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<font size="+1">神谷 篤</font><br>
<font size="+1">神谷 篤</font><br>
''ジョンズ・ホプキンス大学''<br>
''ジョンズ・ホプキンス大学''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2014年3月25日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年3月25日 原稿完成日:2014年4月3日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:DISC1
英語名:DISC1


同義語:Disrupted in schizophrenia 1、Disrupted-In-Schizophrenia 1、Disrupted-in-Schizophrenia-1、Disrupted-in-schizophrenia 1、DISC-1
同義語:Disrupted in schizophrenia 1


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 ''DISC1''遺伝子は、[[wj:染色体|染色体]]1番と11番の間での転座を有する、スコットランドの[[精神疾患]]多発家系から見いだされた。この[[wj:転座|転座]]によって染色体1番上で2つの遺伝子が破壊されると考えられ、そのうちの1つが''DISC1''である。''DISC1''からは複数のアイソフォームが翻訳されるが、主なアイソフォームとしては854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。DISC1に結合する分子(DISC1 Interactome)として、[[微小管]]結合分子や[[シナプス]]におけるシグナル伝達分子など、数多くの分子([[GSK3β]]、[[NDEL1]]、[[PCM1]]、[[BBS]]、[[Girdin]]/[[KIAA1212]]、[[PDE4]]、[[KAL7]]、[[TNIK]]など)が報告されている。DISC1は神経系において様々な機能を持つと考えられているが、その代表的な機能として、[[大脳新皮質]]や[[海馬]]の神経発達や、[[シナプス]]の制御が想定されている。
 ''DISC1''遺伝子は、[[wj:染色体|染色体]]1番と11番の間での転座を有する、スコットランドの[[精神疾患]]多発家系から見いだされた。この[[wj:転座|転座]]によって染色体1番上で2つの遺伝子が破壊されると考えられ、そのうちの1つが''DISC1''である。''DISC1''からは複数のアイソフォームが翻訳されるが、主なアイソフォームとしては854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。DISC1に結合する分子(DISC1 Interactome)として、[[微小管]]結合分子や[[シナプス]]におけるシグナル伝達分子など、数多くの分子([[GSK3β]]、[[NDEL1]]、[[PCM1]]、[[BBS]]、[[Girdin]]/[[KIAA1212]]、[[PDE4]]、[[KAL7]]、[[TNIK]]など)が報告されている。DISC1は神経系において様々な機能を持つと考えられているが、その代表的な機能として、[[大脳新皮質]]や[[海馬]]の神経発達や、[[シナプス]]の制御が想定されている。
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== DISC1とは ==
== DISC1とは ==
 ''DISC1''遺伝子は、染色体1番と11番の間で[[wj:均衡型常染色体転座|均衡型常染色体転座]](1;11)(q42.1;q14.3)を遺伝的に有する、スコットランドの精神疾患が集積する家系から見いだされた<ref><pubmed> 1973210 </pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed> 10814723</pubmed></ref>。この家系の転座をもつ[[wj:保因者|保因者]]29名のうち、21名に精神疾患の診断がなされ、そのうち、[[統合失調症]]が7名、[[双極性障害]]が1名、[[大うつ病]]が10名であった<ref name=ref3><pubmed> 11443544 </pubmed></ref>(表1)。それに対し、この家系の転座を持たない38名については、5名に精神疾患の診断がなされ、そのうちわけは、1名が[[アルコール依存]]、1名は青年期の[[行為−情緒障害]]、3名が[[小うつ病]]と、精神疾患としては比較的軽度の診断であった<ref name=ref3 />。この家系での転座によって、染色体1番上の遺伝子が2つ破壊されると考えられ、その破壊される遺伝子は''DISC1''、''DISC2''と名付けられた<ref name=ref1 />。このうち、''DISC1''は、主なアイソフォームとして854アミノ酸からなるタンパク質をコードする。一方、''DISC2''は''DISC1''とは逆方向の[[ノンコーディングRNA]]をコードする。
 ''DISC1''遺伝子は、染色体1番と11番の間で[[wj:均衡型常染色体転座|均衡型常染色体転座]](1;11)(q42.1;q14.3)を遺伝的に有する、スコットランドの精神疾患が集積する家系から見いだされた<ref><pubmed> 1973210 </pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed> 10814723</pubmed></ref>。この家系の転座をもつ[[wj:保因者|保因者]]29名のうち、21名に精神疾患の診断がなされ、そのうち、[[統合失調症]]が7名、[[双極性障害]]が1名、[[大うつ病]]が10名であった<ref name=ref3><pubmed> 11443544 </pubmed></ref>(表1)。それに対し、この家系の転座を持たない38名については、5名に精神疾患の診断がなされ、そのうちわけは、1名が[[アルコール依存]]、1名は青年期の[[行為−情緒障害]]、3名が[[小うつ病]]と、精神疾患としては比較的軽度の診断であった<ref name=ref3 />。この家系での転座によって、染色体1番上の遺伝子が2つ破壊されると考えられ、その破壊される遺伝子は''DISC1''、''DISC2''と名付けられた<ref name=ref1 />。このうち、''DISC1''は、主なアイソフォームとして854アミノ酸からなるタンパク質をコードする。一方、''DISC2''は''DISC1''とは逆方向の[[ノンコーディングRNA]]をコードする。
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 ''DISC1''からは、複数のアイソフォームが[[翻訳]]され、[[ヒト]]の脳では、多種類の異なった[[スプライスバリアント]]が発現する<ref><pubmed> 19805229 </pubmed></ref>。そのうち主なアイソフォームとしては、13個の[[wj:エクソン|エクソン]]から、854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。この全長のDISC1タンパク質は100 kDa前後の分子量を持ち、N末領域とC末領域に大きく分けられる<ref name=ref1 /><ref><pubmed> 22116789 </pubmed></ref>。N末領域は、1〜350番目のアミノ酸残基からなり、他の分子との相同性が低い。C末領域は、350〜854番目のアミノ酸残基からなり、複数の[[αへリックス]]構造や[[コイルドーコイル]]構造(coiled-coil)を持つ。
 ''DISC1''からは、複数のアイソフォームが[[翻訳]]され、[[ヒト]]の脳では、多種類の異なった[[スプライスバリアント]]が発現する<ref><pubmed> 19805229 </pubmed></ref>。そのうち主なアイソフォームとしては、13個の[[wj:エクソン|エクソン]]から、854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。この全長のDISC1タンパク質は100 kDa前後の分子量を持ち、N末領域とC末領域に大きく分けられる<ref name=ref1 /><ref><pubmed> 22116789 </pubmed></ref>。N末領域は、1〜350番目のアミノ酸残基からなり、他の分子との相同性が低い。C末領域は、350〜854番目のアミノ酸残基からなり、複数の[[αへリックス]]構造や[[コイルドーコイル]]構造(coiled-coil)を持つ。


 DISC1発見の契機となった、スコットランドの家系での染色体転座では、DISC1の597番目と598番目のアミノ酸の間で切断が起きる。この結果、C末を欠いた597番目のアミノ酸までのDISC1タンパク質が発現して[[ドミナントネガティブ]](dominant negative)体として働く可能性<ref name=ref6><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>や、C末を欠いたDISC1タンパク質は分解されて結果として[[w:Haploinsufficiency|ハプロ不全]](Haploinsufficiency)となる可能性が考えられている<ref name=ref7><pubmed> 16293762 </pubmed></ref>。最近、1番染色体と11番染色体の融合タンパク質[[DISC1 Fusion Partner 1]] ([[DISC1FP1]])/[[DISC1-Boymaw fusion protein]]が生成される可能性も指摘されている<ref><pubmed> 20351725 </pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed> 22095064 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22547224 </pubmed></ref>。
 DISC1発見の契機となった、スコットランドの家系での染色体転座では、DISC1の597番目と598番目のアミノ酸の間で切断が起きる。この結果、C末を欠いた597番目のアミノ酸までのDISC1タンパク質が発現して[[ドミナントネガティブ]](dominant negative)体として働く可能性<ref name=ref6><pubmed> 16299498 </pubmed></ref>や、C末を欠いたDISC1タンパク質は分解されて結果として[[w:Haploinsufficiency|ハプロ不全]](Haploinsufficiency)となる可能性が考えられている<ref name=ref7><pubmed> 16293762 </pubmed></ref>。最近、1番染色体と11番染色体の融合タンパク質[[DISC1 Fusion Partner 1]] ([[DISC1FP1]])/[[DISC1-Boymaw fusion protein]]が生成される可能性も指摘されている<ref><pubmed> 20351725 </pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed> 22095064 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22547224 </pubmed></ref>。


 また、DISC1は二量体もしくはそれ以上の多量体(オリゴマー)を形成すると考えられている。その際に、DISC1同士は、403〜504番目の[[wj:アミノ酸|アミノ酸]]を用いて相互作用する<ref name=ref6 />。加えて、C末の640-854番目のアミノ酸もオリゴマー形成に関与しているとされる<ref><pubmed> 19583211 </pubmed></ref>。
 また、DISC1は二量体もしくはそれ以上の多量体(オリゴマー)を形成すると考えられている。その際に、DISC1同士は、403〜504番目の[[wj:アミノ酸|アミノ酸]]を用いて相互作用する<ref name=ref6 />。加えて、C末の640-854番目のアミノ酸もオリゴマー形成に関与しているとされる<ref><pubmed> 19583211 </pubmed></ref>。
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| style="background-color:#ddf" | 参考文献
| style="background-color:#ddf" | 参考文献
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| Nuclear distribution element-like 1 (NDEL1/NUDEL)  
| [[Nuclear distribution element-like 1]] ([[NDEL1]]/[[NUDEL]])  
| 802-835
| 802-835
| <ref name=ref13 /><ref name=ref48><pubmed> 12812986 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14962739 </pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>
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| 微小管結合タンパク質 (Microtubule-associated protein 1A; MAP1A)  
| [[微小管結合タンパク質1A]] ([[Microtubule-associated protein 1A]]; [[MAP1A]])  
|1-293  
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| <ref name=ref48 />
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| Fasciculation and elongation protein zeta-1 (FEZ)  
| [[Fasciculation and elongation protein zeta-1]] ([[FEZ]])  
| 446-633  
| 446-633  
| <ref name=ref32><pubmed> 12874605 </pubmed></ref>
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|-
| Kendrin/pericentrin-B  
| [[Kendrin]]/[[pericentrin-B]]
|446-533
|446-533
| <ref name=ref33><pubmed> 15094396 </pubmed></ref>
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|-
| ホスホジエステラーゼ (phosphodiesterase type 4, PDE4)
| [[ホスホジエステラーゼ]] ([[phosphodiesterase type 4]], [[PDE4]])
| 190-230、611-650など
| 190-230、611-650など
| <ref name=ref7 /><ref><pubmed> 17728464 </pubmed></ref>
| <ref name=ref7 /><ref><pubmed> 17728464 </pubmed></ref>
81行目: 81行目:
| <ref name=ref34><pubmed> 17202468 </pubmed></ref>
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|-
| Growth factor receptor bound protein (Grb2)  
| [[Growth factor receptor bound protein]] ([[Grb2]])  
| 730-733, 731-734
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| <ref name=ref35><pubmed> 17202467 </pubmed></ref>
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|-
| Bardet-Biedl syndrome protein (BBS)1、 BBS4、BBS8
| [[Bardet-Biedl syndrome protein]] ([[BBS]])1、 [[BBS4]]、[[BBS8]]
| 394-600  
| 394-600  
| <ref name=ref24><pubmed> 18762586 </pubmed></ref><ref name=ref25><pubmed> 21471969 </pubmed></ref>
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|-
| Pericentriolar material 1 (PCM1)  
| [[Pericentriolar material 1]] ([[PCM1]])  
| 1-348, 601-854  
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| <ref name=ref24 />
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| グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β ([[Glycogen synthase kinase 3]]β, [[GSK3]]β)
| [[グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β]] ([[Glycogen synthase kinase 3]]β, [[GSK3]]β)
| 1-220、356-595  
| 1-220、356-595  
| <ref name=ref20><pubmed> 19303846 </pubmed></ref>
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|-
|Girdin/KIAA1212  
|[[Girdin]]/[[KIAA1212]]
| 1-361  
| 1-361  
| <ref name=ref28><pubmed> 19778507 </pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed> 19778506 </pubmed></ref>
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|-
| Kalirin-7 (KAL7)  
| [[Kalirin-7]] ([[KAL7]])  
| 350-394  
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| <ref name=ref30><pubmed> 20139976 </pubmed></ref>
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|-
| DIX domain containing 1 (DIXDC1)  
| [[DIX domain containing 1]] ([[DIXDC1]])  
| 592-852  
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| <ref><pubmed> 20624590 </pubmed></ref>
| <ref><pubmed> 20624590 </pubmed></ref>
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|-
| TRAF2- and NCK- interacting protein kinase (TNIK)  
| [[TRAF2- and NCK- interacting protein kinase]] ([[TNIK]])  
| 335-347  
| 335-347  
| <ref name=ref31><pubmed> 20838393 </pubmed></ref>
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