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====   受容体と細胞内シグナル  ====
====   受容体と細胞内シグナル  ====


 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。<br> その頃、山下(現大阪大学教授)らは機能の良く分かっていなかった神経栄養因子の受容体であるp75受容体の発生時における役割を明らかにした。[[Image:Revised Nogo signal.jpg|frame|right|500px|(図2)Nogoのシグナル伝達経路]]p75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進していることが報告された<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。その後、山下等はこのp75が軸索伸展阻害因子の一つMAG(Myelin Associated Glycoprotein)のシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した<ref>Yamashita, T., Higuchi, H., Tohyama, M.: J. Cell Biol., 157, 565-570 (2002)</ref>。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性を失ったのである。<br> 次に、p75がMAGのシグナルを伝える受容体であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgp(Oligodendrocyte Myelin glycoprotein)のシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された<ref>Wang, K.C., et al.: Nature, 420, 72-78  (2002)</ref>。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった。<br> それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である。MAG によりp75を介してRhoが活性化されること、さらに、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした。これにより、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)。  
 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。<br> その頃、山下(現大阪大学教授)らは機能の良く分かっていなかった神経栄養因子の受容体であるp75受容体の発生時における役割を明らかにした。[[Image:Revised Nogo signal.jpg|frame|right|500px|(図2)Nogoのシグナル伝達経路]]p75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進していることが報告された<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。その後、山下等はこのp75が軸索伸展阻害因子の一つMAG(Myelin Associated Glycoprotein)のシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した<ref>Yamashita, T., Higuchi, H., Tohyama, M.: J. Cell Biol., 157, 565-570 (2002)</ref>。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性を失ったのである。<br> 次に、p75がMAGのシグナルを伝える受容体であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgp(Oligodendrocyte Myelin glycoprotein)のシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された<ref>Wang, K.C., et al.: Nature, 420, 72-78  (2002)</ref>。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった。<br> それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である。MAG によりp75を介してRhoが活性化されること、さらに、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした。これにより、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)。<br>  
 
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==== Nogoは本当に再生阻害因子か?  ====
==== Nogoは本当に再生阻害因子か?  ====
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 ここまでの急速な研究の発展により、中枢神経がなぜ再生しないのかという疑問に分子の言葉で答えられるようになったと多くの研究者が考えた。しかしながら、現在は、この単純なモデルの一つ一つが検証され、再検討されてきている。  
 ここまでの急速な研究の発展により、中枢神経がなぜ再生しないのかという疑問に分子の言葉で答えられるようになったと多くの研究者が考えた。しかしながら、現在は、この単純なモデルの一つ一つが検証され、再検討されてきている。  


 まず、第一の疑問はNogoはin vivoで、再生阻害蛋白として働くのか?という根本的なものであった。それまで、Nogoを阻害すると軸索再生が促進されると言うことは、中和抗体(IN-1)や、阻害ペプチド(NEP1-40)によって証明されていた。そこで、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価した26,27,28)。しかしその結果は食い違っていた。Strittmatterらは、ノックアウトマウスでは再生は促進され、運動機能の回復も良かったと報告した。Tessier-Lavigneらは、再生は認められなかったと断じ、Schwabは軽度の再生線維と芽生え現象を確認した。3つのトップグループがそれぞれ異なった結果を報告した理由は今もって解明されていない。  
 まず、第一の疑問はNogoはin vivoで、再生阻害蛋白として働くのか?という根本的なものであった。それまで、Nogoを阻害するとin vivoで、軸索再生が促進されると言うことは、中和抗体(IN-1)や、阻害ペプチド(NEP1-40)によって証明されていた。そこで、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価した。しかしその結果は食い違っていた。Strittmatterらは、ノックアウトマウスでは再生は促進され、運動機能の回復も良かったと報告した。Tessier-Lavigneらは、再生は認められなかったと断じ、Schwabは軽度の再生線維と芽生え現象を確認した。3つのトップグループがそれぞれ異なった結果を報告した理由は今もって解明されていない。  


 さらに、このシグナル伝達経路に関する検証も行われた。Tessier-LavigneのグループはNogo受容体のノックアウトマウスを作成し、その神経細胞を用いて、軸索伸展阻害の実験をin vitroで行った。神経細胞は野生型と同様に、ミエリンのみならずNogo-66によって突起の伸展阻害がおこったのである。これに対して、P75ノックアウトマウスの神経細胞はNogo-66に不応性であることが再度確認された。以上の結果が正しいとすると、p75はミエリン由来因子の受容体であるが、Nogo受容体はそうではないということになる。  
 さらに、このシグナル伝達経路に関する検証も行われた。Tessier-LavigneのグループはNogo受容体のノックアウトマウスを作成し、その神経細胞を用いて、軸索伸展阻害の実験をin vitroで行った。神経細胞は野生型と同様に、ミエリンのみならずNogo-66によって突起の伸展阻害がおこったのである。これに対して、P75ノックアウトマウスの神経細胞はNogo-66に不応性であることが再度確認された。以上の結果が正しいとすると、p75はミエリン由来因子の受容体であるが、Nogo受容体はそうではないということになる。  


 更に、Nogo受容体及び、P75ノックアウトマウスを用いて、脊髄損傷後の再生が評価された。しかしながらこれらのマウスで再生は認められなかったのである。従ってNogo受容体,&nbsp;p75受容体にシグナルが集約されるというモデル自体も再検討されるに至った。  
 更に、Nogo受容体及び、P75ノックアウトマウスを用いて、脊髄損傷後の再生が評価された。しかしながらこれらのマウスで再生は認められなかったのである。従ってNogo受容体,&nbsp;p75受容体にシグナルが集約されるというモデル自体も再検討されるに至った。<br>  
 
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=== PirBの発見  ===
=== PirBの発見  ===


=== ミエリン由来阻害因子の再検証  ===
 これらの結果から、Tessier-Lavigneのグループより、Nogo66に対する別の受容体が報告された。18988857それが、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)である。Atwalらは、Nogo-66に対する受容体をスクリーニングし、NgRと共に、&nbsp;leukocyte immunoglobulin (Ig)-like recep- tor B2 (LILRB2)を発見した。これは、マウスのPirBのオルソログに当たる。これらは、50%のホモロジーしか共有していない。また、PirBは細胞外の免疫グロブリン様ドメインが4つしかないが、Nogo-66のみならず、MAG,OMgpもNgRと同様に結合することが示された。<br><span class="Apple-style-span" style="font-size: 18px; font-weight: bold; ">


ミエリン由来因子はin vivoで再生阻害に働いているのか?これに関しても、最近否定的な結果が得られたために、紹介する。WIlliamらは、主要な再生阻害因子と考えられてきたNogo, MAG,OMgpのトリプルノックアウトマウスを作成して、軸索再生を詳細に脊髄損傷モデルにより検討したところ、全く再生が促進されないことが分かった。このことにより、別の再生阻害因子の存在を考えるべきである。
ミエリン由来阻害因子の再検証</span>


 ミエリン由来因子はin vivoで再生阻害に働いているのか?これに関しても、最近否定的な結果が得られた。WIlliamらは、主要な再生阻害因子と考えられてきたNogo, MAG,OMgpのトリプルノックアウトマウスを作成して、軸索再生を詳細に脊髄損傷モデルにより検討したところ、全く再生が促進されないことが分かった。このことにより、ミエリン由来あるいは、グリア瘢痕別の再生阻害因子の存在を考えるべきである。


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その他の機能  
その他の機能  
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