「グルタミン酸」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/2rikenbsi/?lang=japanese 林 康紀]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
[http://researchmap.jp/2rikenbsi/?lang=english Yasunori Hayashi]<br>
''RIKEN Brain Science Institute''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX BSD 2013-XXXX  原稿受付日:2012年1月3日 原稿完成日:2012年1月8日
</div>
英語名:glutamic acid 独:Glutaminsäure 仏:acide glutamique 略称:Glu, E
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|text= タンパク質を構成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の一つであり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を初めとする動物においては[[wikipedia:ja:非必須アミノ酸|非必須アミノ酸]]、即ち他の[[wikipedia:ja:有機化合物|有機化合物]]から合成する事が出来るアミノ酸である。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]][[中枢神経系]]での主要な[[神経伝達物質]]である。また、[[wikipedia:ja:節足動物|節足動物]]では、[[神経筋接合部]]に於ける神経伝達物質である。[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体|イオンチャネル型]]、[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型]]の2種類の[[グルタミン酸受容体]]を介して作用し、主要な[[興奮性伝達]]を担う。一方で、過剰な活性は[[神経細胞死]]を引き起こす。またグルタミン酸性シナプスの異常により[[統合失調症]]、[[自閉症]]が引き起こされるとも考えられている。}}
==発見の歴史==
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| verifiedrevid = 476993405
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|  Density = 1.4601 (20 °C)
|  Density = 1.4601 (20 °C)
|  MeltingPt = 199 °C decomp.
|  MeltingPt = 199 °C decomp.
|  Solubility = 8.64 g/l (25 °C) <ref>http://hazard.com/msds/mf/baker/baker/files/g3970.htm</ref>
|  Solubility = 8.64 g/l (25 °C) <ref>[http://hazard.com/msds/mf/baker/baker/files/g3970.htm Material Safety Data Sheet]</ref>
|  SolubleOther = 0.00035g/100g ethanol 25 degC <ref>'''Belitz H.-D., Grosh, W., Schieberle P.'''<br>Food Chemistry 4th revised and extended Edition<br>''Springer Verlag'' Berlin Heidelberg, 2009 [http://books.google.ch/books?id=xteiARU46SQC&pg=PA15&lpg=PA15&dq=methionine+solubility+in+ethanol&source=bl&ots=HzHueOPPoB&sig=KjMXxDNgjSvG1CddED9lfaYEhKQ&hl=en&sa=X&ei=2-26T-bZK-mX0QWt3I2ACA&redir_esc=y#v=onepage&q=methionine%20solubility%20in%20ethanol&f=false Google Books]</ref>
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英語名:glutamic acid 独:Glutaminsäure 仏:acide glutamique 略称:Glu, E
 タンパク質を構成する[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の一つであり、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を初めとする動物においては[[wikipedia:ja:非必須アミノ酸|非必須アミノ酸]]、即ち他の[[wikipedia:ja:有機化合物|有機化合物]]から合成する事が出来るアミノ酸である。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]][[中枢神経系]]での主要な[[神経伝達物質]]である。また、[[wikipedia:ja:節足動物|節足動物]]では、[[神経筋接合部]]に於ける神経伝達物質である。[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体|イオンチャネル型]]、[[代謝活性型グルタミン酸受容体|代謝活性型]]の2種類の[[グルタミン酸受容体]]を介して作用し、主要な[[興奮性伝達]]を担う。一方で、過剰な活性は[[神経細胞死]]を引き起こす。またグルタミン酸性シナプスの異常により[[統合失調症]]、[[自閉症]]が引き起こされるとも考えられている。
==発見の歴史==
===うまみ物質から神経伝達物質へ===
===うまみ物質から神経伝達物質へ===
 グルタミン酸は、[[wikipedia:de:Heinrich Ritthausen|Karl Heinrich Leopold Ritthausen]]により1866年、[[wikipedia:ja:小麦|小麦]]タンパク質である[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]の酸[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]物の中から発見された<ref>'''Ritthausen, H.'''<br>Über die Glutaminsäure<br>''J. prakt. Chem.'' 99, 454-62 (1866) [http://bsd.neuroinf.jp/w/images/c/c3/Ritthausen_1861.pdf PDF]</ref><ref>'''Vickery HB, Schmidt CLA'''<br>The history of the discovery of the amino acids.<br>''Chem Rev'' 1931;9:169–318</ref>。一方、[[wikipedia:ja:池田菊苗|池田菊苗]]は、[[甘味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[酸味]]とは別の味があるのに気づき[[うまみ]]と名付け、[[wikipedia:ja:昆布|昆布]]からその成分を抽出してグルタミン酸である事を見出した<ref>'''池田菊苗'''<br>新調味料に就いて<br>''東京化学会誌'', 30, 820-836 (1909) [https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1880/30/8/30_8_820/_pdf PDF]</ref>。
 グルタミン酸は、[[wikipedia:de:Heinrich Ritthausen|Karl Heinrich Leopold Ritthausen]]により1866年、[[wikipedia:ja:小麦|小麦]]タンパク質である[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]の酸[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]物の中から発見された<ref>'''Ritthausen, H.'''<br>Über die Glutaminsäure<br>''J. prakt. Chem.'' 99, 454-62 (1866) [http://bsd.neuroinf.jp/w/images/c/c3/Ritthausen_1861.pdf PDF]</ref><ref>'''Vickery HB, Schmidt CLA'''<br>The history of the discovery of the amino acids.<br>''Chem Rev'' 1931;9:169–318</ref>。一方、[[wikipedia:ja:池田菊苗|池田菊苗]]は、[[甘味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[酸味]]とは別の味があるのに気づき[[うまみ]]と名付け、[[wikipedia:ja:昆布|昆布]]からその成分を抽出してグルタミン酸である事を見出した<ref>'''池田菊苗'''<br>新調味料に就いて<br>''東京化学会誌'', 30, 820-836 (1909) [https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1880/30/8/30_8_820/_pdf PDF]</ref>。


 神経組織への影響に初めて気づいたのは[[wikipedia:ja:林髞|林髞]]であった。彼は、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]の[[大脳皮質]]にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた<ref><pubmed> 13034377 </pubmed> [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphysiol1950/3/0/3_0_46/_pdf PDF]</ref>。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が[[網膜]]に損傷を起こす事に気づいた<ref><pubmed> 13443577 </pubmed></ref>。この神経興奮作用と神経変性作用は現在では[[神経伝達物質]]としての機能に密接に関連した現象である事が判っているが、当時はその関係は思いもよらなかった。[[中枢神経]]組織内にあまりに多く含まれていたのが一つの原因である。そのため、早期に神経伝達物質として考えられていた[[カテコールアミン]]、[[アセチルコリン]]などとと比較して神経伝達物質であると確立されるのは遅れた。
 神経組織への影響に初めて気づいたのは[[wikipedia:ja:林髞|林髞]]であった。彼は、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]の[[大脳皮質]]にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた<ref><pubmed> 13034377 </pubmed>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphysiol1950/3/0/3_0_46/_pdf PDF]</ref>。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が[[網膜]]に損傷を起こす事に気づいた<ref><pubmed> 13443577 </pubmed></ref>。この神経興奮作用と神経変性作用は現在では[[神経伝達物質]]としての機能に密接に関連した現象である事が判っているが、当時はその関係は思いもよらなかった。[[中枢神経]]組織内にあまりに多く含まれていたのが一つの原因である。そのため、早期に神経伝達物質として考えられていた[[カテコールアミン]]、[[アセチルコリン]]などとと比較して神経伝達物質であると確立されるのは遅れた。


 しかしながら、うまみ物質が神経伝達物質として機能するのは偶然ではなかろう。グルタミン酸受容体の構造は、[[wikipedia:ja:細菌|細菌]]で見いだされるアミノ酸結合タンパク質と相同性がある。また[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]である[[wikipedia:ja:シアノバクテリア|シアノバクテリア]]にもグルタミン酸受容体が存在する<ref><pubmed> 10617203</pubmed></ref>。その事から単細胞生物で栄養源の探索や細胞内取り込みに機能していたアミノ酸結合タンパク質がチャネル活性を得て、それが多細胞となった時に伝達物質として機能するようになったものと想像される。
 しかしながら、うまみ物質が神経伝達物質として機能するのは偶然ではなかろう。グルタミン酸受容体の構造は、[[wikipedia:ja:細菌|細菌]]で見いだされるアミノ酸結合タンパク質と相同性がある。また[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]である[[wikipedia:ja:シアノバクテリア|シアノバクテリア]]にもグルタミン酸受容体が存在する<ref><pubmed> 10617203</pubmed></ref>。その事から単細胞生物で栄養源の探索や細胞内取り込みに機能していたアミノ酸結合タンパク質がチャネル活性を得て、それが多細胞となった時に伝達物質として機能するようになったものと想像される。
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[[ファイル:Hayashi glutamate fig1.png|thumb|right|300px|'''図1.興奮性アミノ酸'''<br>薬理学的特性により分類してある。いずれもグルタミン酸受容体作動薬として機能する。]]
[[ファイル:Hayashi glutamate fig1.png|thumb|right|300px|'''図1.興奮性アミノ酸'''<br>薬理学的特性により分類してある。いずれもグルタミン酸受容体作動薬として機能する。]]
[[ファイル:Hayashi glutamate fig2.png|thumb|right|300px|'''図2.グルタミン酸受容体競合性拮抗薬の例'''<br>CNQXはAMPA型受容体も阻害する。]]
[[ファイル:Hayashi glutamate fig2.png|thumb|right|300px|'''図2.グルタミン酸受容体競合性拮抗薬の例'''<br>CNQXはカイニン酸型受容体も阻害する。]]


 [[wikipedia:ja:竹本常松|竹本常松]]らは駆虫薬である[[wikipedia:Quisqualis indica|使君子]]([[wikipedia:Quisqualis indica|''Quisqualis indica'']])の種子ならびに[[wikipedia:ja:マクリ|海人草]]([[wikipedia:ja:マクリ|''Digenea simplex'']])の有効成分がそれぞれ、[[キスカル酸]]、[[カイニン酸]]であると同定した。[[wikipedia:ja:篠崎温彦|篠崎温彦]]はこれらの物質が、グルタミン酸と類似している事に気づき、非NMDA型グルタミン酸受容体を活性化する事に気づいた<ref name=shinozaki />。しかもこの両者は別々な[[受容体]]を活性化した。これにより[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]]はNMDA型、キスカル酸型、カイニン酸の3つに分けられる事が示された。さらに、キスカル酸はイオンチャンネル型受容体を活性化するだけではなく、イノシトール-3-リン酸代謝回転も引き起こすことから、異なったメカニズムを持つ受容体の存在が示唆され<ref><pubmed> 2880300 </pubmed></ref>、キスカル酸よりイオンチャンネル型受容体特異性が高いリガンドから[[2-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸]] ([[2-amino-3-(3-hydroxy-5-methyl-isoxazol-4-yl)propanoic acid]], [[AMPA]])型受容体<ref><pubmed> 6270543 </pubmed></ref>と[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]と呼ばれるようになった。
 [[wikipedia:ja:竹本常松|竹本常松]]らは駆虫薬である[[wikipedia:Quisqualis indica|使君子]]([[wikipedia:Quisqualis indica|''Quisqualis indica'']])の種子ならびに[[wikipedia:ja:マクリ|海人草]]([[wikipedia:ja:マクリ|''Digenea simplex'']])の有効成分がそれぞれ、[[キスカル酸]]、[[カイニン酸]]であると同定した。[[wikipedia:ja:篠崎温彦|篠崎温彦]]はこれらの物質が、グルタミン酸と類似している事に気づき、非NMDA型グルタミン酸受容体を活性化する事に気づいた<ref name=shinozaki />。しかもこの両者は別々な[[受容体]]を活性化した。これにより[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]]はNMDA型、キスカル酸型、カイニン酸の3つに分けられる事が示された。さらに、キスカル酸はイオンチャンネル型受容体を活性化するだけではなく、イノシトール-3-リン酸代謝回転も引き起こすことから、異なったメカニズムを持つ受容体の存在が示唆され<ref><pubmed> 2880300 </pubmed></ref>、キスカル酸よりイオンチャンネル型受容体特異性が高いリガンドから[[2-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸]] ([[2-amino-3-(3-hydroxy-5-methyl-isoxazol-4-yl)propanoic acid]], [[AMPA]])型受容体<ref><pubmed> 6270543 </pubmed></ref>と[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]と呼ばれるようになった。
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 比較的安定な物質ではあるが、[[wikipedia:ja:ピログルタミン酸|ピログルタミン酸]](pyroglutamateまたはピロリドンカルボン酸, pyrrolidonecarboxylic acid)に次第に変化していくため、長期には凍結保存するか、粉末から用時調整する。ピログルタミン酸を除去するのには[[wikipedia:ja:イオン交換樹脂|イオン交換樹脂]]を用いる。購入した<nowiki>[</nowiki><sup>3</sup>H<nowiki>]</nowiki>-グルタミン酸などを用いる時にはこの操作が必要な場合もある。
 比較的安定な物質ではあるが、[[wikipedia:ja:ピログルタミン酸|ピログルタミン酸]](pyroglutamateまたはピロリドンカルボン酸, pyrrolidonecarboxylic acid)に次第に変化していくため、長期には凍結保存するか、粉末から用時調整する。ピログルタミン酸を除去するのには[[wikipedia:ja:イオン交換樹脂|イオン交換樹脂]]を用いる。購入した<nowiki>[</nowiki><sup>3</sup>H<nowiki>]</nowiki>-グルタミン酸などを用いる時にはこの操作が必要な場合もある。
==神経伝達物質として働くまで==


==生合成==
===生合成===
 グルタミン酸は食中に多量に含まれているが、血中から脳へは[[血液脳関門]]の存在により移行しない<ref><pubmed> 5124307</pubmed></ref>。その為、脳内で新たに合成される<ref>'''Shank R. P. and Campbell G. L.'''<br>Glutamate<br>''Handbook of Neurochemistry'' (Lajtha A., ed.), Vol. 3, pp. 381–404. Plenum Press, New York. 1983</ref><ref>'''Siegel G., Agranoff B., Albers R.W., Molinoff P.'''<br>Basic Neurochemistry 4th Ed.<br>''Raven Press'', New York. 1989</ref>。
 グルタミン酸は食中に多量に含まれているが、血中から脳へは[[血液脳関門]]の存在により移行しない<ref><pubmed> 5124307</pubmed></ref>。その為、脳内で新たに合成される<ref>'''Shank R. P. and Campbell G. L.'''<br>Glutamate<br>''Handbook of Neurochemistry'' (Lajtha A., ed.), Vol. 3, pp. 381–404. Plenum Press, New York. 1983</ref><ref>'''Siegel G., Agranoff B., Albers R.W., Molinoff P.'''<br>Basic Neurochemistry 4th Ed.<br>''Raven Press'', New York. 1989</ref>。


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 このように複数の経路があるが、どの経路がどの程度寄与しているかは詳細には判っていない。グルタミンから合成される経路は、一旦神経伝達物質として使われたグルタミン酸のリサイクリングに重要であると考えられている。
 このように複数の経路があるが、どの経路がどの程度寄与しているかは詳細には判っていない。グルタミンから合成される経路は、一旦神経伝達物質として使われたグルタミン酸のリサイクリングに重要であると考えられている。
==グルタミン酸神経細胞の分布==
 グルタミン酸は脊椎動物中枢神経系の殆どの早い興奮性伝達物質を担っている他、遅いシナプス伝達の一部も担う。そのため、上位中枢から[[脊髄]]に至るまで、グルタミン酸性神経細胞、並びにグルタミン酸性シナプスは広く分布している。この点、分布が限局しているカテコールアミン、アセチルコリンや[[神経ペプチド]]などとは異なっている。主なグルタミン酸性神経細胞には以下のようなものがある。
*[[嗅球]]:[[僧帽細胞]]、[[房飾細胞]]
*[[大脳皮質]]:[[錐体細胞]]
*[[海馬]]:錐体細胞、[[顆粒細胞]]
*[[小脳]]:顆粒細胞
 また無脊椎動物では神経筋接合部もグルタミン酸によって担われている(脊椎動物ではアセチルコリン)。海人草抽出成分が、駆虫薬として用いられる所以である。
[[ファイル:Hayashi glutamate fig3.png|thumb|right|300px| '''図3.グルタミン酸のシナプスでのサイクル'''<br>R:受容体、G:三量体GTP結合タンパク質、mGluR:代謝活性型グルタミン酸受容体、iGluR:イオンチャネル型グルタミン酸受容体<br>茂里、島本らによる図を改変<ref>'''茂里康、島本啓子'''<br>グルタミン酸トランスポーターの薬理学<br>''日本薬理学会誌''  122(3), 253-264, 2003 [https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/122/3/122_3_253/_pdf PDF]</ref>]]
==神経伝達物質として働くまで==
=== シナプス顆粒への取り込み ===
=== シナプス顆粒への取り込み ===


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 神経細胞膜に存在するEAATにより取り込まれたグルタミン酸は再利用される。[[グリア細胞]]の細胞膜に存在するグルタミン酸輸送体によりグリア細胞内に取り込まれたグルタミン酸は、一度[[グルタミン合成酵素]](glutamine synthetase、glutamine synthase:GS)の働きでグルタミンに変換された後、神経細胞に取り込まれ、その中で再度グルタミン酸に変換された上で、再利用される。
 神経細胞膜に存在するEAATにより取り込まれたグルタミン酸は再利用される。[[グリア細胞]]の細胞膜に存在するグルタミン酸輸送体によりグリア細胞内に取り込まれたグルタミン酸は、一度[[グルタミン合成酵素]](glutamine synthetase、glutamine synthase:GS)の働きでグルタミンに変換された後、神経細胞に取り込まれ、その中で再度グルタミン酸に変換された上で、再利用される。
==グルタミン酸神経細胞の分布==
 グルタミン酸は脊椎動物中枢神経系の殆どの早い興奮性伝達物質を担っている他、遅いシナプス伝達の一部も担う。そのため、上位中枢から[[脊髄]]に至るまで、グルタミン酸性神経細胞、並びにグルタミン酸性シナプスは広く分布している。この点、分布が限局しているカテコールアミン、アセチルコリンや[[神経ペプチド]]などとは異なっている。主なグルタミン酸性神経細胞には以下のようなものがある。
*[[嗅球]]:[[僧帽細胞]]、[[房飾細胞]]
*[[大脳皮質]]:[[錐体細胞]]
*[[海馬]]:錐体細胞、[[顆粒細胞]]
*[[小脳]]:顆粒細胞
 また無脊椎動物では神経筋接合部もグルタミン酸によって担われている(脊椎動物ではアセチルコリン)。海人草抽出成分が、駆虫薬として用いられる所以である。
[[ファイル:Hayashi glutamate fig3.png|thumb|right|300px| '''図3.グルタミン酸のシナプスでのサイクル'''<br>R:受容体、G:三量体GTP結合タンパク質、mGluR:代謝活性型グルタミン酸受容体、iGluR:イオンチャネル型グルタミン酸受容体<br>茂里、島本らによる図を改変<ref>'''茂里康、島本啓子'''<br>グルタミン酸トランスポーターの薬理学<br>''日本薬理学会誌''  122(3), 253-264, 2003 [https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/122/3/122_3_253/_pdf PDF]</ref>]]


==疾患との関わり==
==疾患との関わり==
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<references />
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(担当編集委員:柚崎通介)
(執筆者:林康紀 担当編集委員:尾藤晴彦)