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DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2013年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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PDZドメインとは、様々なシグナルタンパク質において共通してみられる、80から90ほどの長さの特定のアミノ酸配列のことであり、PDZドメインを有するタンパク質をPDZドメインタンパク質と総称する。PDZという名称は、PSD95(postsynaptic density protein 95), Dlg1 (Drosophila disc large tumor suppressor), ZO-1(zonula occludens-1 protein)という3つのタンパク質の頭文字に由来する。このアミノ酸配列は、バクテリア、酵母、ショウジョウバエなど様々な生物種のタンパク質に存在することがわかっている。 | |||
PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する。この相互作用によって、シグナル伝達や細胞内輸送に関わる大きなタンパク質複合体が形成される。神経細胞ではPSD95ファミリー、PICK1、ShankなどがPDZドメインを含む代表的なタンパク質である。細胞内におけるタンパク質の組成や空間配置は、PDZドメインタンパク質によって厳密に制御されていると考えられている。 | |||
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== 名称の変遷 == | == 名称の変遷 == | ||
PDZドメインは、まず[[PSD-95]]に含まれるということが発見され、[[グリシン]]、ロイシン、グリシン、フェニルアラニンという特徴的な4つのアミノ酸の繰り返し配列があることから、GLGFと名付けられた。次いで、Dlg1(Drosophila disc large tumor suppressor)にも存在していることが確認され、DHR(Dlg homologous region)とも呼ばれることになった。その直後、ZO-1(zonula occludens-1 protein)にも存在することがわかり、最終的に、上述のようにそれぞれの頭文字を時系列にそって、PDZドメインと呼ばれるようになった1。 | |||
== 構造 == | == 構造 == | ||
===PDZドメインの構造=== | ===PDZドメインの構造=== | ||
[[image:PDZ fig1.jpg|thumb|350px|'''図1.PDZドメインの構造''' | [[image:PDZ fig1.jpg|thumb|350px|'''図1.PDZドメインの構造'''6<br>紫色の矢印がリガンドタンパク質を表す。許可を得て転載。]] | ||
一般的に、PDZドメインは、6つのβストランド構造(βA-F)と2つのαヘリックス構造(αA-B)からなる。リガンドタンパク質はアンチパラレルとなるβストランド構造を持ち、PDZドメインのβBとαBとの間の溝にはまり込むことで結合する。これをβ-strand additionと呼ぶ。PDZドメインのC末端とN末端は非常に近接しているため、PDZドメインが複数並んでいる場合、リガンドタンパク質も近接して位置することになる。この構造的特徴によりリガンドタンパク質間の相互作用が促進されると考えられている2-4。 | |||
===リガンドタンパク質のC末端構造=== | ===リガンドタンパク質のC末端構造=== | ||
リガンドタンパク質においてPDZドメインとの結合に重要な構造は、先述した溝と相互作用するC末端部分の4つのアミノ酸残基である2。両者の安定な結合にはPDZドメインのβBストランド構造との水素結合が寄与している。 | |||
=== | ===PDZドメインタンパク質の分類=== | ||
PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との結合は、αBの最初のアミノ酸残基とリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置(C(- | PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との結合は、αBの最初のアミノ酸残基とリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置(C(-2))のアミノ酸残基との相互作用によっている2。そのため、リガンドタンパク質のC(-2)に位置するアミノ酸の種類によって、それと結合するPDZドメインタンパク質の分類が行われている。 | ||
クラスIには、PSD95などが含まれ、C(-2)には、セリンまたはスレオニンが存在している。クラスIIには、PICK1などが含まれ、C(-2)には、疎水性アミノ酸残基が存在している。クラスIIIには、nNOSなどが含まれ、C(-2)には、[[グルタミン酸]]やアルギニン酸といった負の電荷をもつアミノ酸が存在する。 | |||
C(-2)の位置のアミノ酸も重要であるが、その一つN末端側のC(-3)の位置のアミノ酸も、PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との特異的な結合において重要である事がわかっている。 | |||
表1 PDZドメインの分類 | |||
Class C末端配列 リガンドタンパク質 PDZドメインタンパク質 | |||
ClassI | |||
X-S/T-X-V E-S-D-V NMDAR2A/B [[PSD]]-95 (PDZ2) | |||
T-T-R-V Neuroligin PSD-95 (PDZ3) | |||
E-S-L-V Voltage-gated Na+ channel Syntrophin | |||
X-S/T-X-L Q-T-R-L [[GKAP]] [[Shank]] | |||
S-S-T-L mGluR5 Shank | |||
ClassII | |||
X-φ-X-φ S-V-K-I GluR2 PICK-1, GRIP (PDZ5) | |||
S-V-E-V [[EPHB2|EphB2]] PICK-1, GRIP (PDZ6) | |||
E-F-Y-A Syndecan CASK | |||
E-Y-Y-V Neurexin CASK | |||
ClassIII | |||
X-D-X-V V-D-S-V Melatoninn receptor nNOS | |||
X:任意のアミノ酸、φ:疎水性アミノ酸 | X:任意のアミノ酸、φ:疎水性アミノ酸 | ||
===PDZドメインタンパク質の特徴=== | |||
[[image:PDZ fig2.jpg|thumb|350px|'''図2.PDZドメインを持つタンパク質の例'''6<br>許可を得て転載。]] | |||
PDZドメインタンパク質の特徴として、PDZドメインを複数もつ分子が多いということがあげられる2。現在発見されているタンパク質の中では、13個のPDZドメインをもつMUPP1が最も多くPDZドメインを持つタンパク質として知られている5。また、複数のPDZドメインは連続したグループとして存在しており、このような構造的特徴がPDZドメインに結合するリガンドタンパク質を協調的に働かせるのに資していると考えられている。 | |||
==調整機構== | ==調整機構== | ||
PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質の相互作用はリン酸化によって調節される6。典型的には、リガンドタンパク質のC末端のリン酸化によって、PDZドメインとの相互作用が阻害される。例えば、カリウム[[イオンチャネル]]やβ1[[アドレナリン受容体]]、stargazinなどのC末端がリン酸化されることによって、PSD-95のPDZドメインとの結合能が低下する。また、PDZドメインのリン酸化もリガンドタンパク質との相互作用に影響を及ぼす。例えば、calmodulin dependent protein kinase II(CaMKII)依存的にsynapse-associated protein97(SAP97)のPDZドメインがリン酸化されることによって、N-methyl –D-asparate(NMDA)受容体のサブユニットのNR2Aとの相互作用が低下する。 | |||
==機能== | ==機能== | ||
PDZドメインはタンパク質間の相互作用に重要な役割を果たす。PDZドメインを含むタンパク質は受容体やシグナル分子といった情報伝達に関連するタンパク質の位置を調節し、シグナル伝達のための超分子複合体の[[足場タンパク質]]として機能する2。例えば、[[ショウジョウバエ]]において、PDZドメインを複数もつInaDは、光情報伝達回路中のイオンチャネルとシグナル分子を一つにまとめている7。 | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |
2013年10月31日 (木) 10:02時点における版
坪山 幸太郎、田中 慎二、岡部 繁男
東京大学大学院医学系研究科
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)
PDZドメインとは、様々なシグナルタンパク質において共通してみられる、80から90ほどの長さの特定のアミノ酸配列のことであり、PDZドメインを有するタンパク質をPDZドメインタンパク質と総称する。PDZという名称は、PSD95(postsynaptic density protein 95), Dlg1 (Drosophila disc large tumor suppressor), ZO-1(zonula occludens-1 protein)という3つのタンパク質の頭文字に由来する。このアミノ酸配列は、バクテリア、酵母、ショウジョウバエなど様々な生物種のタンパク質に存在することがわかっている。
PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する。この相互作用によって、シグナル伝達や細胞内輸送に関わる大きなタンパク質複合体が形成される。神経細胞ではPSD95ファミリー、PICK1、ShankなどがPDZドメインを含む代表的なタンパク質である。細胞内におけるタンパク質の組成や空間配置は、PDZドメインタンパク質によって厳密に制御されていると考えられている。
名称の変遷
PDZドメインは、まずPSD-95に含まれるということが発見され、グリシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニンという特徴的な4つのアミノ酸の繰り返し配列があることから、GLGFと名付けられた。次いで、Dlg1(Drosophila disc large tumor suppressor)にも存在していることが確認され、DHR(Dlg homologous region)とも呼ばれることになった。その直後、ZO-1(zonula occludens-1 protein)にも存在することがわかり、最終的に、上述のようにそれぞれの頭文字を時系列にそって、PDZドメインと呼ばれるようになった1。
構造
PDZドメインの構造
一般的に、PDZドメインは、6つのβストランド構造(βA-F)と2つのαヘリックス構造(αA-B)からなる。リガンドタンパク質はアンチパラレルとなるβストランド構造を持ち、PDZドメインのβBとαBとの間の溝にはまり込むことで結合する。これをβ-strand additionと呼ぶ。PDZドメインのC末端とN末端は非常に近接しているため、PDZドメインが複数並んでいる場合、リガンドタンパク質も近接して位置することになる。この構造的特徴によりリガンドタンパク質間の相互作用が促進されると考えられている2-4。
リガンドタンパク質のC末端構造
リガンドタンパク質においてPDZドメインとの結合に重要な構造は、先述した溝と相互作用するC末端部分の4つのアミノ酸残基である2。両者の安定な結合にはPDZドメインのβBストランド構造との水素結合が寄与している。
PDZドメインタンパク質の分類
PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との結合は、αBの最初のアミノ酸残基とリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置(C(-2))のアミノ酸残基との相互作用によっている2。そのため、リガンドタンパク質のC(-2)に位置するアミノ酸の種類によって、それと結合するPDZドメインタンパク質の分類が行われている。
クラスIには、PSD95などが含まれ、C(-2)には、セリンまたはスレオニンが存在している。クラスIIには、PICK1などが含まれ、C(-2)には、疎水性アミノ酸残基が存在している。クラスIIIには、nNOSなどが含まれ、C(-2)には、グルタミン酸やアルギニン酸といった負の電荷をもつアミノ酸が存在する。 C(-2)の位置のアミノ酸も重要であるが、その一つN末端側のC(-3)の位置のアミノ酸も、PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との特異的な結合において重要である事がわかっている。
表1 PDZドメインの分類
Class C末端配列 リガンドタンパク質 PDZドメインタンパク質
ClassI
X-S/T-X-V E-S-D-V NMDAR2A/B PSD-95 (PDZ2)
T-T-R-V Neuroligin PSD-95 (PDZ3)
E-S-L-V Voltage-gated Na+ channel Syntrophin
X-S/T-X-L Q-T-R-L GKAP Shank
S-S-T-L mGluR5 Shank
ClassII
X-φ-X-φ S-V-K-I GluR2 PICK-1, GRIP (PDZ5)
S-V-E-V EphB2 PICK-1, GRIP (PDZ6)
E-F-Y-A Syndecan CASK
E-Y-Y-V Neurexin CASK
ClassIII
X-D-X-V V-D-S-V Melatoninn receptor nNOS
X:任意のアミノ酸、φ:疎水性アミノ酸
PDZドメインタンパク質の特徴
PDZドメインタンパク質の特徴として、PDZドメインを複数もつ分子が多いということがあげられる2。現在発見されているタンパク質の中では、13個のPDZドメインをもつMUPP1が最も多くPDZドメインを持つタンパク質として知られている5。また、複数のPDZドメインは連続したグループとして存在しており、このような構造的特徴がPDZドメインに結合するリガンドタンパク質を協調的に働かせるのに資していると考えられている。
調整機構
PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質の相互作用はリン酸化によって調節される6。典型的には、リガンドタンパク質のC末端のリン酸化によって、PDZドメインとの相互作用が阻害される。例えば、カリウムイオンチャネルやβ1アドレナリン受容体、stargazinなどのC末端がリン酸化されることによって、PSD-95のPDZドメインとの結合能が低下する。また、PDZドメインのリン酸化もリガンドタンパク質との相互作用に影響を及ぼす。例えば、calmodulin dependent protein kinase II(CaMKII)依存的にsynapse-associated protein97(SAP97)のPDZドメインがリン酸化されることによって、N-methyl –D-asparate(NMDA)受容体のサブユニットのNR2Aとの相互作用が低下する。
機能
PDZドメインはタンパク質間の相互作用に重要な役割を果たす。PDZドメインを含むタンパク質は受容体やシグナル分子といった情報伝達に関連するタンパク質の位置を調節し、シグナル伝達のための超分子複合体の足場タンパク質として機能する2。例えば、ショウジョウバエにおいて、PDZドメインを複数もつInaDは、光情報伝達回路中のイオンチャネルとシグナル分子を一つにまとめている7。