「病識」の版間の差分

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: insight 独: einsicht 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0030547 池淵 恵美]</font><br>
''帝京平成大学大学院臨床心理学研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年1月17日 原稿完成日:2012年2月2日 一部修正日:2014年10月13日 全面改訂:2021年7月1日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座)<br>
</div>


: insight 独: Krankheiteinsicht
同義語: 疾病認識、障害認識、病覚、attitudes about illness、awareness of illness
 
 
 病識の定義としては、[[wikipedia:JA:ヤスパース|Jaspers]]<ref name=ref1>'''Jaspers,K.(内村祐之、西丸四方、島崎敏樹、岡田敬蔵訳)'''<br>精神病理学総論<br>''岩波書店''、東京、1953</ref>の定義「人が(疾病についての)自己の体験に対し、観察し判断しながら立ち向かうことを疾病意識とし、そのうちの”正しい構えの理想的なもの”が病識とされる」(筆者による要約)や、Lewis<ref>'''Lewis, A.'''<br>The psychopathology of insight<br>''J Medical Phychology:'' 1934, 14:332-348</ref>の定義「自己の中におこった疾病による変化への正確な態度であり、直接知覚できるもの(変化が起こっている)と、二次的なデータに基づくもの(変化があるに違いない)がある」などがよく知られている。林<ref>'''林直樹'''<br>疾病認識の評価<br>''精リハ誌:'' 2001, 5:102-105</ref>はJaspersの定義にそって、患者一般の側から見た疾病認識がまずあり、その一部として病識(精神医学の立場から見た評価)があることを指摘した。Markovaら<ref><pubmed>1617369</pubmed></ref>は、病識はself-knowledge(自己に影響を与える事柄についての知識)の一部であるので、単に精神障害についての知識や罹患したことに関わる事実の知識があるだけでは不十分で、外界および内界からの情報によって自己全体に与える影響が組み立てられるとしている。
 
 こうした諸家の見解をもとに池淵<ref>'''池淵恵美'''<br>「病識」評価<br>''精神医学:'' 2004, 46:806-819</ref>は、「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚をひろく障害認識と呼び、障害認識についてそれが医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものを病識と呼んだ(図1)。障害認識や病識と専門家の認知に乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。たとえば、「前よりも感情がわかず、喜怒哀楽が薄くなった」と感じるのは障害認識のレベルであり、それを何らかの精神障害に基づく症状として自覚できているかどうか、その正確さによって専門家が病識の程度を判定することになる。本論では上記の意味で「病識」を使っていくが、しかし文献によって「病識」という言葉が指し示す内容は異なることがあるので留意が必要である。


同義語: 疾病認識、障害認識、病覚、attitudes about illness、awareness of illness
[[ファイル:障害認識と病識.png|thumb|400px|図1 障害認識と病識]]
 
 障害認識及び病識は、異なる成因からなる多要因の概念であると近年は考えられるようになっている。たとえばDavid<ref name=David_J_Psychiatry><pubmed>2207510</pubmed></ref>,<ref name=David_J_Psychiatry1><pubmed>1422606</pubmed></ref>は病識の概念を二分して、「何らかの疾患に罹患しており、それが精神障害であること」と、「特定の精神的な変化の体験を病的であると認識できる能力」とした。また両概念とも、「あり」「なし」の二分法では記述できないこと、両概念の相互関連性は必ずしも高くないことを示した。そしてこれまでのさまざまな研究における病識欠如の出現率は評価方法と、評価している時期に依存していることを指摘した。Amadorら<ref name=amador_schizophr_bull><pubmed>2047782</pubmed></ref>,<ref name=amador_Am_J_Psychiatry><pubmed>8494061</pubmed></ref>は、病識はひとまとまりの症状群ごとに検討されるべき modality-specificなものであり、障害認識及び病識は少なくとも以下の4次元から成り立っていると主張している。
# 精神症状や症候や疾病のもたらす変化についての認識
# 疾病についての帰属、および症状や起こってくる変化についての帰属
# 自己概念形成
# 心理的防衛
 
 池淵ら<ref>'''池淵恵美、安西信雄、米田衆介ほか'''<br>精神分裂病の病識に影響を与える要員について<br>''日本社会精神医学雑誌:'' 2000, 9:153-162</ref>は、[[ICD-10]]によって統合失調症と診断された31例(社会復帰病棟に入院中の慢性例)を対象に、複数の尺度による評価を試み、3因子(治療遵守と疾病の認識因子、服薬理由の因子、精神症状認識の因子)を抽出した。
 
== 歴史的背景 ==
 
 19世紀に[[wikipedia:JA:クレペリン|Kraepelin]]が[[早発性痴呆]]について記載したときにすでに、疾患の重症度について自覚されないことが典型的であるとし、Bleuler,E.もSchizophrenienの呼称を定めた時点で、自己の病態の認識に欠けることを指摘している。1973年のWHOによる国際的な[[wikipedia:JA:コホート研究|コホート調査]]では、[[統合失調症]]と診断された者のうち病識の欠如が97% に認められたと報告されるなど、統合失調症の疾病特異的な病態であると認識されてきており、病識のことを述べるときにはまず統合失調症が連想される。[[双極性気分障害]]での報告など、他の精神障害についても病識の問題は見られるが、本文においてはもっとも研究報告が多い統合失調症における病識に的を絞って記載している。


{{box|text=「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚のうち、医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものが病識であり、近年ではclinical insightと呼ばれるようになっている。専門家からの認識と乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。特にこれは統合失調症で顕著で、しばしば治療抵抗性であり、予後の悪さとも関連性が高い。1990年代に客観的評価方法が開発され、脳機能や社会文化的要因との関連性についての研究が増加した。そしてclinical insight と並んで、メタ認知機能と関係の深いcognitive insightが注目され、介入プログラムが開発されているがまだ成果は十分ではない。病識は多要因であり、心理的な否認、医学的症状への誤った認知、スティグマを伴う社会的立場への反応なども関与している。心理教育や認知行動療法などとともに、cognitive insightへの薬物療法も特に慢性期において効果が不十分である。急性期から主観的な体験に寄り添って支援し、回復して来たら仲間とともに心理教育に参加し、さらに個々人の志向に沿ってメタ認知トレーニングや認知行動療法に参加することが望ましい。家族心理教育も重要である。}}
 1990年代になると病識についての操作的基準による量的・多次元的評価尺度が発達し、実証的研究が活発となった。Amadorら<ref name=amador_schizophr_bull><pubmed>2047782</pubmed></ref>やMarkovaら<ref name=Markova_comprehensive><pubmed>7497711</pubmed></ref>によれば、病識の評価方法は以下の5種類がある。
# 1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分される。
# 1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載する方法で、[[Mental Status Examination]]がその例である。
# 1970-80年代に用いられた、患者の自由な陳述を一定の評価基準に基づいて採点する方法。1973年に行われたWHOによる国際研究もこの方法で行われた。
# 一定の設問への応答を評価基準に基づいて採点する方法。1990年代に実証的研究に使われるようになり、The Schedule for Assessment of Insight (SAI)<ref name=David_J_Psychiatry1><pubmed>1422606</pubmed></ref>, The Scale to Assess Unawareness of Mental Disorder (SUMD)<ref name=amador_Am_J_Psychiatry><pubmed>8494061</pubmed></ref>がその代表である。
# 一定の設問に対し、多項選択で回答するもの。


==病識とは==
 時代によって統合失調症の診断基準が変化することと、病識の評価方法も変化していることから、たとえば病識欠如の出現率などの調査は時代の制約を受けることになる。本論では主に1990年代以後の実証的手法を用いた研究報告をとりあげている。
 1882年に[[w:Arnold Pick|Pick]]がinsightについて「精神状態やその一部の病的な状態について患者がある程度明確に認識していること」と述べている。さらに1914年に[[wj:ジョゼフ・ババンスキー|Babinsky]]による[[半身まひ]]の患者の[[病態失認]](anosognosia)の報告があった。その後1934年に[[w:Aubrey Lewis|Lewis]]<ref name=Lewis1934>'''Lewis, A. (1934).'''<br>The psychopathology of insight.<br>''Br J Medical Psychology''.14:333-348 [https://doi.org/10.1111/j.2044-8341.1934.tb01129.x PDF]</ref>が精神疾患で見られる病識欠如について記載し、「病識は自身の中におこる病気に伴う変化に正しく対応し、疾患は精神面で起こっていることを現実認識するもの」と定義し、病識概念が明確になった。


 病識の評価方法は、1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分されていた。その後、Mental Status Exam が1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載した。1990年代になると操作的に定量する尺度である、[[The Schedule for the Assessment of insight-Expanded]] ([[SAI-E]]) <ref name=David1992><pubmed>1422606</pubmed></ref><ref name=酒井佳永2000>'''酒井佳永、金吉晴、秋山剛他 (2000)<br>''':病識評価尺度 (The Schedule for Assessment of Insight)日本語版 (SAI-J)の信頼性と妥当性の検討. ''臨床精神医学'' 29:177-183</ref>, [[The Scale of Assessment of Unawareness of Mental Disorder]] ([[SUMD]])<ref name=Amador1993><pubmed>8494061</pubmed></ref>が開発され、実証的研究が広がった。SAI-Eを開発したDavidらは、①何らかの変化があり[[精神疾患]]に基づくと考える、②治療に従う、③精神病症状を認識できる、の3要素がそれぞれ相対的に独立していることを実証した。この3要素は主に専門家の視点で治療の面から評価されるものであり、clinical insight(臨床面での病識)と呼称されるようになっている。
 病識についての客観的評価方法が提案されるようになった時期より、後述する病識と脳機能との関連についての実証的研究がおこなわれるようになっている。


 1990年代より、患者の主観的体験 (subjective experience)に関心がもたれるようになり、自記式の評価尺度が複数開発されている。Beckらによる[[The Beck Cognitive Insight Scale]] ([[BCIS]]) <ref name=Beck2004><pubmed> 15099613</pubmed></ref>は、誤認識の気づきとその修正可能性などの[[メタ認知]]機能を測定する尺度である。メタ認知機能は、それより低位の認知機能についてモニターやコントロールを行う機能と想定され(メタ認知の言葉は多義的であり、学問の領域によって異なる定義がされていることに留意する必要がある)、精神疾患の影響を受ける。Beckらの尺度では、自己認識とその確信度を測定して、その総合点をcognitive insight(自己認識の面での病識)と呼び、clinical insightと区別した。
== 病識欠如の成因 ==
=== 認知機能障害モデル ===
 [[wikipedia:Babibski|Babinski]]や[[wikipedia:Gerstmann|Gerstmann]]が早くから記載しているように、主に[[左半身麻痺]]の人において、「[[麻痺]]があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋<ref>'''大橋博司'''<br>「疾病失認」(または疾病否認)について<br>''精神医学:'' 1963, 5:123-130</ref>はAnosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、[[左片麻痺]]の際の麻痺の否認や、[[Anton症状]]などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や[[失行]]の際に見られる機能欠損についての無関心Anosodiaphorieや、[[半側無視]]症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は[[多幸]]的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。


 病識についての研究は、[[統合失調症]]をはじめ精神病症状を持つ障害について主に行われてきたが、2000年代に入り、[[双極性障害]]、[[神経性食思不振症]]、[[認知症]]などの様々な精神疾患で研究が行われるようになり、疾患により機序は異なるものの、結果としてclinical insightがそこなわれることが明瞭になった。
 以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として[[認知機能障害]]を想定することが近年行われるようになっている。


 Konsztowiczら<ref name=Konsztowicz2018><pubmed>29530378</pubmed></ref>は、165名の統合失調症を対象に、SUMDとSAI-Eを用いた準構造面接を行い、[[The Birchwood Insight Scale]] ([[BIS]]) <ref name=Birchwood1997><pubmed>9403906</pubmed></ref>とBCISを実施し、探索的因子分析を行ったところ、5因子が抽出された。固有値が大きなものから並べると、「疾病の認識と治療」「症状とその影響」「自己確信度」「客観性と誤謬傾向の認識」「誤謬傾向の気づきと修正可能性」となった。客観的な評価である clinical insight(疾病の認識と治療、病状とその影響)と、自己認識の他覚的評価であるcognitive insightがそれぞれ独立に抽出され、そのうちの4,5番目の因子はメタ認知の機能を反映していると考えられる。
 病識欠如という現象をセルフモニタリングの障害として想定する考え方がある。自分の状態を意識する(メタ表象)ためには、ある行動を行うときに一定の目標を自覚しつつ、途中経過を評価し修正することができる(現実の一次表象の照合作業)ことが前提とされ、[[作動記憶]][[中央実行系]]の機能であると考えられている<ref>'''川崎康弘'''<br>統合失調症の認知障害と前頭葉<br>''臨床精神医学:'' 2003, 32:369-375</ref>。そして中央実行系が障害されると、自発性の減少、保続、場当たり的な行動の増加がおこることが知られ、両側の背外側[[前頭前野]]の関与が大きいと考えられている。Amadorら<ref name=amador_Am_J_Psychiatry><pubmed>8494061</pubmed></ref>は、障害認識は modality-specificなものであるので、ある特定の高次連合野の障害というよりは、[[言語]]、[[知覚]]、[[記憶]]などの機能の各単位と、[[作動記憶]]のような中心的な[[意識野]]との[[連合]]が不十分ではないかと推論している。
 
 メタ認知は受信した情報を集約し、内的な世界と統合する機能と考えられているが、メタ認知の機能が高いほど、clinical insightやcognitive insightが良好であり、症状の重症度とは独立していることが報告されている<ref name=Lysaker2011><pubmed>20696482</pubmed></ref>。Vohs<ref name=Vohs2015><pubmed>25900550</pubmed></ref>もメタ認知とclinical insight との相関は明確であるとしている。


== 病識に影響を与える諸要因 ==
 一方、[[前頭前野]]内側部が自己の感情状態、[[思考]]、自己の性格特性など自分自身の主観的状態を含む[[内的表象]]と密接に関連していることから<ref>'''十一元三'''<br>広汎性発達障害と前頭葉<br>''臨床精神医学:'' 2003, 32:395-404</ref>、この部位の関与も推定できる。なお Parelladaら<ref><pubmed>20884756</pubmed></ref>は初回エピソード精神病患者(統合失調症圏53例、それ以外57例)を踏査し、[[前頭葉]]および[[頭頂葉]][[灰白質]]の減少が2年後の精神病症状についての病識と有意に相関することを報告している。
=== 防衛機制 ===
 歴史的に見れば、英語圏では病識は力動精神医学の視点から[[防衛機制]]と考えられてきた時代がある。[[精神病後抑うつ]]もその視点から解釈された。防衛機制の考え方は、病識欠如の一部を説明しており、実際のケースに治療的関わりを行っていく上で、現在でも有用であろう。
=== 神経認知機能 ===
 主に左半身麻痺の人において、「[[麻痺]]があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、ある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。1990年代には、[[神経認知機能]]が統合失調症の人の社会機能に大きな影響を与えるとして注目され、病識の客観的な尺度の開発と相まって、複数の実証的研究が報告された。しかし近年のメタ解析では、病識と神経認知機能の関連は小さいと報告されている<ref name=Nair2014><pubmed>24355529</pubmed></ref>。Cognitive insight についても同様である。そして、単一の神経認知機能では病識をうまく説明できないとして、2010年代には[[社会認知]]やメタ認知との関連性を検討する研究が増えてきた。Pijnenborgら<ref name=Pijnenborg2020><pubmed>32569706</pubmed></ref>は、21研究を[[メタ解析]]して、clinical insightは脳の特定の部位との関連は見出されず、全脳の[[灰白質]]及び[[白質]]の縮小と、前頭部の灰白質の減少と関連していたとしている。そもそも clinical insight は多様な脳機能を基盤にしていると思われる。一方cognitive insight は[[海馬]]及び[[背外側前頭前野]]の構造や機能との関連が見いだされ、自己に関連した情報を保持したり統合する機能と関連していると考えられる。


=== 精神障害についてのスティグマ ===
 これまでの実証的研究では、Youngら<ref><pubmed>8398943</pubmed></ref>は、31例の統合失調症患者を対象に、前頭葉機能を反映すると[[ウィスコンシン・カード分類課題]](WCST)、[[verbal fluency test]]、[[trail making test]]を実施し、現在の症状に対する認識と誤った帰属(SUMDによる評価)とが、WCSTの成績低下と相関していたことを報告しているなど、前頭葉機能と病識との関連を報告したものが多くみられる。
 病識と[[スティグマ]]の関連については複数の報告があり<ref name=Vidovic2016><pubmed>27333714</pubmed></ref>、clinical insight は文化圏によって異なってくるという報告がある<ref name=Berg2018><pubmed>26663787</pubmed></ref>。文化圏での受け止め方は直接に影響を与えるだけでなく、家族、友人など身近な人たちの精神疾患への態度となって、大きな影響を与える


=== 誤った認知の影響 ===
 Queeら<ref><pubmed>21097989</pubmed></ref>は270例の非感情病圏の精神病患者を調査し、神経認知機能よりも社会的認知機能のほうが病識との関連性が高いことを報告し、情動認識や相手の心を推測する機能が関連している可能性について述べているなど、社会的認知の脳科学の発展に伴い、それとの関連で病識欠如の成因を想定しようとする考え方が見られるようになっている。
 [[認知療法]]を統合失調症に適用する過程で整理されてきた考え方であり、[[幻覚]]や[[妄想]]への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすと考える<ref name=Pogodina1975><pubmed>2002</pubmed></ref>。そして誤った認知に基づく病識も false beliefs(誤信念)となる。Birchwood<ref name=Birchwood2000><pubmed>10824654</pubmed></ref>は、幻覚によって生じる行動や感情は、患者が幻覚に対して抱いている信念 - 特に幻覚の力や権威に対してのもの - によっており、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けることを報告した。


=== 精神障害についての体験学習(治療体験) ===
=== 防衛機制モデル ===
 隔離や拘束などの精神医療のネガティブな体験を理解・受容できないなかで、精神障害そのものを否定しようとすることは臨床ではしばしば観察される。


=== 精神症状 ===
 歴史的に見れば、英語圏ではMayer-Grossをはじめとして、障害認識ないしは病識は[[力動精神医学]]の視点からは[[防衛機制]]であり、防衛にはいくつかの側面があり、回復とともに変化すると考えられてきた。また障害認識を表明するためには、ある程度の教育や知的能力、自己表現する言語能力、[[情動]]的な耐性などが必要であり、[[幻聴]]などのように単一症状として考えるべきではなく、人格と切り離すことはできないとの見解がある<ref name=Markova_comprehensive><pubmed>7497711</pubmed></ref>。[[妄想]]を述べる患者がそれにしたがった行動はとらないなど、なんらかの乖離が現実にしばしば見られるところにも、防衛機制の存在を指摘する考え方が行われてきた。
 幻覚や[[妄想]][[解体症状]][[陰性症状]]などは病識との関連は弱い<ref name=Pousa2017><pubmed>28237605</pubmed></ref>。しかし抑うつ症状はその中では関連性がみられ、"insight paradox"(病識における逆説)と呼ばれている<ref name=BelvederiMurri2015><pubmed>25631453</pubmed></ref>。ただし精神症状と病識との関連についての研究の結果は必ずしも一貫しておらず、病識は精神症状とは相対的に独立した事象と考えるべきかもしれない。


=== メタ認知機能 ===
 Amadorら<ref name=Amador1991><pubmed>2047782</pubmed></ref>は、障害認識はある特定の[[高次連合野]]の障害というよりは、[[言語]]、[[知覚]]、[[記憶]]などの機能の各単位と、[[作動記憶]]のような中心的な[[意識野]]との連合が不十分ではないかと推論している。メタ認知(自身や他者の行っていることや考えを統合的に表象する能力)が病識の形成に影響しているとの研究報告が近年増えている<ref name=Gaweda2015><pubmed>25775947</pubmed></ref>。


=== 多要因モデル ===
=== 精神障害についての体験・学習モデル ===
 病識の複数の構成要素には、それぞれ様々な要因が影響している。Vohsら<ref name=Vohs2018><pubmed>29108671</pubmed></ref><ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>)は、精神症状、神経認知、社会認知、メタ認知、スティグマがそれぞれ病識の低下に関連していると述べている。脳機能の変化によって外界の認識が変性し、奇妙な体験と感じたり、他者の内界を共感することができなくなったりすることが起こり、自己と世界との統合的な理解が障害されることが中軸にあり、心理社会的要因がそれを修飾しているのではないかと考えられる。病識欠如と脳構造を調査した研究では、さまざまな部位の体積低下(前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部、[[視床]]、[[基底核]]、[[小脳]]など)との関連が報告されている<ref name=Lysaker2013><pubmed>23898850</pubmed></ref>。特に初発の統合失調症においては、[[前頭前野]]、[[側頭葉]]内側部、[[前頭前野眼窩部]]の灰白質の減少と病識欠如との関連性が報告されている<ref name=Shenton2010><pubmed>20954428</pubmed></ref>。


== 病識への治療的介入とその効果 ==
 精神障害についての知識が不十分であるときに、自己の中に疾病のために起こってきた変化に対して誤った対応や態度をとることが起こりうる。特に精神障害への根強い偏見がある場合には、自己に起こった事柄は容易には精神障害として認識されえないだろう。ここでわかるように、気づかないことと、誤った知識を持つことと、否認など気づきを抑制することとは互いに反する事柄ではなく、相互に関連を持っている。Macpherson ら<ref><pubmed>8773813</pubmed></ref>は64例の統合失調症患者に調査を行い、SAIにより評価した障害認識を従属変数とした重回帰分析を行ったところ、治療についての知識とこれまでの教育年数とが有意な寄与を示した。
=== 薬物療法 ===
 初発統合失調症への薬物療法の大規模な効果試験 The European First Episode Schizophrenia Trial (EUFEST)<ref name=Pijnenborg2015><pubmed>25907250</pubmed></ref>の二次解析で、455名の病識の改善度を[[陽性・陰性症状評価尺度]] ([[Positive and Negative Syndrome Scale]], [[PANSS]])のG12項目(現実検討と病識の評価項目)で検討したところ、急性症状の改善と並行して、特に治療開始3か月で明らかな改善が見られた。しかしPhahladira ら<ref name=Phahladira2019><pubmed>30385130</pubmed></ref>は、105名の初発の統合失調症圏(妄想性障害や統合失調感情障害を含む)の人を回復過程に沿って評価したところ、PANSS・G12項目は精神症状の回復とともに有意に改善したが、患者の評価したThe Birchwood Insight Scale(BIS)は、治療の必要性についての下位尺度のみが改善し、精神疾患についての気づきや、症状の原因帰属は有意な改善が見られなかった。Clinical antipsychotic trials of intervention effectiveness (CATIE)試験<ref name=Ozzoude2019><pubmed>30172739</pubmed></ref>の中で、373名の統合失調症について、PANSS・G12の改善は、血中濃度から推定した[[ドーパミン]][[D2受容体]]の占拠率からは予測することができなかった。


=== 個人精神療法 ===
 認知療法では「誤った認知」モデルが仮定されている。[[幻覚]]や妄想への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすというものである<ref>'''丹野義彦'''編著<br>認知行動療法の臨床ワークショップ<br>''金子書房''、東京 2002</ref>。幻聴については、まず幻覚が体験され、それについての認知(悪意的な解釈と善意的な解釈の双方がある)があるが、幻覚と認知との関連はそれほど強くない一方で、認知に引き続いて引き起こされた感情と行動には密接な連関があるという。Birchwood<ref><pubmed>9403906</pubmed></ref>,<ref><pubmed>10824654</pubmed></ref>は、幻覚によって生じる行動や感情は、幻覚の形式や内容ではなく、患者が幻覚に対して抱いている信念ー特に幻覚の力や権威に対してのものーによっており、この信念は幻覚への適応過程の一部であり、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けること、幻覚への従属は患者の社会関係におけるふるまい方と関連していることを報告している。妄想についても同様に、きっかけとなる出来事についての誤った認知、すなわち妄想的思考が問題であり、その誤った推論や誤った理由づけに対して治療的アプローチが可能と考えられている。
 治療関係の中で[[不安]]や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、病識へと高めていく[[個人精神療法]]のアプローチがこれまで行われてきた。Ruschら<ref name=Rusch2002><pubmed>12171279</pubmed></ref>は、[[動機づけ面接]] (motivational interviewing)で、個人的なゴール(たとえば服薬遵守)をめざす上での負担と利益や、そのためのさまざまなサービスの有利な点や不利な点を本人の立場から丁寧に検討することで、治療への動機を高めることを企図し、討論を避け共感を持って傾聴することの重要性について述べている。


 1990年代より心理教育が活発に行われるようになると、個人精神療法はあまり顧みられなくなったが、近年再びメタ認知や cognitive insight などを高める目的の個人精神療法が注目されている。重い精神障害を持つ人の内省力を高めるために開発されたmetacognitive reflection and insight therapy, MERITは、無作為割り付け統制試験において、clinical insight が通常治療と比較して有意に改善することが報告されている<ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>。Lysakerら<ref name=Lysaker2015><pubmed>26121151</pubmed></ref>は、病識欠如は複雑でトラウマになるかもしれない体験を妥当に認識できない状態であり、自らの体験を人生の中に位置づけるときに、明確な病識を持つことができるとし、単に精神疾患の情報を教育するだけでは、病識は改善しないとしている。Vohsら<ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>は、これまでの多くの病識モデルでは、患者は受け身で人生を生きており、彼らに病気について教育する必要があると考えられてきたが、実際は病識が形成されるということは、個々の人生に自分なりに道筋をつけていく能動的な過程であると述べている。
=== 多要因・複数成因モデル ===


 病識欠如と治療の中断は関連が高いと考えられているが、Lysaker<ref name=Lysaker2013><pubmed>23898850</pubmed></ref>らは、うまく治療同盟を結べない理由として、当事者の特徴ではなく、病識に乏しい当事者に対する、治療者のネガティブな反応が考えられるとしている。
 障害認識及び病識はいくつかの要因から成り立っている概念であり、すでに述べてきた複数の成因の相互作用によって形成されるのではないかと考えられる。しかしどのような要因があるのか、またそれぞれの要因についてどのような成因が考えられるのか、さらにはこれらがどのように関連し合っているのかなどについてはまだ十分な研究報告がなく、これからの検討にゆだねられている。Gillenら<ref><pubmed>20851850</pubmed></ref>は31例の統合失調症の患者を調査して、障害認識の程度は、認識の対象となる症状によって異なり、神経認知機能障害に対する認識のほうが、精神症状に対する認識よりも保たれているとしたが、その逆の報告<ref><pubmed>19840898</pubmed></ref>も見られるなど、まだ一定しない。


=== 心理教育 ===
== 治療 ==
 精神障害の症状や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは clinical insightを育てることが目的となっている。個人精神療法の役割が気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能にしていくといえよう。


 2011年のCochraneレビュー<ref name=Xia2011><pubmed>21678337</pubmed></ref>では、1998~2008年に行われた44件の無作為割り付け統制研究をメタ解析し、通常の情報提供のみと比較して、再発や再入院の有意な減少、および服薬遵守の有意な向上を認めた。しかしLincolnら<ref name=Lincoln2007><pubmed>17826034</pubmed></ref>はメタ解析から、心理教育によって知識が増え、clinical insight の一部が改善しても、それが当事者の日常の生活に役立てられて、長期的な転帰が改善するところまでは達成できていないとしている。Cognitive insightへの介入を並行して実施する必要があるのかもしれない。
 近年はさまざまな社会的資源が整備されてきているが、病識が不十分な場合にはこうしたせっかくの資源も利用に至らず、結果として社会的孤立の道を歩むことになる。治療面でも、McEvoyら<ref><pubmed>2564330</pubmed></ref>が指摘するように、ほかの精神症状が改善してもしばしば病識が一緒に改善しないことがあるなど、病識欠如は治療抵抗性であり、予後の悪さとも関連性が高い。


=== 認知行動療法 ===
 病識は多要因であり、成因も複数であることが考えられるため、個々の症例での丁寧なアセスメントにそって治療的アプローチを組み立てていくことが必要であろう。そのために治療効果についての実証的な研究には工夫が求められる。
 [[認知行動療法]]では、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、改善の標的とする。Woodら<ref name=Wood2016><pubmed>27256518</pubmed></ref>は、内的スティグマへの認知行動療法、[[心理教育]]、[[社会生活スキルトレーニング]](social skills training, SST)もしくはこれらを組み合わせた心理社会的介入についてメタ解析を試み、自己効力感と病識が有意な改善を示したとしている。


=== 相互受容のアプローチ ===
 薬物療法では[[クロザピン]]で病識が改善したとの報告<ref><pubmed>10482343</pubmed></ref>が見られるものの、まだ十分に検討されていない。
 仲間体験を通して、精神障害やそれに伴うさまざまなハンディの受容をはぐくむ[[集団アプローチ]]や、[[セルフヘルプ]]の体験は、clinical insight の形成に有用と思われる。安永<ref name=安永浩1988>'''安永浩 (1988).'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ ''精神科治療学'' 3:43-50</ref>は、障害認識を[[姿勢覚]]になぞらえた上で、「この機能が多少とも進歩、分化するためには他者の運動観察とその取り入れ(同一化と再同一化)がきわめて重要である」と述べている。Rommeら<ref name=Romme1989><pubmed>2749184</pubmed></ref><ref name=Romme1996>'''Romme MAJ, Escher ADMAC. (1996)''': Empowering people who hear voices. In: G. Haddock, P.D.Slade eds. Cognitive-Behavioral Interventions with Psychotic Disorders. pp137-150, Routledge, London [https://doi.org/10.4324/9781315812663-8]</ref>は人々の「[[幻聴]]とのつきあい方」を調べて、幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、幻聴などと共存して生活している人たちがいることから、ヒアリング・ヴォイシーズと名付けたセルフヘルプの会を広めた。


=== 社会認知やメタ認知への介入 ===
 治療関係の中で不安や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、障害認識そして病識へと高めていく個人精神療法のアプローチは重要である。安永<ref name=Yasunaga_seishinkagakuchuryougaku>'''安永浩'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ<br>''精神科学治療学:'' 1988, 3:43-50</ref>は、病覚ないしは病識を[[姿勢覚]]になぞらえ、内部図式の知覚であり、[[運動感覚]]的なもの、運用感覚であるとし、細部を知覚することはむしろ必要がなく、かんどころ、いわば関節部分が抑えられればよい、と述べた。そして以下のような精神療法の提言を行っている。「(病覚ないし病識の)認識の対象は外にあるものではない。自分のみのうち、精神身体空間の内部にある何者かである」「そのアナロジー(類推)として、「身のこなし」の感覚がやりやすい」と述べている。
 Gawedaら<ref name=Gaweda2015><pubmed>25775947</pubmed></ref>は、[[メタ認知トレーニング]] (Metacognitive training)によって、clinical insightが改善したことを報告している(精神病症状、[[心の理論]]、理解力のバイアスには改善がなかった)。無作為割り付け統制研究で、cognitive insight に有意な改善は見られなかったなど、ネガティブな結果が複数みられる。Philippら<ref name=Philipp2019><pubmed>30456821</pubmed></ref>は、メタ認知への介入試験49件についてメタ解析しているが、Metacognitive trainingは[[認知機能リハビリテーション]]よりも有効であった。Pijnenborgら<ref name=Pijnenborg2019><pubmed>30429078</pubmed></ref>は、病識を改善するための介入(REFLEXと名付けられている)を開発したが、REFLEX実施群と認知機能リハビリテーション群ともに、終了直後及び追跡期間に、Clinical insightが改善し、群間差は認めなかった<ref name=Pijnenborg2019><pubmed>30429078</pubmed></ref>。


 メタ認知や社会認知への介入治験は、おおむねサンプルサイズが小さく、さらに検証が必要な段階にある。
 精神障害の症状や経過や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは病識を育てる上で重要であろう。Jaspers<ref name=ref1></ref>は"pseudo-insight"、すなわち「病気の説明をさまざまな理論から単に受け売りしている状態」を指摘した。しかしDavid<ref name=David_J_Psychiatry><pubmed>2207510</pubmed></ref>は、「こうしたpseudo-insightも、混乱した患者の中に何らかの秩序を見いだし、本来の疾病の自覚へと導くプロセスを開始する可能性がある」と指摘している。個人精神療法の役割が、安永に習って「自分のみのうちにある何らかのもの」への気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能なものとし、対処方法を見つけていくことを可能にするアプローチといえよう。 


=== 認知機能リハビリテーション ===
 持続的な精神症状や後遺障害への対処スキルや、薬物療法と協同していくためのさまざまなスキル形成をねらう認知行動療法のアプローチや、近年研究報告の増えている幻覚や妄想への認知療法によって、障害認識や病識を認知・行動のレベルで形成していくアプローチも有用と思われる。認知行動療法の視点からは、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、ひとつひとつの対処行動を改善の標的とする。たとえば服薬を中断してしまうことを取り上げても、さまざまな対処スキルが関係する。
 Lalovaら<ref name=Lalova2013><pubmed>23199566</pubmed></ref>は、63例の外来患者を、基本的な認知機能、[[自伝的記憶]]、メタ認知を標的とする3群に振り分けたが、3群ともclinical insight に改善がみられ、さらに自伝的記憶群とメタ認知群では、症状への気づき、症状の原因帰属などがより改善していた。神経性食思不振症においては、やせへのこだわりが顕著で、思考の柔軟性が乏しいところから、認知機能リハビリテーションが試みられている。


=== 環境や社会への介入 ===
 仲間体験を通して、精神障害やそれに伴うさまざまなハンディの受容をはぐくむ集団アプローチや、セルフヘルプの体験も有用であろう。心理教育や認知行動療法はしばしば集団で行われ、そのために集団であることによるさまざまな治療的要因が活用できる。安永<ref name=Yasunaga_seishinkagakuchuryougaku>'''安永浩'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ<br>''精神科学治療学:'' 1988, 3:43-50</ref>は、障害認識を姿勢覚になぞらえた上で、他者との交流のもたらす治療的要因を以下のように述べている。「この機能が多少とも進歩、分化するためには、他者の運動観察とその取り入れ(同一化と再同一化)がきわめて重要である」「意識の目を他者に移してみること、他者(の身)になってみること、他者を「了解」しようと努力することである。それらがことごとく、実は同時に自己内部を見ていることになっていく」と述べている。集団の治療的要因についての、精神療法の側面からの視点といえるだろう。
 Angermeyerら<ref name=Angermeyer2001><pubmed>11381474</pubmed></ref>によれば、1996年に世界精神医学会(World Psychiatric Association, WPA)による統合失調症への偏見と差別を減少させる取り組みが始まっている。地域の中で統合失調症を持つ人と出会う市民は、彼らのユニークな行動に戸惑うこともあり、単に一緒の地域で暮らすだけではなく、積極的に彼らをサポートし、彼らの苦労や回復への希望を知っていくことが大切と考えられている<ref name=Stamm1976><pubmed>2012</pubmed></ref>。差別には、直接的なもの、制度によるもの、内的な偏見があるが、それぞれ治療内容のモニターに当事者や家族も加わる仕組みや、制度の策定に彼らも参加できる仕組みや、セルフヘルプグループなどが試みられている。Morganら<ref name=Morgan2018><pubmed>29843003</pubmed></ref>は重い精神障害を持つ人たちへの偏見の改善を試みた62件のランダム化比較試験(randomized controlled trial, RCT)のメタ解析を行い、障害者と接触する機会を設けることや心理教育は、小さい~中程度の効果がみられるが、どの程度改善が持続するのかについては課題が残るとしている。
 
=== 包括的な介入 ===
 これまで述べてきたように、病識は多要因であり、介入も情報提供だけでは不十分と考えられる。Guoら<ref name=Guo2010><pubmed>20819983</pubmed></ref>は、認知行動療法、家族療法、心理教育、スキルズトレーニングの組み合わせで、通常の治療と比較して、病識や治療への態度がより大きく改善することを報告している。こうした介入は、病相期に沿って計画的に実施される必要があるだろう。


==註==
 Rommeら<ref><pubmed> 2749184 </pubmed></ref>,<ref>'''Romme, M.A.J., Escher,A.D.M.A.C.'''<br>Empowering people who hear voicesHearing voices.<br>''G. Haddock,P.D.Slade eds. Cognitive-Behavioural Interventions with Psychotic Disorders.:'' 1996, pp137-150</ref>は人々(患者とは限らない)の「幻聴とのつきあい方」を調査し、34%が「幻聴とうまくつきあえている」と答えていたが、これらの人の多くは幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、共存していこうとする見方をとっていた。社会のスティグマがないところでは、障害認識や病識はより形成されやすいと彼らは考えている。したがって社会のスティグマを減らす努力が求められているし、精神障害の程度にかかわらず仲間に受け入れられ、精神病体験も共感をもって受け止められる体験の中で、自身の体験を受容し対処していく中で、障害認識・病識ははぐくまれると考えられる。
 本項は、池淵恵美:統合失調症の「病識」を再考する。''精神医学'' 63:395-414, 2021 を参照して書かれたものである。医学書院許可済み。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
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(執筆者:池淵恵美 担当編集委員:加藤忠史)

2012年4月3日 (火) 13:41時点における版

英: insight 独: einsicht 

同義語: 疾病認識、障害認識、病覚、attitudes about illness、awareness of illness


 病識の定義としては、Jaspers[1]の定義「人が(疾病についての)自己の体験に対し、観察し判断しながら立ち向かうことを疾病意識とし、そのうちの”正しい構えの理想的なもの”が病識とされる」(筆者による要約)や、Lewis[2]の定義「自己の中におこった疾病による変化への正確な態度であり、直接知覚できるもの(変化が起こっている)と、二次的なデータに基づくもの(変化があるに違いない)がある」などがよく知られている。林[3]はJaspersの定義にそって、患者一般の側から見た疾病認識がまずあり、その一部として病識(精神医学の立場から見た評価)があることを指摘した。Markovaら[4]は、病識はself-knowledge(自己に影響を与える事柄についての知識)の一部であるので、単に精神障害についての知識や罹患したことに関わる事実の知識があるだけでは不十分で、外界および内界からの情報によって自己全体に与える影響が組み立てられるとしている。

 こうした諸家の見解をもとに池淵[5]は、「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚をひろく障害認識と呼び、障害認識についてそれが医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものを病識と呼んだ(図1)。障害認識や病識と専門家の認知に乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。たとえば、「前よりも感情がわかず、喜怒哀楽が薄くなった」と感じるのは障害認識のレベルであり、それを何らかの精神障害に基づく症状として自覚できているかどうか、その正確さによって専門家が病識の程度を判定することになる。本論では上記の意味で「病識」を使っていくが、しかし文献によって「病識」という言葉が指し示す内容は異なることがあるので留意が必要である。

図1 障害認識と病識

 障害認識及び病識は、異なる成因からなる多要因の概念であると近年は考えられるようになっている。たとえばDavid[6],[7]は病識の概念を二分して、「何らかの疾患に罹患しており、それが精神障害であること」と、「特定の精神的な変化の体験を病的であると認識できる能力」とした。また両概念とも、「あり」「なし」の二分法では記述できないこと、両概念の相互関連性は必ずしも高くないことを示した。そしてこれまでのさまざまな研究における病識欠如の出現率は評価方法と、評価している時期に依存していることを指摘した。Amadorら[8],[9]は、病識はひとまとまりの症状群ごとに検討されるべき modality-specificなものであり、障害認識及び病識は少なくとも以下の4次元から成り立っていると主張している。

  1. 精神症状や症候や疾病のもたらす変化についての認識
  2. 疾病についての帰属、および症状や起こってくる変化についての帰属
  3. 自己概念形成
  4. 心理的防衛

 池淵ら[10]は、ICD-10によって統合失調症と診断された31例(社会復帰病棟に入院中の慢性例)を対象に、複数の尺度による評価を試み、3因子(治療遵守と疾病の認識因子、服薬理由の因子、精神症状認識の因子)を抽出した。

歴史的背景

 19世紀にKraepelin早発性痴呆について記載したときにすでに、疾患の重症度について自覚されないことが典型的であるとし、Bleuler,E.もSchizophrenienの呼称を定めた時点で、自己の病態の認識に欠けることを指摘している。1973年のWHOによる国際的なコホート調査では、統合失調症と診断された者のうち病識の欠如が97% に認められたと報告されるなど、統合失調症の疾病特異的な病態であると認識されてきており、病識のことを述べるときにはまず統合失調症が連想される。双極性気分障害での報告など、他の精神障害についても病識の問題は見られるが、本文においてはもっとも研究報告が多い統合失調症における病識に的を絞って記載している。

 1990年代になると病識についての操作的基準による量的・多次元的評価尺度が発達し、実証的研究が活発となった。Amadorら[8]やMarkovaら[11]によれば、病識の評価方法は以下の5種類がある。

  1. 1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分される。
  2. 1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載する方法で、Mental Status Examinationがその例である。
  3. 1970-80年代に用いられた、患者の自由な陳述を一定の評価基準に基づいて採点する方法。1973年に行われたWHOによる国際研究もこの方法で行われた。
  4. 一定の設問への応答を評価基準に基づいて採点する方法。1990年代に実証的研究に使われるようになり、The Schedule for Assessment of Insight (SAI)[7], The Scale to Assess Unawareness of Mental Disorder (SUMD)[9]がその代表である。
  5. 一定の設問に対し、多項選択で回答するもの。

 時代によって統合失調症の診断基準が変化することと、病識の評価方法も変化していることから、たとえば病識欠如の出現率などの調査は時代の制約を受けることになる。本論では主に1990年代以後の実証的手法を用いた研究報告をとりあげている。

 病識についての客観的評価方法が提案されるようになった時期より、後述する病識と脳機能との関連についての実証的研究がおこなわれるようになっている。

病識欠如の成因

認知機能障害モデル

 BabinskiGerstmannが早くから記載しているように、主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋[12]はAnosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、左片麻痺の際の麻痺の否認や、Anton症状などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や失行の際に見られる機能欠損についての無関心Anosodiaphorieや、半側無視症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は多幸的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。

 以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として認知機能障害を想定することが近年行われるようになっている。

 病識欠如という現象をセルフモニタリングの障害として想定する考え方がある。自分の状態を意識する(メタ表象)ためには、ある行動を行うときに一定の目標を自覚しつつ、途中経過を評価し修正することができる(現実の一次表象の照合作業)ことが前提とされ、作動記憶中央実行系の機能であると考えられている[13]。そして中央実行系が障害されると、自発性の減少、保続、場当たり的な行動の増加がおこることが知られ、両側の背外側前頭前野の関与が大きいと考えられている。Amadorら[9]は、障害認識は modality-specificなものであるので、ある特定の高次連合野の障害というよりは、言語知覚記憶などの機能の各単位と、作動記憶のような中心的な意識野との連合が不十分ではないかと推論している。

 一方、前頭前野内側部が自己の感情状態、思考、自己の性格特性など自分自身の主観的状態を含む内的表象と密接に関連していることから[14]、この部位の関与も推定できる。なお Parelladaら[15]は初回エピソード精神病患者(統合失調症圏53例、それ以外57例)を踏査し、前頭葉および頭頂葉灰白質の減少が2年後の精神病症状についての病識と有意に相関することを報告している。

 これまでの実証的研究では、Youngら[16]は、31例の統合失調症患者を対象に、前頭葉機能を反映するとウィスコンシン・カード分類課題(WCST)、verbal fluency testtrail making testを実施し、現在の症状に対する認識と誤った帰属(SUMDによる評価)とが、WCSTの成績低下と相関していたことを報告しているなど、前頭葉機能と病識との関連を報告したものが多くみられる。

 Queeら[17]は270例の非感情病圏の精神病患者を調査し、神経認知機能よりも社会的認知機能のほうが病識との関連性が高いことを報告し、情動認識や相手の心を推測する機能が関連している可能性について述べているなど、社会的認知の脳科学の発展に伴い、それとの関連で病識欠如の成因を想定しようとする考え方が見られるようになっている。

防衛機制モデル

 歴史的に見れば、英語圏ではMayer-Grossをはじめとして、障害認識ないしは病識は力動精神医学の視点からは防衛機制であり、防衛にはいくつかの側面があり、回復とともに変化すると考えられてきた。また障害認識を表明するためには、ある程度の教育や知的能力、自己表現する言語能力、情動的な耐性などが必要であり、幻聴などのように単一症状として考えるべきではなく、人格と切り離すことはできないとの見解がある[11]妄想を述べる患者がそれにしたがった行動はとらないなど、なんらかの乖離が現実にしばしば見られるところにも、防衛機制の存在を指摘する考え方が行われてきた。


精神障害についての体験・学習モデル

 精神障害についての知識が不十分であるときに、自己の中に疾病のために起こってきた変化に対して誤った対応や態度をとることが起こりうる。特に精神障害への根強い偏見がある場合には、自己に起こった事柄は容易には精神障害として認識されえないだろう。ここでわかるように、気づかないことと、誤った知識を持つことと、否認など気づきを抑制することとは互いに反する事柄ではなく、相互に関連を持っている。Macpherson ら[18]は64例の統合失調症患者に調査を行い、SAIにより評価した障害認識を従属変数とした重回帰分析を行ったところ、治療についての知識とこれまでの教育年数とが有意な寄与を示した。

 認知療法では「誤った認知」モデルが仮定されている。幻覚や妄想への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすというものである[19]。幻聴については、まず幻覚が体験され、それについての認知(悪意的な解釈と善意的な解釈の双方がある)があるが、幻覚と認知との関連はそれほど強くない一方で、認知に引き続いて引き起こされた感情と行動には密接な連関があるという。Birchwood[20],[21]は、幻覚によって生じる行動や感情は、幻覚の形式や内容ではなく、患者が幻覚に対して抱いている信念ー特に幻覚の力や権威に対してのものーによっており、この信念は幻覚への適応過程の一部であり、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けること、幻覚への従属は患者の社会関係におけるふるまい方と関連していることを報告している。妄想についても同様に、きっかけとなる出来事についての誤った認知、すなわち妄想的思考が問題であり、その誤った推論や誤った理由づけに対して治療的アプローチが可能と考えられている。

多要因・複数成因モデル

 障害認識及び病識はいくつかの要因から成り立っている概念であり、すでに述べてきた複数の成因の相互作用によって形成されるのではないかと考えられる。しかしどのような要因があるのか、またそれぞれの要因についてどのような成因が考えられるのか、さらにはこれらがどのように関連し合っているのかなどについてはまだ十分な研究報告がなく、これからの検討にゆだねられている。Gillenら[22]は31例の統合失調症の患者を調査して、障害認識の程度は、認識の対象となる症状によって異なり、神経認知機能障害に対する認識のほうが、精神症状に対する認識よりも保たれているとしたが、その逆の報告[23]も見られるなど、まだ一定しない。

治療

 近年はさまざまな社会的資源が整備されてきているが、病識が不十分な場合にはこうしたせっかくの資源も利用に至らず、結果として社会的孤立の道を歩むことになる。治療面でも、McEvoyら[24]が指摘するように、ほかの精神症状が改善してもしばしば病識が一緒に改善しないことがあるなど、病識欠如は治療抵抗性であり、予後の悪さとも関連性が高い。

 病識は多要因であり、成因も複数であることが考えられるため、個々の症例での丁寧なアセスメントにそって治療的アプローチを組み立てていくことが必要であろう。そのために治療効果についての実証的な研究には工夫が求められる。

 薬物療法ではクロザピンで病識が改善したとの報告[25]が見られるものの、まだ十分に検討されていない。

 治療関係の中で不安や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、障害認識そして病識へと高めていく個人精神療法のアプローチは重要である。安永[26]は、病覚ないしは病識を姿勢覚になぞらえ、内部図式の知覚であり、運動感覚的なもの、運用感覚であるとし、細部を知覚することはむしろ必要がなく、かんどころ、いわば関節部分が抑えられればよい、と述べた。そして以下のような精神療法の提言を行っている。「(病覚ないし病識の)認識の対象は外にあるものではない。自分のみのうち、精神身体空間の内部にある何者かである」「そのアナロジー(類推)として、「身のこなし」の感覚がやりやすい」と述べている。

 精神障害の症状や経過や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは病識を育てる上で重要であろう。Jaspers[1]は"pseudo-insight"、すなわち「病気の説明をさまざまな理論から単に受け売りしている状態」を指摘した。しかしDavid[6]は、「こうしたpseudo-insightも、混乱した患者の中に何らかの秩序を見いだし、本来の疾病の自覚へと導くプロセスを開始する可能性がある」と指摘している。個人精神療法の役割が、安永に習って「自分のみのうちにある何らかのもの」への気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能なものとし、対処方法を見つけていくことを可能にするアプローチといえよう。 

 持続的な精神症状や後遺障害への対処スキルや、薬物療法と協同していくためのさまざまなスキル形成をねらう認知行動療法のアプローチや、近年研究報告の増えている幻覚や妄想への認知療法によって、障害認識や病識を認知・行動のレベルで形成していくアプローチも有用と思われる。認知行動療法の視点からは、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、ひとつひとつの対処行動を改善の標的とする。たとえば服薬を中断してしまうことを取り上げても、さまざまな対処スキルが関係する。

 仲間体験を通して、精神障害やそれに伴うさまざまなハンディの受容をはぐくむ集団アプローチや、セルフヘルプの体験も有用であろう。心理教育や認知行動療法はしばしば集団で行われ、そのために集団であることによるさまざまな治療的要因が活用できる。安永[26]は、障害認識を姿勢覚になぞらえた上で、他者との交流のもたらす治療的要因を以下のように述べている。「この機能が多少とも進歩、分化するためには、他者の運動観察とその取り入れ(同一化と再同一化)がきわめて重要である」「意識の目を他者に移してみること、他者(の身)になってみること、他者を「了解」しようと努力することである。それらがことごとく、実は同時に自己内部を見ていることになっていく」と述べている。集団の治療的要因についての、精神療法の側面からの視点といえるだろう。

 Rommeら[27],[28]は人々(患者とは限らない)の「幻聴とのつきあい方」を調査し、34%が「幻聴とうまくつきあえている」と答えていたが、これらの人の多くは幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、共存していこうとする見方をとっていた。社会のスティグマがないところでは、障害認識や病識はより形成されやすいと彼らは考えている。したがって社会のスティグマを減らす努力が求められているし、精神障害の程度にかかわらず仲間に受け入れられ、精神病体験も共感をもって受け止められる体験の中で、自身の体験を受容し対処していく中で、障害認識・病識ははぐくまれると考えられる。

参考文献

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    J Medical Phychology: 1934, 14:332-348
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  8. 8.0 8.1 Amador, X.F., Strauss, D.H., Yale, S.A., & Gorman, J.M. (1991).
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    日本社会精神医学雑誌: 2000, 9:153-162
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  12. 大橋博司
    「疾病失認」(または疾病否認)について
    精神医学: 1963, 5:123-130
  13. 川崎康弘
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    広汎性発達障害と前頭葉
    臨床精神医学: 2003, 32:395-404
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(執筆者:池淵恵美 担当編集委員:加藤忠史)