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細 (→検査) |
細 (→鑑別疾患) |
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== 鑑別疾患 == | == 鑑別疾患 == | ||
症候性三叉神経痛をきたしうるすべての疾患が挙げられる。 | |||
{| class="wikitable" | |||
|+表3. 三叉神経痛との鑑別診断が必要な症候性三叉神経痛 | |||
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| 帯状疱疹(皮疹が遅れて出現することもある。) | |||
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| 腫瘍(小脳橋角部腫瘍による三叉神経根の圧迫(髄膜種など)、および三叉神経に沿った腫瘍の浸潤(三叉神経鞘腫、悪性リンパ腫、聴神経鞘腫など) | |||
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| 副鼻腔炎・肉芽腫性疾患 (三叉神経第1枝の障害が多く、他の脳神経障害を合併) | |||
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| 自己免疫疾患(混合性結合組織病、サルコイドーシスなど) | |||
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| 多発性硬化症(両側性の三叉神経痛をきたしうる。) | |||
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| 歯科治療や歯周囲の感染、下顎の埋没智歯抜去やインプラントに伴う下顎神経の末梢分枝 下歯槽神経の損傷。 | |||
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その他、大後頭神経三叉神経症候群(Great Occipital Trigeminal Syndrome : GOTS)という概念がある。これは、後頭部に痛みがある場合、目の奥の痛みや目の疲れを同時に自覚するものである。三叉神経のうち、第1枝(眼神経)の由来の神経線維と、頸神経系(C1・C2)の一部の神経線維は脊髄上部で同じ細胞に接続しており、後頭神経の興奮(後頭部痛・項部痛)が三叉神経の第1枝(眼神経)に伝搬して、前頭部および眼窩部への関連痛症状(目の奥の痛みなど)を引き起こす<ref name=寺本純</pubmed></ref>[10]。一方、三叉神経の第2枝および第3枝の頚髄レベルへの投射は比較的少なく、頚椎性の痛みが上顎や下顎骨への関連痛として知覚される可能性は少ない。 | |||
== 病態生理 == | == 病態生理 == | ||
典型的三叉神経痛の原因の多くは、血管の三叉神経、とくにroot entry zone (REZ )での圧迫(neuro-vascular compression)である。その根拠は以下による<ref name=柴田護</pubmed></ref> [11]。 | 典型的三叉神経痛の原因の多くは、血管の三叉神経、とくにroot entry zone (REZ )での圧迫(neuro-vascular compression)である。その根拠は以下による<ref name=柴田護</pubmed></ref> [11]。 | ||
# | #MRIなどによる画像診断で、同部位において三叉神経を圧迫する血管の存在が確認される。 | ||
#血管による圧迫部位の近傍の摘出標本で、脱髄などの病理学的変化が確認されている。 | #血管による圧迫部位の近傍の摘出標本で、脱髄などの病理学的変化が確認されている。 | ||
#神経血管減圧術により大部分の患者で恒久的に神経痛が消失する。 | #神経血管減圧術により大部分の患者で恒久的に神経痛が消失する。 | ||
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Janettaによる責任血管の集計では、動脈では上小脳動脈が圧迫していた症例が75%を占め、最多であった。前下小脳動脈の約10%が続くが、名前のついていない小動脈による圧迫もある。また、静脈による三叉神経を圧迫所見も68%で認めている<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]。このような血管の圧迫は三叉神経に局所的な脱髄、および軸索の切断を生じさせる。すると傷害を受けた三叉神経は過興奮性を獲得し、自発放電や遷延性の後放電を発現する。顔面を軽く触れたような刺激によって、このような異常放電が惹起され三叉神経痛の発生に関与すると考えられている<ref name=Devor2002><pubmed>11803297</pubmed></ref> [12]。さらに、脱髄を受けた神経線維が並列しているため、正常なシナプスを介さないで隣接したニューロンに電気的興奮を生じさせるephaptic cross-talkと呼ばれる現象が生じやすくなっており、疼痛がより広い範囲に拡大するなどの説がある<ref name=柴田護></ref> [11]。 | Janettaによる責任血管の集計では、動脈では上小脳動脈が圧迫していた症例が75%を占め、最多であった。前下小脳動脈の約10%が続くが、名前のついていない小動脈による圧迫もある。また、静脈による三叉神経を圧迫所見も68%で認めている<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]。このような血管の圧迫は三叉神経に局所的な脱髄、および軸索の切断を生じさせる。すると傷害を受けた三叉神経は過興奮性を獲得し、自発放電や遷延性の後放電を発現する。顔面を軽く触れたような刺激によって、このような異常放電が惹起され三叉神経痛の発生に関与すると考えられている<ref name=Devor2002><pubmed>11803297</pubmed></ref> [12]。さらに、脱髄を受けた神経線維が並列しているため、正常なシナプスを介さないで隣接したニューロンに電気的興奮を生じさせるephaptic cross-talkと呼ばれる現象が生じやすくなっており、疼痛がより広い範囲に拡大するなどの説がある<ref name=柴田護></ref> [11]。 | ||
== 治療 == | |||
1st line: カルバマゼピン。著効する場合が多い<ref name=Campbell1966><pubmed>5327969</pubmed></ref> <ref name=日本神経治療学会治療指針作成委員会編</ref><ref><pubmed>name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref> | * 1st line: カルバマゼピン。著効する場合が多い<ref name=Campbell1966><pubmed>5327969</pubmed></ref> <ref name=日本神経治療学会治療指針作成委員会編</ref><ref><pubmed>name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref>[4][13][14]。一般的には100mgから開始し、通常維持量は200~400mg、最大量で600-800mgを超えない。 | ||
* 2nd line: カルバマゼピンで皮疹、肝機能障害、汎血球減少症など副作用が出現した場合や無効例にはフェニトイン、プレガバリン、クロナゼパムなどを投与する。効果はカルバマゼピンに通常劣る。 | |||
2nd line: カルバマゼピンで皮疹、肝機能障害、汎血球減少症など副作用が出現した場合や無効例にはフェニトイン、プレガバリン、クロナゼパムなどを投与する。効果はカルバマゼピンに通常劣る。 | * 3rd line: 治療抵抗性の場合は、有効性の高い神経血管減圧術を考慮する。しかし髄液漏、髄膜炎、聴力低下などの合併症が稀に生ずることもあり、より合併症の少ないガンマナイフ療法や三叉神経ブロックも選択されるが、根治療法ではない<ref name=日本神経治療学会治療指針作成委員会編</ref> [13]。 | ||
== 疫学 == | |||
3rd line: 治療抵抗性の場合は、有効性の高い神経血管減圧術を考慮する。しかし髄液漏、髄膜炎、聴力低下などの合併症が稀に生ずることもあり、より合併症の少ないガンマナイフ療法や三叉神経ブロックも選択されるが、根治療法ではない<ref name=日本神経治療学会治療指針作成委員会編 | |||
1945年~1984年の米国での疫学調査では、10万人あたり年間発症数は4-13人と報告されている[14]。男女比は1:1.5~1.74と女性に多かった<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref><ref name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Maarbjerg2014><pubmed>25231219#</pubmed></ref> [5][7] [14]。また年齢が進むほど発症者が増加することも明らかであり、例えば40歳代で3.7人であったものが、70歳代では25人と大きな差異を認めている。イギリスでの検討では、10万人あたりの年間発症数は8人であった<ref name=MacDonald2000><pubmed>10733998</pubmed></ref> [15]。高血圧<ref name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref> [14]や片頭痛<ref name=Lin2016><pubmed>26692399</pubmed></ref> [16]が三叉神経痛の危険因子であることが報告されている。 | 1945年~1984年の米国での疫学調査では、10万人あたり年間発症数は4-13人と報告されている[14]。男女比は1:1.5~1.74と女性に多かった<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref><ref name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Maarbjerg2014><pubmed>25231219#</pubmed></ref> [5][7] [14]。また年齢が進むほど発症者が増加することも明らかであり、例えば40歳代で3.7人であったものが、70歳代では25人と大きな差異を認めている。イギリスでの検討では、10万人あたりの年間発症数は8人であった<ref name=MacDonald2000><pubmed>10733998</pubmed></ref> [15]。高血圧<ref name=Katusic1990><pubmed>2301931</pubmed></ref> [14]や片頭痛<ref name=Lin2016><pubmed>26692399</pubmed></ref> [16]が三叉神経痛の危険因子であることが報告されている。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
1. Rose, F. C. (1999). | 1. Rose, F. C. (1999). | ||
Trigeminal neuralgia. Archives of neurology, 56(9), 1163-1164. | Trigeminal neuralgia. Archives of neurology, 56(9), 1163-1164. |