「IPS細胞」の版間の差分

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== 初期化レベルにみられる多様性とその向上  ==
== 初期化レベルにみられる多様性とその向上  ==


 iPS細胞の誘導法の発見に付随して、体細胞の初期化レベルには多様性があることが明らかとなった。まず、山中4因子が同定される過程において、Sox2を除いた3遺伝子(Oct4、Klf4、c-Myc)の導入によってもG418耐性コロニーが得られていた。しかし、この細胞はES細胞マーカー遺伝子を一部しか発現しておらず、また造腫瘍性は有するものの分化能は獲得していなかった。一方、Fbx15の発現に基づいて誘導されたiPS細胞は、確かに分化多能性を獲得してはいるがキメラマウスは胎性致死であり、遺伝子発現においてもECAT1の発現が認められない等、ES細胞とは明らかに異なっていた。しかし、iPS細胞選択の指標をFbx15からNanogやOct4の発現に変更することで、キメラマウスの出生および生殖系列に寄与するiPS細胞が樹立できるようになった<ref><pubmed> 17554338 </pubmed></ref>。Fbx15の発現に基づく初期化レベルの低いiPS細胞は「第一世代」、Oct4やNanogの発現に基づく初期化レベルの高いiPS細胞は「第二世代」と呼ばれる。  
 iPS細胞の誘導法の発見に付随して、体細胞の初期化レベルには多様性があることが明らかとなった。まず、山中4因子が同定される過程において、Sox2を除いた3遺伝子(Oct4、Klf4、c-Myc)の導入によってもG418耐性コロニーが得られていた。しかし、この細胞はES細胞マーカー遺伝子を一部しか発現しておらず、また造腫瘍性は有するものの分化能は獲得していなかった。一方、Fbx15の発現に基づいて誘導されたiPS細胞は確かに分化多能性を獲得してはいるが、キメラマウスは胎性致死であり、遺伝子発現においてもECAT1の発現が認められない等とES細胞とは明らかに異なっていた。しかし、iPS細胞選択の指標をFbx15からNanogやOct4の発現に変更することによって、キメラマウスの出生および生殖系列に寄与するiPS細胞が樹立できるようになった<ref><pubmed> 17554338 </pubmed></ref>。Fbx15の発現に基づく初期化レベルの低いiPS細胞は「第一世代」、Oct4やNanogの発現に基づく初期化レベルの高いiPS細胞は「第二世代」と呼ばれる。  


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== iPS細胞の細胞特性  ==
== iPS細胞の細胞特性  ==


 iPS細胞の一般的な細胞特性として、ES細胞を規定する特性である自己複製能、分化多能性、造腫瘍性、活発な増殖能を備えている。後述の通り、培養下において様々な細胞系譜へと分化誘導することも可能である。多能性幹細胞が有する分化多能性を表す一つの基準として、ナイーブ状態(naive state)とプライムド状態(primed state)の区分がある。ナイーブ状態は胚盤胞の内部細胞塊の起源をより強く反映していると考えられ、マウスやラットのES細胞はこちらに分類される。形態的にはドーム状のコロニーを形成し、LIFとBMP4依存的に自己複製する。ナイーブ状態の中でも、非常に高いキメラ形成能および生殖系列への寄与を示す細胞はグラウンドステート(ground state)にあるとも表現される。一方、プライムド状態は胚盤胞より発生が進んだエピブラストの起源に相当すると考えられ、ウサギや霊長類のES細胞が含まれる。 自己複製にはFGF2とActivin Aを必要とし、扁平なコロニーを形成して増殖する。iPS細胞の多能性状態(ナイーブまたはプライムド)は基本的に同種のES細胞と相同であるが、これは種の相違によって規定されているものではなく、各々の細胞株として反映する発生段階の差に起因すると考えられる。  
 iPS細胞の一般的な細胞特性として、ES細胞を規定する特性である自己複製能、分化多能性、造腫瘍性、活発な増殖能を備えている。後述の通り、培養下においてiPS細胞を様々な細胞系譜へと分化誘導することも可能である。多能性幹細胞が有する分化多能性を表す一つの基準として、ナイーブ状態(naive state)とプライムド状態(primed state)の区分がある。ナイーブ状態は胚盤胞の内部細胞塊の起源をより強く反映していると考えられ、マウスやラットのES細胞はこちらに分類される。形態的にはドーム状のコロニーを形成し、LIFとBMP4依存的に自己複製する。ナイーブ状態の中でも、非常に高いキメラ形成能および生殖系列への寄与を示す細胞はグラウンドステート(ground state)にあるとも表現される。一方、プライムド状態は胚盤胞より発生が進んだエピブラストの起源に相当すると考えられ、ウサギや霊長類のES細胞が含まれる。 自己複製にはFGF2とActivin Aを必要とし、扁平なコロニーを形成して増殖する。iPS細胞の多能性状態(ナイーブまたはプライムド)は基本的に同種のES細胞と相同であるが、これは種の相違によって規定されているものではなく、各々の細胞株として反映する発生段階の差に起因すると考えられる。  


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== iPS細胞の利点  ==
== iPS細胞の利点  ==


 iPS細胞に先んじてSCNTやES細胞培養が確立されていたにも関わらずiPS細胞の作成が求められた背景には、ヒト初期胚の研究利用をとりまく様々な課題や制限の存在があった。まず、ヒトES細胞を樹立するためには「生命の萌芽」と位置付けられるヒト受精卵の破壊が必要であり、倫理的な問題となっていた。また、SCNT研究の場合においては、ヒト卵の入手と使用に関わる数的・倫理的制限に加えて胚操作上の技術的困難が挙げられた。また、細胞移植治療への応用を鑑みた際、ES細胞はレシピエントとは他人の細胞であることから、そのままでは免疫拒絶反応が惹起されてしまう。一方、iPS細胞は初期胚ではなく体細胞起源であることから、ヒト胚の利用に倫理的問題の範疇には当てはまらず、細胞ソースの調達における数的制限もない。後述するように、ES細胞が未だ樹立されていない動物種からでもiPS細胞は樹立されていることから、ES細胞の樹立のための侵襲や胚操作なく多能性幹細胞が得られる利点も大きい。さらに、基礎生物学的な観点からみると、特定の因子評価、体細胞初期化のメカニズムを解明するためのツールとしてiPS細胞誘導は簡便なシステムであるといえる。
 iPS細胞に先んじてSCNTやES細胞培養が確立されていたにも関わらずヒトiPS細胞の作成が求められた背景には、ヒト初期胚の研究利用をとりまく様々な課題や制限の存在があった。まず、ヒトES細胞の樹立には「生命の萌芽」と位置付けられるヒト受精卵の破壊が伴うことから、倫理的な問題となっていた。また、細胞移植治療への応用を鑑みた際、ES細胞はレシピエントとは他人の細胞であることから、そのままでは免疫拒絶反応が惹起されてしまう。一方、SCNT研究の場面においては、ヒト卵の入手と使用に関わる数的・倫理的制限に加えて胚操作上の技術的困難が挙げられた。これに対し、iPS細胞は初期胚ではなく体細胞起源であることから、ヒト胚の利用に関する倫理的問題の範疇には当てはまらず、細胞ソースの調達における数的制限もない。また、技術的にも非常に容易である。さらに、ES細胞が未だ樹立されていない動物種のiPS細胞も樹立可能であることから、母体への侵襲や胚操作の実施が難しい動物種からでも多能性幹細胞が得られる利点も大きい。基礎生物学的な観点からみると、特定の起源細胞と初期化因子を出発点に研究を開始することができることから、iPS細胞誘導は体細胞初期化の分子機構を解明するためのシステムとして簡便かつ強力な実験系であるといえる。


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== 細胞種  ==
== 細胞種  ==


 最初のマウスiPS細胞の樹立には胎仔の繊維芽細胞および成体の尾繊維芽細胞が、最初のヒトiPS細胞の樹立には胎児、新生児、成人の繊維芽細胞が用いられた。その後、胃上皮細胞、肝実質細胞、ケラチノサイト、毛乳頭細胞、色素細胞、血管内皮細胞、血液細胞、羊膜細胞、神経幹細胞、脂肪幹細胞、歯髄幹細胞、間葉系幹細胞等からの樹立が相次いで報告されている。一方、ヒトiPS細胞に関しては、脂肪間質細胞
 最初のマウスiPS細胞の樹立には胎仔の繊維芽細胞および成体の尾繊維芽細胞が、最初のヒトiPS細胞の樹立には胎児、新生児、成人の繊維芽細胞が用いられた。その後、胃上皮細胞、肝実質細胞、ケラチノサイト、毛乳頭細胞、色素細胞、血管内皮細胞、血液細胞、羊膜細胞、神経幹細胞、脂肪幹細胞、歯髄幹細胞、間葉系幹細胞等からの樹立が相次いで報告されている。


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