「脳波」の版間の差分

972 バイト追加 、 2018年10月17日 (水)
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=== 入力抵抗と接触抵抗 ===
=== 入力抵抗と接触抵抗 ===
脳波計測では、脳を生体電源として探査電極とグラウンド電極で閉回路をつくり、オームの法則から探査電極にかかる電位を測る。しかし実際には生体内部では合計数十キロΩにもなる抵抗がかかっており、なおかつ変動することがあるため測定はできない。これによって探査電極にかかる電圧が生体電源電圧と等しくならず、正しい計測ができない。この生体内の抵抗を無視するために、脳波計の入力端子間における抵抗('''入力抵抗''')を高くする必要がある(10MΩ以上)。生体側の抵抗よりも入力抵抗が十分に高ければ、抵抗の両端で生じる電位差を脳で生じた電圧とほぼ等しいとみなすことができる。<br>
脳波計測では、脳を生体電源として探査電極とグラウンド電極で閉回路をつくり、オームの法則から探査電極にかかる電位を測る。しかし実際には生体内部では合計数十キロΩにもなる抵抗がかかっており、なおかつ変動することがあるため測定はできない。これによって探査電極にかかる電圧が生体電源電圧と等しくならず、正しい計測ができない。この生体内の抵抗を無視するために、脳波計の入力端子間における抵抗('''入力抵抗''')を高くする必要がある(10MΩ以上)。生体側の抵抗よりも入力抵抗が十分に高ければ、抵抗の両端で生じる電位差を脳で生じた電圧とほぼ等しいとみなすことができる。<br>
 生体信号の記録には、銀-塩化銀(Ag/AgCl)電極の電気特性が最も良いといわれていが、脳波計の入力抵抗が十分に高ければ、電極の種類によらず歪のない計測ができるといわれている。電極を頭皮に接地する際には、頭皮との間に導電性のゲルを埋めて電気的に接触させる。この電極と頭皮における接触抵抗は、S/N比の高い脳波計測をするうえで非常に重要になってくる。接触抵抗が高いと閉回路に余計な抵抗が直列接続されることになり信号が減衰してしまうため、頭皮の角質を落とすといった前処理で下げる必要がある。接触抵抗は各電極とグラウンド電極間に交流電流を流した際の電極間抵抗として計測が可能であり、5kΩ以下にすることが望ましいとされる。また、接触抵抗はできるだけ一様に下げることが望ましい。これは電極抵抗の値が揃っていれば差動増幅器(脳波計)の特性によって同相信号が除去されるためであり、電源ラインから混入するノイズの影響を少なくすることができる。<br>
 生体信号の記録には、銀-塩化銀(Ag/AgCl)電極の電気特性が最も良いといわれていが、脳波計の入力抵抗が十分に高ければ、電極の種類によらず歪のない計測ができるといわれている。電極を頭皮に接地する際には、頭皮との間に導電性のゲルを埋めて電気的に接触させる。この電極と頭皮における'''接触抵抗'''は、S/N比の高い脳波計測をするうえで非常に重要になってくる。接触抵抗が高いと閉回路に余計な抵抗が直列接続されることになり信号が減衰してしまうため、頭皮の角質を落とすといった前処理で下げる必要がある。接触抵抗は各電極とグラウンド電極間に交流電流を流した際の電極間抵抗として計測が可能であり、5kΩ以下にすることが望ましいとされる。また、接触抵抗はできるだけ一様に下げることが望ましい。これは電極抵抗の値が揃っていれば差動増幅器(脳波計)の特性によって同相信号が除去されるためであり、電源ラインから混入するノイズの影響を少なくすることができる。<br>
 近年では、接触抵抗にあまり左右されにくい'''アクティブ電極'''が使われるようになってきた。入力抵抗は脳波計の性能次第であるが、ボルテージフォロワのような回路が仕込まれているアクティブ電極では、電極ごとの抵抗に応じて入力抵抗を十分に上げることができる。これとは対照的に、回路が組み込まれていない従来の電極を'''パッシブ電極'''と呼ぶ。アクティブ電極によって高い入力抵抗を実現することにより、接触抵抗が電極間でバラついていてもある程度の値まで下がっていればその影響を小さくすることができる。これにより、シールドルーム外で電極リード線にノイズがのっても問題ない程度にS/N比を保つことができる。無論、アクティブ電極を用いる場合であっても余計なノイズの混入を防ぐためにはシールドルーム内での計測が望ましい。パッシブ電極では接触抵抗を一様に下げるためにかなりの労力と時間を要するが、これを大幅に短縮できるという点でもアクティブ電極の有用性は高い。<br>
 近年では、接触抵抗にあまり左右されにくい'''アクティブ電極'''が使われるようになってきた。入力抵抗は脳波計の性能次第であるが、ボルテージフォロワのような回路が仕込まれているアクティブ電極では、電極ごとの抵抗に応じて入力抵抗を十分に上げることができる。これとは対照的に、回路が組み込まれていない従来の電極を'''パッシブ電極'''と呼ぶ。アクティブ電極によって高い入力抵抗を実現することにより、接触抵抗が電極間でバラついていてもある程度の値まで下がっていればその影響を小さくすることができる。これにより、シールドルーム外で電極リード線にノイズがのっても問題ない程度にS/N比を保つことができる。無論、アクティブ電極を用いる場合であっても余計なノイズの混入を防ぐためにはシールドルーム内での計測が望ましい。パッシブ電極では接触抵抗を一様に下げるためにかなりの労力と時間を要するが、これを大幅に短縮できるという点でもアクティブ電極の有用性は高い。<br>


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== 脳波を用いた研究手法 ==
== 脳波を用いた研究手法 ==
=== 事象関連電位 ===
=== 事象関連電位 ===
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波'''と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。たとえば何か注意を払っていた視覚情報を近くした際には、その視覚提示の約300ミリ秒後に陽性の振幅変動が生じる<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分はP300と呼ばれ、注意の度合いによって振幅が変動する<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>ことから注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーが有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。また、運動を実行する前には運動準備電位(Readiness potential: RP)という陰性の緩電位が生じることが報告されている<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今,動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。このように事象に関連して生じる電位変化を'''事象関連電位'''(Event-related potential: ERP)と呼び、特に外部刺激によって惹起する成分を[[誘発電位および誘発脳磁界|'''誘発電位''']]と呼ぶことがある。このERPは数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、この誘発電位は背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波からERPを抽出するためには、複数回施行を繰り返し行い計測した脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持ったERP成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。<br>
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波'''と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。このようにある事象に関連して生じる電位変化を'''事象関連電位'''(Event-related potential: ERP)と呼び、特に外部刺激によって惹起する成分を[[誘発電位および誘発脳磁界|'''誘発電位''']]と呼ぶことがある。この事象関連電位は数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、計測データとしては背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波から事象関連電位を抽出するためには、複数回施行を繰り返して計測し、脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持った事象関連電位成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。加算平均回数は注目する事象関連電位の大きさにも依ルため、数十回でも観測できるものもあるが100回を超える回数を計測すると安定した事象関連電位が記録できる。しかし、心理的要因によって変動するような事象関連電位を計測する際には、試行回数を増やすと被験者の疲労や学習効果によって、計測序盤と終盤で成分が変化してしまう可能性があるため注意が必要である。<br>
 代表的な事象関連電位の1つにP300がある。これは、何か注意を払っていた視覚情報が提示された際に、約300ミリ秒後に生じる陽性の振幅変動である<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分は注意の度合いによって振幅が変動するすることが知られており<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>、注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーのスイッチとしての利用が有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。誘発電位の他に代表的な事象関連電位としては、運動準備電位(readiness potential)がある。これは、運動を実行する前から生じる陰性の緩電位である<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今、動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。上述のように、事象関連電位と行動を比較したり,内的・外的要因によってどのように事象関連電位が変化するかを調査することで、認知機能がどのように実現されているか研究することができる。


=== 脳波リズム ===
=== 脳波リズム ===
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