「妄想」の版間の差分

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 [[意志]]、[[行動]]、[[感情]]、[[欲動]]も他者によってさせられたものと感じられることがある。単に「操られる」と訴えられることもあれば、外部からコントロールされる感じを電波やインターネットなどによって説明する被支配妄想delusion of controlが発展することもある。
 [[意志]]、[[行動]]、[[感情]]、[[欲動]]も他者によってさせられたものと感じられることがある。単に「操られる」と訴えられることもあれば、外部からコントロールされる感じを電波やインターネットなどによって説明する被支配妄想delusion of controlが発展することもある。


==DSM-5における妄想の分類===
==DSM-5における妄想の分類==
<ref name=ref6>'''針間博彦'''<BR>今日の操作的診断基準における妄想.妄想の臨床<BR>''新興医学出版社''、東京、p45-56,2013</ref>
 DSM-5では、妄想は内容によって表2のように下位分類されるが、形式による下位分類は行なわれていない<ref name=ref6>'''針間博彦'''<BR>今日の操作的診断基準における妄想.妄想の臨床<BR>''新興医学出版社''、東京、p45-56,2013</ref>。すなわち、一次妄想(真正妄想)と二次妄想(妄想様観念)は区別されず、したがって一次妄想である妄想気分、妄想着想、妄想知覚という区別は言及されていない。以下、関係妄想、気分に一致する/しない妄想、奇異な妄想に若干の注釈を加える。
 
 DSM-5では、妄想は内容によって表2のように下位分類されるが、形式による下位分類は行なわれていない。すなわち、一次妄想(真正妄想)と二次妄想(妄想様観念)は区別されず、したがって一次妄想である妄想気分、妄想着想、妄想知覚という区別は言及されていない。以下、関係妄想、気分に一致する/しない妄想、奇異な妄想に若干の注釈を加える。


{| class="wikitable"
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|+ 表2.DSM-5における妄想の分類<ref name=ref4 />
|+ 表2.DSM-5における妄想の分類<ref name=ref4 />
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| 被害妄想 誇大妄想 嫉妬妄想 被愛妄想 関係妄想 身体妄想 混合型<br>
| 被害妄想 誇大妄想 嫉妬妄想 被愛妄想 関係妄想 身体妄想 混合型<br>気分に一致する/しない妄想<br>奇異な妄想<br>被支配妄想 考想伝播 考想吹入
気分に一致する/しない妄想<br>
奇異な妄想<br>
被支配妄想 考想伝播 考想吹入
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===気分に一致する/しない妄想===
===気分に一致する/しない妄想===
 DSM-IIIから-5までとICD-10(DCR)<ref name=ref15>'''World Health Organization'''<BR>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; Diagnostic criteria for research. <BR>''WHO'', Geneva, 1993<BR> (中根允文,岡崎祐士,藤原妙子ら訳<BR>ICD-10 精神および行動の障害—DCR研究用診断基準、新訂版<BR>''医学書院''、東京、2008.)</ref>では、気分障害に伴う精神病症状は、気分に一致するか否かが特定される。躁病エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容(主題)が誇大的なものであれば気分に一致し、うつ病エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容が微小的、自己非難であれば気分に一致するとされる。DSM-III、III-Rでは気分に一致しない幻声は、統合失調症の特徴的症状Aのうち一つあれば十分なものに含まれたが、[[DSM-IV-TR]]以降はこの要件が削除され、いかなる幻覚や妄想が存在しても、気分エピソード中であれば気分障害と診断されることになった。一方、ICD-10(DCR)では、幻覚妄想が統合失調症状(統合失調症の全般基準G1(1))であれば、気分に一致する/しないにかかわらず、気分障害は除外される。
 DSM-IIIから-5までとICD-10(DCR)<ref name=ref15>'''World Health Organization'''<BR>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; Diagnostic criteria for research. <BR>''WHO'', Geneva, 1993<BR> (中根允文,岡崎祐士,藤原妙子ら訳<BR>ICD-10 精神および行動の障害—DCR研究用診断基準、新訂版<BR>''医学書院''、東京、2008.)</ref>では、気分障害に伴う精神病症状は、気分に一致するか否かが特定される。[[躁病]]エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容(主題)が誇大的なものであれば気分に一致し、うつ病エピソードに伴う幻覚や妄想は、その内容が微小的、自己非難であれば気分に一致するとされる。DSM-III、III-Rでは気分に一致しない[[幻声]]は、統合失調症の特徴的症状Aのうち一つあれば十分なものに含まれたが、[[DSM-IV-TR]]以降はこの要件が削除され、いかなる幻覚や妄想が存在しても、気分エピソード中であれば[[気分障害]]と診断されることになった。一方、ICD-10(DCR)では、幻覚妄想が統合失調症状(統合失調症の全般基準G1(1))であれば、気分に一致する/しないにかかわらず、気分障害は除外される。
  
  
===奇異な妄想===
===奇異な妄想===
 [[操作的診断基準]]における「奇異な妄想」は、Research Diagnostic Criteria(RDC)<ref name=ref11>'''Spitzer R, Endicott J, Robins E.'''<BR>Research Diagnostic Criteria (RDC) for a Selected Group of Functional Disorders.<BR>''New York: New York State Psychiatric Institute, Biometrics Research''; 1975.</ref>に端を発する。妄想が奇異であるとは、DSM-5では「その人の文化が物理的にありえないと見なす現象に関するもの」と定義される。   
 [[操作的診断基準]]における「奇異な妄想」は、Research Diagnostic Criteria(RDC)<ref name=ref11>'''Spitzer R, Endicott J, Robins E.'''<BR>Research Diagnostic Criteria (RDC) for a Selected Group of Functional Disorders.<BR>''New York: New York State Psychiatric Institute, Biometrics Research''; 1975.</ref>に端を発する。妄想が奇異であるとは、DSM-5では「その人の文化が物理的にありえないと見なす現象に関するもの」と定義される。   


 DSM-IIIの作成に中心的役割を果たしたSpitzer, R, L.<ref name=ref12><PUBMED>8494062</PUBMED></ref>によれば、奇異な妄想という概念は、Kraepelinが早発性痴呆(統合失調症)における妄想を「無意味性」という概念で規定し、またJaspersがそれを「了解不能」とみなしたことに由来するという。DSM-III以降、考想伝播、考想吹入、考想奪取、および感情・衝動・行動の領域における他者によるさせられ体験・被影響体験(被支配妄想delusion of controlと呼ばれる)は、すべて奇異な妄想に含まれる。
 DSM-IIIの作成に中心的役割を果たしたSpitzer, R, L.<ref name=ref12><PUBMED>8494062</PUBMED></ref>によれば、奇異な妄想という概念は、[[wj:エミール・クレペリン|Kraepelin]]が[[早発性痴呆]](統合失調症)における妄想を「無意味性」という概念で規定し、またJaspersがそれを「了解不能」とみなしたことに由来するという。DSM-III以降、考想伝播、考想吹入、考想奪取、および感情・衝動・行動の領域における他者によるさせられ体験・被影響体験(被支配妄想delusion of controlと呼ばれる)は、すべて奇異な妄想に含まれる。


 ICD-10では「奇異な妄想」という語は用いられていないが、統合失調症の全般基準(1)(d)「文化的に不適切でまったくありえない持続的妄想」は、DSMによる奇異な妄想の定義に一致する。ただし、考想伝播、考想吹入、考想奪取など考想被影響体験は(1)(a)に、また被支配妄想、被影響妄想は(1)(b)に含められおり、DSMとは異なり、これらを奇異な妄想に含めていない。
 ICD-10では「奇異な妄想」という語は用いられていないが、統合失調症の全般基準(1)(d)「文化的に不適切でまったくありえない持続的妄想」は、DSMによる奇異な妄想の定義に一致する。ただし、考想伝播、考想吹入、考想奪取など考想被影響体験は(1)(a)に、また被支配妄想、被影響妄想は(1)(b)に含められおり、DSMとは異なり、これらを奇異な妄想に含めていない。