「麻薬」の版間の差分

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 このように、人類は紀元前よりオピオイドの鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは20世紀後半からである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に “モルヒネ感受性受容体の存在” という概念にたどり着いた。1971 年、[[w:Avram Goldstein|Goldstein]] はオピオイド受容体の発見の基になる報告をし<ref name=ref1><pubmed>5288759</pubmed></ref>、1973 年にそれぞれ、[[w:Solomon H. Snyder|Snyder]]と[[w:Candace Pert|Pert]]<ref name="ref2"><pubmed>4687585</pubmed></ref>、[[w:Eric J. Simon|Simon]]<ref name="ref3"><pubmed>4583407</pubmed></ref>、[[wd:Lars Terenius|Terenius]]<ref name="ref4"><pubmed>4801083</pubmed></ref>の3つのグループから[[オピオイド受容体]]の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には[[w:John Hughes (neuroscientist)|Hughes]]と[[w:Hans Kosterlitz|Kosterlitz]]ら<ref name="ref5"><pubmed>1207728</pubmed></ref>が[[エンケファリン]]を発見し、さらに、1979 年にGoldsteinとTachibanaら<ref name="ref6"><pubmed>230519</pubmed></ref>が[[ダイノルフィン]]を抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“[[内因性オピオイド]]”が発見された。
 このように、人類は紀元前よりオピオイドの鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは20世紀後半からである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に “モルヒネ感受性受容体の存在” という概念にたどり着いた。1971 年、[[w:Avram Goldstein|Goldstein]] はオピオイド受容体の発見の基になる報告をし<ref name=ref1><pubmed>5288759</pubmed></ref>、1973 年にそれぞれ、[[w:Solomon H. Snyder|Snyder]]と[[w:Candace Pert|Pert]]<ref name="ref2"><pubmed>4687585</pubmed></ref>、[[w:Eric J. Simon|Simon]]<ref name="ref3"><pubmed>4583407</pubmed></ref>、[[wd:Lars Terenius|Terenius]]<ref name="ref4"><pubmed>4801083</pubmed></ref>の3つのグループから[[オピオイド受容体]]の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には[[w:John Hughes (neuroscientist)|Hughes]]と[[w:Hans Kosterlitz|Kosterlitz]]ら<ref name="ref5"><pubmed>1207728</pubmed></ref>が[[エンケファリン]]を発見し、さらに、1979 年にGoldsteinとTachibanaら<ref name="ref6"><pubmed>230519</pubmed></ref>が[[ダイノルフィン]]を抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“[[内因性オピオイド]]”が発見された。


 [[オピオイド受容体]]は[[Μ受容体|μ]]、[[Δ受容体|δ]]および[[Κ受容体|κ]]に大別され、これら3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992 年になってEvansらと[[w:Brigitte Kieffer|Kieffer]]らのグループがそれぞれ、δ受容体のクロ−ニングに成功した<ref name="ref7"><pubmed>1335167</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>1334555</pubmed></ref>。δ受容体のクロ−ニング後、[[PCR]]法によるホモロジーを利用した研究によってμおよびκ受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。
 [[オピオイド受容体]]は[[Μオピオイド受容体|μ]]、[[Δオピオイド受容体|δ]]および[[Κオピオイド受容体|κ]]に大別され、これら3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992 年になってEvansらと[[w:Brigitte Kieffer|Kieffer]]らのグループがそれぞれ、δ受容体のクロ−ニングに成功した<ref name="ref7"><pubmed>1335167</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>1334555</pubmed></ref>。δ受容体のクロ−ニング後、[[PCR]]法によるホモロジーを利用した研究によってμおよびκ受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。


== 不正薬物 ==
== 不正薬物 ==
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=== 鎮痛効果発現機序 ===
=== 鎮痛効果発現機序 ===
[[Image:麻薬3.png|thumb|500px|'''図3.オピオイドによる鎮痛作用部位''']]  
[[Image:麻薬3.png|thumb|500px|'''図3.&mu;オピオイド受容体作動薬による鎮痛効果発現機構''']]  
 μオピオイド受容体、δオピオイド受容体およびκオピオイド受容体は、すべて[[GTP結合タンパク質]]([[Gタンパク質]])と共役する[[7回膜貫通型受容体]]([[GPCR]])である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的に[[Gi]]/[[Goタンパク質|o]]タンパク質と共役しており、オピオイド受容体の活性化後、さまざまな[[細胞内情報伝達系]]が影響を受け、[[神経伝達物質]]の遊離や[[神経細胞体]]の[[興奮性]]が低下するために神経細胞の活動が抑制される。
 μオピオイド受容体、δオピオイド受容体およびκオピオイド受容体は、すべて[[GTP結合タンパク質]]([[Gタンパク質]])と共役する[[7回膜貫通型受容体]]([[GPCR]])である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的に[[Gi]]/[[Goタンパク質|o]]タンパク質と共役しており、オピオイド受容体の活性化後、さまざまな[[細胞内情報伝達系]]が影響を受け、[[神経伝達物質]]の遊離や[[神経細胞体]]の[[興奮性]]が低下するために神経細胞の活動が抑制される。