注意欠如・多動性障害

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金生 由紀子
東京大学大学院医学系研究科
DOI:10.14931/bsd.5929 原稿受付日:2015年6月3日 原稿完成日:2015年xx月xx日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:attention-deficit/hyperactivity disorder 独:Aufmerksamkeitsdefizit-/Hyperaktivitätsstörung 仏:trouble du déficit de l'attention avec ou sans hyperactivité

略語:ADHD

 注意欠如・多動性障害は、不注意、多動性、衝動性という症状で定義され、12歳以前から症状を認める発達障害である。様々な精神疾患を併発することも特徴の一つである。成人後も機能障害が残存する場合が少なくないことが明らかになり、成人での診断・治療にも関心が高まっている。歴史的に早い時期から脳機能障害と認識されており、それを踏まえた病態モデルが検討されてきた。実行機能及び報酬系の障害に加えて、最近では時間的処理や情動制御の障害も想定されている。治療は、本人及び親をはじめとする周囲の人々がADHDの特性を適切に理解して対応できるようにする心理社会的治療と薬物療法が中心である。

歴史と概念の変遷

 注意欠如・多動性障害につながる疾患概念が医学的論文の中に初めて現れたのは、1902年にStillが攻撃的で反抗的になりやすい43名の子どもを記載したことであるとされている。1917~1918年のエコノモ脳炎の大流行の後に、不注意多動性衝動性を示す子どもたちが認められ、脳炎後行動障害として検討されるようになった。

 この延長線上で、1947年にStraussとLehtinenは「brain-injured child(脳損傷児)」概念を提唱した。その後、脳損傷が証明できないとして「minimal brain damage: MBD(微細脳損傷)」、さらには「minimal brain dysfunction: MBD(微細脳機能障害)」という名称が提唱された。

 1960年代になると、MBD概念に代わって症状に注目されるようになった。1968年にアメリカ精神医学会から出版された「精神疾患の診断・統計マニュアル第2版DSM-II)」は初めて子どもの精神障害を記載し、その中には「hyperkinetic reaction of childhood(小児期の多動性反応)」が含まれていた。1970年代になると、多動に加えて、注意の持続や衝動のコントロールも重視されるようになり、1980年に出版されたDSM-IIIでは「attention deficit disorder(注意欠陥障害)」という概念が提唱された。その後、不注意、多動性、衝動性が主症状として確立して、2013年に出版されたDSM-5では「attention-deficit/hyperactivity disorder(注意欠如・多動性障害/注意欠如・多動症): ADHD」という概念となっている。また、ADHDはDSM-5で新たに形成された「neurodevelopmental disorders(神経発達症群/神経発達障害群)」に含まれ、発達障害として明確に位置づけられるようになった。

 なお、世界保健機関による「精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン第10版ICD-10)」にはADHDという診断名はない。「hyperkinetic disorders(多動性障害)」が存在し、注意の障害と多動が基本的な特徴とされ、不注意および多動性―衝動性の両方ともが目立つADHDと近似している。

診断

 不注意および/または多動性―衝動性が持続的に認められて、機能または発達の妨げとなっている場合、ADHDと診断される。DSM-5の診断基準は、以下のとおりである。

  • 不注意の症状としては、注意を持続することが困難である、すぐ気が散ってしまうなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準を満たす。多動性―衝動性としては、席を離れる、じっとしていない、順番を待つことが困難であるなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準に満たす。但し、17歳以上であれば、それぞれ6つ以上ではなくて5つ以上でよい。
  • 症状のいくつかが12歳以前から存在している。
  • 症状のいくつかが家庭、学校、職場など2つ以上の状況において存在する。
  • 症状が、社会的、学業的または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。

 以上に加えて、統合失調症などが鑑別対象としてあげられているが、DSM-IV-TRまでと異なり、自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)は鑑別対象となっていない。すなわち、自閉症状を有していても、上記の診断基準を満たしていれば、ADHDと診断される。

 症状の組み合わせから、不注意、多動性―衝動性の両方とも基準を満たす場合(混合して存在)、不注意のみ基準を満たす場合(不注意優勢に存在)、多動性―衝動性のみ基準を満たす場合(多動・衝動優勢に存在)がある。経過中で、異なる存在に変わることもある。

併発症

 ADHDには様々な精神疾患が併発することがよく知られている。併発症を、行動障害群、情緒的障害群、神経性習癖群、発達障害群と4群に分けることが、日本の診断・治療ガイドラインで提案されている。

  • 行動障害群とは、攻撃行動で代表されるように、行動として外側から見える問題を示すものである。反抗挑戦症素行症などが該当する。
  • 情緒的障害群とは、不安うつで代表されるように、こころの内側の問題を示すものである。不安症気分障害適応障害などが該当する。
  • 神経習癖群は、繰り返されることで身について固定された行動である習癖で特徴づけられる。夜尿症を中心とする排泄障害睡眠障害チック症などが含まれる。なお、チック症はDSM-5ではADHDと同様に神経発達症群に含まれるようになったので、発達障害群に含めてもよいかもしれない。
  • 発達障害群には、限局的学習症発達性協調運動症に加えて、ASDも含まれる。

 複数の併発症を有する場合も稀ではない。

経過・予後

 以前は、ADHDは成長に伴って改善することが多いと考えられていた。しかし、成人までに、ADHD症状の数が基準以下となる者が約60%であるのに対して、機能障害がなくなる者は約10%と低率であることが明らかになった。ADHD症状の中でも不注意は成長に伴って改善する割合が低かった。学童期には不注意と多動性―衝動性の両方ともが目立つ場合が主であるが、成人期には不注意が目立つ場合が主であるという報告もある。

 また、同じ症状であっても年齢によって表れ方が異なる。例えば、不注意は、子どもでは気が散りやすく一つの行動が長続きしないということで表れる一方、成人では約束を忘れるとか見通しが立てられず時間管理が苦手であるというかたちをとるかもしれない。なお、DSM-5ではDSM-IV-TRと比べて成人での症状を詳しく記述して診断しやすくしている。

 経過中に併発症が出現してくる際にいくつかのパターンがある。ADHDに反抗挑戦症を伴ってさらに素行症に発展する場合がDBDマーチという名称で知られている。ADHDにチック症を伴ってさらに強迫症に発展する場合もある。

疫学

 ADHDの頻度は、DSM-5では子どもで約5%、成人で約2.5%とされている。アメリカ疾病管理予防センターCenters for Disease Control and Prevention: CDC)の報告によると、ADHDと診断された4~17歳の子どもが2011年に11.0%であり、2003年に7.8%であったのと比べて大きく増加している[1]。日本では通常の学級に在籍する児童生徒に関する質問紙調査でADHD症状を有する割合が3.1%との報告があり、アメリカよりも若干低いかもしれない[2]。性別では、女性よりも男性に多く、子どもでその傾向が強い。女性では男性より不注意が目立つ。

病因・病態

 ADHDの病態モデルとして、実行機能及び報酬系の障害という2つの経路からなるdual pathway modelが有力視されてきた。

 実行機能は高次のトップダウンの認知処理過程であり、障害されると抑制欠如が生じる。脳基盤としては、背外側前頭皮質から背側線条体尾状核に投射され、淡蒼球黒質視床下核から視床を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。報酬系の障害によっては遅延報酬の嫌悪が生じる。すなわち、将来の大きな報酬よりも目前の小さな報酬に飛びつきやすくなり、報酬遅延に際してじっと待てなくなる。脳基盤としては、前頭眼窩皮質前帯状回から腹側線条体、側坐核に投射され、腹側淡蒼球、視床を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。 しかし、dual pathway modelを提唱してきた研究者自身が、最近3つ目の経路として時間的処理の障害を提案している。脳基盤としては、実行機能及び報酬系の障害の経路と重なる部分があるものの、小脳が重要な要素である。また、左下前頭皮質、、左下頭頂葉の関与も示唆されている。

 さらに、近年、ADHDにおける情動の制御異常についても関心が高まっている。そのメカニズムとして、顕著な情動刺激への志向性及び小さくても即時の報酬の優先というボトムアップの過程が想定されると同時に、情動刺激への反応のトップダウンの制御に困難があると考えられている。脳基盤としては、ボトムアップについては扁桃体、腹側線条体、前頭眼窩皮質が、トップダウンについては前頭前皮質腹外側部、前頭前皮質内側部、前部帯状回が重要とされる。

 いずれにしても、ADHDの病態を前頭―線条体回路だけでは説明できないと言えよう。

 上記のような脳内のネットワークにおいてドーパミン及びノルアドレナリンが中心的な役割を果たしていると考えられている。シナプスにおけるドーパミン及びノルアドレナリンが平生は少量であるので、一時的にかえって通常よりも大量の放出が起こることが、ADHDの基盤にあるとされる。

 ADHDに家族集積性があることから、遺伝要因の関与が注目され、ドーパミン及びノルアドレナリンに関連する遺伝子を含めて検討されてきた。稀なコピー数多型や候補遺伝子多型に加えて、発達早期の逆境体験、周生期のへの曝露、低出生体重などが関連する可能性が示唆されているが、いずれについても決定的とは言い難い。また、遺伝的要因については、ASDなど他の神経発達症との重複が指摘されてもいる。

 なお、ADHDが均質の疾患とは言い難いため、ADHDの病因・病態の検討がいっそう困難になっている面がある。 

治療

治療の構成

 日本の診断・治療ガイドラインでは、ADHD治療の基本キットとして、親ガイダンス、学校との連携、子どもとの面接、薬物療法の4つをあげている。

 親をはじめとして関わりのある人々が、発達的な観点に立ってADHDの特性を理解して適切に対応できるようにすることが必須である。このような基盤を持つ包括的な治療の中で薬物療法がより効果を発揮する。

 アメリカのMultimodal Treatment Study of Children with ADHD(MTA研究)では、治療の柱として行動療法と薬物療法を設定して、大規模なランダム化比較試験による効果検証が行われた。14ヶ月間の治療後では行動療法と薬物療法の併用で効果が有意に高かった。但し、長期的に自然経過を追うと、薬物療法の優越性は減少した。この結果は治療の構成を考える上で参考になる。

 青年・成人でも、行動療法を中心とする心理社会的治療と薬物療法からなる包括的な治療が基本と考える。

 いずれにしても、治療は、ADHDを持つ本人が自己評価を低下させずに生活していけるようにすることを目指す。

心理社会的治療

 心理社会的治療としては親ガイダンスが第一歩であろうが、中心は行動療法(行動療法的な観点からの幅広いアプローチを含む)である。MTA研究における行動療法は、親に対する小集団でのペアレントトレーニング、教師に対するコンサルテーション、子どもに対するサマープログラム、教室への援助者の参加からなっていた。

 ペアレントトレーニングは、ADHDの特性に伴う子どもの育てにくさを前提としつつ、例えば望ましい行動をしたらほめて強化するなどの適切な対応を親が身につけていけるようにするプログラムである。

 子どもに対しては、自分の得意な点と苦手な点を理解して前向きに対応していくことができるように支援することが大切である。Social skill trainingをはじめとして適切な行動の修得を促す集団療法も行われる。

 青年・成人ではADHDについての心理教育や生活上での対処法の相談をはじめとして、子どもに比べて本人に働きかけることが多いが、家族や職場などの周囲の理解を促すこともやはり重要である。

薬物療法

 日本でADHD治療薬として子どもと成人への適応が承認されている薬物は、メチルフェニデート徐放剤及び選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤であるアトモキセチンである。メチルフェニデートの方がアトモキセチンよりも速やかに効果が発現する。メチルフェニデートは、実行機能と報酬系の障害への作用が期待されるが、依存やチックを誘発する恐れがある。一方、アトモキセチンは、主として実行機能の障害に作用して、依存やチックの誘発の危険はない。メチルフェニデートの副作用としては、上記の他に睡眠障害、食欲低下が高率であり、けいれん閾値の低下にも留意を要する。MTA研究では長期的に身長が3cm弱低くなったという。アトモキセチンの副作用としては、頭痛、食欲低下、傾眠があげられる。

 日本では適応外であるが、アドレナリンα2受容体作動薬であるクロニジンもADHDに有効とされる。イミプラミンノルトリプチリンという三環系抗うつ薬もADHDに使用されてきた。

 攻撃性や情動不安定が目立つ場合には、抗精神病薬気分安定薬が使用されることもある。

参考文献

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