骨形成因子
若松 義雄
東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野
DOI:10.14931/bsd.865 原稿受付日:2012年5月11日 原稿完成日:2012年7月5日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)
Bone Morphogenic Protein | |||||||||
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Bone Morphogenic Protein type 4 (BMP4) | |||||||||
Identifiers | |||||||||
Symbol | BMP | ||||||||
Pfam | PF00019 | ||||||||
InterPro | IPR001839 | ||||||||
PROSITE | PDOC00223 | ||||||||
SCOP | 1tfg | ||||||||
SUPERFAMILY | 1tfg | ||||||||
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英語名:bone morphogenetic protein 英語略称名:BMP 独:knochenmorphogenetische Proteine
同義語:骨形成タンパク質
もともと、骨組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。TGF-βスーパーファミリーに属しており、I型、II型の受容体2量体に結合し、転写因子SMADのリン酸化を経て核内にシグナル伝達される。両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。とりわけ神経系の発生過程においては、神経管や大脳の背側領域のパターン形成や、特定のニューロンの個性決定、神経幹細胞の維持、神経ー筋接合の形成などに関わる。また、BMPシグナルのこれらの活性/機能に異常が生じたことによる神経系の疾患への関与が示唆されている。
骨形成因子とは
骨形成因子という名が示す通り、もともとは骨組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。当初同定された8種類のタンパク質のうち、TGF-βスーパーファミリーに属するものが大部分であったが、BMP1はメタロプロテアーゼで、BMP3も同じファミリーには属していない。本稿で扱うのはTGF-βスーパーファミリーに属するBMPで、BMP2/4グループ(BMP2、BMP4)、OP-1グループ(BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b)、BMP9グループ(BMP9、BMP10)、GDF5グループ(GDF5、GDF6、GDF7)に分けられる。両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。
シグナル伝達
BMPを含むTGF−βスーパーファミリータンパク質はホモもしくはヘテロ二量体としてリガンド活性を持ち、2本のペプチド鎖はジスルフィド結合によって結合している。膜貫通型のセリン/スレオニンリン酸化酵素受容体であるI型、II型BMP受容体のヘテロ二量体に結合して、シグナルが細胞内に伝達される[1]。BMPと受容体の結合特異性は主にI型受容体によって決められており、BMP2/4はBMPR1AやBMPR1Bに、BMP6/7はALK2に強く結合し、BMPR1Bにも弱く結合する。GDF5はBMPR1Bに結合する。TAK1/TAB1/2を介した経路やPKAを介した経路等も知られているが、主要なシグナル伝達経路はSMADタンパク質を介した経路である。リガンドの結合によって活性化された受容体がSMAD1/5/8のセリン/スレオニン残基をリン酸化すると、リン酸化SMAD1/5/8は細胞質にあるSMAD4と結合して核に移行する。そこでターゲット遺伝子のcis制御領域に結合し、その転写を活性化する。一義的にはBMPを産生する細胞からの濃度勾配がパターンを形成するために重要であるが、細胞外ではノギン(Noggin) やコーディン(Chordin)などのようなBMPに結合する分泌性タンパク質によって細胞外で活性を抑制されるし、細胞内ではSMAD1/5/8に結合する抑制性SMAD6/7によってもBMPシグナルの調節がおこなわれる。一般には、SMAD1/5/8のリン酸化部位に対する抗体を用いた検出で、BMPシグナルの活性化分布を検出することができる。
神経発生における機能と活性
神経系の初期発生では主としてパターンの形成に関与している。例えば、非神経外胚葉で発現し、それに隣接する領域の神経堤細胞の誘導に関与している[2]。また、体幹部神経堤の移動開始を促進する。また、背側神経管で発現し、神経上皮細胞に背側特異的な遺伝子発現を誘導する。これにより、神経管背側ではそれに対応したサブタイプのニューロンが分化してくることになる[3]。大脳の発生期においても、BMP4/5/7が背側領域に発現し、大脳の背側領域のパターン形成に働いている。発生が進むにつれてBMPの大脳背側での発現領域は狭まり、海馬采(fimbria)や脈絡叢(choroid plexus)に限局する。これらのケースのように、神経前駆細胞に対してどのようなニューロンに分化するかを決定する作用もあるが、ショウジョウバエのFMRFamideを神経ペプチドとして分泌するニューロンの分化や脊椎動物の三叉神経節の感覚ニューロンサブタイプの決定の場合のように、軸索の投射先から供給されたBMPが逆行性にニューロンの細胞体まで伝達されてその遺伝子発現/分化形質を制御するような例もある(逆行性伝達物質の項を参照)[4][5]。これらの例以外にも、様々な場面で神経分化の制御に関わっている。
また、BMP シグナルは特定の細胞種の分化を促進するのみでなく、抑制もおこなう。神経管背側から分泌されるBMPによるシグナルは、Olig2を発現するオリゴデンドロサイト前駆細胞が分化するのを抑制する[6]。したがって、オリゴデンドロサイト前駆細胞が形成される際にはBMPによる抑制はFGFシグナルによってさらに抑制されていなければならない。
成体マウスの海馬においては、神経幹細胞がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン(顆粒細胞)を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと神経幹細胞が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る[7]。したがって、この場合ではBMPは神経幹細胞の維持をおこなっていると考えられる。
また、BMP受容体IbのノックアウトマウスとEmx1-creをもちいたBMP受容体Iaのコンディショナルノックアウトマウスを掛け合わせることで、cortical hem特異的にBMPシグナルを失わせたマウスが作られている[8]。このダブルノックアウト(DKO)マウスでは、歯状回が特異的に小さくなっており、顆粒細胞の数も減少している。このことは、よく知られているcortical hemの海馬の発生のオーガナイザーとして機能の少なくとも一部は、BMPシグナルによっておこなわれていることを示している。このDKOマウスは恐怖や不安を誘発する刺激に対する反応性が鈍くなる表現型を示すが、これはこれまでに示唆されている歯状回の機能とよく一致している。
神経筋接合とBMPシグナル[9]
主にショウジョウバエの研究から、運動神経と筋肉の接合部(neuromauscular junction、神経筋接合部)におけるシナプス形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP(Glass bottom boat(Gbb))がプレシナプスに分布するWishful thinking(Wit)、Thickveins(Tkv)、Saxophone(Sax)からなる受容体複合体に結合する。
これにより、LIMK1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によってMothers against decepentaplegic(Mad、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行してTrioなどのターゲット遺伝子の転写を活性化する[10]。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や神経伝達の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えばDaughters against decapetaplegic (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。
神経変性疾患とBMPシグナル
神経変性疾患の中には原因遺伝子のいくつかが同定されているものがあるが、その中にはBMPシグナルとの関連が認められる場合がある。
遺伝性痙性対麻痺
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia)にみられる変異遺伝子の一つであるNIPA1のショウジョウバエホモログであるspichthyinの変異体では、リン酸化Madが正常の4倍ほどに増え、神経筋接合部のシナプスボタン(synaptic bouton)の数も2倍に増えてしまう。哺乳類細胞の培養実験からもNIPA1がBMPシグナルを抑制することが示されている。
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)の場合、90%は自然発症だが、家族性のものにはVapB遺伝子に変異があるケースがある。ショウジョウバエのVapB変異体では神経筋接合部のシナプスボタンの数が減少し、過剰発現した場合にはシナプスボタンの数の増加と神経筋接合部の肥大がおこる。このような表現型はそれぞれリン酸化Madの減少、増加を伴っており、やはりBMPシグナルとの関連が示唆される。また、自然発症型ALS患者の運動ニューロンにおいて、リン酸化SMADの減少が報告されている。
脊髄性筋萎縮
I型の脊髄性筋萎縮 (spinal muscular atrophy)の患者ではしばしばSurvival of Motor Neuron 1(Smn1)遺伝子の欠損やコピー数の異常がみられる。Smn1遺伝子の異常と脊髄性筋萎縮との関連はまだはっきりしないが、ショウジョウバエのSmn1変異体では神経筋接合部のシナプスボタンの数が減少し、リン酸化Madの量も減少する。また、この表現型はBMPシグナルの低下によって増強される。
多発性硬化症
多発性硬化症(Multiple Sclerosis)については、Clec16A遺伝子の多型との関連が示唆されている。ショウジョウバエのClec16Aホモログであるendosomal maturation defective(ema)変異体ではシナプスボタンの肥大が見られ、Tkvの発現量が2倍、リン酸化Madも4倍に増加する。多発性硬化症患者の異常部位ではBMP4やBMP5、多発性硬化症モデルマウスではBMP4、6、7の発現上昇が報告されている。これらのことから、さまざまな神経変性疾患とBMPシグナルの異常の関連が示唆されており、治療への応用が期待される。
参考文献
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