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==Cooper-Liberman-Oja理論からBienenstock-Cooper-Munro理論へ == | ==Cooper-Liberman-Oja理論からBienenstock-Cooper-Munro理論へ == | ||
この限界を乗り越えるために登場したのが[[w:Elie Bienenstock|Bienenstock]]、[[w:Leon Cooper|Cooper]]、[[w:Paul Munro|Munro]]により提唱されたBienenstock-Cooper-Munro理論(BCM理論、BCM theory)である。これはもともと、[[wj:デイヴィッド・ヒューベル|Hubel]]と[[wj:トルステン・ウィーセル|Wiesel]]によって報告された、発達期の[[ネコ]]の一次視覚野における活動依存的なシナプス強度の変化<ref name=Wiesel1965><pubmed>5883730</pubmed></ref> | この限界を乗り越えるために登場したのが[[w:Elie Bienenstock|Bienenstock]]、[[w:Leon Cooper|Cooper]]、[[w:Paul Munro|Munro]]により提唱されたBienenstock-Cooper-Munro理論(BCM理論、BCM theory)である。これはもともと、[[wj:デイヴィッド・ヒューベル|Hubel]]と[[wj:トルステン・ウィーセル|Wiesel]]によって報告された、発達期の[[ネコ]]の一次視覚野における活動依存的なシナプス強度の変化<ref name=Wiesel1965><pubmed>5883730</pubmed></ref>を数学的に記述するために提唱された理論であった<ref name=Bienenstock1982><pubmed>7054394</pubmed></ref>。 | ||
Bienenstock-Cooper-Munro理論によれば、シナプス強度変化率は以下の式であらわされる<ref name=Bliss2007>'''Bliss, T., Collingridge, G. and Morris, R. (2007).'''<br>Synaptic Plasticity in the Hippocampus. Edited by P. Andersen et al. The Hippocampus Book. Oxford University Press. {{ISBN|978-0195100273}}</ref> | Bienenstock-Cooper-Munro理論によれば、シナプス強度変化率は以下の式であらわされる<ref name=Bliss2007>'''Bliss, T., Collingridge, G. and Morris, R. (2007).'''<br>Synaptic Plasticity in the Hippocampus. Edited by P. Andersen et al. The Hippocampus Book. Oxford University Press. {{ISBN|978-0195100273}}</ref>。 | ||
::<math>\frac{ | ::<math>\frac{\mathrm{d}m_j}{\mathrm{d}t} = f(c, \left \langle c\right \rangle)d_j</math> | ||
ただし、 | ただし、 | ||
::<math>m_j</math>:<math>j</math> | ::<math>m_j</math>:<math>j</math>番目のシナプス強度<br> | ||
::<math>d_j</math>:<math>j</math>番目の入力線維の発火率<br> | ::<math>d_j</math>:<math>j</math>番目の入力線維の発火率<br> | ||
::<math>f</math>:[[Bienenstock-Cooper-Munro関数]]。シナプス後細胞の発火率 <math>c</math> と、シナプス後細胞の過去の発火平均 <math>\left \langle c\right \rangle</math> により決定される関数。 | ::<math>f</math>:[[Bienenstock-Cooper-Munro関数]]。シナプス後細胞の発火率 <math>c</math> と、シナプス後細胞の過去の発火平均 <math>\left \langle c\right \rangle</math> により決定される関数。 | ||
この理論の最大の特徴は、閾値<math>\theta m</math>が固定値ではなく、シナプス後細胞の過去の活性化履歴の平均に応じて、それ自体が変動する値(sliding threshold)であるとした点である。これにより、細胞が高い活性を維持している条件下では<math>\theta m</math>が右にスライドして、その後のシナプス増強が起きにくい状態になり('''図1B''':曲線赤)、逆に細胞の活性が低い場合には<math>\theta m</math>が左にスライドするため、その後のシナプス増強が誘導されやすい状態が生まれ('''図1B''':曲線青)、結果的にシナプス伝達を恒常的に安定化することが可能であるとしている。 | この理論の最大の特徴は、閾値 <math>\theta m</math> が固定値ではなく、シナプス後細胞の過去の活性化履歴の平均に応じて、それ自体が変動する値(sliding threshold)であるとした点である。これにより、細胞が高い活性を維持している条件下では <math>\theta m</math> が右にスライドして、その後のシナプス増強が起きにくい状態になり('''図1B''':曲線赤)、逆に細胞の活性が低い場合には <math>\theta m</math> が左にスライドするため、その後のシナプス増強が誘導されやすい状態が生まれ('''図1B''':曲線青)、結果的にシナプス伝達を恒常的に安定化することが可能であるとしている。 | ||
== 理論と実際 == | == 理論と実際 == |