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担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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白質(はくしつ)とは、[[脳]]と[[脊髄]]からなる中枢神経組織の中で、[[神経細胞]]([[ニューロン]])の[[細胞体]]に乏しく主に[[神経線維]] | 白質(はくしつ)とは、[[脳]]と[[脊髄]]からなる中枢神経組織の中で、[[神経細胞]]([[ニューロン]])の[[細胞体]]に乏しく主に[[神経線維]]が集積し走行している領域である。白質の内部を、髄鞘を有する有髄神経線維とこれを持たない無髄神経線維が走る。髄鞘は、これを形成する稀突起膠細胞の細胞質や細胞外空間をほとんど失い、細胞膜の脂質二重層が幾重にも重なりあうため、その脂質含有率は70%と高い。これにより、灰白質に比べ光の乱反射度が高く白く輝くため、白質とよばれる。 | ||
白質は、[[大脳]]や[[小脳]]では深層を占め、[[大脳髄質]]、[[小脳髄質]]とよばれる(図を参照)。脊髄では、白質は表層を占め、その位置により[[前索]]、[[側索]]、[[後索]]と命名されている。その他の神経領域では、投射系の違いに応じて神経線維が集まって投射路(伝導路)となり、神経組織の特定の部位を走行する。例えば、[[大脳皮質]][[運動野]]から脊髄前角に下行する運動路は、[[間脳]]では[[内包]]、[[中脳]]では[[大脳脚]]、[[橋]]では[[縦橋線維]]、延髄では[[錐体]]を通り、脊髄白質の前索と側索を下行する。しばしば、白質内を走行する投射路は、出発地と到着地の[[灰白質]]や[[神経核]]の名称を用いて、[[皮質脊髄路]]、[[脊髄視床路]]、[[脊髄小脳路]]などと表記される。 | |||
神経細胞は、神経情報の入力部となる[[樹状突起]]、[[核]]を保有する細胞体、神経情報の出力部となる[[軸索]]、[[神経伝達物質]]を貯蔵し放出する[[シナプス前部|終末]]部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、[[有髄神経]]線維を包む[[髄鞘]]([[ミエリン]])が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、髄鞘に選択的な髄鞘タンパク質(例えば[[ミエリン塩基性タンパク質]])や軸索に選択的な分子(例えば[[ニューロフィラメント]])に対する[[免疫組織化学]]を行うことで、容易に同定できる。 | 神経細胞は、神経情報の入力部となる[[樹状突起]]、[[核]]を保有する細胞体、神経情報の出力部となる[[軸索]]、[[神経伝達物質]]を貯蔵し放出する[[シナプス前部|終末]]部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、[[有髄神経]]線維を包む[[髄鞘]]([[ミエリン]])が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、髄鞘に選択的な髄鞘タンパク質(例えば[[ミエリン塩基性タンパク質]])や軸索に選択的な分子(例えば[[ニューロフィラメント]])に対する[[免疫組織化学]]を行うことで、容易に同定できる。 | ||
白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を[[活動電位]]([[インパルス]] | 白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を[[活動電位]]([[インパルス]])として伝導し、高速かつ確実に標的まで到達する。それは、有髄神経線維では特定の部位([[軸索初節]]と[[ランビエ絞輪]])の軸索膜に[[電位依存性ナトリウムチャネル|電位依存性Na<sup>+</sup>チャネル]]や[[電位依存性カリウムチャネル|電位依存性K<sup>+</sup>チャネル]]が高密度に集積し、[[跳躍伝導]]が起こることや、髄鞘自体の高い絶縁性により電位変化の減衰度合いを小さく押さえることによる。しかし、[[多発性硬化症]]などにより、一度形成された髄鞘が何らかの病因により脱落(脱髄)すると、これらの[[イオンチャネル]]の集積化が失われ、無髄神経線維のように広汎な低密度分布様式となる。このような状況では伝導速度が著しく低下し、インパルスが途中で止まり伝導ブロックが発生する。このような白質病変が起こると、末梢で捉えた感覚情報は大脳皮質に伝わらなくなり、大脳皮質が司令する運動情報も[[筋]]に伝わらなくなり、麻痺が起こる。 | ||
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< | #'''渡辺雅彦'''<br>「脳・神経科学入門講座」<br>羊土社、2008年 | ||
#'''ジョンHマーチン著(野村嶬、金子武嗣、監訳)'''<br>「マーチン神経解剖学」<br>西村書店、2007年 | |||
#'''Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessel, Steven Sieqelbaum, AJ Hudspeth'''<br>Principles of Neural Science, 5th edition<br>''McGraw-Hill'', 2012, ISBN 978-0071390118 |
2014年6月26日 (木) 13:41時点における最新版
渡辺 雅彦
北海道大学大学院医学研究科解剖学講座
DOI:10.14931/bsd.3946 原稿受付日:2013年6月14日 原稿完成日:2014年4月7日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)
白質(はくしつ)とは、脳と脊髄からなる中枢神経組織の中で、神経細胞(ニューロン)の細胞体に乏しく主に神経線維が集積し走行している領域である。白質の内部を、髄鞘を有する有髄神経線維とこれを持たない無髄神経線維が走る。髄鞘は、これを形成する稀突起膠細胞の細胞質や細胞外空間をほとんど失い、細胞膜の脂質二重層が幾重にも重なりあうため、その脂質含有率は70%と高い。これにより、灰白質に比べ光の乱反射度が高く白く輝くため、白質とよばれる。
白質は、大脳や小脳では深層を占め、大脳髄質、小脳髄質とよばれる(図を参照)。脊髄では、白質は表層を占め、その位置により前索、側索、後索と命名されている。その他の神経領域では、投射系の違いに応じて神経線維が集まって投射路(伝導路)となり、神経組織の特定の部位を走行する。例えば、大脳皮質運動野から脊髄前角に下行する運動路は、間脳では内包、中脳では大脳脚、橋では縦橋線維、延髄では錐体を通り、脊髄白質の前索と側索を下行する。しばしば、白質内を走行する投射路は、出発地と到着地の灰白質や神経核の名称を用いて、皮質脊髄路、脊髄視床路、脊髄小脳路などと表記される。
神経細胞は、神経情報の入力部となる樹状突起、核を保有する細胞体、神経情報の出力部となる軸索、神経伝達物質を貯蔵し放出する終末部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、有髄神経線維を包む髄鞘(ミエリン)が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、髄鞘に選択的な髄鞘タンパク質(例えばミエリン塩基性タンパク質)や軸索に選択的な分子(例えばニューロフィラメント)に対する免疫組織化学を行うことで、容易に同定できる。
白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を活動電位(インパルス)として伝導し、高速かつ確実に標的まで到達する。それは、有髄神経線維では特定の部位(軸索初節とランビエ絞輪)の軸索膜に電位依存性Na+チャネルや電位依存性K+チャネルが高密度に集積し、跳躍伝導が起こることや、髄鞘自体の高い絶縁性により電位変化の減衰度合いを小さく押さえることによる。しかし、多発性硬化症などにより、一度形成された髄鞘が何らかの病因により脱落(脱髄)すると、これらのイオンチャネルの集積化が失われ、無髄神経線維のように広汎な低密度分布様式となる。このような状況では伝導速度が著しく低下し、インパルスが途中で止まり伝導ブロックが発生する。このような白質病変が起こると、末梢で捉えた感覚情報は大脳皮質に伝わらなくなり、大脳皮質が司令する運動情報も筋に伝わらなくなり、麻痺が起こる。
関連項目
参考文献
- 渡辺雅彦
「脳・神経科学入門講座」
羊土社、2008年 - ジョンHマーチン著(野村嶬、金子武嗣、監訳)
「マーチン神経解剖学」
西村書店、2007年 - Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessel, Steven Sieqelbaum, AJ Hudspeth
Principles of Neural Science, 5th edition
McGraw-Hill, 2012, ISBN 978-0071390118