「中間径フィラメント」の版間の差分

提供:脳科学辞典
ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
28行目: 28行目:


 神経細胞に発現するニューロフィラメントは安定で、[[鍍銀染色]]で染まることがよく知られている。他の中間径フィラメントと異なり、L, M, Hの3つのポリペプチドからなる。[[神経突起]]内は突起に平行に線維が形成され線維間は架橋構造(cross-bridge)で梯子状に繋がれている。H, M鎖の部分がこの架橋構造を形成している。ニューロフィラメントは遅い[[軸索輸送]](slow axonal transport)で運ばれる。  
 神経細胞に発現するニューロフィラメントは安定で、[[鍍銀染色]]で染まることがよく知られている。他の中間径フィラメントと異なり、L, M, Hの3つのポリペプチドからなる。[[神経突起]]内は突起に平行に線維が形成され線維間は架橋構造(cross-bridge)で梯子状に繋がれている。H, M鎖の部分がこの架橋構造を形成している。ニューロフィラメントは遅い[[軸索輸送]](slow axonal transport)で運ばれる。  
== 中間径フィラメントと疾患 ==
 中間径フィラメント関連疾患は、多様な組織でおこる。人疾患が中間径フィラメントの遺伝子変異で起こると最初に報告されたのは、1991年のケラチンK14とEBSである。それ以降、ヒトのメンデル遺伝をする疾患の多くが中間径フィラメントの遺伝子変異と関連づけられるようになった。主な疾患は、表1にある。神経系では、GFAPの変異がアレキサンダー病の原因遺伝子であることが2007年に分かった。アレキサンダー病は、稀なleukodystrophyの一つで1949年に発見された。ミエリンの障害が主な進行性の変性疾患で、GFAPのコード領域での優性遺伝性の変異が原因である。神経細胞では、2004年、NIFID (neuronal IF inclusion disease)が報告された。これはa-internexinが主に溜まる疾患で、痴呆症になるが、未だ遺伝子の変異は見つかっていない。また、遺伝性の末梢神経障害を起こすCMT(Charcot-Marie-Tooth)病には様々な原因遺伝子が挙げられているが、2000年に、ニューロフィラメントLの変異も関連づけられた。病態としてニューロフィラメントの蓄積が言われ続けたものに、ALS(筋委縮性側索硬化症)がある。しかし、ALSと関連するニューロフィラメント遺伝子の変異はまだ見つかっていない。近年、ペリフェリンが関与するという報告もある。また多くの神経変性疾患でニューロフィラメントの蓄積(spheroids)が細胞体や軸索に起こることが知られている。
これらの病態にアプローチするため、これらneuronal IFのノックアウトマウスや過剰発現マウスが作られた(表2)。しかし、ノックアウトマウスは、予想に比べて穏やかな表現型しか出なかった。一方、過剰発現系では神経変性疾患を模すようなニューロフィラメントの蓄積が見られた。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2012年5月22日 (火) 15:16時点における版

英:Intermediate filament

 細胞骨格(cytoskeleton)と呼ばれる細胞質内のタンパク質性の線維系のひとつ。ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントの中間の径10nmであることから中間径フィラメント(intermediate filament)と呼ばれる。細胞間でよく保存されている微小管やアクチン線維と異なり、相同性はあるが細胞の種類によって異なるタンパク質が発現するので、細胞分化のマーカーとしても用いられる。

中間径フィラメントの種類

 六つのクラスに分けられている。

 クラスI,IIは,酸性および塩基性のサイトケラチン(cytokeratin)で上皮細胞に発現し、の大部分を成す。

 クラスIIIはビメンチン(vimentin)、デスミン(desmin)、グリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein, GFAP)で、ビメンチンは線維芽細胞など間葉系細胞に発現している。筋細胞にはデスミン、星状膠細胞ではGFAP、ペリフェリン(peripherin)が発現する。

 クラスIVは、ニューロフィラメント(neurofilament)で、H,M,Lの3種のポリペプチドで構成され、神経細胞に発現する。

 クラスVは、核膜を裏打ちするラミン(lamin)である。

 クラスVIは、ネスチン(nestin)で、神経幹細胞のマーカーとしてよく用いられる。

基本構造・重合

 幾つかの点で、他の2種の細胞骨格線維とは大きく異なっている。中間径フィラメントには極性がない。また、重合にATPや、GTPを要さず、細胞質内で脱重合している成分は少ない。一旦重合すると生理的な緩衝液で脱重合することはなく安定である。アクチンやチュブリンファミリーに比べ、構造が多様である。しかし、N末C末の球状領域をつなぐ桿状領域(rod domain, 340aa)はファミリー内で良く保存されている。この部分でコイルドコイルをつくった二量体がアンチパラレル(anti-parallel)に結合して四量体のプロトフィラメント(protofilament)となる。このプロトフィラメントが2つで、プロトフィブリル(protofibril)を形成、それが4つ集まり、10nmの太さになると考えられている。

機能

 上皮細胞などではデスモゾームヘミデスモゾームに中間径フィラメントが密着し、その構造を補強すると考えられている。皮膚でのケラチンは、毛、爪の主要成分である。しかし、ビメンチンやデスミンなどをノックアウトしても顕著な表現型はでず、細胞を構造的に補強する機能以外はあまり分かっていない。

神経細胞とニューロフィラメント

 神経細胞に発現するニューロフィラメントは安定で、鍍銀染色で染まることがよく知られている。他の中間径フィラメントと異なり、L, M, Hの3つのポリペプチドからなる。神経突起内は突起に平行に線維が形成され線維間は架橋構造(cross-bridge)で梯子状に繋がれている。H, M鎖の部分がこの架橋構造を形成している。ニューロフィラメントは遅い軸索輸送(slow axonal transport)で運ばれる。

中間径フィラメントと疾患

 中間径フィラメント関連疾患は、多様な組織でおこる。人疾患が中間径フィラメントの遺伝子変異で起こると最初に報告されたのは、1991年のケラチンK14とEBSである。それ以降、ヒトのメンデル遺伝をする疾患の多くが中間径フィラメントの遺伝子変異と関連づけられるようになった。主な疾患は、表1にある。神経系では、GFAPの変異がアレキサンダー病の原因遺伝子であることが2007年に分かった。アレキサンダー病は、稀なleukodystrophyの一つで1949年に発見された。ミエリンの障害が主な進行性の変性疾患で、GFAPのコード領域での優性遺伝性の変異が原因である。神経細胞では、2004年、NIFID (neuronal IF inclusion disease)が報告された。これはa-internexinが主に溜まる疾患で、痴呆症になるが、未だ遺伝子の変異は見つかっていない。また、遺伝性の末梢神経障害を起こすCMT(Charcot-Marie-Tooth)病には様々な原因遺伝子が挙げられているが、2000年に、ニューロフィラメントLの変異も関連づけられた。病態としてニューロフィラメントの蓄積が言われ続けたものに、ALS(筋委縮性側索硬化症)がある。しかし、ALSと関連するニューロフィラメント遺伝子の変異はまだ見つかっていない。近年、ペリフェリンが関与するという報告もある。また多くの神経変性疾患でニューロフィラメントの蓄積(spheroids)が細胞体や軸索に起こることが知られている。 これらの病態にアプローチするため、これらneuronal IFのノックアウトマウスや過剰発現マウスが作られた(表2)。しかし、ノックアウトマウスは、予想に比べて穏やかな表現型しか出なかった。一方、過剰発現系では神経変性疾患を模すようなニューロフィラメントの蓄積が見られた。

参考文献

1.Manfred Schliwa
The cytoskeleton an introductory survey  1986
Springer-Verlag /Wien

2.Bruce Alberts et al.
Molecular Biology of the Cell  5th ed 2008
Garland Publishing,Inc /NewYork

3.Jonathon Howard
Mechanics of Motor Proteins and the cytoskeleton  2001
Sinauer Associates,Inc /Sunderland Massachusetts


(執筆者:中田隆夫 担当編集委員:河西春郎)