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 ''DISC1''遺伝子は、染色体1番と11番の間での転座を有する、スコットランドの[[精神疾患]]多発家系から見いだされた。この転座によって染色体1番上で2つの遺伝子が破壊されると考えられ、そのうちの1つが''DISC1''である。''DISC1''からは複数のアイソフォームが翻訳されるが、主なアイソフォームとしては854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。DISC1に結合する分子(DISC1 Interactome)として、[[微小管]]結合分子や[[シナプス]]におけるシグナル伝達分子など、数多くの分子([[GSK3β]]、NDEL1、PCM1、BBS、Girdin/KIAA1212、PDE4、KAL7、TNIKなど)が報告されている。DISC1は神経系において様々な機能を持つと考えられているが、その代表的な機能として、大脳新皮質や[[海馬]]の神経発達や、シナプスの制御が想定されている。
 ''DISC1''遺伝子は、[[wj:染色体|染色体]]1番と11番の間での転座を有する、スコットランドの[[精神疾患]]多発家系から見いだされた。この[[wj:転座|転座]]によって染色体1番上で2つの遺伝子が破壊されると考えられ、そのうちの1つが''DISC1''である。''DISC1''からは複数のアイソフォームが翻訳されるが、主なアイソフォームとしては854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。DISC1に結合する分子(DISC1 Interactome)として、[[微小管]]結合分子や[[シナプス]]におけるシグナル伝達分子など、数多くの分子([[GSK3β]]、[[NDEL1]]、[[PCM1]]、[[BBS]]、[[Girdin]]/[[KIAA1212]]、[[PDE4]]、[[KAL7]]、[[TNIK]]など)が報告されている。DISC1は神経系において様々な機能を持つと考えられているが、その代表的な機能として、[[大脳新皮質]]や[[海馬]]の神経発達や、[[シナプス]]の制御が想定されている。
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== イントロダクション(背景、歴史的推移など) ==
== DISC1とは ==
[[ファイル:Kkubo_fig_1.jpg|thumb|right|400px|'''図1.''DISC1''発見の契機となった家系での均衡型常染色体転座と診断名'''<ref name=ref3 />]]
[[ファイル:Kkubo_fig_1.jpg|thumb|right|400px|'''図1.''DISC1''発見の契機となった家系での均衡型常染色体転座と診断名'''<ref name=ref3 />]]


 ''DISC1''遺伝子は、染色体1番と11番の間で均衡型常染色体転座(1;11)(q42.1;q14.3)を遺伝的に有する、スコットランドの精神疾患が集積する家系から見いだされた<ref><pubmed> 1973210 </pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed> 10814723</pubmed></ref>。この家系の転座をもつ保因者29名のうち、21名に精神疾患の診断がなされ、そのうち、統合失調症が7名、[[双極性障害]]が1名、大うつ病が10名であった<ref name=ref3><pubmed> 11443544 </pubmed></ref>(図1)。それに対し、この家系の転座を持たない38名については、5名に精神疾患の診断がなされ、そのうちわけは、1名がアルコール依存、1名は青年期の行為−情緒障害、3名が小うつ病と、精神疾患としては比較的軽度の診断であった<ref name=ref3 />。この家系での転座によって、染色体1番上の遺伝子が2つ破壊されると考えられ、その破壊される遺伝子は''DISC1''、''DISC2''と名付けられた<ref name=ref1 />。このうち、''DISC1''は、主なアイソフォームとして854アミノ酸からなるタンパク質をコードする。一方、''DISC2''は''DISC1''とは逆方向のノンコーディングRNAをコードする。
 ''DISC1''遺伝子は、染色体1番と11番の間で[[wj:均衡型常染色体転座|均衡型常染色体転座]](1;11)(q42.1;q14.3)を遺伝的に有する、スコットランドの精神疾患が集積する家系から見いだされた<ref><pubmed> 1973210 </pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed> 10814723</pubmed></ref>。この家系の転座をもつ[[wj:保因者|保因者]]29名のうち、21名に精神疾患の診断がなされ、そのうち、[[統合失調症]]が7名、[[双極性障害]]が1名、[[大うつ病]]が10名であった<ref name=ref3><pubmed> 11443544 </pubmed></ref>(図1)。それに対し、この家系の転座を持たない38名については、5名に精神疾患の診断がなされ、そのうちわけは、1名が[[アルコール依存]]、1名は青年期の[[行為−情緒障害]]、3名が[[小うつ病]]と、精神疾患としては比較的軽度の診断であった<ref name=ref3 />。この家系での転座によって、染色体1番上の遺伝子が2つ破壊されると考えられ、その破壊される遺伝子は''DISC1''、''DISC2''と名付けられた<ref name=ref1 />。このうち、''DISC1''は、主なアイソフォームとして854アミノ酸からなるタンパク質をコードする。一方、''DISC2''は''DISC1''とは逆方向の[[ノンコーディングRNA]]をコードする。


 なお、この転座は、特定の精神疾患への罹患に直接結びつくのではなく、この転座によって、精神疾患罹患のリスクを高める[[エンドフェノタイプ]]が生じると考えられる。実際、この転座を持つ保因者では、同じ家系内の非保因者よりも事象関連電位P300の振幅が有意に低下するとの報告もある<ref name=ref3 />。
 なお、この転座は、特定の[[精神疾患]]への罹患に直接結びつくのではなく、この転座によって、精神疾患罹患のリスクを高める[[エンドフェノタイプ]]が生じると考えられる。実際、この転座を持つ保因者では、同じ家系内の非保因者よりも[[事象関連電位]][[P300]]の振幅が有意に低下するとの報告もある<ref name=ref3 />。


== 構造 ==
== 構造 ==
 ''DISC1''からは、複数のアイソフォームが翻訳され、ヒトの脳では、多種類の異なったスプライスバリアントが発現する<ref><pubmed> 19805229 </pubmed></ref>。そのうち主なアイソフォームとしては、13個のエクソンから、854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。この全長のDISC1タンパク質は100 kDa前後の分子量を持ち、N末領域とC末領域に大きく分けられる<ref name=ref1 /><ref><pubmed> 22116789 </pubmed></ref>。N末領域は、1〜350番目のアミノ酸残基からなり、他の分子との相同性が低い。C末領域は、350〜854番目のアミノ酸残基からなり、複数のαへリックス構造やコイルドーコイル構造(coiled-coil)を持つ。
 ''DISC1''からは、複数のアイソフォームが[[wj:翻訳|翻訳]]され、[[ヒト]]の脳では、多種類の異なった[[wj:スプライスバリアント|スプライスバリアント]]が発現する<ref><pubmed> 19805229 </pubmed></ref>。そのうち主なアイソフォームとしては、13個の[[wj:エクソン|エクソン]]から、854アミノ酸からなるタンパク質が翻訳される。この全長のDISC1タンパク質は100 kDa前後の分子量を持ち、N末領域とC末領域に大きく分けられる<ref name=ref1 /><ref><pubmed> 22116789 </pubmed></ref>。N末領域は、1〜350番目のアミノ酸残基からなり、他の分子との相同性が低い。C末領域は、350〜854番目のアミノ酸残基からなり、複数の[[αへリックス]]構造や[[コイルドーコイル]]構造(coiled-coil)を持つ。


 DISC1発見の契機となった、スコットランドの家系での染色体転座では、DISC1の597番目と598番目のアミノ酸の間で切断が起きる。この結果、C末を欠いた597番目のアミノ酸までのDISC1タンパク質が発現してドミナントネガティブ(dominant negative)体として働く可能性<ref name=ref6><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>や、C末を欠いたDISC1タンパク質は分解されて結果としてハプロインサフィシャンシー(Haploinsufficiency)となる可能性が考えられている<ref name=ref7><pubmed> 16293762 </pubmed></ref>。最近、1番染色体と11番染色体の融合タンパク質DISC1 Fusion Partner 1 (DISC1FP1)/DISC1-Boymaw fusion proteinが生成される可能性も指摘されている<ref><pubmed> 20351725 </pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed> 22095064 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22547224 </pubmed></ref>。
 DISC1発見の契機となった、スコットランドの家系での染色体転座では、DISC1の597番目と598番目のアミノ酸の間で切断が起きる。この結果、C末を欠いた597番目のアミノ酸までのDISC1タンパク質が発現して[[ドミナントネガティブ]](dominant negative)体として働く可能性<ref name=ref6><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>や、C末を欠いたDISC1タンパク質は分解されて結果として[[wj:ハプロインサフィシャンシー|ハプロインサフィシャンシー]](Haploinsufficiency)となる可能性が考えられている<ref name=ref7><pubmed> 16293762 </pubmed></ref>。最近、1番染色体と11番染色体の融合タンパク質[[DISC1 Fusion Partner 1]] ([[DISC1FP1]])/[[DISC1-Boymaw fusion protein]]が生成される可能性も指摘されている<ref><pubmed> 20351725 </pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed> 22095064 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22547224 </pubmed></ref>。


 また、DISC1は二量体もしくはそれ以上の多量体(オリゴマー)を形成すると考えられている。その際に、DISC1同士は、403〜504番目のアミノ酸を用いて相互作用する<ref name=ref6 />。加えて、C末の640-854番目のアミノ酸もオリゴマー形成に関与しているとされる<ref><pubmed> 19583211 </pubmed></ref>。
 また、DISC1は二量体もしくはそれ以上の多量体(オリゴマー)を形成すると考えられている。その際に、DISC1同士は、403〜504番目の[[wj:アミノ酸|アミノ酸]]を用いて相互作用する<ref name=ref6 />。加えて、C末の640-854番目のアミノ酸もオリゴマー形成に関与しているとされる<ref><pubmed> 19583211 </pubmed></ref>。


 マウスの''DISC1''相同遺伝子(ortholog)としてクローニングされた''Disc1''は851アミノ酸をコードし、ヒトの''DISC1''と60%程度の相同性を持つ<ref name=ref12><pubmed> 12504857 </pubmed></ref><ref name=ref13><pubmed> 12506198 </pubmed></ref>。C57BL/6のマウス系統とは異なり、129のマウス系統ではエクソン5に25塩基の欠損があることが知られる<ref><pubmed> 16484369 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16751659 </pubmed></ref>。他の系統のマウスにもこの25塩基の欠損を有するものがあるため、注意が必要である<ref><pubmed> 21903668 </pubmed></ref>。ただし、マウスでも複数のスプライスアイソフォームがあることが知られており、25塩基の欠損を有するマウス系統においてDISC1アイソフォームの多くは発現していると考えられている<ref><pubmed> 17895924 </pubmed></ref>。
 [[マウス]]の''DISC1''相同遺伝子(ortholog)としてクローニングされた''Disc1''は851アミノ酸をコードし、ヒトの''DISC1''と60%程度の相同性を持つ<ref name=ref12><pubmed> 12504857 </pubmed></ref><ref name=ref13><pubmed> 12506198 </pubmed></ref>。[[C57BL/6]]のマウス系統とは異なり、[[129]]のマウス系統ではエクソン5に25塩基の欠損があることが知られる<ref><pubmed> 16484369 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16751659 </pubmed></ref>。他の系統のマウスにもこの25塩基の欠損を有するものがあるため、注意が必要である<ref><pubmed> 21903668 </pubmed></ref>。ただし、マウスでも複数のスプライスアイソフォームがあることが知られており、25塩基の欠損を有するマウス系統においてDISC1アイソフォームの多くは発現していると考えられている<ref><pubmed> 17895924 </pubmed></ref>。


== DISC1タンパク質に結合する分子 ==
== DISC1タンパク質に結合する分子 ==
[[ファイル:Kkubo_fig_2.jpg|thumb|right|400px|'''図2.DISC1の構造の模式図と代表的な結合分子''']]
[[ファイル:Kkubo_fig_2.jpg|thumb|right|400px|'''図2.DISC1の構造の模式図と代表的な結合分子''']]


 DISC1は足場(scaffold)タンパク質、もしくは、ハブ(hub)タンパク質として機能すると考えられ、多くの結合分子(DISC1 interactome)が知られている<ref><pubmed> 17043677 </pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed> 22015021 </pubmed></ref>。これらの結合分子の探索がDISC1の機能の解明に大きな役割を果たしてきた。主な分子名を下に挙げる(分子名の後の数字は、報告されたDISC1上の結合部位[アミノ酸残基])(図2)。
 DISC1は[[足場タンパク質]](scaffold)、もしくは、[[ハブタンパク質]](hub)として機能すると考えられ、多くの結合分子(DISC1 interactome)が知られている<ref><pubmed> 17043677 </pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed> 22015021 </pubmed></ref>。これらの結合分子の探索がDISC1の機能の解明に大きな役割を果たしてきた。主な分子名を下に挙げる(分子名の後の数字は、報告されたDISC1上の結合部位[アミノ酸残基])(図2)。


Nuclear distribution element-like 1 (NDEL1/NUDEL) [802-835] <ref name=ref13 /><ref name=ref48><pubmed> 12812986 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14962739 </pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>
Nuclear distribution element-like 1 (NDEL1/NUDEL) [802-835] <ref name=ref13 /><ref name=ref48><pubmed> 12812986 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14962739 </pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed> 17035248 </pubmed></ref>
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Glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)[1-220、356-595] <ref name=ref20><pubmed> 19303846 </pubmed></ref>
Glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)[1-220、356-595] <ref name=ref20><pubmed> 19303846 </pubmed></ref>


Girdin/KIAA1212 [1-361] <ref name=ref28><pubmed> 19778507 </pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed> 19778506 </pubmed></ref>
Girdin/KIAA1212 [1-361] <ref name=ref28><pubmed> 19778507 </pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed> 19778506 </pubmed></ref>


Kalirin-7 (KAL7) [350-394] <ref name=ref30><pubmed> 20139976 </pubmed></ref>
Kalirin-7 (KAL7) [350-394] <ref name=ref30><pubmed> 20139976 </pubmed></ref>
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== 発現(組織分布) ==
== 発現==  
 ''DISC1''のmRNAは成体において、脳に加えて、心臓、胎盤、膵臓などに発現している<ref name=ref1 />。成熟マウスでは、''Disc1''のmRNAは脳内に広く分布しており、海馬、小脳、大脳新皮質、嗅球にも発現が見られる<ref name=ref12 />。発生段階のマウスの脳において、DISC1の免疫反応は大脳皮質、嗅球<ref><pubmed> 15381924 </pubmed></ref>や海馬<ref><pubmed> 18620078 </pubmed></ref>に認められる。脳のなかで、DISC1は神経細胞のみならず、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアといったグリア系の細胞でも発現している<ref><pubmed> 20212127 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21605958 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22801410 </pubmed></ref>。


=== 組織分布 ===
 ''DISC1''の[[mRNA]]は成体において、脳に加えて、[[心臓]]、[[胎盤]]、[[膵臓]]などに発現している<ref name=ref1 />。成熟マウスでは、''Disc1''のmRNAは脳内に広く分布しており、[[海馬]]、[[小脳]]、大脳新皮質、[[嗅球]]にも発現が見られる<ref name=ref12 />。発生段階のマウスの脳において、DISC1の免疫反応は[[大脳皮質]]、嗅球<ref><pubmed> 15381924 </pubmed></ref>や海馬<ref><pubmed> 18620078 </pubmed></ref>に認められる。脳のなかで、DISC1は神経細胞のみならず、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[ミクログリア]]といったグリア系の細胞でも発現している<ref><pubmed> 20212127 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21605958 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22801410 </pubmed></ref>。


== 細胞内局在 ==
=== 細胞内局在 ===
 DISC1は、発達段階の神経細胞において、NDEL1/NUDEL、Lissencephaly 1(LIS1)、14-3-3、dynactin、kendrinなどと結合/複合体を形成して、中心体(centrosome、microtubule-organizing center[MTOC]としても知られる)や微小管(microtubule)に存在する<ref name=ref48 /><ref name=ref33 /><ref name=ref6 />。また、Kinesin-1、Grb2と結合して軸索内を成長円錐(Growth Cone)に運ばれる<ref name=ref34 /><ref name=ref35 />。
 DISC1は、発達段階の神経細胞において、NDEL1/NUDEL、[[Lissencephaly 1]]([[LIS1]])、[[14-3-3]]、[[dynactin]]、kendrinなどと結合/複合体を形成して、[[中心体]]([[centrosome]]、[[microtubule-organizing center]](MTOC)としても知られる)や微小管(microtubule)に存在する<ref name=ref48 /><ref name=ref33 /><ref name=ref6 />。また、[[キネシン-1]]、[[Grb2]]と結合して軸索内を成長円錐(Growth Cone)に運ばれる<ref name=ref34 /><ref name=ref35 />。


 より成熟した神経細胞において、DISC1はPSD-95/Kalirin-7と複合体を作り、シナプスに存在している<ref name=ref30 />。シナプスではPDE4やTNIKとも結合する<ref name=ref7 /><ref name=ref31 />。DISC1は興奮性のシナプスとともに、抑制性のシナプスにも局在する<ref><pubmed> 16736468 </pubmed></ref>。
 より成熟した神経細胞において、DISC1は[[PSD-95]]/[[カリリン-7]]と複合体を作り、シナプスに存在している<ref name=ref30 />。シナプスではPDE4やTNIKとも結合する<ref name=ref7 /><ref name=ref31 />。DISC1は興奮性のシナプスとともに、抑制性のシナプスにも局在する<ref><pubmed> 16736468 </pubmed></ref>。


 DISC1のN末には核移行シグナル(nuclear localization signal、NLS)モチーフが存在し、少なくともDISC1の一部は核内に存在する<ref><pubmed> 18762802 </pubmed></ref>。DISC1のミトコンドリアへの局在も報告されている<ref><pubmed> 15121183 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15797709 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20880836 </pubmed></ref>。
 DISC1のN末には[[核移行シグナル]](nuclear localization signal、NLS)モチーフが存在し、少なくともDISC1の一部は[[核]]内に存在する<ref><pubmed> 18762802 </pubmed></ref>。DISC1の[[ミトコンドリア]]への局在も報告されている<ref><pubmed> 15121183 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15797709 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20880836 </pubmed></ref>。


== 機能 ==
== 機能 ==
 DISC1の結合タンパク質や発現・細胞内局在から示されるように、DISC1は神経系において多彩な機能を有していると考えられる。なかでも代表的な機能として、神経発達とシナプスの制御が挙げられる<ref name=ref19 /><ref name=ref9 /><ref><pubmed> 23300216 </pubmed></ref>。
 DISC1の結合タンパク質や発現・細胞内局在から示されるように、DISC1は神経系において多彩な機能を有していると考えられる。なかでも代表的な機能として、神経発達とシナプスの制御が挙げられる<ref name=ref19 /><ref name=ref9 /><ref><pubmed> 23300216 </pubmed></ref>。


 上記の細胞内局在のうち、中心体や微小管、成長円錐への局在は、神経細胞の増殖や移動、樹状突起形成、軸索伸長といった、DISC1の神経発生過程での機能を示唆する。実際に、発達段階でのDISC1の機能阻害により、神経細胞の増殖の低下/早熟な神経への分化<ref name=ref20 /><ref name=ref25 />、大脳新皮質<ref name=ref6 /><ref><pubmed> 20807500 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22099458 </pubmed></ref>と海馬<ref><pubmed> 19502360 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21540240 </pubmed></ref>の神経細胞移動の遅れ、樹状突起形成の障害<ref><pubmed> 20188653 </pubmed></ref>、軸索伸長の障害<ref name=ref32 /><ref name=ref13 /><ref name=ref34 /><ref name=ref35 />が起きることが報告されている。ただし、成体での海馬歯状回における、新生神経細胞については、DISC1の機能阻害により、むしろ神経細胞の過剰な移動が生じる<ref name=ref47><pubmed> 17825401 </pubmed></ref><ref name=ref28 /><ref name=ref27 />。この過剰な移動は神経細胞層への組み込み(integration)の阻害を反映する可能性もある<ref name=ref47 />。
 上記の細胞内局在のうち、中心体や微小管、[[成長円錐]]への局在は、神経細胞の増殖や移動、[[樹状突起]]形成、[[軸索]]伸長といった、DISC1の神経発生過程での機能を示唆する。実際に、発達段階でのDISC1の機能阻害により、神経細胞の増殖の低下/早熟な神経への分化<ref name=ref20 /><ref name=ref25 />、大脳新皮質<ref name=ref6 /><ref><pubmed> 20807500 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22099458 </pubmed></ref>と海馬<ref><pubmed> 19502360 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21540240 </pubmed></ref>の神経細胞移動の遅れ、樹状突起形成の障害<ref><pubmed> 20188653 </pubmed></ref>、軸索伸長の障害<ref name=ref32 /><ref name=ref13 /><ref name=ref34 /><ref name=ref35 />が起きることが報告されている。ただし、成体での海馬[[歯状回]]における、新生神経細胞については、DISC1の機能阻害により、むしろ神経細胞の過剰な移動が生じる<ref name=ref47><pubmed> 17825401 </pubmed></ref><ref name=ref28 /><ref name=ref27 />。この過剰な移動は神経細胞層への組み込み(integration)の阻害を反映する可能性もある<ref name=ref47 />。


 また、シナプスへの局在やシナプス関連分子との結合から、DISC1はシナプスの維持や制御に関わると考えられている。DISC1の機能阻害により、短期的には樹状突起スパインの数と大きさが増加し、長期的にはスパインが小さくなる<ref name=ref30 />。この際、DISC1は、Kalirin-7(Rac1のGDP/GTP exchange factor、GEF)と結合してNMDA受容体の活性化によって起きるRac1の活性化を調節してシナプスを制御する。DISC1はTNIKとの結合によってもシナプスの維持に関わると考えられている<ref name=ref31 />。
 また、シナプスへの局在やシナプス関連分子との結合から、DISC1はシナプスの維持や制御に関わると考えられている。DISC1の機能阻害により、短期的には樹状突起[[スパイン]]の数と大きさが増加し、長期的にはスパインが小さくなる<ref name=ref30 />。この際、DISC1は、カリリン-7([[Rac1]]の[[GDP/GTP exchange factor]]、[[GEF]])と結合して[[NMDAグルタミン酸受容体]]の活性化によって起きるRac1の活性化を調節してシナプスを制御する。DISC1はTNIKとの結合によってもシナプスの維持に関わると考えられている<ref name=ref31 />。


== DISC1の修飾と機能への影響 ==
== DISC1の修飾と機能への影響 ==
 他の分子との結合の調節に、DISC1の翻訳後修飾が関与することがある。例えば、マウスDISC1の710番目のセリン(S710、ヒトDISC1の713番目のセリンに相当)のリン酸化によって、結合分子が変化する<ref name=ref25 />。増殖中の神経前駆細胞において、S710がリン酸化されていないときは、DISC1はGSK3βに結合してGSK3βの活性を抑制する。一方、分裂後の神経細胞において、S710がリン酸化されると、DISC1はBBS1に結合して中心体や微小管に分布し、神経細胞移動に関わる。このように、DISC1のリン酸化の制御によって、前駆細胞の分裂から神経細胞移動へ、発生段階のスイッチが行われると考えられる<ref name=ref25 />。
 他の分子との結合の調節に、DISC1の[[wj:翻訳後修飾|翻訳後修飾]]が関与することがある。例えば、マウスDISC1の710番目の[[セリン]](S710、ヒトDISC1の713番目のセリンに相当)の[[リン酸化]]によって、結合分子が変化する<ref name=ref25 />。増殖中の神経前駆細胞において、S710がリン酸化されていないときは、DISC1はGSK3βに結合してGSK3βの活性を抑制する。一方、分裂後の神経細胞において、S710がリン酸化されると、DISC1はBBS1に結合して中心体や微小管に分布し、神経細胞移動に関わる。このように、DISC1のリン酸化の制御によって、[[前駆細胞]]の分裂から神経細胞移動へ、発生段階のスイッチが行われると考えられる<ref name=ref25 />。


== 関連語 ==
== 関連語 ==

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