「神経性過食症」の版間の差分

 
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== 概念と歴史  ==
== 概念と歴史  ==
 神経性過食症は[[摂食障害]]の一型であり、自制困難な[[摂食]]の要求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後[[嘔吐]]や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は[[神経性食欲不振症]]ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ気分]]、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。1950年代頃から過食は肥満症との関連で研究されてきた。そして1970年代頃より体重が正常範囲内で、過食しては嘔吐や下剤を乱用する患者の存在に気づかれるようになった。1979年にイギリスの[[wj:Gerald Russell|Russell]]<ref name="cit7"><pubmed>482466</pubmed></ref>が、1)自己抑制できない過食の衝動、2)過食後の自己誘発性嘔吐または下剤の使用、3)肥満に対して病的恐怖を示す患者の一群をbulimia nervosaと呼び、これらの患者の大部分が神経性食欲不振症の既往を有していたことから、神経性食欲不振症の予後不良の亜型と考えた。
 神経性過食症は[[摂食障害]]の一型であり、自制困難な[[摂食]]の要求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後[[嘔吐]]や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重は[[神経性やせ症]]ほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に[[無気力感]]、[[抑うつ気分]]、[[自己卑下]]をともなう一つの症候群である。1950年代頃から過食は肥満症との関連で研究されてきた。そして1970年代頃より体重が正常範囲内で、過食しては嘔吐や下剤を乱用する患者の存在に気づかれるようになった。1979年にイギリスの[[wj:Gerald Russell|Russell]]<ref name="cit7"><pubmed>482466</pubmed></ref>が、1)自己抑制できない過食の衝動、2)過食後の自己誘発性嘔吐または下剤の使用、3)肥満に対して病的恐怖を示す患者の一群をbulimia nervosaと呼び、これらの患者の大部分が神経性やせ症の既往を有していたことから、神経性やせ症の予後不良の亜型と考えた。


 アメリカでは、1980年に[[DSM-III]]で過食症(bulimia)の診断基準をつくり神経性食欲不振症と区別した。そして1987年の[[DSM-IIIR]]の診断基準では神経性過食症と改め、1994年の[[DSM-IV]]、2013年の[[DSM-5]]の診断基準に至っている。一方WHOは1992年に[[ICD-10]]の診断基準で、神経性過食症の診断基準を新たに設けた。その後改定され、2018年に[[ICD-11]](提案)の診断基準に至っている。
 アメリカでは、1980年に[[DSM-III]]で過食症(bulimia)の診断基準をつくり神経性やせ症と区別した。そして1987年の[[DSM-IIIR]]の診断基準では神経性過食症と改め、1994年の[[DSM-IV]]、2013年の[[DSM-5]]の診断基準に至っている。一方WHOは1992年に[[ICD-10]]の診断基準で、神経性過食症の診断基準を新たに設けた。その後改定され、2018年に[[ICD-11]](提案)の診断基準に至っている。


== 疫学  ==
== 疫学  ==
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! 神経性食思不振症
! 神経性やせ症
! 神経性過食症
! 神経性過食症
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! 神経性食思不振症
! 神経性やせ症
! 神経性過食症
! 神経性過食症
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! 摂食行動  
! 摂食行動  
| 食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食
| やせ、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食
| 過食、だらだら食い、絶食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い
| 過食、だらだら食い、絶食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い
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! 神経性食思不振症
! 神経性やせ症
! 神経性過食症
! 神経性過食症
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=== 入院・外来治療の決定  ===
=== 入院・外来治療の決定  ===


 外来治療を基本として、神経性食欲不振症のところで述べたように入院治療の適応を満たす場合には短期間の入院治療を行なう。
 外来治療を基本として、神経性やせ症のところで述べたように入院治療の適応を満たす場合には短期間の入院治療を行なう。


=== 外来治療  ===
=== 外来治療  ===
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薬物療法:1)過食と排出行動の改善、2)不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法や、3)治療関係を促進し、精神療法や行動療法への導入をはかることなどがある。  
薬物療法:1)過食と排出行動の改善、2)不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法や、3)治療関係を促進し、精神療法や行動療法への導入をはかることなどがある。  


1)について、種々の抗うつ薬の過食に対する有効性が検証されている。最近では、セロトニンの選択的な再取込み阻害作用を有する[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]]である。しかし我が国では、これらの薬剤が過食に対して認可されていない。しかし神経性過食症患者においてうつ状態を呈しやすく、うつ病や強迫症、パニック症、社交不安症などの不安症の併存(comorbidity)が高率なので、これらの治療に対してSSRIなどを投薬し、過食に対するも効果も期待できる。しかし抗うつ薬は、過食や嘔吐を減少させ、過食と嘔吐→抑うつ状態→過食と嘔吐といった悪循環を一時的に中断することにより、他の治療法を容易にし、その効果を高めることにより、本症からの回復に有効な補助手段となり得る。  
1)について、種々の抗うつ薬の過食に対する有効性が検証されている。最近では、セロトニンの選択的な再取込み阻害作用を有する[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]]([[selective serotonin reuptake inhibitor]]; [[SSRI]])である。しかし我が国では、これらの薬剤が過食に対して認可されていない。しかし神経性過食症患者においてうつ状態を呈しやすく、うつ病や強迫症、パニック症、社交不安症などの不安症の併存(comorbidity)が高率なので、これらの治療に対してSSRIなどを投薬し、過食に対するも効果も期待できる。しかし抗うつ薬は、過食や嘔吐を減少させ、過食と嘔吐→抑うつ状態→過食と嘔吐といった悪循環を一時的に中断することにより、他の治療法を容易にし、その効果を高めることにより、本症からの回復に有効な補助手段となり得る。


=== 家族への対応の仕方  ===
=== 家族への対応の仕方  ===