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2014年6月3日 (火) 16:45時点における最新版
若松 義雄
東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野
DOI:10.14931/bsd.1411 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2012年7月5日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)
英語名:epidermal growth factor 英語略称名:EGF 独:epidermaler Wachstumsfaktor 仏:le facteur de croissance épidermique
EGFは、1962年にCohenによってマウス新生仔に注射すると早く目が開き切歯が生えてくる唾液腺抽出物に含まれる活性として報告された[2]。その後、胃酸の分泌を抑制する小腸粘膜由来の物質としてウロガストロンという名前で分子として同定された[3]。53アミノ酸からなるポリペプチドで、1217アミノ酸という大きなグリコシル化された膜貫通型前駆体タンパク質から切り出されて分泌される。この前駆体自身も後述の上皮成長因子受容体に結合することができ、細胞間の接触によってもシグナルの活性化をおこなうことが可能である。
シグナル伝達
EGFは transforming growth factor(TGF)α、amphiregulin、heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)、betacellulin、neu differentiation factorとともにEGFファミリーを形成している。EGFの主要な受容体は、受容体型チロシンキナーゼ上皮成長因子受容体(EGF receptor、EGFR、HER1、erbB-1とも呼ばれる)である[4]。EGF以外にもTGFα、amphiregulin、HB-EGF、betacellulinがEGFRに結合/活性化する。他の受容体型チロシンキナーゼと同様に、活性化されたEGFRは自らのチロシン残基をリン酸化し、これがさまざまなsrc homology 2(SH2)ドメインを持つタンパク質の結合部位となる。活性化されたEGFRに直接結合するタンパク質として、ホスホリパーゼCγ、Ras-GAP、Grb2、Nck、Shc、SHP-2が挙げられる。ホスホリパーゼCγはホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(phosphatidylinositol-4, 5-biphosphate)を分解してジアシルグリセロールとイノシトール1, 4, 5-三リン酸(IP3)を作る。ジアシルグリセロールはプロテインキナーゼCを活性化し、IP3は細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させることでシグナル伝達をおこなう。Grb2はRasを介してMAPキナーゼ経路を活性化させる。EGFはこれらの主要なシグナル伝達経路以外にも、PI3キナーゼ経路やJak/stat経路を活性化することが知られている。
神経系における活性
多くの受容体チロシンキナーゼに対するリガンドと同様、EGFは細胞増殖や細胞の生存を促進する活性を持つ[4]。EGFRのノックアウトマウスでは大脳皮質の神経新生が低下することから、EGFRシグナルが神経前駆細胞の増殖や生存に重要な役割を持っていることが示されている。また、成体ラット脳へのEGF投与は側脳室の脳室下帯(subventricular zone(SVZ))における前駆細胞の増加をうながす。しかし、TGFαのノックアウトマウスでSVZの前駆細胞の増殖が大きく損なわれることから、正常時にSVZの前駆細胞の増殖を活性化しているのは、TGFα/EGFRの組み合わせかもしれない。
一方で、ドーパミン作動性ニューロンの投射がSVZ前駆細胞にコンタクトしており、ドーパミン受容体の活性化によって前駆細胞細胞の増殖を促進していること、SVZの神経前駆細胞自体がEGFを発現しており、EGFRの阻害剤によってドーパミンによる増殖促進効果が抑制されることから、ドーパミンがEGFの発現誘導を介してSVZ神経前駆細胞の増殖を促進している可能性が示唆されている[5]。
ともあれ、実験的に障害を受けた脳幹について、EGFとアルブミンの同時投与が神経新生、特にパルブアルブミン陽性介在ニューロンの増加を促進することが報告されており[6]、EGFの細胞増殖活性の神経系障害治療への応用が考えられる。また、EGFやTGFαは嗅上皮において基底細胞の増殖を促進することも知られている[7]。嗅上皮は成体で継続して神経新生がおきている場所として知られており、大脳側脳室とともにEGFによって細胞増殖が制御されている部位であると考えられる。
前駆細胞だけでなく、一部のニューロンもEGFRを発現しており、さまざまな活性が見られる。培養下において大脳皮質ニューロンに対して生存や神経突起伸長を促す[8]。また、EGFは培養ドーパミン作動性ニューロンの長期生存や神経突起の伸長を促進する。前者については直接ニューロンに働きかけているものであるが、後者についてはアストロサイト(星状細胞)を介した間接的なものであると考えられている。また、EGFはEGFRを発現する海馬由来のニューロンについて、NMDA型グルタミン酸受容体を介した細胞内カルシウムイオンの上昇を促進することから[9]、海馬においてシナプス可塑性の制御に関わっている可能性がある。これに関連して、EGFはラット海馬のスライス培養下でシャッファー側枝や交連繊維(Schaffer/commissural)/CA1 錐体細胞(pyramidal cell)シナプスの長期増強現象(long-term potentiation、LTP)を増加させ、in vivoにおいてラットの貫通線維路/歯状回顆粒細胞(dentate granule cell)シナプスのLTP形成を促進する[10]。
一方、マウス新生仔へのEGFの投与によって、大脳新皮質におけるAMPA型グルタミン酸受容体(GluR1やGluR2/3)の発現上昇が抑制されることや、大脳皮質のスライス培養下でのEGF処理がGABA作動性ニューロンの興奮性シナプス後電流(postsynaptic current)を減弱させることが示されており[11]、ニューロンのタイプによってEGFシグナルのシナプス形成と機能への効果は異なるようである。
参考文献
- ↑
Barnham, K.J., Torres, A.M., Alewood, D., Alewood, P.F., Domagala, T., Nice, E.C., & Norton, R.S. (1998).
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Teramoto, T., Qiu, J., Plumier, J.C., & Moskowitz, M.A. (2003).
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