「骨形成因子」の版間の差分

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同義語:骨形成タンパク質
同義語:骨形成タンパク質


 もともと、組織や[[軟骨]]の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。[[TGF-β]]スーパーファミリーに属しており、I型、II型の受容体2量体に結合し、転写因子SMADのリン酸化を経て核内にシグナル伝達される。両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。とりわけ神経系の発生過程においては、神経管や大脳の背側領域のパターン形成や、特定のニューロンの個性決定、[[神経幹細胞]]の維持、神経ー筋接合の形成などに関わる。また、BMPシグナルのこれらの活性/機能に異常が生じたことによる神経系の疾患への関与が示唆されている。
 もともと、組織や[[軟骨]]の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。[[TGF-β]]スーパーファミリーに属しており、I型、II型の受容体2量体に結合し、[[転写因子]][[SMAD]]の[[リン酸化]]を経て核内にシグナル伝達される。[[wikipedia:ja:両生類|両生類]]等を用いた実験から、[[wikipedia:ja:胚|胚]]の[[wikipedia:ja:背腹軸|背腹軸]]の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、[[細胞死]]の誘導、[[細胞分化]]の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。とりわけ神経系の発生過程においては、[[神経管]]や[[大脳]]の背側領域のパターン形成や、特定のニューロンの個性決定、[[神経幹細胞]]の維持、[[神経筋接合部|神経ー筋接合]]の形成などに関わる。また、BMPシグナルのこれらの活性/機能に異常が生じたことによる神経系の疾患への関与が示唆されている。


==骨形成因子とは==
==骨形成因子とは==
 骨形成因子という名が示す通り、もともとは組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。当初同定された8種類の蛋白質のうち、TGF-βスーパーファミリーに属するものが大部分であったが、BMP1はメタロプロテアーゼで、BMP3も同じファミリーには属していない。本稿で扱うのはTGF-βスーパーファミリーに属するBMPで、BMP2/4グループ(BMP2、BMP4)、OP-1グループ(BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b)、BMP9グループ(BMP9、BMP10)、GDF5グループ(GDF5、GDF6、GDF7)に分けられる。同じ両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。
 骨形成因子という名が示す通り、もともとは組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。当初同定された8種類の蛋白質のうち、TGF-βスーパーファミリーに属するものが大部分であったが、BMP1は[[メタロプロテアーゼ]]で、BMP3も同じファミリーには属していない。本稿で扱うのはTGF-βスーパーファミリーに属するBMPで、BMP2/4グループ(BMP2、BMP4)、OP-1グループ(BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b)、BMP9グループ(BMP9、BMP10)、GDF5グループ(GDF5、GDF6、GDF7)に分けられる。同じ両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。


==シグナル伝達==
==シグナル伝達==
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 成体[[マウス]]の[[海馬]]においては、[[神経幹細胞]]がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン([[顆粒細胞]])を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと神経幹細胞が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る<ref><pubmed> 20621052</pubmed></ref>。したがって、この場合ではBMPは神経幹細胞の維持をおこなっていると考えられる。
 成体[[マウス]]の[[海馬]]においては、[[神経幹細胞]]がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン([[顆粒細胞]])を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと神経幹細胞が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る<ref><pubmed> 20621052</pubmed></ref>。したがって、この場合ではBMPは神経幹細胞の維持をおこなっていると考えられる。


 また、[[BMP受容体Ib]]のノックアウトマウスとEmx1-creをもちいた[[BMP受容体Ia]]のコンディショナルノックアウトマウスを掛け合わせることで、[[cortical hem]]特異的にBMPシグナルを失わせたマウスが作られている<ref><pubmed> 20445055 </pubmed></ref>。このダブルノックアウト(DKO)マウスでは、[[歯状回]]が特異的に小さくなっており、顆粒細胞の数も減少している。このことは、よく知られているcortical hemの海馬の発生のオーガナイザーとして機能の少なくとも一部は、BMPシグナルによっておこなわれていることを示している。このDKOマウスは[[恐怖]]や[[不安]]を誘発する刺激に対する反応性が鈍くなる表現型を示すが、これはこれまでに示唆されている歯状回の機能とよく一致している。
 また、[[BMP受容体Ib]]の[[ノックアウトマウス]]とEmx1-creをもちいた[[BMP受容体Ia]]のコンディショナルノックアウトマウスを掛け合わせることで、[[cortical hem]]特異的にBMPシグナルを失わせた[[マウス]]が作られている<ref><pubmed> 20445055 </pubmed></ref>。このダブルノックアウト(DKO)マウスでは、[[歯状回]]が特異的に小さくなっており、顆粒細胞の数も減少している。このことは、よく知られているcortical hemの海馬の発生のオーガナイザーとして機能の少なくとも一部は、BMPシグナルによっておこなわれていることを示している。このDKOマウスは[[恐怖]]や[[不安]]を誘発する刺激に対する反応性が鈍くなる表現型を示すが、これはこれまでに示唆されている歯状回の機能とよく一致している。


==神経筋接合、BMPシグナル<ref><pubmed> 20832291</pubmed></ref>==
==神経筋接合、BMPシグナル<ref><pubmed> 20832291</pubmed></ref>==


 主にショウジョウバエの研究から、[[運動神経]]と[[筋肉]]の接合部(neuromauscular junction、[[神経筋接合部]])における[[シナプス]]形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP([[Glass bottom boat]](Gbb))がプレシナプスに分布する[[Wishful thinking]](Wit)、[[Thickveins]](Tkv)、[[Saxophone]](Sax)からなる受容体複合体に結合する。
 主に[[ショウジョウバエ]]の研究から、[[運動神経]]と[[筋肉]]の接合部(neuromauscular junction、[[神経筋接合部]])における[[シナプス]]形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP([[Glass bottom boat]](Gbb))がプレシナプスに分布する[[Wishful thinking]](Wit)、[[Thickveins]](Tkv)、[[Saxophone]](Sax)からなる受容体複合体に結合する。


 これにより、[[LIMK]]1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によって[[Mothers against decepentaplegic]](Mad、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行して[[Trio]]などのターゲット遺伝子の転写を活性化する<ref><pubmed> 20510858 </pubmed></ref>。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や[[神経伝達]]の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えば[[Daughters against decapetaplegic]] (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。
 これにより、[[LIMK]]1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によって[[Mothers against decepentaplegic]](Mad、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行して[[Trio]]などのターゲット遺伝子の転写を活性化する<ref><pubmed> 20510858 </pubmed></ref>。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や[[神経伝達]]の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えば[[Daughters against decapetaplegic]] (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。