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<font size="+1">[http://researchmap.jp/hirofumitokuoka 徳岡 宏文]、[http://researchmap.jp/hiroshiichinose 一瀬 宏]</font>(モノアミンとは、アドレナリン、ヒスタミン)<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/hirofumitokuoka 徳岡 宏文]、[http://researchmap.jp/hiroshiichinose 一瀬 宏]</font>(モノアミンとは、アドレナリン、ヒスタミン)<br>
''東京工業大学''<br>
''東京工業大学''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年6月15日 原稿完成日:2012年11月16日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月15日 原稿完成日:2012年11月16日 原稿更新日:2013年8月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史]、[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀]<br>(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史]、[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀]<br>(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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{{box|text=
 [[モノアミン]]とは[[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[アドレナリン]]、[[セロトニン]]、[[ヒスタミン]]などの[[神経伝達物質]]の総称である。いずれの神経伝達物質も一つのアミノ基が2つの炭素鎖により[[wikipedia:ja:芳香環|芳香環]]につながる化学構造を有する。[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]、[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]ではモノアミン含有神経細胞の細胞体は[[脳幹]]部にあり、ほぼ脳全体に[[神経軸索]]を投射するため、モノアミン神経系(モノアミン系)は広汎投射神経系としての特徴を有する。
 [[モノアミン]]とは[[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[アドレナリン]]、[[セロトニン]]、[[ヒスタミン]]などの[[神経伝達物質]]の総称である。いずれの神経伝達物質も一つのアミノ基が2つの炭素鎖により[[wikipedia:ja:芳香環|芳香環]]につながる化学構造を有する。[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]、[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]ではモノアミン含有神経細胞の細胞体は[[脳幹]]部にあり、ほぼ脳全体に[[神経軸索]]を投射するため、モノアミン神経系(モノアミン系)は広汎投射神経系としての特徴を有する。
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[[Image:4MA fig1.jpg|thumb|200px|'''図.モノアミン神経伝達物質''']]  
[[Image:4MA fig1.jpg|thumb|450px|'''図.モノアミン神経伝達物質''']]  


==モノアミンとは==
==モノアミンとは==
 神経科学において、モノアミンとは、主にセロトニン([[wikipedia:ja:インドール|インドール]]アミンの一種)、およびドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン(この3つはカテコールアミンの一種)を主に指す。また、[[ヒスタミン]]もモノアミン神経伝達物質の一種である。これらは神経系において、[[神経伝達物質]]または[[神経修飾物質]](neuromodulator)として働く。主要な共通する特徴は以下の通りである<ref name=cooper>'''Cooper JR, Bloom FE, Roth RH''' (2003)<br>The Biochemical Basis of Neuropharmacology, 8th ed. <br>''Oxford University Press, New York.''<br>(邦訳 神経薬理学、樋口宗史監訳、メディカル・サイエンス・インターナショナル、東京、2005) </ref>。  
 神経科学において、モノアミンとは、主にセロトニン([[wikipedia:ja:インドール|インドール]]アミンの一種)、およびドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン(この3つは[[カテコールアミン]]の一種)を主に指す。また、[[ヒスタミン]]もモノアミン神経伝達物質の一種である。これらは神経系において、[[神経伝達物質]]または[[神経修飾物質]](neuromodulator)として働く。[[wj:昆虫|昆虫]]やその他の[[wj:無脊椎動物|無脊椎動物]]では[[オクトパミン]]およびその[[wj:前駆物質|前駆物質]]である[[チラミン]]が神経系にて生理活性作用を持つ<ref name=refA><pubmed> 10515667 </pubmed></ref><ref name=refB><pubmed> 18725900 </pubmed></ref>。共通する主な特徴は以下の通りである<ref name=cooper>'''Cooper JR, Bloom FE, Roth RH''' (2003)<br>The Biochemical Basis of Neuropharmacology, 8th ed. <br>''Oxford University Press, New York.''<br>(邦訳 神経薬理学、樋口宗史監訳、メディカル・サイエンス・インターナショナル、東京、2005) </ref>。  
 
(オクトパミン、チラミンについても無脊椎動物で重要ですので言及していただけると幸いです)


=== 構造 ===
=== 構造 ===
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=== 精神疾患との関連 ===
=== 精神疾患との関連 ===


 モノアミンが脳の精神的活動に重要とされる根拠の一つは、[[精神疾患]]に用いられる薬物の多くがモノアミン神経伝達を標的にしていることである。例えば、代表的な精神疾患である[[統合失調症]]に用いられる薬の多くは、[[ドーパミンD2受容体]]に対する阻害効果を示す。うつ病に用いられる薬、SSRIは、[[セロトニン再取り込みの阻害剤]]である。しかしながら、これらの精神疾患の発症においてモノアミン系神経伝達の異常が原因であるかは必ずしも明らかではない<ref name="ref1">'''E R Kandel, J H Schwartz, T M Jessell'''<br> Principles of Neural Science, Fourth Edition<br>''Mc Graw Hill (New York)'':2000</ref><ref name="ref2">'''N R Carlson'''<br> Physiology of Behavior, Tenth Edition<br>''Pearson Education (Boston)'':2009</ref><ref name=inoue>'''井上 猛、中川 伸、小山 司''' (2009) <br>大うつ病性障害の薬理/抗うつ薬 .樋口輝彦,小山 司,神庭重信編,<br>臨床精神薬理ハンドブック(第二版)<br>''医学書院''、pp158-178.  
 モノアミンが脳の精神的活動に重要とされる根拠の一つは、[[精神疾患]]に用いられる薬物の多くがモノアミン神経伝達を標的にしていることである。例えば、代表的な精神疾患である[[統合失調症]]に用いられる薬の多くは、[[ドーパミンD2受容体]]に対する阻害効果を示す。うつ病に用いられる薬、SSRIは、[[セロトニン再取り込みの阻害剤]]である。しかしながら、これらの精神疾患の発症において[[モノアミン系]]神経伝達の異常が原因であるかは必ずしも明らかではない<ref name="ref1">'''E R Kandel, J H Schwartz, T M Jessell'''<br> Principles of Neural Science, Fourth Edition<br>''Mc Graw Hill (New York)'':2000</ref><ref name="ref2">'''N R Carlson'''<br> Physiology of Behavior, Tenth Edition<br>''Pearson Education (Boston)'':2009</ref><ref name=inoue>'''井上 猛、中川 伸、小山 司''' (2009) <br>大うつ病性障害の薬理/抗うつ薬 .樋口輝彦,小山 司,神庭重信編,<br>臨床精神薬理ハンドブック(第二版)<br>''医学書院''、pp158-178.  
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''詳細は[[ドーパミン]]の項目参照。''
''詳細は[[ドーパミン]]の項目参照。''
 カテコールアミンの一つである。中枢神経系の伝達物質、及び末梢のシグナル分子として働く。


=== 神経解剖 ===
=== 神経解剖 ===
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=== 合成・代謝 ===  
=== 合成・代謝 ===  


 ドーパミンの前駆物質であるチロシンは[[wikipedia:ja:必須アミノ酸|必須アミノ酸]]ではなく、食物からタンパク質として摂取される他、体内で必須アミノ酸である[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]から変換される。チロシン水酸化酵素がドーパミン合成の律速段階である。ドーパミン合成はドーパミン作動性神経のインパルス量に依存し、さらにシナプス前[[ドーパミン受容体]](自己受容体、D2受容体)刺激によって抑制される。ドーパミンはMAOとCOMTにより主たる代謝産物である[[ホモバニリン酸]] (HVA)まで代謝される。
 ドーパミンの前駆物質であるチロシンは[[wikipedia:ja:必須アミノ酸|必須アミノ酸]]ではなく、食物からタンパク質として摂取される他、体内で必須アミノ酸である[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]から変換される。チロシン水酸化酵素がドーパミン合成の律速段階である。ドーパミン合成はドーパミン作動性神経のインパルス量に依存し、さらに[[シナプス前]][[ドーパミン受容体]](自己受容体、[[D2受容体]])刺激によって抑制される。ドーパミンはMAOとCOMTにより主たる代謝産物である[[ホモバニリン酸]] (HVA)まで代謝される。


=== 放出の制御 ===  
=== 放出の制御 ===  
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 以上の2つの機序に加えて、前頭前野ではドーパミン作動性神経に比べて、ノルアドレナリン作動性神経の神経終末が比較的多いという解剖学的特徴が寄与して、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬投与により前頭前野細胞外ドーパミン濃度が増加すると考えられる。一方、線条体や側坐核では、ドーパミン作動性神経の神経終末のほうがノルアドレナリン作動性神経の神経終末よりも圧倒的に多く、細胞外のドーパミンはほとんどドーパミン作動性神経終末にあるドーパミン・トランスポーターにより取り込まれる。  
 以上の2つの機序に加えて、前頭前野ではドーパミン作動性神経に比べて、ノルアドレナリン作動性神経の神経終末が比較的多いという解剖学的特徴が寄与して、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬投与により前頭前野細胞外ドーパミン濃度が増加すると考えられる。一方、線条体や側坐核では、ドーパミン作動性神経の神経終末のほうがノルアドレナリン作動性神経の神経終末よりも圧倒的に多く、細胞外のドーパミンはほとんどドーパミン作動性神経終末にあるドーパミン・トランスポーターにより取り込まれる。  


 多くの抗精神病薬、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬が有する[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>2C</sub>受容体]]遮断作用は3つのドーパミン投射系(黒質線条体、中脳皮質、中脳辺縁系)で細胞外ドーパミン濃度を増加させる。したがって、5-HT<sub>2C</sub>受容体はドーパミン作動性神経に対して、おそらく[[細胞体]]レベルで緊張性の抑制作用を有すると考えられる<ref name=inoue />。
 多くの[[抗精神病薬]]、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬が有する[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>2C</sub>受容体]]遮断作用は3つのドーパミン投射系(黒質線条体、中脳皮質、中脳辺縁系)で細胞外ドーパミン濃度を増加させる。したがって、[[5-HT]]<sub>2C</sub>受容体はドーパミン作動性神経に対して、おそらく[[細胞体]]レベルで緊張性の抑制作用を有すると考えられる<ref name=inoue />。


===ドーパミン受容体 ===   
===ドーパミン受容体 ===   
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== ノルアドレナリン ==
== ノルアドレナリン ==


 ノルエピネフリン (norepinephrine) とも呼ぶ。''詳細は[[ノルアドレナリン]]の項目参照。''  
 [[ノルエピネフリン]] (norepinephrine) とも呼ぶ。''詳細は[[ノルアドレナリン]]の項目参照。''  
 
 カテコールアミンの一つである。中枢並びに交感神経の神経伝達物質として働くほか、副腎髄質より放出されホルモンとして働く。


=== 神経解剖 ===
=== 神経解剖 ===
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== アドレナリン ==
== アドレナリン ==


 エピネフリン (norepinephrine) とも呼ぶ。''詳細は[[アドレナリン]]の項目参照。''
 [[エピネフリン]] (norepinephrine) とも呼ぶ。''詳細は[[アドレナリン]]の項目参照。


XXXXXXXXX
 カテコールアミンの一つである。中枢並びに交感神経の神経伝達物質として働くほか、副腎髄質より放出されホルモンとして働く。
 
===神経解剖===
 アドレナリンを神経伝達物質とする神経(アドレナリン神経)の細胞体は、中枢神経系では、後脳延髄に存在し、そこから視床下部などへ上行性投射、および脊髄へ下降性投射を形成している。
 
===合成・代謝===
 アドレナリンはチロシンからドーパミン、ノルアドレナリンを経て、最後にフェニルエタノールアミン-N-メチル基転移酵素(PNMT)により合成される。脳においてアドレナリンの多くは、ノルアドレナリンと同様、MAO、アルデヒド還元酵素、およびカテコールO-メチル基転移酵素(COMT)により3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG)へ代謝され、さらに3-methoxy-4-hydroxymandelic acid (VMA)となって尿中に排出される。


=== 受容体 ===
=== 受容体 ===
 [[テスト#アドレナリン受容体|ノルアドレナリンの節]]参照。
 アドレナリンはノルアドレナリンと共にアドレナリン受容体(adrenergic receptorまたはadrenoceptor)に結合し活性化する。αおよびβのサブファミリーからなる。より細かくは、α<sub>1A</sub>-α<sub>1D</sub>、α<sub>2A</sub>-α<sub>2C</sub>、β<sub>1</sub>、β<sub>2</sub>、β<sub>3</sub>、から構成されている。いずれも三量体Gタンパク質共役型の受容体である。[[モノアミン#アドレナリン受容体|ノルアドレナリンの節]]参照。


== セロトニン ==
== セロトニン ==


''詳細は[[セロトニン]]の項目参照。''
''詳細は[[セロトニン]]の項目参照。''
 インドールアミンの一つである。中枢神経系の伝達物質として働き脳機能の調節において重要な役割を果たす他、生体内の大部分(~95%)のセロトニンは末梢に存在し<ref><pubmed> 17241888 </pubmed></ref> <ref name=ref18471139><pubmed> 18471139 </pubmed></ref>、血管収縮、腸管蠕動運動、血小板凝縮などの調節因子として末梢でも多様な作用を持つ。


=== 神経解剖 ===   
=== 神経解剖 ===   


 [[セロトニン神経]]の細胞体は[[橋]]や[[脳幹]]にある[[縫線核群]](B1〜B9)から[[大脳]]・[[小脳]]・[[脊髄]]全体に[[軸索]]を投射している。大脳皮質、扁桃体には[[背側縫線核]]から、[[海馬]]には[[正中縫線核]]から投射があり、それぞれの起始核は異なる。  
 [[セロトニン神経]]の細胞体は[[橋]]や[[脳幹]]にある[[縫線核群]](B1〜B9)から[[大脳]]・[[小脳]]・[[脊髄]]全体に[[軸索]]を投射している。[[大脳皮質]]、扁桃体には[[背側縫線核]]から、[[海馬]]には[[正中縫線核]]から投射があり、それぞれの起始核は異なる。  


=== 合成・代謝 ===  
=== 合成・代謝 ===  


 セロトニンは必須アミノ酸である[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から合成される。セロトニン合成の律速段階である[[トリプトファン水酸化酵素]]は基質によって飽和されていないため、トリプトファンの取り込み、血中の遊離トリプトファン濃度がセロトニン合成に影響を与える。トリプトファンの脳内への取り込みは能動的取り込み機構を介しているが、[[wikipedia:ja:芳香族アミノ酸|芳香族アミノ酸]]や[[wikipedia:ja:分枝鎖アミノ酸|分枝鎖アミノ酸]]によって阻害される。トリプトファンの過剰摂取はセロトニン合成を増加させる。また、トリプトファンは血中では蛋白に結合しており、トリプトファンの蛋白結合を阻害する薬物(例えば[[バルプロ酸]])の投与により血中の遊離トリプトファン濃度は上昇するため、脳内セロトニン濃度は上昇する。セロトニンはMAO-Aによって5-HIAAに代謝されるが、MAO-Bによる代謝はうけない。興味深いことに、セロトニン作動性神経内に、MAO-Bは存在するが、MAO-Aは存在しない。したがって、セロトニンの代謝はセロトニン作動性神経内ではなく、それ以外の細胞で行われると考えられる。  
 セロトニンは必須アミノ酸である[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から合成される。セロトニン合成の律速段階である[[トリプトファン水酸化酵素]]は基質によって飽和されていないため、トリプトファンの取り込み、血中の遊離トリプトファン濃度がセロトニン合成に影響を与える。トリプトファンの脳内への取り込みは能動的取り込み機構を介しているが、[[wikipedia:ja:芳香族アミノ酸|芳香族アミノ酸]]や[[wikipedia:ja:分枝鎖アミノ酸|分枝鎖アミノ酸]]によって阻害される。トリプトファンの過剰摂取はセロトニン合成を増加させる。また、トリプトファンは血中ではタンパク質に結合しており、トリプトファンのタンパク質結合を阻害する薬物(例えば[[バルプロ酸]])の投与により血中の遊離トリプトファン濃度は上昇するため、脳内セロトニン濃度は上昇する。セロトニンはMAO-Aによって5-HIAAに代謝されるが、MAO-Bによる代謝はうけない。興味深いことに、セロトニン作動性神経内に、MAO-Bは存在するが、MAO-Aは存在しない。したがって、セロトニンの代謝はセロトニン作動性神経内ではなく、それ以外の細胞で行われると考えられる。  


=== 放出の制御 ===  
=== 放出の制御 ===  
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''詳細は[[ヒスタミン]]の項目参照。''
''詳細は[[ヒスタミン]]の項目参照。''


 ヒスタミンは中枢神経系において神経伝達物質として働く<ref name="ref7"><pubmed> 11793338</pubmed></ref><ref name="ref8"><pubmed> 18626069</pubmed></ref>。脳におけるヒスタミンの作用は、[[覚醒]]の維持を助けるものであると考えられている。また、[[抗アレルギー薬]]のもつ眠気の副作用は中枢神経系での作用であると考えられている。
 ヒスタミンは末梢組織における炎症の重要なメディエーターであるが、中枢神経系においては神経伝達物質としても働く<ref name=cooper/><ref name="ref7"><pubmed> 18626069 </pubmed></ref><ref name="ref8"><pubmed> 21324537 </pubmed></ref>。脳におけるヒスタミンの作用は、[[覚醒]]の維持を助けるものであると考えられている。また、[[抗アレルギー薬]]のもつ眠気の副作用は中枢神経系での作用であると考えられている。


=== 神経解剖 ===
=== 神経解剖 ===
 ヒスタミン作動性神経細胞は、[[視床下部]]の[[隆起乳頭体核]]に存在する。投射は脳の広範囲に及ぶ。
 ヒスタミン作動性神経細胞は、[[視床下部]]の[[隆起乳頭体核]]に存在する。投射先は脳全域に及ぶが、その密度は低い。
 
===合成・代謝===
ヒスタミンは、ヒスチジンからヒスチジン脱炭酸酵素により生合成される。ヒスチジン脱炭酸酵素はピリドキサールリン酸を補酵素として必要とする。ほ乳類脳においてヒスタミンの多くはヒスタミンメチル基転移酵素によりメチル化され、さらにモノアミン酸化酵素B(MAOB)により酸化され、メチルイミダゾール酢酸となり排出される。


===ヒスタミン受容体 ===
===ヒスタミン受容体 ===


 [[ヒスタミン受容体]]はH1からH4型が存在し、そのうちH1、H2、H3が脳で発現している。
 [[ヒスタミン受容体]]はH<sub>1</sub>からH<sub>4</sub>型が存在し、現在はその全てが脳で発現しているとされる。H<sub>1</sub>受容体はホスホリパーゼCを活性化し、イノシトール三リン酸(IP3)およびジアシルグリセロール(DAG)を増加させる。H2受容体はcAMPカスケードを活性化、逆にH<sub>3</sub>受容体はcAMPカスケードを抑制する。H<sub>4</sub>受容体の作用についてはまだはっきりと分かっていない。H<sub>1</sub>およびH<sub>2</sub>受容体は神経細胞の興奮性や可塑性を調節する。H<sub>3</sub>受容体はヒスタミン作動性神経細胞や、特定の中枢神経細胞のプレシナプスに発現し、神経伝達物質の放出を抑制する働きがある<ref name=ref7/>。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==