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ミラー・ニューロンとは、[[w:Giacomo Rizzolatti|Rizzolatti]]ら<ref name=ref1><pubmed>1301372</pubmed></ref>の研究においてサルの腹側運動前野および下頭頂小葉で見つかった、自分が行為を実行するときにも他者が同様の行為をするのを観察するときにも活動するニューロンである。単に行為の視覚特性に反応しているのではなく、行為の意図まで処理していることが示唆されており、他者の行為の意味の理解・意図の理解などとの関与が提案されている。ヒトの相同領域でも、ミラー・ニューロンと解釈できる活動が示されている。 | |||
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その後の研究で、ミラー・ニューロンは単に行為の[[視覚]]特性に反応しているのではなく、より深く行為を処理していることが示されている。例えば、手で物を掴む行為の観察で活動するミラー・ニューロンは、掴む動作をあらかじめ見せておけば、行為の途中経過を隠しても反応することが示された<ref name=ref3><pubmed>11498058</pubmed></ref>。ピーナッツの殻を剥くという行為の実行・観察で活動するミラー・ニューロンが、行為で生じる音を聞くときにも活動することが示された<ref name=ref4><pubmed>12161656</pubmed></ref>。同じ餌を掴む行為でも、自分の口に運ぶか容器に入れるかといった目標の違いで活動が異なることが示され、行為の意図まで処理していることが示唆された<ref name=ref5><pubmed>19805419</pubmed></ref>。 | その後の研究で、ミラー・ニューロンは単に行為の[[視覚]]特性に反応しているのではなく、より深く行為を処理していることが示されている。例えば、手で物を掴む行為の観察で活動するミラー・ニューロンは、掴む動作をあらかじめ見せておけば、行為の途中経過を隠しても反応することが示された<ref name=ref3><pubmed>11498058</pubmed></ref>。ピーナッツの殻を剥くという行為の実行・観察で活動するミラー・ニューロンが、行為で生じる音を聞くときにも活動することが示された<ref name=ref4><pubmed>12161656</pubmed></ref>。同じ餌を掴む行為でも、自分の口に運ぶか容器に入れるかといった目標の違いで活動が異なることが示され、行為の意図まで処理していることが示唆された<ref name=ref5><pubmed>19805419</pubmed></ref>。 | ||
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ヒトでもミラー・ニューロンと解釈できる脳活動が示されている。 | ヒトでもミラー・ニューロンと解釈できる脳活動が示されている。 | ||
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2015年7月16日 (木) 09:40時点における版
佐藤 弥
京都大学 霊長類研究所
DOI:10.14931/bsd.5486 原稿受付日:2014年12月11日 原稿完成日:2014年月日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)
英:mirror neuron 独:Spiegelneuron 仏:neurones miroirs
ミラー・ニューロンとは、サルの腹側運動前野および下頭頂小葉で見つかった、自分が行為を実行するときにも、他者が同様の行為をするのを観察するときにも活動するニューロンである。ヒトの相同領域でも、ミラー・ニューロンと解釈できる活動が示されている。他者と自分の行為を対応づけることから、行為理解・意図理解などの機能を実現すると提案されている。
ミラー・ニューロンとは
ミラー・ニューロンとは、Rizzolattiら[1]の研究においてサルの腹側運動前野および下頭頂小葉で見つかった、自分が行為を実行するときにも他者が同様の行為をするのを観察するときにも活動するニューロンである。単に行為の視覚特性に反応しているのではなく、行為の意図まで処理していることが示唆されており、他者の行為の意味の理解・意図の理解などとの関与が提案されている。ヒトの相同領域でも、ミラー・ニューロンと解釈できる活動が示されている。
サルでの研究
ミラー・ニューロンは、Rizzolattiらの研究において発見された[1]。
彼らは、サルを対象として手や顔の動きと関係があることが知られていた腹側運動前野のF5野において、手で物を掴むといった行為の実行中のニューロン活動を単一細胞記録で調べていた。すると偶発的に、研究者が手で物を拾うといった行為をサルが観察する際にも、これらのニューロンが活動することが示された(図1)。いろいろな動作に対する反応を調べた結果、ニューロンは実行する行為と観察する行為が対応するときに活動することが分かった。こうしたニューロンは、他者の行為を観察者の脳内に映し出しているように見えることから、後にミラー・ニューロンと名付けられた[2]。
その後の研究で、ミラー・ニューロンは単に行為の視覚特性に反応しているのではなく、より深く行為を処理していることが示されている。例えば、手で物を掴む行為の観察で活動するミラー・ニューロンは、掴む動作をあらかじめ見せておけば、行為の途中経過を隠しても反応することが示された[3]。ピーナッツの殻を剥くという行為の実行・観察で活動するミラー・ニューロンが、行為で生じる音を聞くときにも活動することが示された[4]。同じ餌を掴む行為でも、自分の口に運ぶか容器に入れるかといった目標の違いで活動が異なることが示され、行為の意図まで処理していることが示唆された[5]。
また、手だけでなく顔に対する反応も見つかっており、食物摂取における口の動きやコミュニケーションにおける口の動きの実行および観察に関与するミラー・ニューロンが報告されている[6]。
行為の実行・観察での活動および目標による活動の違いを示すミラー・ニューロンは、下頭頂葉でも見つかっている[7]。また上側頭溝には、自分の行為の実行では活動しないものの、他者の行為の観察において活動するニューロンが存在することが報告されている[8]。こうした知見、および解剖学的な結合関係から、上側頭溝・下頭頂葉・腹側運動前野がミラー・ニューロン・システムを形成していると提案されている[9]。
ヒトでの研究
ヒトでもミラー・ニューロンと解釈できる脳活動が示されている。
例えば、刺激研究から、被験者に他者の手の動作を見せると見せない場合に比べて、運動野の磁気刺激による手の筋肉からの運動誘発電位が増強されることが示され、動作の観察と実行を対応づけるシステムの関与が示唆された[10]。
機能的脳画像研究から、手の動作を観察するときに、ヒトにおいてサル腹側運動前野の相同領域とされる下前頭回(45野)が活動することが示された[11]。また、指の動きを見るときおよび模倣するときのどちらも、下前頭回(44野)が活性化することが示された[12]。
脳磁図研究から、他者の口の動きを観察するとき、他者の口の動きを模倣するとき、自発的に口を動かすとき、どの場合にも下前頭回および下頭頂小葉(ブロードマン40野が活動することが示された[13]。
機能
ミラー・ニューロンの関与する機能として、多くの提案および支持する証拠が提出されている。
例えば、サルを対象とした研究では、ミラー・ニューロンが自分と他者の行為を対応づけることから、他者の行為の意味を理解する機能を持つと提案された[1]。
また、サルを対象とした研究において、同じ行為でも目標の違いでミラー・ニューロンの活動が異なることから、行為の背後にある意図の理解に関与すると提案された[7]。
他者と心理状態を共有しうるポテンシャルから、ミラー・ニューロンは共感を実現すると提案された[14]。これを支持する知見として、ヒト脳損傷研究から、下前頭回の損傷により表情からの情動認識が障害されることが報告されている[15]。
ヒトにおける機能的脳画像研究において、意図的模倣で下前頭回の活動が高まったことから、ミラー・ニューロンは模倣に関与すると提案された[12]。
サルの腹側運動前野がヒトのブローカ野に対応することなどから、ミラー・ニューロンが言語処理に関与すると提案された[16]。これを支持する知見として、舌を強く動かす音声を聞いているときに弱く動かす音声の場合と比べて、運動野の磁気刺激による舌筋肉の運動誘発電位が増強されることが示されている[17]。
批判
ミラー・ニューロンについては、知見の解釈や提案された機能について批判も提出されており、現在でも議論は続いている[18]。例えば、Hickok[18]は、サルのミラー・ニューロンが他者の行為の理解に関与するといった機能の提案は、損傷研究などで実証的に支持されたものではないことを指摘している。Catmurら[19]は、機能的脳画像研究において、訓練によって非ミラー的な観察と実行の組み合わせ(足の動作の観察と手の動作の実行など)で運動前野および下頭頂小葉が活性化することを示し、ミラー・ニューロンの反応は知覚と運動の連合学習で獲得されるもので、必ずしも自分と他者の同じ行為を対応づけるものではないと提案している。
疾患との関連
自閉症スペクトラム障害群においての模倣に障害が見られることなどから、ミラー・ニューロンの機能不全が自閉症スペクトラム障害の神経基盤となると提案された[20]。これを支持する知見として、機能的脳画像研究から、自閉症スペクトラム障害群では定型発達群と比べて、表情に対する模倣での下前頭回の活動が弱いことが報告されている[21]。
関連項目
- [[]]
外部リンク
参考文献
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