(Feeling of Warmth:FOW)」とよび、FOWで推定されるメタ認知の機構が記憶検索の過程とは独立である可能性を示した[10]

メタ認知能力の発達

 メタ認知能力と言語能力との結びつきは強く、言語能力が未発達である新生児乳児にはメタ認知能力は備わっていないと考えられてきた。メタ認知能力の発達は行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、いくつかのメタ認知的機能について成人と同様の能力が有されていることがわかっている[11][12][13]

動物におけるメタ認知能力

 メタ認知はヒトに特有の能力で、それゆえヒトの定義のひとつであると考えられてきた。しかし近年、マカクザル類人猿[14][15]イルカ[16]などが、自己の記憶知識に対する「確信度」「確かさ」の認識を持ち合わせていること、また不確実要素についてモニタリングを行っていることを示す知見が得られている。一方、鳥類にはこれまでメタ認知能力は認められていない[16]。2007年の研究でラットのメタ認知能力が報告されているが、さらなる分析ではラットは単にオペラント条件付けの法則に従ったとも考えられている[17]

神経基盤

 脳損傷患者の症例研究では、前頭前野 (prefrontal cortex) がメタ記憶あるいはメタレベルの認知過程と深く関わっていることが示唆されている[2]。課題遂行時とそれに関する二次的(メタ認知的)行動時の神経活動、あるいは人間以外の動物では個々の細胞の電気的活動を独立に記録する手法も取り入れられている。しかし、それらの手法ではメタ認知的過程に関する神経表現と行動そのものに関する神経表現の切り分けが課題となっている[18]

 神経精神病の症例研究において、自身の病状のある面に関する洞察と他の面に関する洞察が全く結び付かないケースがある。また統合失調症患者のfMRI研究では、統合失調症の患者では健常者と異なり、自省時に前内側前頭前野(anterior medial prefrontal cortex)の活動がみられないことが報告されており、内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている[19]

各分野におけるメタ認知研究

 発達心理学、教育心理学の分野では、主に子供の課題遂行能力や学習能力の向上という視点から研究が行われてきた。ピアジェ (Piaget) を中心とする自己制御 (self-regulation) 研究では、人間は「能動的に」調整あるいは学習すると考えられてきた[20]。また レフ・ヴィゴツキー(Vygotsky) は、発達を言葉の発達という観点からメタ認知をみた。ヴィゴツキーの理論では、子供はまず他者に対して言葉を使う(外言)が、成長に従って自らの思考や行動を内言によって調整できることを示し、この外言から内言への移行こそが自らの思考への気づきの表れであるとした。

 メタ認知は自らの思考への気づきであることから、心理療法にも利用されている。認知療法は、情緒障害を思考の障害として認識し、それを修正することにより改善をはかるものである。

 実験心理学ではモニタリング(自身の記憶に関する判断)と制御(判断を行動に結びつける)の間のメタ認知の質的な違いに注目した研究が多い。認知神経科学においてメタ認知的なモニタリングと制御は、他の皮質領野からの入力やフィードバックを受けた前頭前野における機能と考えられている。人工知能[21]やモデリングの分野においても、メタ認知研究が行われている。

関連項目

参考文献

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