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正式名称: シナプス局在性Ras-GTP加水分解活性化タンパク
正式名称: シナプス局在性Ras-GTP加水分解活性化タンパク
英語正式名称: Synaptic [[Ras]]-GTPase activating protein
英語正式名称: Synaptic Ras-GTPase activating protein
英語略称、タンパク質名:SynGAP
英語略称、タンパク質名:SynGAP


{{box|test= SynGAPは、ポストシナプスに局在するRasGAPタンパク質であり、CaMKIIの下流においてRasの活性を制御することで、シナプス可塑性に関与している。C末端のCoiled-CoilドメインやPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95と共に液体-液体相転移現象を起こし、シナプス後膜肥厚 (postsynaptic density; PSD) という脂質二重膜を持たない細胞内小器官の生化学的基盤を提供していると考えられている。}}
{{box|text= SynGAPは、ポストシナプスに局在するRasGAPタンパク質であり、CaMKIIの下流においてRasの活性を制御することで、シナプス可塑性に関与している。C末端のCoiled-CoilドメインやPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95と共に液体-液体相転移現象を起こし、シナプス後膜肥厚 (postsynaptic density; PSD) という脂質二重膜を持たない細胞内小器官の生化学的基盤を提供していると考えられている。}}
 
 
== イントロダクション ==
== イントロダクション ==
 SynGAP (Synaptic Ras-GTPase Activating Protein 1)は、シナプスに高度に蓄積するRasGAPタンパク質であり(Fig. 1)、CaMKIIの下流においてシナプス内のRasの活性を制御することで<ref name=Chen1998><[[pubmed]]>9620694</pubmed></ref><ref name=Kim1998><pubmed>9581761</pubmed></ref> 、シナプス可塑性(長期増強)の発現に深くかかわっている<ref name=Kim2003><pubmed>12598599</pubmed></ref><ref name=Komiyama2002><pubmed>12427827</pubmed></ref> 。Ras-GAP (GTPase activating protein)として、基底状態ではRasに結合したGTPの加水分解を促進する([[GTP]]->[[GDP]])ことで、Rasの活性化を阻害しているが、NMDAR-CaMKIIシグナルに依存してリン酸化されることでシナプス外に移動し、結果的にNMDAR依存的にシナプスでのRasの活性化を誘導する(Fig.2A)。これにより、AMPARのポストシナプスへの挿入やスパインの肥大化を引き起こす<ref name=Araki2015><pubmed>25569349</pubmed></ref> 。
 SynGAP (Synaptic Ras-GTPase Activating Protein 1)は、シナプスに高度に蓄積する低分子GTP結合タンパク質Rasに対するGTPase活性化蛋白質 (RasGAP)であり('''図1''')、CaMKIIの下流においてシナプス内のRasの活性を制御することで<ref name=Chen1998><pubmed>9620694</pubmed></ref><ref name=Kim1998><pubmed>9581761</pubmed></ref> 、シナプス可塑性(長期増強)の発現に深くかかわっている<ref name=Kim2003><pubmed>12598599</pubmed></ref><ref name=Komiyama2002><pubmed>12427827</pubmed></ref> 。Ras-GAP (GTPase activating protein)として、基底状態ではRasに結合したGTPの加水分解を促進する([[GTP]]->[[GDP]])ことで、Rasの活性化を阻害しているが、NMDAR-CaMKIIシグナルに依存してリン酸化されることでシナプス外に移動し、結果的にNMDAR依存的にシナプスでのRasの活性化を誘導する(Fig.2A)。これにより、AMPARのポストシナプスへの挿入やスパインの肥大化を引き起こす<ref name=Araki2015><pubmed>25569349</pubmed></ref> 。


 PSDタンパクのマススメクトロメトリーによる解析によると、SYNGAP1はCaMKII/27.8 and 4.7 pmol/20 μg)に次いでシナプス内で3番目に濃度の高いタンパク質(∼2.1 pmol/20 μg) であり、主要な足場蛋白質PSD-95(1.73 pmol/20 μg; 4番目)よりも存在比が大きく、シグナル伝達以外での役割の解明が待たれていた<ref name=Cheng2006><pubmed>16507876</pubmed></ref><ref name=Sheng2007><pubmed>17243894</pubmed></ref> 。またSynGAPはそのPDZリガンドを介し、PSD-95をシナプスにクラスタリングさせる調節因子であることもわかっていた<ref name=Nonaka2006><pubmed>16421296</pubmed></ref> 。2016年、C末端のCoiled-coilドメインとPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95とともに水層より液体―液体相転移現象を起こし、Condensed phaseを形成することが明らかにされた。この相転移が、脂質二重膜を持たないPSDという細胞内小器官の物質的基盤を提供している可能性が示唆された(Fig.2B)<ref name=Zeng2018><pubmed>30078712</pubmed></ref><ref name=Zeng2016><pubmed>27565345</pubmed></ref> 。
 PSDタンパクのマススメクトロメトリーによる解析によると、SYNGAP1はCaMKII/27.8 and 4.7 pmol/20 μg)に次いでシナプス内で3番目に濃度の高いタンパク質(∼2.1 pmol/20 μg) であり、主要な足場蛋白質PSD-95(1.73 pmol/20 μg; 4番目)よりも存在比が大きく、シグナル伝達以外での役割の解明が待たれていた<ref name=Cheng2006><pubmed>16507876</pubmed></ref><ref name=Sheng2007><pubmed>17243894</pubmed></ref> 。またSynGAPはそのPDZリガンドを介し、PSD-95をシナプスにクラスタリングさせる調節因子であることもわかっていた<ref name=Nonaka2006><pubmed>16421296</pubmed></ref> 。2016年、C末端のCoiled-coilドメインとPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95とともに水層より液体―液体相転移現象を起こし、Condensed phaseを形成することが明らかにされた。この相転移が、脂質二重膜を持たないPSDという細胞内小器官の物質的基盤を提供している可能性が示唆された(Fig.2B)<ref name=Zeng2018><pubmed>30078712</pubmed></ref><ref name=Zeng2016><pubmed>27565345</pubmed></ref> 。