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社会的孤立など統合失調症のリスクとして知られている環境要因は動物実験ではドーパミン機能過活動を引き起こすことが知られている。例えば、[[ | 社会的孤立など統合失調症のリスクとして知られている環境要因は動物実験ではドーパミン機能過活動を引き起こすことが知られている。例えば、[[wj:妊娠|妊娠]]、[[wj:出産|出産]]時の合併症、胎児期、新生児期の[[wj:細菌性内毒素|細菌性内毒素]]、感染も動物実験では中脳線条体ドーパミン系の過活動を引き起こす。周産期、新生児期の[[ストレス]]もドーパミン代謝や放出を増やす。 | ||
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2021年3月11日 (木) 21:03時点における最新版
有波 忠雄
筑波大学 医学医療系
DOI:10.14931/bsd.2441 原稿受付日:2013年5月7日 原稿完成日:2013年5月14日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
統合失調症の病態に関する仮説の一つで、精神疾患の病態仮説としては最も長く精力的に検証が行われてきた仮説の一つである。この仮説の最も確実な根拠は、統合失調症の症状を軽減するのに有効な抗精神病薬の共通の特徴がドーパミンD2受容体のアンタゴニストである点である。 初めに提唱されたドーパミン仮説は、統合失調症の病態はドーパミン神経機能の過活動、とするものであったが、その後、前頭葉のドーパミン神経機能の低活動性を伴う皮質下のドーパミン神経機能の過活動、と修正された。さらに多くの病因が引き起こす共通病態としてドーパミン仮説が捉え直されるようになり今日に至っている。
歴史
統合失調症の古典的ドーパミン仮説の登場
1951年にクロルプロマジン (chlorpromazine)がCharpentierやCourvoisierらにより合成され[1]、1952年にはDelayとDenikerにより躁病と”精神病”の患者に投与した結果が報告された。また、その有効用量がパーキンソン病様症状など神経学的副作用を起こすことも知られ、chlorpromazineは神経遮断作用がある、とされた。CarlssonとLindqvistは動物実験によりchlorpromazineやその後開発された抗精神病薬ハロペリドール (haloperidol)がドーパミン合成を亢進させることを発見した。これとは別に精神病治療に導入されていたレセルピンがドーパミンや他のモノアミンを枯渇させることが発見された。また、使用による精神病が記載されていたアンフェタミンの中枢神経刺激薬としての作用がドーパミン系に対するものであることが示され、ドーパミン受容体作動薬が統合失調症の精神症状を悪化させることなどの根拠によりJ. van Rossumはドーパミンの過剰産生・放出あるいはドーパミン受容体の過剰刺激や感受性の異常などによるドーパミン系の変調が統合失調症の病因に関与していることを示唆した[2]。これにより統合失調症には脳の神経化学的変化が関係していることが初めて示された。
70年代に入り、ドーパミン受容体が同定され、神経遮断薬が中脳-辺縁ドーパミン系や黒質-線条体ドーパミン系に作用することが発見され、抗精神病薬の臨床効果がドーパミン受容体の結合能に強く相関することが発見され、ドーパミン仮説はより明確なものとなった[3][4]。
この時点でのドーパミン仮説は、統合失調症の病態はドーパミン受容体の過剰なシグナル伝達によるものであり、それに基づいた精神病の治療はドーパミン受容体を遮断することであった。
統合失調症のドーパミン仮説の証拠を求めて
統合失調症患者においてドーパミンバイオマーカーが変化している、というドーパミン仮説の直接的な証拠となる研究が求められた。1980年代から90年代にかけて、ドーパミン仮説の直接的な証拠を得ることを目指して、髄液、血液、尿、線維芽細胞、死後脳を用いてドーパミンやその前駆体、代謝産物が測定された。しかし、明確な、研究間で一致するような変化は見られなかった。
修正ドーパミン仮説:ドーパミン系の領域特異的失調説
1980年代には統合失調症の症状は陽性症状、陰性症状などに分類して考えられるようになり、陽性症状を緩和する薬物は陰性症状にはあまり効果がなかったり逆に悪化させたりという抗精神病薬による症状別の効果の違いが注目されるようになった。また、抗精神病薬に反応しない一群の患者が存在することや抗精神病薬クロザピンがD2アンタゴニストとしての効力が弱い点など、統合失調症のドーパミン仮説に対する疑問を投げかける薬理学的証拠がでてきて、統合失調症を単純にドーパミン機能過剰状態とすることは不十分であることは明らかとなってきた。
抗精神病薬はドーパミン神経系全体に均等に効果を及ぼすのではなく、定型抗精神病薬はA9、A10細胞に影響を与え、非定型抗精神病薬はA10細胞にのみ影響することが実験的に示されていた[5]。また、統合失調症患者では前頭葉の血流、糖代謝が低下しており、ドーパミンアゴニストで中脳-皮質ドーパミン系を活性化すると前頭前野のバイオマーカー糖代謝は上昇し、回復することも知られており、1991年に統合失調症の修正ドーパミン仮説の論文が発表された[6]。この仮説では、統合失調症では脳の部位によりドーパミン系の低活動と過活動とが混在しており、中脳皮質ドーパミン系の低活動が認知障害や陰性症状に関わっている一方、皮質下ドーパミン系の過活動が陽性症状に関連しているとするものであった。統合失調症における脳の部位別機能不全は、統合失調症の前頭葉低活性 (hypofrontality) に関する画像研究のメタ解析でも支持され[7]、また、非定型抗精神病薬は陰性症状をもつ患者の前頭前野の活動性を上げるなどの臨床薬理学的証拠でも支持されている。
修正ドーパミン仮説の最大の問題点は、統合失調症での脳の活動性の部位別の違いが本当にドーパミン系のサブシステムの活動性によるものかが示されていない点にある。ドーパミン系だけ考えても、前頭前野の機能不全は前頭前野におけるドーパミン活動性の低下が一次的なものであり、線条体のドーパミン濃度やD2受容体密度の上昇などは二次的なものと考えられている[8] [9]が、動物実験では前頭前野の機能不全が線条体での過剰なドーパミン放出による二次的なものである可能性も示されており[10]、未解決である。
ドーパミン仮説を裏付ける証拠
シナプス前ドーパミン合成
ヒトにおいてシナプスのドーパミンを直接測定することはできないが、間接的に推測する方法が開発され、研究されてきた。全てではないが、多くの研究において急性期の統合失調症患者の線条体ではドーパミン合成が亢進していると推測されるデータが示されている[11][12]。この所見は統合失調症における脳のドーパミン機能の異常に関して最も追認されることの多い所見である。
シナプスドーパミン放出
ドーパミン放出をブロックする割合をPETやSPECTで測定する間接的な測定法によるものであるが、ほぼすべての研究において統合失調症患者でシナプスドーパミンの放出が増加していると推測されるデータが示されている[13]。また、統合失調症ではドーパミンに占拠されているドーパミン受容体の割合が高いという所見が得られている[14]。
ドーパミン受容体
メタ解析によれば、線条体のドーパミンD2, D3受容体密度は統合失調症患者で若干上昇している[15]が、線条体以外では上昇していない。ドーパミンD2受容体には2つのアイソフォームがあるがそれと統合失調症との関係ははっきりしない。
前頭前野ではドーパミン神経伝達は主にD1受容体を介しており、D1受容体の機能不全は統合失調症の認知障害、陰性症状と関係している[16]。統合失調症患者におけるD1受容体密度の研究は数少なく、トレーサーの問題もあり一致した結果となっていない。D1受容体密度と統合失調症における認知機能不全との関係も複雑である。
抗精神病薬治療とドーパミン受容体
現在使用されているすべての抗精神病薬は臨床用量で線条体のドーパミンD2受容体をブロックする。しかし、線条体のD2受容体のブロックは抗精神病効果に必要であるものの、それだけでは十分ではない。抗精神病反応は早期の線条体でのD2受容体の占拠率に関係しており[17]、早期の抗精神病効果はその後の治療効果の予測に役立つことが知られ、また、画像解析もドーパミン受容体が治療反応性の主役であることを支持している。
統合失調症の病因とドーパミン仮説
ドーパミン仮説は統合失調症の病態としてドーパミン系の変調が関わっているとしているがその病因については踏み込んでいない。しかし、統合失調症の病因、リスク因子がドーパミン系の変調に関わっている証拠は得られつつあり、ドーパミン仮説は病因病態の共通経路として捉え直されている。
遺伝要因
統合失調症患者の第一度親族では線条体のドーパミン合成が亢進していることが報告されている[18]。
分子遺伝学的研究ではドーパミン神経系の機能に直接関係するタンパク質をコードしている遺伝子の変異が統合失調症の病因として大きく関わっているとする証拠はまだ見つかっていない。これまで頻度の高いゲノム多型と統合失調症との関連が調べられ、候補遺伝子解析によりドーパミン受容体、ドーパミン輸送体、小胞モノアミン輸送体などをコードする遺伝子との関連が報告されているが、関連している個々の多型の影響力は小さい。分子遺伝学的研究はまだ発展途上であり、今後はより影響力の強い稀な変異が発見されていくと予想される。統合失調症のリスクや症状、治療に関わるゲノムの変異がどのパスウエイに集約され、ドーパミン機能にどのように関わっているかは今後の研究を待たなければならない。
統合失調症のリスクとなる環境要因
社会的孤立など統合失調症のリスクとして知られている環境要因は動物実験ではドーパミン機能過活動を引き起こすことが知られている。例えば、妊娠、出産時の合併症、胎児期、新生児期の細菌性内毒素、感染も動物実験では中脳線条体ドーパミン系の過活動を引き起こす。周産期、新生児期のストレスもドーパミン代謝や放出を増やす。
中枢神経刺激薬やカンナビス使用などの統合失調症リスクを高める薬物はドーパミン放出を亢進させる。NMDA型グルタミン酸受容体遮断薬であるケタミンはドーパミン放出を高める。
統合失調症に関連する精神疾患/状態
統合失調症の前駆症状を示している人[19]や統合失調型障害の人で線条体のドーパミン合成の亢進が見られている。
関連項目
参考文献
- ↑
Sneader, W. (2002).
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van Rossum, J.M. (1966).
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