カテニン

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林 華子、米村 重信
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 電子顕微鏡解析室
DOI:10.14931/bsd.4468 原稿受付日:2013年11月28日 原稿完成日:2014年3月20日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:catenin 独:Catenin 仏:caténine

 カテニンは、細胞間接着の必須因子である接着分子カドヘリンの中の古典的カドヘリンと複合体(カドヘリン・カテニン複合体)を形成するタンパク質の総称である。カドヘリン・カテニン複合体中のカテニンのうち、α–カテニンは細胞骨格との連結、β–カテニンはカドヘリンとα–カテニンとの結合を担っており、どちらもカドヘリンによる細胞接着に必須である。p120–カテニンはエンドサイトーシスを介してカドヘリンの発現量の調節を行っている。細胞接着とは別の働きとして、β–カテニンはWnt/β–カテニンシグナルにおいて重要な役割を果たし、遺伝子発現調節を行う。α–カテニンも増殖のシグナルを調節する因子として研究が進んでいる。カテニンは脳の形態形成、神経細胞の伸長、シナプス形成などにも重要な働きをしている。

カテニンとは

図1.接着結合におけるカドヘリン・カテニン複合体の模式図
図2.カテニン分子群の主な機能
図3.カテニン分子群のタンパク質一次構造

 カテニンは、古典的カドヘリンの中のE-カドヘリンとの複合体の構成因子の総称である(図1)。

 E–カドヘリンの抗体を用いた免疫沈降反応でE–カドヘリンとともに共沈してくる分子量102kDa、88kDa、80kDaのタンパクがとれ、それぞれをα–カテニン、β–カテニン、γ–カテニンと命名された。それらはE–カドヘリンの細胞質ドメインに 結合して複合体を形成している結果とともに小沢らによって初めて示された[1] 。カドヘリンはアクチンフィラメントを結合している細胞間接着装置、アドへレンス・ジャンクション(adherence junction)の形成に必須な接着分子であり、カテニンはカドヘリンと細胞骨格アクチンフィラメントとの結を担うものと予想され、ラテン語のcatena(chain)からカテニン(catenin)と命名されたという背景があり、カテニンの機能解析は、主に細胞間接着に着目して進められてきた。カテニンはカドヘリンを介した十分な接着活性に必須であることが明らかにされ、細胞間接着における接着分子カドヘリンの制御因子としての重要性が提示されている[2]

 β–カテニンとp120-カテニンとに相当する分子は、上述した小沢らによるカテニン分子群の発見とは独立してほぼ同時に異なる研究者による異なる研究の中からも発見された。ショウジョウバエアルマジロ遺伝子は胚の体節形成に異常を示す変異体のスクリーニングから発見され、Wntシグナル伝達系の転写制御因子として核内においても機能することが知られていた。のちに哺乳類のカドヘリン・カテニン複合体中のβ–カテニンがアルマジロ遺伝子のオーソログであることが判明し、脊椎動物のβ–カテニンにも発生における遺伝子発現において重要な役割があることがわかった[3]

 p120-カテニンは、srcによる形質転換特異的にみられるチロシン残基のリン酸化をうける分子としてReynoldsらによって同定されており、アクチン細胞骨格動態への影響が見られていたこともあり、細胞/細胞外基質間接着との関連性についての解析も展開されていった[4]。そのような流れの中で、細胞接着だけでなく、発生・再生における遺伝子発現制御因子としての重要性が示されている(図2)。同じp120-カテニンファミリータンパク質であるδ–カテニンは家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であるプレセニリン1の相互作用因子の解析から同定された[5]。タンパク質の一次構造レベルでは、β–カテニンとp120-カテニンはアルマジロ反復配列を有するタンパク質として類似性を示し、その配列はさまざまな因子の結合領域として働く(図3)[2]

 このようにカテニン分子は細胞間接着という共通の機能を担う一方で、分子としての性質は多様であり、その性質が各々のカテニン分子の多機能性を生み出していると考えられている。

種類

 カテニンの主要な種類には、α–カテニン、β–カテニン、γ–カテニン(プラコグロビンともいう)、p120/δ–カテニンがある。それぞれにサブタイプが存在する。

表. カテニンの主要な種類
タイプ  サブタイプ  ヒトにおける遺伝子名 データベース上での遺伝子、タンパク質情報 タンパク質立体構造
Protein Data Bank Europeより)
組織におけるタンパク質発現(UniGeneより)
RefSeq UniProt HUGO
α–カテニン αE–カテニン CTNNA1 NM_001903 P35221 ID2509 CTNNA1 全身の多くの組織。扁桃腺での発現は検出されていない。
αN–カテニン CTNNA2 NM_004389 P26232 ID2510 CTNNA2 中枢神経系特異的な発現。
αT–カテニン CTNNA3 NM_013266 Q9UI47 ID2511 データなし 心臓結合組織や脳において特に発現が高い。
β–カテニン β–カテニン CTNNB1 NP_001091679 P35222 ID2514 CTNNB1 全身の多くの組織にて発現あり。脂肪組織副甲状腺、扁桃腺などでは発現は認められていない。
γ–カテニン γ–カテニン
プラコグロビン
JUP XM_005257316 P14923 ID6207 JUP 全身の多くの組織にて発現あり。脂肪組織や副甲状腺、扁桃腺などでは発現は認められていない。
p120–カテニン p120–カテニン CTNND1 NM_001331 O60716 ID2515 CTNND1 全身の多くの組織で発現。ただし、脾臓臍帯などでは発現が認められていない。
δ–カテニン CTNND2 NM_001332 Q9UQB3 ID2516 データなし 脳組織に特異的な発現。

それぞれのカテニン分子のタンパク質発現については、UniGeneの中のEST(expressed sequence tag)を用いて調べた。mRNA相対発現量のプロファイルにおいてゼロと報告されているもののみについて発現がみとめられないと記載した。

α–カテニン

 脊椎動物においては、αE–カテニンαN–カテニンαT–カテニンがこのグループに属する。

構造

 α–カテニンは、タンパク質一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていない[6]。アクチン結合タンパク質であるビンキュリンと塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる[7]。最もN末に位置するVH1でβ-カテニン、VH3でアクチン線維と結合する。また、VH2には、ビンキュリンやアファディンといった他のアクチン結合タンパク質との結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク質結合の制御に重要であると示唆されている。

 立体構造については、VH1やVH2といった断片についてはα–カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よいX線結晶構造解析が行われている[8]。全長についてはαE–カテニンやαN–カテニンどちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている[8]。全長の構造が理解できれば、α–カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。

発現

 カテニンの発現は、多くの組織で認められるものと組織特異的なものとがあり(表)、細胞レベルでは通常、カドヘリンと同様の分布を示す。カテニンはカドヘリンの細胞質領域と結合してカドヘリン・カテニン複合体を作るが、カテニンが結合しうるカドヘリンはE–, N–, VE–カドヘリン等のクラッシックカドヘリンのみである[9]

 αE–カテニンは、扁桃腺での発現は認められていないが、体全身にわたる多くの組織に発現している。αN–カテニンは中枢神経系には特異的に発現している。発生中の中枢神経系では、神経前駆細胞にはαE–カテニンが発現しているが、それが神経細胞に分化するとαE–カテニンの発現は見られなくなり、αN–カテニンが発現するようになる[10]。 αT–カテニンは心臓だけでなく結合組織や脳において高い発現が示されている。細胞レベルではα–カテニンは、細胞質タンパク質として存在するが、主には膜タンパク質であるカドヘリンと細胞質タンパク質β–カテニンとともに複合体を形成することにより、隣接する細胞に接触している細胞膜への局在が顕著である。

機能

 α–カテニンはカドヘリン接着活性に必須な機能をもつ。α–カテニンがβ–カテニンとアクチン線維とに結合するので、接着結合においてカドヘリン・カテニン複合体とアクチン線維との結合を担うと考えられている[10][11]。α–カテニンが発現していなければ、カドヘリンが発現していても、接着分子としてのカドヘリンは実質的に機能せず、接着結合も形成されない。

 α–カテニンはβ–カテニンとはN末端で結合し、C末端ではアクチン線維と結合する。このC末端のアクチン線維結合領域の重要性は、ショウジョウバエの形態形成[12]マウスの発生[12]において示されている。α–カテニンはビンキュリン、エプリンZO-1αアクチニンなどのアクチン結合タンパク質とも結合するので、それらの結合を介して間接的にアクチン線維を連結している可能性もある[6]

 さらに、α–カテニンは、接着結合において細胞間の張力を感知・伝達する分子であることが示され、動的な接着結合形成に重要であると考えられる[13]

 また、αE–カテニンは、細胞間接着の機能とは別に、細胞増殖を負に制御することが知られている。細胞増殖の接触阻止に対する調節に重要なHippoシグナル伝達においては、転写制御を通じて増殖を抑制する[14]。後述するように中枢神経系では、αN–カテニンが神経回路形成を担うシナプス形成や安定性に必要である。大脳皮質における細胞増殖神経突起の伸長の制御を行っているという報告もある[15]

β–カテニン、プラコグロビン

 β–カテニンとプラコグロビンがこのグループに属する。ヒトにおいて両者は高い相同性(76%以上の相同性)をもつ。また、ショウジョウバエのアルマジロとも高い相同性をもつ。

構造

 β–カテニンの一次構造についてはショウジョウバエのアルマジロで見つかった42アミノ酸残基の繰り返し配列(アルマジロ反復配列)が分子のN末端とC末端以外の大部分を占める。β–カテニンタンパク質の全長の立体構造が得られている[16]。この反復配列のほぼその全体にカドヘリンの細胞質領域の細胞膜より遠い部分が結合する。

 E–カドヘリンは、細胞質領域の細胞膜より遠い部分を介して、β–カテニンのアルマジロ配列のほぼ全体に結合する[17]。α–カテニンとは、そのアルマジロ反復配列のもっともN末よりの部分で結合する[17]。他にも、アルマジロ反復配列領域では、転写因子であるTCF/LEFに結合することで、Wntシグナル伝達における転写制御に、また、APCAxinもその反復配列へ結合することで、β–カテニンの分解に関与している。また、アルマジロ反復配列よりもN末側の領域とGSK3βとの結合も存在し、β–カテニンの分解促進に重要であると考えられている。

 プラコグロビンはβ–カテニンの機能を相補しうるが、特徴としてそのN末端部分を介してデスモソームカドヘリンの細胞質部分に結合する。プラコグロビンもβ–カテニンと同様にその中央部分にアルマジロ反復配列をもち、その領域はデスモプラーキンと呼ばれる中間径フィラメント結合タンパク質との結合サイトをもつ。このデスモプラーキンとの結合はデスモソームと中間径線維との連結役として機能していると考えられている[18]

発現

 β–カテニンは一般的に体全身の多くの組織において発現が認められているが、脂肪組織副甲状腺、扁桃腺といって一部の組織では発現が確認されていない。細胞レベルにおいては、β–カテニンは、α–カテニンと同様、細胞質タンパク質であるため、細胞質に一様な局在も示すが、カドヘリンを介した膜への局在が主である。Wntシグナルの活性化状態では、β–カテニンはへの局在が見られるようになる。

 プラコグロビンも、β–カテニンと同様に多くの組織では発現が確認されているが、副腎や、唾液腺脾臓臍帯血管といった一部の組織には発現が確認されていない。細胞レベルでは、デスモソームへの局在が顕著である。

機能

 β–カテニンにはカドヘリン・カテニン複合体中のメンバーとしての細胞間接着への必須な役割と、Wnt/β–カテニンシグナルの転写制御因子としての役割とがある。

細胞間接着

 細胞間接着におけるβ–カテニンの役割は、カドヘリンとα–カテニンとの連結にある[3]。α–カテニンの結合は生化学的に確認されており、E–カドヘリンとともに接着結合に局在するという細胞レベルの知見からも支持されている[17]

 F9細胞ではβ–カテニンをノックアウトしてもプラコグロビンの発現が増加し、カドヘリンによる接着能は維持されるが、プラコグロビンもあわせてノックアウトするとその接着能は失われることが示されている[19]。しかし、カドヘリンが発現していない細胞に、カドヘリンとα–カテニンとを融合したタンパク質を発現させれば、β–カテニンが存在しなくてもカドヘリンの機能は発揮される[20]。これらは、細胞間接着においてプラコグロビンがβ–カテニンの機能を補完する役割を担っており、またβ–カテニンの機能は、α–カテニンをカドヘリンに結合させることであることを示している。

 細胞接着においてプラコグロビンはデスモソ-ムカドヘリンと細胞骨格の一つである中間径フィラメントの結合タンパク質であるプラモプラーキンの両方と同時に結合し、デスモソームの構造体として機能する。プラコグロビンのC末端領域の欠損した培養細胞では、細胞のラテラル面(極性をもつ細胞の頂端と基底部分の間に位置し、隣り合う細胞膜(ラテラル膜)がなす面)でのデスモソームの融合が見られ、結果としてデスモソームのサイズの増大が起こる。また、プラコグロビンは、接着結合とデスモソーム間の分子のクロストークの制御に寄与していることが示唆されている。プラコグロビンのノックアウトマウス心筋組織では接着結合の構成因子とデスモソームの構成因子とが混在した状態でラテラル面に局在するようになってしまう[21]

転写制御

 β–カテニンは、発生における遺伝子発現の制御にも重要な役割がある。Wntシグナルがない状態では、細胞質のβ–カテニン(カドヘリン・カテニン複合体中のものとは別である)はGSK3βによりリン酸化され、それを標的としたユビキチン化により、プロテアソームによるタンパク質分解をうけることで、その量が低く保たれている。Wntシグナルの活性化によりGSK3βによるリン酸化が抑制され、β–カテニンは核内へ移行し、TCF/LEFと複合体を形成し、細胞周期関連因子や体軸決定因子などの標的遺伝子を活性化する[3]。これは、ウニの発生を初めとし無脊椎動物脊椎動物両方において報告されている[3]

 神経系においても、シナプス形成可塑性神経幹細胞の未分化状態の維持など多岐にわたる寄与が報告されている[22][23]。また、プラコグロビンも先に挙げたTCF/LEFと結合でき、核内への局在がみられる状況では、Wnt/β–カテニンシグナル伝達の抑制が同時にみられていることから、実際にはプラコグロビンはβ–カテニンと相互排他的にTCF/LEFへ結合しうり、その結果としてWnt/β–カテニンシグナル伝達の制御を実現していると解釈できる。

p120–カテニン

 p120–カテニンとδ–カテニンがこのグループに属する(p120–カテニンファミリーにはその他複数のタンパク質があるが、ここでは比較的研究歴史の長い2つのカテニンについてのみ紹介する。それ以外のタンパク質については総説[4][24]を参照していただきたい。)。

構造

 p120–カテニンファミリータンパク質の中央領域に見られる10個のアルマジロ反復配列は、カドヘリンの細胞膜に近接した細胞質領域と結合する[24]。p120–カテニンのアルマジロ反復配列に隣接するN末端側の領域は、スレオニン残基のリン酸化サイトが複数存在している。そのさらに隣に位置するN末端にはコイルドコイル配列が存在している。加えて、δ–カテニンは、そのC末端にPDZドメインタンパク質との結合領域を有す。その一例として、グルタミン酸受容体結合タンパク質 (glutamate receptor interacting protein; GRIP)やシナプス後膜直下に形成されるシナプス後肥厚postsynaptic density: PSD)に局在化するPSD-95などがそこに結合する[15]

発現

 p120–カテニンは、多くの組織において強い発現が認められるが、他のカテニンと同様に扁桃腺や臍帯での発現は検出されていない。δ–カテニンは、神経系での強い発現が特徴である。上皮細胞では、p120–カテニンは接着結合を含む、隣接する細胞に接触している細胞膜に濃縮する。δ–カテニンは、成熟した樹状突起のシナプスに強く観察されるが、脳組織の中でもその発現度合いは異なる。大脳皮質や、海馬嗅球では強く発現するが、小脳視床の発現はやや落ちる傾向がみられている。

機能

細胞膜上カドヘリン量の維持

 p120–カテニンは、カドヘリンとの結合を介してカドヘリンのエンドサイトーシスを 抑制し、細胞膜上のカドヘリン量を維持する。p120–カテニンのチロシンリン酸化はp120–カテニンのカドヘリンとの結合解除に寄与する。このカドヘリンのp120–カテニン結合領域内には、そのエンドサイトーシスシグナルが存在し、カドヘリンにp120–カテニンが結合することによって、そのシグナルがマスクされ、その結果としてカドヘリンは細胞内に取り込まれない[25] [26]。カドヘリンの接着活性がない大腸癌由来の細胞株を用いた解析からは、p120–カテニンはカドヘリンと結合することで接着活性を抑制する結合因子であることが示された[27]。カドヘリンの発現量の低下は悪性腫瘍組織でみられる特徴の一つであるが[27]、そのような腫瘍組織のいくつかの種類では、p120–カテニンが細胞膜に局在できないことによってカドヘリンのエンドサイトーシスが亢進されると解釈される[28]

細胞膜直下アクチン線維動態の制御

 また、p120–カテニンは細胞膜直下のアクチン線維動態も制御している。p120–カテニンはアクチン細胞骨格動態の主要な制御因子である低分子量Gタンパク質RhoAと結合し、RhoAの活性化を抑制し、一方で糸状仮足葉状仮足の発達につながる膜直下のアクチン細胞骨格の再編成に必要な他の低分子量Gタンパク質RacCdc42を活性化することで、細胞接着形成の初期段階においてアクチン細胞骨格の再編成を促進すると考えられている[29]。細胞質におけるRhoAとの結合はp120–カテニンのリン酸化に依存している[29]が、先に述べたように、p120–カテニンのリン酸化の増加がカドヘリンの接着活性の低下に働くことを考えあわせると、p120–カテニンのリン酸化の制御は細胞接着と細胞運動の適切な均衡をとるという機構の一つになると考えられる。ラット海馬由来の培養神経細胞においても、上述したp120–カテニンのRhoA、Rac、そしてCdc42の活性制御を介してアクチン細胞骨格動態を活性化させ、神経樹状突起伸長の促進やシナプス可塑性の適切な制御に寄与している[30]

接着結合と微小管との架橋

 p120–カテニンは、PLEKHA7タンパク質、そして微小管マイナス端に局在するNezhaタンパク質を介して接着結合への微小管を繫ぎとめることが示されている[31]

遺伝子発現調節

 また、アフリカツメガエル胚では、p120–カテニンが核内で転写抑制因子Kaisoと結合し、脊椎動物の形態形成に必須なWnt/PCPシグナル伝達系(Wnt/β–カテニンシグナル伝達系とは違うWntシグナル)のxWnt11の遺伝子発現を活性化することが示された[32]。しかし、p120–カテニンの核移行の分子機構(核移行の生理的な場合のトリガーの同定やp120–カテニンのリン酸化との関連など)やxWnt11以外の標的の遺伝子群についてはわかっていない点が多い[33]

シナプスでの機能

 マウスの脳組織における免疫沈降実験から、δ–カテニンはN–カドヘリンとβ–カテニンと結合することが確認され、樹状突起のシナプスに強く観察される。シナプスにおいてカドヘリン・カテニン複合体の一員として機能することが予想される[34]

  ラット神経組織の初代培養細胞では、δ–カテニンはGSK3β、β–カテニンと複合体を形成し、β–カテニンの分解を促進させる機能も有する[35]

 シナプス後細胞では、グルタミン酸受容体結合タンパク質GRIPやシナプス後肥厚部分に局在化するPDS-95との結合が報告されているが、成熟したシナプスにおいてのみδ–カテニンはそれらと局在化する。一方で、シナプスの形成初期では、δ–カテニンの代わりにp120–カテニンがシナプス構造部分に局在する。このようにシナプスの形成過程の中で時期特異的に異なるカテニンが働いて、シグナル伝達の制御をしうる成熟したシナプスが構築されると考えられる[36]

脳におけるカテニンの機能

図4.中枢神経系におけるカテニンの寄与

神経発生

 神経発生時には、神経管の脳室側で未分化細胞が分裂し、表層方向へと移動し、適材適所に細胞が多種のニューロンへと分化し、その種類ごとに住みわけるように脳室面から表層方向に層構造を形成する。ニューロンはネットワークを形成し、神経活動を伝達する。αN–カテニンの欠損マウスでは小脳や海馬において層構造の形成がうまくいかない[37]

 中枢神経系の幹/前駆細胞特異的にαE–カテニンを欠失させると、細胞間接着が形成できず、さらに細胞極性がなくなる。加えて、細胞数の増加、細胞周期の短縮、アポトーシスの減少がみられ、最終的な大脳皮質の厚みや大きさが増す。このノックアウト細胞では、大脳皮質の発生過程において細胞増殖を促進するソニックヘッジホッグシグナル伝達経路が強く活性化している。ノックアウト細胞では、細胞接着の崩壊により細胞密度を物理的に感知できなくなり、細胞は低密度であると感じ続け、ヘッジホックシグナル伝達の活性化を介して細胞増殖を促進し、細胞数の増加そして大脳皮質の過形成へとつながると解釈される。正常な場合は、αE–カテニンは発生過程における細胞増殖に関わるシグナル伝達と細胞間接着の制御とをうまく連動させることで、発生時期の大脳皮質の大きさを調節していると示唆される。これは、αE–カテニンが細胞間接着構造への制御を担うだけでなく、複数のシグナル伝達系を仲介した新たな機能をもつと議論されている[38]

 ゼブラフィッシュの中脳では、Wnt/β–カテニンシグナル伝達系が中脳視蓋のサイズの制御に寄与していることが示されている。LEFによる転写が活性化すると、中脳領域での神経前駆細胞の増殖が促進する。その転写活性の制御が神経前駆細胞の増殖制御を介して中脳視蓋の大きさに影響をもたらすのではないかと考えられている[39]

 成体の海馬にも、神経幹細胞が存在しており、自己複製する一方で、神経細胞などへ分化することで新たな神経細胞となる。Wnt/β–カテニンシグナル伝達系は、海馬では神経幹細胞が神経前駆細胞へと分化するために必須であることがマウスやラットを用いた解析から示されている[40]。海馬の神経幹細胞では、幹細胞から神経細胞への分化を決定する遺伝子の発現を制御するDNA配列があり、転写因子Sox2がそのDNA配列を認識することによりその下流にある遺伝子発現が抑制され、未分化のままを維持できる。しかし、隣接するアストロサイト細胞で産生されたWntにより幹細胞のWnt/β–カテニンシグナル伝達系が活性化すると、β–カテニンが核へ移行し、TCF/LEFとの複合体として、Sox2の認識配列とオーバーラップした領域に結合するようになる。その結果として、その下流の遺伝子発現が活性化され、神経前駆細胞へと分化が誘導される。

成長円錐の伸長

 成長円錐の伸長には、その先端でのアクチン分子の重合の力が利用されている。アクチンの重合が有効に成長円錐の伸長に使われるためには、形成されたアクチン線維が細胞外基質と間接的に連結し、基質に対して動かない必要がある。基質に結合する接着分子とアクチン線維との結合を担う分子をクラッチ分子と呼ぶが(実際にはアクチン線維と接着分子とを強固に結合するのではなく、結合解離を繰り返してアクチン線維は後方へ動くが、そのスピードがアクチン重合よりも遅ければ、成長円錐は伸長できる)、αN–カテニンはクラッチ分子として働くという報告がある。カドヘリン・カテニン複合体とアクチン線維との連結の適切な調節は成長円錐の伸長にも重要である[41]

シナプス形成と可塑性

 シナプスを介した情報伝達に伴ってスパインの形態変化が見られ、それはシナプス形成やシナプス可塑性に関わると考えられている。スパインを形づくる主要な細胞骨格はアクチン線維であり、そこでのアクチン動態はスパインの運動性や形態を動的に変化させ、複数のアクチン結合タンパク質によってそのアクチン動態が制御されている。α–カテニンはスパインの安定化に働いている。αN–カテニン欠損マウスから得られた海馬の神経培養細胞では、N–カドヘリンやβ–カテニンは他のスパインマーカーとともにスパインに局在するが、スパインの形態やその時間変化に異常がみられ、安定的なシナプス構造が維持できない。一方で、αN–カテニンの過剰発現によって、樹状突起上のスパインの数の増加、さらにはスパインの回転頻度が低下する。これらには、αN–カテニンのN末とC末の領域が必要であり、ここでもN–カドヘリン・β–カテニン・αN–カテニン、そしてアクチン線維が一連に繋がることが必須であることが示唆されている[42]

 スパインのシナプス周辺領域では、N–カドヘリン・カテニン複合体による接着構造が形成され、シナプスの安定化に寄与していると考えられる。樹状突起と軸索とがシナプスを形成する際、スパインはもともと動的な糸状仮足様の構造をとっているが、軸索からの活動電位が伝わり、シナプス後膜が興奮性の活動電位を示すようになると、茸型の構造へと変化し、安定化する。逆に、ナトリウムチャネルを阻害することで、活動電位を阻害すると、スパインは安定的な構造から動的な糸状仮足のような構造へと変化する。それと同時に、シナプスからαN–カテニンが消失する。αN–カテニンの過剰発現により、このナトリウムチャネル阻害依存的なスパインの形態変化が緩和される[43][44][45]。このように神経活動によってシナプス接合部においてカドヘリン・カテニン、そして細胞骨格の連結が制御を受け、その結果としてシナプス構造やその安定性の変化、そしてシナプス伝達の制御に寄与しているという考えが提唱されている[42]

 変異型β–カテニンを発現させたマウスの海馬から分離した神経培養細胞では、活性化されたシナプス前膜直下に集積しているシナプス小胞の数の維持にβ–カテニンが重要であることが示された。ここでは、α–カテニンとの結合領域は必要ないので、β–カテニンが細胞接着構造を制御することだけに寄与しているのではないと考えられる[44]。加えて、細胞接着やWnt/β–カテニンシグナル伝達経路とは別に、β–カテニンの新たなシグナル伝達経路が神経情報伝達において利用されていることが、神経初代培養細胞の解析から明らかになった。NMDA型グルタミン受容体が活性化すると、Wntとは関係なく、β–カテニンが切断され、その後はWnt/β–カテニンシグナル伝達経路と同様に核で機能する[46]。p120–カテニンによるRhoA活性の抑制は、樹状突起上のスパインの密度の維持に寄与する[47]

 一方で、N–カドヘリンとp120–カテニンとの複合体の構造解析によって明らかになった両者の結合に重要なアミノ酸残基についての点変異体を発現させた海馬の神経培養細胞では、p120–カテニンがN–カドヘリンと結合できず、スパインの密度やスパインの幅が減少する[15]。δ–カテニンはスパインのサイズや数、形態の維持に必要である[24]

疾患との関わり

神経関連疾患

 もともと、δ–カテニンはプレセニリン1の相互作用因子の解析から同定された[5]染色体上のδ–カテニン遺伝子座を含む領域の欠損は、精神発達遅滞を起こすヒト遺伝病の一つであるネコ鳴き症候群患者に多くみられ、その後のδ–カテニンのノックアウトマウスの解析から、δ–カテニンはその症候群でみられる精神発達遅滞との関連が示唆された。そのノックアウトマウスでは、視覚からの刺激に対する視覚野の応答に障害がみられ、海馬の短期増強長期増強の異常を示す。このノックアウトマウスの発生期のシナプス形成には異常はみられず、生存可能であるが、10週齢になると、大脳皮質のシナプスの密度の減少やシナプスの維持の欠落が見られるようになる。その分子機構はまだ不明であるが、δ–カテニンは、シナプスのスパイン構造の維持で機能することで、正常な認知機能やそれに繋がりうる精神発達に寄与すると示唆されている[48]

 また、小頭症精神遅滞痙攣をもつ患者において、β–カテニン遺伝子座のヘテロ欠損変異が見つかっている。

悪性腫瘍

 カテニン全般的には、神経以外の組織における疾患よりもガンとの関連性がよく議論されている[49][50]

α–カテニン

 卵巣前立腺におけるがん細胞では、α-カテニン遺伝子の変異が見つかっている。また、皮膚由来の扁平上皮組織の悪性腫瘍の患者の半数以上(40検体のうち33検体)ではα-カテニンに対する抗体染色が減少もしくは消失することが報告されている。

 加えて、α-カテニンが発現していない表皮組織の細胞は高い運動性を示したり、移植した状況下ではα-カテニンが発現していないと、それらの細胞では扁平上皮組織の悪性腫瘍細胞と類似した現象として捉えられている上皮間葉転換が起こっていしまうことも報告されている。

 第5染色体の欠損をもつ骨髄性白血病患者からの細胞HL–60の解析から、αE–カテニン遺伝子座のメチル化ヒストン脱アセチル化により、その発現が抑制されないままになることがみられている。このαE–カテニンの発現が維持されたままの細胞では、細胞増殖の低下やアポトーシスによる細胞死が見られている。また、アフリカ系アメリカ人乳がん患者においてもαE–カテニン遺伝子の中に変異が見つかっている。 

β–カテニン

 家族性大腸がんの原因遺伝子であるがん抑制遺伝子APCは、β-カテニンの分解に関わる。それゆえ、大腸がんの細胞では、APCの変異とともに、β-カテニンの分解経路の阻害されており、その結果β-カテニン遺伝子カテニンの核内局在の増加が観察されている。また、後述するように、β-カテニンのリン酸化とがん化が相関していることを合わせると、β-カテニンの分解の制御の乱れががん化を引き起こすと考えられている。しかし、先に挙げたα-カテニンの免疫染色の減少・消失が見られたほとんどのがん細胞ではβ-カテニンの核内局在の増加は見られないため、α-カテニンは、β-カテニンの分解の制御とは独立してがん化抑制に寄与しているという解釈となっている[49]

 結腸直腸ガン悪性黒色腫などの患者の組織ではβ–カテニンの遺伝子座にいくつかの異なる変異が見つかっている。これらの変異は、APCやGSK3βによるβ–カテニンのリン酸化を介したβ–カテニン/LEFによる遺伝子発現の制御不全を引き起こし、細胞の異常な増殖、つまりはがん化へと繋がっているのではないかと推察されている。

p120–カテニン

 p120–カテニンは、多くのがん組織での発現が上昇していることが示されているが、細胞膜にいるE–カドヘリンの量の減少を介して、もしくは細胞接着とは独立した機能を介して起こるのかはまだわかっていない[24]

その他

 ヒトのプラコグロビン遺伝子、JUPの変異は、アミノ酸残基の挿入や欠損といった異なる様式の変異がいくつかの疾患患者で発見された。その一つは、掌蹠角皮症患者において、JUP遺伝子内でアミノ酸残基の欠損によるフレームシフトが起こっており、そのタンパク質として完成することができていないことが、ウェスタンブロットにより示されている。

 催不整脈性の右室心筋症(皮膚への異常は伴わない)を患った人を含むドイツ人の家族において、プラコグロビン遺伝子の変異が見つけられた。その変異は、プラコグロビンのN末端から39番目の場所に余計にセリン残基が挿入されているものだと予想され、さらにこの変異がある病理組織の電子顕微鏡像では、デスモソームのサイズや数の減少が見つかった。プラコグロビン遺伝子内の挿入変異により、デスモソームの構造の制御がうまくいっていない可能性が示唆された他、Wntシグナルを介した経路の制御を阻害している可能性などが他のいくつかの研究結果をもって議論されている。

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