受容野

提供:脳科学辞典
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受容野の概念と概要

受容野

 個体は、周囲の環境あるいは体内の変化を刺激としてとらえ知覚することができる。これは末梢の感覚受容器において物理エネルギーから電気信号へと変換された刺激情報が大脳皮質感覚野を含む感覚処理経路に沿って伝達されることによる。このとき経路の個々の細胞は自身の電気活動を増加あるいは減少させることで刺激情報の処理伝達を行うが、末梢の特定の部位に生じた刺激しか取り扱わない。この末梢部位、あるいはその部位に影響を及ぼす外界の空間範囲を受容野とよぶ。視覚の場合は、細胞が光刺激を受け取ることのできる網膜の範囲、あるいはその部位に対応する視野範囲を意味し、体性感覚では、細胞が機械、圧、温冷などの刺激を受け取る末梢の体部位の範囲を指す。  受容野の最初の明確な定義はH. K. Hartline (1940) による。彼は、スポット光にたいするカエル網膜神経節細胞の活動を調べたところ、網膜のある範囲に光を照射したとき、あるいは光を取り除いたときにのみ細胞が興奮応答することを見いだし、この範囲を受容野と定義した。

受容野構造

 S. Kuffler (1953) は、ネコ網膜神経説細胞が受容野の中心付近に照射した光には興奮応答するが、その周囲に照射した光には抑制応答することを示した(後図2参照)。このように細胞が刺激を受けとる様式は受容野内部で一様でなく、その内部的な構造は受容野構造と呼ばれる。Kufflerが示した受容野構造は一様な光よりも明暗のコントラストを照射したときに強い興奮を細胞に引き起こすので、このような受容野構造をもつ細胞は明暗コントラストの伝達に適していると解釈できる。このように受容野構造は、細胞がどのような刺激情報を伝達しうるのかを知るための強い手がかりを与える。

感覚経路の階層性と受容野構造

受容器細胞から始まり、大脳皮質の高次連合野へと至る感覚処理経路では、前段階の出力が収斂と分散を繰り返しながら次段階へと送られていく。このため一般に経路の初期段階では、狭く単純な構造の受容野がみられるのにたいし、高次の段階になると広く複雑な構造の受容野がみられる。とくに、初期段階では、受容野内部に複数の刺激が呈示されても、その信号は単純に線形加算されるだけの場合が多い。このような特性をもつ受容野は線形受容野と呼ばれ、その構造は単純な空間フィルターとして表すことができる。一方、高次の段階では、受容野内部での信号の加算の仕方は非線形なものとなり、その受容野構造を線形受容野のような単純な関数で表することは困難になる。このような構造は、複数の空間フィルターや整流機構などを縦列、並列に組み合わせた複雑な回路様の機構として記述される。

視覚系の受容野

古典的受容野およびその計測方法

受容野内部に呈示された視覚刺激は、細胞を興奮させることも抑制することもある。単独で呈示された刺激が細胞応答を変化させる空間範囲を古典的受容野と呼ぶ。視覚系で受容野と呼ぶ場合は古典的受容野を指す場合が多い。しかし古典的受容野の周辺には、刺激が単独で呈示されるときには細胞活動に影響しないが、古典的受容野内部の刺激と同時に呈示されると、細胞に主に抑制性の影響を及ぼす空間範囲があり、これを非古典的受容野と呼んでいる。ただし、全ての細胞が非古典的受容野をもつわけではなく、その割合は経路の段階により異なる。 古典的受容野を計測するために古くから行われてきた手法は、受容野の大きさと比較して十分小さなスポット光、あるいは細長いスリット光など細胞を活動させるのに適した刺激を一定間隔で区分けした視野の様々な位置に一定期間呈示し、その期間に生じた細胞のスパイク数に基づいて受容野構造を決定する手法である。

 この手法では、インターバルを挟みながら1回ごとに異なる位置に刺激を呈示するため、計測位置の数が多くなるにつれて、膨大な計測時間が必要となる。この問題を解決し、比較的短時間で受容野構造を詳細に計測する方法が逆相関法である。この方法では、先の方法のように刺激位置ごとに試行を分けるのではなく、10ミリ秒程度のフラッシュ光がさまざまな位置にランダムに連続呈示し、この期間のスパイク活動を連続計測する。受容野構造を求めるには、刺激位置ごとにカウンターを設けておき、各スパイクが生じた一定時間前(この時間のことを遅延時間とよぶ)に呈示されていた刺激位置のカウンターを1増やすという操作を行う。得られた全スパイクについてこの操作を行ったのちに得られるカウンターの空間マップは、細胞がどの空間位置の刺激にたいして発火しやすいのかを表す受容野構造そのものとなっている(図1)。現在この方法は最も精度の高い古典的受容野計測法として広く用いられている。