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社交不安症は、自分が他人から低く評価されるのではないかという[[恐怖]]を示す病態である。他の重篤な[[精神障害]]を併発しやすく、そうなると社会的障害度が高くなる。近年、有効性の高い薬物療法と精神療法が出現したが治療を受ける人はなお少ない。本邦では従来から[[対人恐怖]]([[Anthrophobia]])と呼ばれていた病態とほぼ同じであるが、異なる部分も一部ある。日本特有の社会現象とされる「[[引きこもり]]」の約4割は社交不安症である可能性が示唆されている。 | 社交不安症は、自分が他人から低く評価されるのではないかという[[恐怖]]を示す病態である。他の重篤な[[精神障害]]を併発しやすく、そうなると社会的障害度が高くなる。近年、有効性の高い薬物療法と精神療法が出現したが治療を受ける人はなお少ない。本邦では従来から[[対人恐怖]]([[Anthrophobia]])と呼ばれていた病態とほぼ同じであるが、異なる部分も一部ある。日本特有の社会現象とされる「[[引きこもり]]」の約4割は社交不安症である可能性が示唆されている。 | ||
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==社交不安症とは== | |||
自分の身体的または技術的、知能的、精神的能力が他人から否定的な評価を受けることに対する恐怖症である。臨床場面で問題となるのは、これらの患者の訴えを深刻な苦悩ととらえず、また年余にわたる社会機能障害を引き起こす重大な[[精神疾患]]と考えない診察者が多いことである<ref name=ref2><pubmed>18374843</pubmed></ref>。また、“内気(shyness)”は健常者の性格であり、内気がすべて社交不安症に発展するわけではないし、社交不安症の前駆状態として必ずしも内気が存在するわけでもない。 | |||
== 診断 == | == 診断 == | ||
表1に[[DSM-5]](2013) <ref name=ref1>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. <br>Fifth Edition American Psychiatric Publishing, Washington DC, London, England 2013</ref>の診断基準を示す。DSM-5のsocial anxiety disorderは日本不安症学会の提案で従来の「社交不安障害」から「社交不安症」と変更される。社交不安障害はそれまで社会不安障害とか社会恐怖と呼ばれていた時期がある。 | |||
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|+ 表1.DSM- | |+ 表1.DSM-5 300.23 社交不安症(社交恐怖)(F40.10) | ||
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|A.他人の注視をあびるかもしれない社会的状況に対しての顕著な恐怖もしくは不安。例えば、社会的交流(例:会話をする、知らない人に会う)、注視される(例:食事をする,飲み物を摂る)、他人の前で行為をする(例:スピーチをする)。 | |A.他人の注視をあびるかもしれない社会的状況に対しての顕著な恐怖もしくは不安。例えば、社会的交流(例:会話をする、知らない人に会う)、注視される(例:食事をする,飲み物を摂る)、他人の前で行為をする(例:スピーチをする)。 | ||
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|J.他の医学的状況(例:[[パーキンソン病]]、[[wikipedia:肥満|肥満]]、[[wikipedia:火傷|火傷]]や[[wikipedia:外傷|外傷]]により容姿が損なわれている状態)が存在している場合、この恐怖、不安、もしくは回避は、明らかにそれらとは関連がないか過剰である。 | |J.他の医学的状況(例:[[パーキンソン病]]、[[wikipedia:肥満|肥満]]、[[wikipedia:火傷|火傷]]や[[wikipedia:外傷|外傷]]により容姿が損なわれている状態)が存在している場合、この恐怖、不安、もしくは回避は、明らかにそれらとは関連がないか過剰である。 | ||
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| | |該当すれば特定せよ<br> | ||
:行為のみ:恐怖が公衆の面前でのスピーチまたは行為に限定されている場合 | |||
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平成26年2月 貝谷久宣訳 | |||
==重症度尺度== | |||
社交不安症の重症度を検討する尺度<ref name=ref3>'''横山知加・貝谷久宣'''<br>精神科臨床評価-特定の精神障害に関連したもの11.不安障害 2)社会不安障害<br>''臨床精神医学'' 増刊号,262-266,2004.</ref>として、治療者による評価尺度ではLiebowitz Social Anxiety Scale日本語版<ref>'''朝倉聡・井上誠志郎・佐々木史・佐々木幸哉・北川信樹・井上猛・傳田健三・伊藤ますみ・松原良次・小山司'''<br>Liebowits Social Anxiety Scale(LSAS)日本語版の信頼性および妥当性の検討<br>''精神医学''、p.1079、2002</ref>、自記式評価尺度ではBrief Social Phobia Scale<ref><pubmed>1757457</pubmed></ref>を参考にして身体症状も評価できるように作成された東大式社会[[不安障害]]尺度<ref name=ref4>'''貝谷久宣・金井嘉宏・熊野宏明・坂野雄二・久保木富房'''<br>東大式社会不安尺度の開発と信頼性・妥当性の検討<br>''心身医学''、44(4),279-287,2004.</ref>がある。その他の自記式評価尺度としてFear of Negative Evaluationの日本語版<ref>'''石川利江、佐々木和義、福井至'''<br>社会的不安尺度FNE SADSの日本版標準化の試み<br>''行動療法研究'' 18:10-17,1992</ref>がある。 | |||
=== 鑑別診断 === | |||
[[パニック障害]]でも人前でパニック発作に対する予期不安と当惑で社交を回避することがある。しかし、パニック障害の恐怖の本質は身体的生命の喪失であり、社交不安症のそれは社会的生命の喪失である。[[広場恐怖]]は人前で気分が悪くなったときすぐ逃げだせないかまたは助けを求めることが出来ない不安・恐怖のために社交状況を恐れ回避する。[[自閉症スペクトラム]]ではコミュニケーションや対人的相互反応の質的障害により人間関係が円滑に進まない点で社交不安症とは異なる。[[醜形恐怖症]]は自分の容貌の想像上の欠陥にこだわり対人関係が障害された状況である。従来日本で言われていた対人恐怖は社交不安症の病態以外に、[[自己臭恐怖]]、[[自己視線恐怖]]や[[身体醜形恐怖]]などの自分の身体的状況が他人に不快感・緊張感を引き起こすと確信し、他人を回避する状況も含まれる。しかし、DSM-5ではこれらの状態は[[妄想性障害]]または醜形恐怖症と診断される。[[統合失調症]]も社会恐怖を持ち、人付き合いを好まないことがあるが、社交不安症には統合失調症のような精神病症状([[幻覚]]・[[妄想]])はない。うつ病でも社交を恐れ嫌う場合があるが、[[うつ病]]が寛解すれば消失する。 | |||
== 病因・病態生理 == | == 病因・病態生理 == |