「固視」の版間の差分

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<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0018141/?lang=japanese 岩本 義輝]</font><br>
<font size="+1">岩本 義規</font><br>
''筑波大学''<br>
''筑波大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月7日 原稿完成日:2019年2月18日<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年5月7日 原稿完成日:2013年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
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== 神経機構 ==
== 神経機構 ==


 固視に関与する脳部位としては、[[上丘]]吻側部の[[fixation zone]] がよく知られている。固視に一致したニューロン活動がみられ、下流の[[サッケード生成回路]]を抑制する。[[前頭葉]]の[[前頭眼野]]にもfixation zoneに相当する領域があり、サッケードの発現を抑制すると考えられている。固視を維持するため、[[外眼筋]]は一定の張力を発生し続ける。これは、眼球位置に比例する[[運動ニューロン]]発射活動によりもたらされる。この持続的活動(眼球位置信号)の入力起源は、[[神経積分器]] neural integratorと呼ばれる神経回路網である。
 固視に関与する脳部位としては、[[上丘]]吻側部の[[fixation zone]] がよく知られている。固視に一致したニューロン活動がみられ、下流の[[サッケード生成回路]]を抑制する。[[前頭葉]]の[[前頭眼野]]にもfixation zoneに相当する領域があり、サッケードの発現を抑制すると考えられている。固視が維持されるためには、眼球位置の指令信号を生み出す[[神経積分器]]の働きが重要である。神経積分器は狭義には[[脳幹]]の神経機構であるが、その正常な動作には[[小脳]]が必要である。
 
 眼球運動に先立ち脳内ではまず眼球速度信号が作られ、それをもとに眼球位置信号が形成され、両者が運動ニューロンに伝えられる<ref name=ref1> '''Robinson D. A.'''<br>Oculomotor control signals. In: Basic Mechanisms of Ocular Motility and their Clinical Implications, edited by G. Lennerstrand and P. Bach-y-Rita<br>''Pergamon Press'', New York 1975, p. 337–374</ref><ref name=ref2>'''Leigh RJ and Zee DS'''<br>The Neurology of Eye Movements. 5th Ed<br> ''Oxford University Press''. Philadelphia, 2015</ref>。神経積分器は速度情報から位置情報への変換(時間積分)を担うもので、基本的に脳幹の神経機構であるが、その正常な動作には小脳が必要である。水平眼球運動系の積分器は[[舌下神経]][[前位核]]・[[前庭神経]]核、また垂直眼球運動系のそれは[[カハール間質核]]・前庭神経核を中心とした神経回路で構成されると考えられている<ref name=ref3><pubmed>7062103</pubmed></ref><ref name=ref4><pubmed>2725860</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>2341885</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>2341886</pubmed></ref><ref name=ref7><pubmed>7056334</pubmed></ref><ref name=ref8><pubmed> 1410443</pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed>10085347</pubmed></ref><ref name=ref10><pubmed>10797008</pubmed></ref><ref name=ref11><pubmed> 3443967</pubmed></ref><ref name=ref12><pubmed>3585473</pubmed></ref><ref name=ref13><pubmed>7931540</pubmed></ref>。
 
 脳幹や小脳の病変で神経積分器の機能が損なわれると、[[gaze-evoked nystagmus]] と呼ばれる特徴的な[[注視障害]]が見られる<ref name=ref10 /><ref name=ref11 /><ref name=ref12 /><ref name=ref13 />。最近、積分器を構成するニューロンの[[神経伝達物質]][[受容体]]やその役割について研究が進んでいる<ref name=ref14><pubmed>26936981</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>29975163</pubmed></ref>。


== 追跡眼球運動との関係 ==
== 追跡眼球運動との関係 ==
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==参考文献==
==参考文献==
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(文献を御願い致します)

2015年4月16日 (木) 11:48時点における版

岩本 義規
筑波大学
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年5月7日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:一戸 紀孝(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)

英語名:visual fixation、fixation、steady fixation 独:Fixation 仏:fixation

同義語:注視

 鮮明な視覚を得るために視覚空間内の目標に視線を固定すること。眼球運動系、視覚系でよく用いられる術語。

固視とは

 われわれの眼の網膜には視野内のさまざまな物体の像が映し出されている。一方、網膜の視力は一様でなく網膜中心部のある一カ所(網膜中心窩)で際立って高い。また、鮮明な視覚を得るためには像が網膜上でほぼ静止する必要がある。従って、目標をよく見るためにはその像を中心窩に移動させ、そこに固定する必要がある。像の中心窩への移動を担うのがサッケード眼球運動サッケード)であり、その後の像の固定を実現するのが固視の仕組み (fixation system)である。別の言葉で言えば、サッケードにより視線が対象に移動し、固視により視線が対象に固定されるということになる。

 術語としては「固視」が正しいが、「注視」と言った方がわかりやすいことが多い。但し、注視麻痺というような場合の「注視」には目標への視線移動という意味が含まれている。

神経機構

 固視に関与する脳部位としては、上丘吻側部のfixation zone がよく知られている。固視に一致したニューロン活動がみられ、下流のサッケード生成回路を抑制する。前頭葉前頭眼野にもfixation zoneに相当する領域があり、サッケードの発現を抑制すると考えられている。固視が維持されるためには、眼球位置の指令信号を生み出す神経積分器の働きが重要である。神経積分器は狭義には脳幹の神経機構であるが、その正常な動作には小脳が必要である。

追跡眼球運動との関係

 固視は、追跡眼球運動 smooth pursuit eye movementの特殊なケース(つまり速度ゼロの smooth pursuit)とみなせるだろうか。それとも追跡眼球運動とは別に、独立したfixation system が存在するのだろうか。この問題は長年議論されているが、未だ結論が出ていない。

マイクロサッケード

 鮮明な視覚のためには対象の像が網膜上でほぼ静止することが必要であると述べたが、実際は固視中も0.1-0.3° 程度のサッケードが生じている。これは順応による視力低下を防ぐためと考えられている。針に糸を通す時のように一点をじっと見ること (steady fixation) が要求される条件ではマイクロサッケードが抑制される。

関連項目

参考文献

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