「カテニン」の版間の差分

206行目: 206行目:


==疾患との関わり==
==疾患との関わり==
以下に挙げた記載は、[[OMIM]]の情報も主要な情報元となっている。


===神経関連疾患===
===神経関連疾患===
217行目: 216行目:


====α–カテニン====
====α–カテニン====
 (コメントH4:α-カテニンと悪性腫瘍についての情報を補足いたします。)
 [[肺]]や[[卵巣]]、[[前立腺]]におけるがん細胞では、α-カテニン遺伝子の変異が見つかっている。また、[[皮膚]]由来の[[wj:扁平上皮|扁平上皮]]組織の悪性腫瘍の患者の半数以上(40検体のうち33検体)ではα-カテニンに対する抗体染色が減少もしくは消失することが報告されている。
肺や卵巣、前立腺におけるがん細胞では、&alpha;-カテニン遺伝子の変異が見つかっている。また、皮膚由来の扁平上皮組織の悪性腫瘍の患者の半数以上(40検体のうち33検体)では&alpha;-カテニンに対する抗体染色が減少もしくは消失することが報告されている。家族性大腸がんの原因遺伝子であるがん抑制遺伝子APCは、&beta;-カテニンの分解に関わる。それゆえ、大腸がんの細胞では、APCの変異とともに、&beta;-カテニンの分解経路の阻害と相関がみられる&beta;-カテニン遺伝子カテニンの核内局在の増加が観察されている。また、後述するように、&beta;-カテニンのリン酸化とがん化が相関していることを合わせると、&beta;-カテニンの分解の制御の乱れががん化を引き起こすと考えられている。しかし、先に挙げた&alpha;-カテニンの免疫染色の減少・消失が見られたほとんどのがん細胞では&beta;-カテニンの核内局在の増加は見られないため、&alpha;-カテニンは、&beta;-カテニンの分解の制御とは独立してがん化抑制に寄与しているという解釈となっている<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>。
 加えて、&alpha;-カテニンが発現していない表皮組織の細胞は高い運動性を示したり、移植した状況下では&alpha;-カテニンが発現していないと、それらの細胞では扁平上皮組織の悪性腫瘍細胞と類似した現象として捉えられている上皮間葉転換が起こっていしまうことも報告されている。


 第5染色体の欠損をもつ骨髄白血病患者からの細胞HL–60の解析から、&alpha;E–カテニン遺伝子座の[[メチル化]]と[[ヒストン脱アセチル化]]により、その発現が抑制されないままになることがみられている。この&alpha;E–カテニンの発現が維持されたままの細胞では、細胞増殖の低下やアポトーシスによる細胞死が見られている。また、[[wikipedia:ja:アフリカ系アメリカ人|アフリカ系アメリカ人]]の[[wikipedia:ja:乳がん|乳がん]]患者においても&alpha;E–カテニン遺伝子の中に変異が見つかっている。 
 加えて、&alpha;-カテニンが発現していない表皮組織の細胞は高い運動性を示したり、移植した状況下では&alpha;-カテニンが発現していないと、それらの細胞では扁平上皮組織の悪性腫瘍細胞と類似した現象として捉えられている[[wj:上皮間葉転換|上皮間葉転換]]が起こっていしまうことも報告されている。
 
 第5染色体の欠損をもつ[[wj:骨髄性白血病|骨髄性白血病]]患者からの細胞[[wj:HL–60|HL–60]]の解析から、&alpha;E–カテニン遺伝子座の[[メチル化]]と[[ヒストン脱アセチル化]]により、その発現が抑制されないままになることがみられている。この&alpha;E–カテニンの発現が維持されたままの細胞では、細胞増殖の低下やアポトーシスによる細胞死が見られている。また、[[wikipedia:ja:アフリカ系アメリカ人|アフリカ系アメリカ人]]の[[wikipedia:ja:乳がん|乳がん]]患者においても&alpha;E–カテニン遺伝子の中に変異が見つかっている。 


====&beta;–カテニン====
====&beta;–カテニン====
 [[wj:家族性大腸がん|家族性大腸がん]]の原因遺伝子である[[がん抑制遺伝子]][[APC]]は、&beta;-カテニンの分解に関わる。それゆえ、大腸がんの細胞では、APCの変異とともに、&beta;-カテニンの分解経路の阻害されており、その結果&beta;-カテニン遺伝子カテニンの核内局在の増加が観察されている。また、後述するように、&beta;-カテニンのリン酸化とがん化が相関していることを合わせると、&beta;-カテニンの分解の制御の乱れががん化を引き起こすと考えられている。しかし、先に挙げた&alpha;-カテニンの免疫染色の減少・消失が見られたほとんどのがん細胞では&beta;-カテニンの核内局在の増加は見られないため、&alpha;-カテニンは、&beta;-カテニンの分解の制御とは独立してがん化抑制に寄与しているという解釈となっている<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:結腸直腸ガン|結腸直腸ガン]]や[[wikipedia:ja:悪性黒色腫|悪性黒色腫]]などの患者の組織では&beta;–カテニンの遺伝子座にいくつかの異なる変異が見つかっている。これらの変異は、[[APC]]やGSK3&beta;による&beta;–カテニンのリン酸化を介した&beta;–カテニン/LEFによる遺伝子発現の制御不全を引き起こし、細胞の異常な増殖、つまりはがん化へと繋がっているのではないかと推察されている。
 [[wikipedia:ja:結腸直腸ガン|結腸直腸ガン]]や[[wikipedia:ja:悪性黒色腫|悪性黒色腫]]などの患者の組織では&beta;–カテニンの遺伝子座にいくつかの異なる変異が見つかっている。これらの変異は、[[APC]]やGSK3&beta;による&beta;–カテニンのリン酸化を介した&beta;–カテニン/LEFによる遺伝子発現の制御不全を引き起こし、細胞の異常な増殖、つまりはがん化へと繋がっているのではないかと推察されている。