「トリプレット病」の版間の差分

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 欧米では最も頻度の高い遺伝性失調症で、''[[FRDA]]''遺伝子第1イントロンに存在するGAAリピートの伸長による[[wikipedia:ja:常染色体劣性遺伝|常染色体劣性遺伝]]性疾患。典型例は幼少期(10才以下)に発症し、[[固有感覚]]の障害による[[運動失調]]、振戦、構音障害、眼振などを示す。[[wikipedia:ja:凹足|凹足]]・心筋症・糖尿病などの全身性の症候を伴う。患者の多くは30-40歳代で死にいたる。神経病理学的には、[[後索]]や[[脊髄小脳路]]・[[皮質脊髄路]]・[[後根]]などの萎縮が認められる。約90%の患者はGAAリピートが200から1700程度まで伸長した変異アレルのホモ接合であるが、一部の症例では一方のアレルにGAAリピートの異常伸長、他方のアレルに''FRDA''遺伝子[[点突然変異]]を有する。リピート長が長いほど発症年齢が低くなる傾向があり、糖尿病や心筋症は典型的にはリピート長が長いアレルを有する患者で認められる。  
 欧米では最も頻度の高い遺伝性失調症で、''[[FRDA]]''遺伝子第1イントロンに存在するGAAリピートの伸長による[[wikipedia:ja:常染色体劣性遺伝|常染色体劣性遺伝]]性疾患。典型例は幼少期(10才以下)に発症し、[[固有感覚]]の障害による[[運動失調]]、振戦、構音障害、眼振などを示す。[[wikipedia:ja:凹足|凹足]]・心筋症・糖尿病などの全身性の症候を伴う。患者の多くは30-40歳代で死にいたる。神経病理学的には、[[後索]]や[[脊髄小脳路]]・[[皮質脊髄路]]・[[後根]]などの萎縮が認められる。約90%の患者はGAAリピートが200から1700程度まで伸長した変異アレルのホモ接合であるが、一部の症例では一方のアレルにGAAリピートの異常伸長、他方のアレルに''FRDA''遺伝子[[点突然変異]]を有する。リピート長が長いほど発症年齢が低くなる傾向があり、糖尿病や心筋症は典型的にはリピート長が長いアレルを有する患者で認められる。  


 FRDAは[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]内膜に局在する[[フラタキシン]] (frataxin) をコードする。フラタキシンはミトコンドリア内の鉄代謝・鉄の貯蔵を制御しており、[[wikipedia:ja:アコニターゼ|アコニターゼ]]や[[wikipedia:ja:電子伝達系|電子伝達系]]の[[wikipedia:complex I|complex I]], [[wikipedia:complex II|II]], [[wikipedia:complex III|III]]などのFe-Sクラスターを有するミトコンドリア酵素の生合成に重要な役割を果たす<ref><pubmed>22200491</pubmed></ref>。GAAリピートの異常伸長は、FRDAの転写伸長を阻害し、フラタキシン mRNA及びタンパク質の発現量が減少する。患者組織ではミトコンドリア内に鉄が異常に蓄積しており、Fe-Sクラスターを有するミトコンドリア酵素の活性が低下<ref><pubmed>9326946</pubmed></ref>し、[[酸化ストレス]]への感受性が亢進していること<ref><pubmed>9949201</pubmed></ref>が報告された。しかし、フラタキシンホモログを欠損するモデル動物に対する治療法として[[wikipedia:ja:抗酸化物|抗酸化物]]の有効性は認めらなかったことから、酸化ストレスの病態への関与については疑問視されている<ref><pubmed>11223852</pubmed></ref>。
 FRDAは[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]内膜に局在する[[フラタキシン]] (frataxin) をコードする。フラタキシンはミトコンドリア内の鉄代謝・鉄の貯蔵を制御しており、[[wikipedia:ja:アコニターゼ|アコニターゼ]]や[[wikipedia:ja:電子伝達系|電子伝達系]]の[[wikipedia:complex I|complex I]], [[wikipedia:complex II|II]], [[wikipedia:complex III|III]]などのFe-Sクラスターを有するミトコンドリア酵素の生合成に重要な役割を果たす<ref><pubmed>22200491</pubmed></ref>。GAAリピートの異常伸長は、FRDAの転写伸長を阻害し、フラタキシン mRNA及びタンパク質の発現量が減少する。患者組織ではミトコンドリア内に鉄が異常に蓄積しており、Fe-Sクラスターを有するミトコンドリア酵素の活性が低下<ref><pubmed>9326946</pubmed></ref>し、[[酸化ストレス]]への感受性が亢進していること<ref><pubmed>9949201</pubmed></ref>が報告された。しかし、フラタキシンホモログを欠損する[[モデル動物]]に対する治療法として[[wikipedia:ja:抗酸化物|抗酸化物]]の有効性は認めらなかったことから、酸化ストレスの病態への関与については疑問視されている<ref><pubmed>11223852</pubmed></ref>。


== 機能獲得の機構を介した疾患 (1) ポリグルタミン病  ==
== 機能獲得の機構を介した疾患 (1) ポリグルタミン病  ==