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熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)とは[[wikipedia:ja:細胞|細胞]]が[[wikipedia:ja:ヒート|熱]]、[[wikipedia:ja:化学物質|化学物質]]、虚血などの[[wikipedia:ja:ストレス|ストレス]]にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護する[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]の一群である。分子[[wikipedia:ja:シャペロン|シャペロン]]として機能し、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれる<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。HSPはその分子量により[[wikipedia:HSP60|Hsp60]]、[[wikipedia:Hsp70|Hsp70]]、[[wikipedia:Hsp90|Hsp90]]などと個別に命名されている。HSPは[[wikipedia:ja:真性細菌|細菌]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]まで広く似た機能を持つことが知られており、その[[wikipedia:ja:一次構造|アミノ酸配列]]は生物の進化の過程においてよく保存されている。 | |||
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== | == Hsp70による脳虚血保護作用 == | ||
脳虚血の動物モデルや培養組織において、Hsp70を過剰発現させると虚血による損傷が軽減され、神経と[[グリア細胞]]に保護作用を示す。これらの作用はHsp70の[[wikipedia:ja:C末端|カルボキシ末端]]を介すると考えられている<ref><pubmed> 16292251 </pubmed></ref>。 | |||
== 神経変性疾患モデルとHsp70 == | |||
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== Hsp90βと神経筋接合部 == | |||
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== 熱ショックによる前処理と神経保護作用 == | |||
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==== | == Hsc70の発現と神経変性疾患 == | ||
Hsc70は神経組織において発現が高い。ALSの病変となる脊髄では比較的高いレベルのHsc70が発現しているが、ADの病変となる[[海馬]]や[[内嗅皮質]]においては低レベルの発現が見られる。そしてPDの病変箇所である[[黒質]]においては中間の発現レベルであることが確認されており、丁度それぞれの疾患の発症頻度とよく逆相関しているため、Hsc70の神経変性疾患における神経保護作用が示唆されている<ref><pubmed> 17441507 </pubmed></ref>。 | |||
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== 自己免疫疾患とHsp70 == | |||
Hsp70は[[wikipedia:ja:抗原|抗原]]に結合して[[wikipedia:ja:主要組織適合遺伝子複合体|MHCI、MHCII]]依存経路どちらにおいても[[wikipedia:ja:抗原|抗原]]性を高めると報告されている[1]。また[[多発性硬化症]](multiple sclerosis; MS)の動物モデルである実験的[[自己免疫性脳脊髄炎]](experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE)の誘導および進展にHsp70が関わると報告されている[1]。実際に多発性硬化症患者の[[脳脊髄液]]からはHsp70に対する自己抗体が、運動神経疾患の患者と比較して有意に多く観察されている。そして多発性硬化症検体において、自己抗原である[[ミエリン塩基性タンパク質]](myelin basic protein; MBP)や[[Myelin proteolipid protein]](PLP)とHsp70との会合も観察されている。しかし一方でHsp70が[[wikipedia:ja:ナチュラルキラー細胞|ナチュラルキラー細胞]]に働きかけて自己免疫性脳脊髄炎の進展を抑制するとの報告もあるため、[[中枢神経系]]の[[wikipedia:ja:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]における病因と保護両者に関わる二面性が議論されている[1]。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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執筆者:石井宏史、山下俊英 担当編集委員:柚崎通介 |
2012年1月27日 (金) 01:07時点における版
英語名:Heat shock protein
熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)とは細胞が熱、化学物質、虚血などのストレスにさらされた際に発現が上昇して細胞を保護するタンパク質の一群である。分子シャペロンとして機能し、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれる[2]。HSPはその分子量によりHsp60、Hsp70、Hsp90などと個別に命名されている。HSPは細菌からヒトまで広く似た機能を持つことが知られており、そのアミノ酸配列は生物の進化の過程においてよく保存されている。
HSPは合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質のフォールディング(折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである。高温条件化において変性したタンパク質、あるいは新生タンパク質のうちフォールディングの段階に問題があり、機能できないものなどにはHSPが結合してその処理を行うことが知られている。HSPはこのような高次構造の破壊されたタンパク質の修復およびタンパク質変性の抑制機能を有し、修復が不可能であると判断されたタンパク質はユビキチン化を受け、プロテアソームと呼ばれる酵素複合体へ運搬されて分解される。このフォールディングの段階に異常があり、不良品タンパク質が細胞内に蓄積するとフォールディング病と呼ばれる疾患に陥る。神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)、アルツハイマー病(Altzheimer’s disease; AD)やパーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)もまたフォールディングの異常に基づくフォールディング病と考えられている[3]。
Hsp70による脳虚血保護作用
脳虚血の動物モデルや培養組織において、Hsp70を過剰発現させると虚血による損傷が軽減され、神経とグリア細胞に保護作用を示す。これらの作用はHsp70のカルボキシ末端を介すると考えられている[4]。
神経変性疾患モデルとHsp70
神経においてβアミロイドを過剰発現してADを再構成した系で、Hsp70を強制発現するとβアミロイドを介する神経毒性が回避される[5]。またADマウスモデルにおいてHsp70を過剰発現させると、Aβの発現およびAβの組織沈着そして神経とシナプスの脱落が軽減され認知機能の低下が抑制されると報告されている[6]。またαシヌクレイン発現によるDrosophila(ショウジョウバエ)パーキンソン病モデルにおいて、ヒトHsp70を発現させると、 αシヌクレインによる毒性から免れると報告されている[7]。
Hsp90βと神経筋接合部
アセチルコリン受容体は細胞内でRapsynというタンパク質を介してHsp90βと会合し、 神経筋接合部の発達と維持に関わっている[8]。
熱ショックタンパク質作動薬
熱ショックタンパク質の作動薬であるArimoclomolはマウスALSモデルにおいてHsp70、Hsp90の発現を亢進し、病気の進行を抑えることが分かっている[9]。また培養運動神経に熱ショックやグルタミン酸を投与した場合にHsp70の発現が阻害されるがArimoclomolを加えるとこれが回避される。製薬会社のCytRxは、臨床試験第2相を施行している[10]。
ニシキギ科の植物から抽出したquinine methide tritepeneであるCelastrolはPD、ALSそしてハンチントン病などの動物モデルにおいて、Hsp70を誘導し、保護的に働く[11]。
熱ショックによる前処理と神経保護作用
あらかじめ熱ショックを組織に加えることにより、Hsp70、Hsc70、Hsp32やHsp27が亢進し、神経保護作用を示すことが分かっている[12]。熱ストレスによりHsc70が大脳皮質のシナプスに局在し、Hsp40と会合し、変性タンパク質をリフォールディングする。また熱ストレスによりグリア細胞からHsp70が産生され、細胞間を移動し、隣り合う神経細胞の突起に輸送されることが分かっている[13]。この生理反応を応用し、坐骨神経細胞の切断端にHsp70/Hsc70を細胞外から添加すると神経細胞死が抑制されると報告されている[14]。
Hsc70の発現と神経変性疾患
Hsc70は神経組織において発現が高い。ALSの病変となる脊髄では比較的高いレベルのHsc70が発現しているが、ADの病変となる海馬や内嗅皮質においては低レベルの発現が見られる。そしてPDの病変箇所である黒質においては中間の発現レベルであることが確認されており、丁度それぞれの疾患の発症頻度とよく逆相関しているため、Hsc70の神経変性疾患における神経保護作用が示唆されている[15]。
自己免疫疾患とHsp70
Hsp70は抗原に結合してMHCI、MHCII依存経路どちらにおいても抗原性を高めると報告されている[1]。また多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE)の誘導および進展にHsp70が関わると報告されている[1]。実際に多発性硬化症患者の脳脊髄液からはHsp70に対する自己抗体が、運動神経疾患の患者と比較して有意に多く観察されている。そして多発性硬化症検体において、自己抗原であるミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein; MBP)やMyelin proteolipid protein(PLP)とHsp70との会合も観察されている。しかし一方でHsp70がナチュラルキラー細胞に働きかけて自己免疫性脳脊髄炎の進展を抑制するとの報告もあるため、中枢神経系の自己免疫疾患における病因と保護両者に関わる二面性が議論されている[1]。
参考文献
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Turturici, G., Sconzo, G., & Geraci, F. (2011).
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執筆者:石井宏史、山下俊英 担当編集委員:柚崎通介