「Hesファミリー」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/taekoba 小林 妙子]、[http://researchmap.jp/ryoichirokageyama 影山 龍一郎]</font><br>
''京都大学 ウイルス研究所''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月25日 原稿完成日:2013年5月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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| Symbol = bHLH
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英語名:hairy and enhancer of split 英略語:HES  
英語名:hairy and enhancer of split 英略語:HES  


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 [[ショウジョウバエ]]において[[神経分化]]を抑制する[[hairy]]および[[enhancer of split]] ([[E(spl)]])の[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]相同遺伝子群。hairy and enhancer of splitの頭文字からHESと名付けられた<ref><pubmed>1340473</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:転写|転写]]を負に制御する抑制型の[[bHLH因子|basic helix-loop-helix (bHLH)型転写因子]]であり、多くは[[Notch]]シグナルのエフェクターである。ホモあるいはヘテロ二量体を形成して機能する。構造や機能で類似する[[Hey/Hesrファミリー]]([[Hes-related with YRPW motif]])も存在する<ref><pubmed>11486044</pubmed></ref>。Hesは主に分化促進型のbHLH因子を抑制することによって、[[幹細胞]]や[[未分化細胞]]の維持に機能していると考えられている<ref name="ref3"><pubmed>17329370</pubmed></ref>。  
 [[ショウジョウバエ]]において[[神経分化]]を抑制する[[hairy]]および[[enhancer of split]] ([[E(spl)]])の[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]相同遺伝子群。hairy and enhancer of splitの頭文字からHESと名付けられた<ref><pubmed>1340473</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:転写|転写]]を負に制御する抑制型の[[bHLH因子|basic helix-loop-helix (bHLH)型転写因子]]であり、多くは[[Notch]]シグナルのエフェクターである。ホモあるいはヘテロ二量体を形成して機能する。構造や機能で類似する[[Hey/Hesrファミリー]]([[Hes-related with YRPW motif]])も存在する<ref><pubmed>11486044</pubmed></ref>。Hesは主に分化促進型のbHLH因子を抑制することによって、[[幹細胞]]や[[未分化細胞]]の維持に機能していると考えられている<ref name="ref3"><pubmed>17329370</pubmed></ref>。  
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== サブファミリー  ==
== サブファミリー  ==
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 Hes1、Hes3、Hes5は発生期の脳に発現し、神経分化を抑制して[[神経幹細胞|神経幹]]/[[神経前駆細胞|前駆細胞]]の[[増殖]]、維持に働く。発生期の脳では、神経幹/前駆細胞として、初期では[[神経上皮細胞]]が、その後(マウスでは胎生約8.5日目から)[[放射状グリア]]細胞が現れるが、[[ノックアウトマウス]]による解析から、Hes1、Hes5は放射状グリア細胞の維持に、Hes1、Hes3、Hes5は神経上皮細胞の維持に必須であることが示されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。  
 Hes1、Hes3、Hes5は発生期の脳に発現し、神経分化を抑制して[[神経幹細胞|神経幹]]/[[神経前駆細胞|前駆細胞]]の[[増殖]]、維持に働く。発生期の脳では、神経幹/前駆細胞として、初期では[[神経上皮細胞]]が、その後(マウスでは胎生約8.5日目から)[[放射状グリア]]細胞が現れるが、[[ノックアウトマウス]]による解析から、Hes1、Hes5は放射状グリア細胞の維持に、Hes1、Hes3、Hes5は神経上皮細胞の維持に必須であることが示されている<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。  


 Hes1, Hes3, Hes5は発生期の脳の境界構造の維持にも重要である<ref><pubmed>11500373</pubmed></ref><ref><pubmed>16728479</pubmed></ref>。[[間脳]]の[[前視床]]と[[視床]]を区切る境界構造である[[zona limitans intrathalamica]] (ZLI)は、Hes1、Hes5が無いと構造自体が失われる。Hes1、Hes3、Hes5が無いと、[[中脳]]と[[後脳]]の境界構造である[[isthmus]]で、また、[[神経管]]の左右を区切る境界構造(背側側の[[蓋板]]、腹側側の[[底板]])で、遺伝子発現や構造の異常が生じる。この異常は、これらの領域でHesにより抑制されていた神経分化が昂進することによると考えられる。  
 Hes1, Hes3, Hes5は発生期の脳の境界構造の維持にも重要である<ref><pubmed>11500373</pubmed></ref><ref><pubmed>16728479</pubmed></ref>。[[間脳]]の[[前視床]]と[[視床]]を区切る境界構造である[[zona limitans intrathalamica]] ([[ZLI]])は、Hes1、Hes5が無いと構造自体が失われる。Hes1、Hes3、Hes5が無いと、[[中脳]]と[[後脳]]の境界構造である[[isthmus]]で、また、[[神経管]]の左右を区切る境界構造(背側側の[[蓋板]]、腹側側の[[底板]])で、遺伝子発現や構造の異常が生じる。この異常は、これらの領域でHesにより抑制されていた神経分化が昂進することによると考えられる。


==関連項目==
==関連項目==
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<references />
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(執筆者:影山龍一郎 担当編集委員:大隅典子)