「自己意識」の版間の差分

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=='''自己意識に関わる神経基盤'''==
=='''自己意識に関わる神経基盤'''==
2000年頃から機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて自己意識に関わる神経基盤が調べられている。他者の顔に比べて自分の顔を見ているときには、右側前頭頭頂ネットワークが強く活動することが繰り返し報告されている<ref><pubmed>10962615 </pubmed></ref>一方で、自己顔認知への左半球優位性を示す結果も少なからずある<ref><pubmed>12195428</pubmed></ref>。これら自己顔に対する脳活動を示す脳領域は、自己の外面に対する意識が関係していると言える。一方、自己の内面に対する意識に関わる脳領域を調べるために、自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題が用いられている。これらの課題を行っているときには、帯状回皮質(cingulate cortex)や楔前部(precuneus)を含む大脳皮質正中内側部構造(cortical midline structure)の活動が増大することが報告されている<ref><pubmed>15301749</pubmed></ref>。
2000年頃から機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて自己意識に関わる神経基盤が調べられている。他者の顔に比べて自分の顔を見ているときには、右側前頭頭頂ネットワークが強く活動することが繰り返し報告されている<ref><pubmed>10962615 </pubmed></ref>一方で、自己顔認知への左半球優位性を示す結果も少なからずある<ref><pubmed>12195428</pubmed></ref>。これら自己顔に対する脳活動を示す脳領域は、自己の外面に対する意識が関係していると言える。一方、自己の内面に対する意識に関わる脳領域を調べるために、自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題が用いられている。これらの課題を行っているときには、帯状回皮質(cingulate cortex)や楔前部(precuneus)を含む大脳皮質正中内側部構造(cortical midline structure)の活動が増大することが報告されている<ref><pubmed>15301749</pubmed></ref>。
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2012年5月7日 (月) 15:46時点における版

英:self-consciousness、独:Selbstbewußtsein

自己意識とは

自分自身に向けられる意識のことであり、向けられる自己の側面によって2つに分けられる。ひとつは、他者が観察できる自己の外面(容姿や振る舞い方など)に向けられる公的自己意識(public self-consciousness)、もうひとつは他者から観察できない自己の内面(感覚,感情,思考など)に向けられる私的自己意識(private self-consciousness)である。これらの用語は、注意が自己に向けられた状態を表す公的自覚状態(self-awareness),私的自覚状態(private self-awareness)と混同されやすく、区別されずに用いられる場合もある。

自己意識の誘導因

公的自己意識を高める誘導因

① 他者に観察されること(観衆の視線にさらされること、録画・録音装置を向けられること) ② 自己のフィードバックを与えられること(自分の写真やビデオ映像を見ること,録音された自分の声を聴くこと)

私的自己意識を高める誘導因

① 内省 ② 日記を書く ③ 白昼夢 ④ 瞑想 ⑤ 小さな鏡

自己意識の心理学的作用

公的自己意識がもたらす作用

他者やカメラによって観察されることで公的自己意識が高められると、基準と自己の実態とのズレが鋭く意識される。このズレにより当惑や恥などのネガティブな感情(自己意識情動とよばれる)を感じやすくなる。また、このようなズレを低減させるために、自己の判断や行動を他者と一致させる同調行動が出現しやすくなる。

私的自己意識がもたらす作用

私的自己意識が高められると、そのとき感じている感情が強化される。このような感情強化は、歓喜、恐怖、悲しみ、憂鬱、敵意などあらゆる感情にあてはまる。また、感情的なものだけに限らず、自分の身体状態や態度などをより正確に知覚できるようになる。

自己意識特性

自己自身に対する意識を向けやすさには個人差がある。フェニグスタイン(Fenigstein, A, Scheier, M. F. & Buss, A. H., 1975)らは自己意識特性を測定するために、自己意識尺度(self-consciousness scale)を作成した。日本語版自己意識尺度は菅原健介氏により1984年に作成された。自己意識と同様に、外から見える自己の側面に注意を向ける程度の個人差を示す公的自己意識特性と、外からは見えない自己の側面に注意を向ける程度の個人差を示す私的自己意識特性の2つに分けて測定される。

自己意識の発達

自己意識を調べる有力な方法としてこれまで多く用いられてきたのが、Gallup(1970)によって考案されたマークテストである[1]。動物が鏡に映った自分を自分と認識できるかどうか(鏡映認知)を調べることによって、自己意識を測ろうという目的を持って開発されたテストである。対象動物を麻酔で眠らせている間に、自分では見えない場所(例:おでこ)に色のついたマークをつける。その後、麻酔から醒めて鏡に向かった対象動物がどのような行動を取るのかを観察する。このとき直接見えない自分のおでこを触るという行動がみられたならば、鏡に映っているのが自分であると認識できているとみなされる。マークを触るということは、「自己イメージ」のようなものを持っていて、それとは異なることに気づいていることを意味するので、自己意識の存在を示唆すると考えられる。チンパンジーやオランウータンなどの大型類人猿はこのマークテストを通過するが、サルは通過しないことが知られている。近年はゾウやイルカなどもマークテストを通過することが報告されている。ヒトの赤ちゃんの場合、生後1歳半から2歳頃になるとマークテストを通過する。これは「当惑する」「嫉妬する」などの自己を意識した行動が表れる時期とも合致するため、ヒトは2歳前後に自己意識を獲得すると推測されている[2]。これは公的自己意識に相当するものと考えられるが、私的自己意識が発達するのはもう少し後の時期と考えられている。

自己意識に関わる神経基盤

2000年頃から機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて自己意識に関わる神経基盤が調べられている。他者の顔に比べて自分の顔を見ているときには、右側前頭頭頂ネットワークが強く活動することが繰り返し報告されている[3]一方で、自己顔認知への左半球優位性を示す結果も少なからずある[4]。これら自己顔に対する脳活動を示す脳領域は、自己の外面に対する意識が関係していると言える。一方、自己の内面に対する意識に関わる脳領域を調べるために、自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題が用いられている。これらの課題を行っているときには、帯状回皮質(cingulate cortex)や楔前部(precuneus)を含む大脳皮質正中内側部構造(cortical midline structure)の活動が増大することが報告されている[5]

  1. Gallop, G.G. (1970).
    Chimpanzees: self-recognition. Science (New York, N.Y.), 167(3914), 86-7. [PubMed:4982211] [WorldCat] [DOI]
  2. Lewis, M., Sullivan, M.W., Stanger, C., & Weiss, M. (1989).
    Self development and self-conscious emotions. Child development, 60(1), 146-56. [PubMed:2702864] [WorldCat]
  3. Keenan, J.P., Wheeler, M.A., Gallup, G.G., & Pascual-Leone, A. (2000).
    Self-recognition and the right prefrontal cortex. Trends in cognitive sciences, 4(9), 338-344. [PubMed:10962615] [WorldCat] [DOI]
  4. Turk, D.J., Heatherton, T.F., Kelley, W.M., Funnell, M.G., Gazzaniga, M.S., & Macrae, C.N. (2002).
    Mike or me? Self-recognition in a split-brain patient. Nature neuroscience, 5(9), 841-2. [PubMed:12195428] [WorldCat] [DOI]
  5. Northoff, G., & Bermpohl, F. (2004).
    Cortical midline structures and the self. Trends in cognitive sciences, 8(3), 102-7. [PubMed:15301749] [WorldCat] [DOI]


同義語:自意識 重要な関連語:自己認知 (執筆者:守田知代、担当編集委員:定藤規弘)