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英語:TGF-β(Transforming growth factor-β) | |||
{{box|text= TGF-βは、骨形成因子やアクチビン、インヒビンなどと共にTGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインで、発生過程や成体において多様な細胞機能を調節する。哺乳類のTGF-βには、β1、β2、β3の3つのアイソフォームがあり、これらは神経系で異なる発現パターンを示す。TGF-βはN末端シグナルペプチド、潜在関連ペプチド(LAP)、C末端成熟フラグメントの3つのフラグメントからなる前駆体タンパク質として細胞内で産生される。前駆体タンパク質は細胞内でプロセッシングを受けた後、small latent complex (SLC)と呼ばれる二量体複合体となる。この二量体複合体はlatent TGF-β-binding protein (LTBP)と結合してlarge latent complex (LLC)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体となった後、細胞外へ分泌される。TGF-βが生理的作用を発揮するにはLLC内から成熟TGF-βが遊離される必要がある。遊離した成熟型TGF-βが細胞表面にある受容体に結合すると、細胞内シグナルタンパク質であるSMADが活性化する。活性化したSMADは細胞質から核に移行して標的遺伝子の発現を調節する。TGF-βの細胞内シグナル伝達にはSMADの代わりにMAP kinaseやNFBを介した経路もある。神経系でのTGF-βは、神経細胞やグリア細胞の機能に影響を与え、細胞増殖や生存に関与する。TGF-βはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患に関連していることが示唆されている。特にTGF-βはパーキンソン病と関連性が深い黒質線条体ドーパミン細胞の生存に寄与していることが示唆されている。}} | |||
{{box|text= TGF-βは、骨形成因子やアクチビン、インヒビンなどと共にTGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインで、発生過程や成体において多様な細胞機能を調節する。哺乳類のTGF-βには、β1、β2、β3の3つのアイソフォームがあり、これらは神経系で異なる発現パターンを示す。TGF-βはN末端シグナルペプチド、潜在関連ペプチド(LAP)、C末端成熟フラグメントの3つのフラグメントからなる前駆体タンパク質として細胞内で産生される。前駆体タンパク質は細胞内でプロセッシングを受けた後、small latent complex (SLC)と呼ばれる二量体複合体となる。この二量体複合体はlatent TGF-β-binding protein (LTBP)と結合してlarge latent complex (LLC)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体となった後、細胞外へ分泌される。TGF-βが生理的作用を発揮するにはLLC内から成熟TGF-βが遊離される必要がある。遊離した成熟型TGF-βが細胞表面にある受容体に結合すると、細胞内シグナルタンパク質であるSMADが活性化する。活性化したSMADは細胞質から核に移行して標的遺伝子の発現を調節する。TGF-βの細胞内シグナル伝達にはSMADの代わりにMAP | |||
== トランスフォーミング増殖因子βとは == | == トランスフォーミング増殖因子βとは == | ||
トランスフォーミング増殖因子β (transforming growth | トランスフォーミング増殖因子β (transforming growth factors; TGF) は骨形成因子、抗ミュラー管ホルモン、アクチビン、インヒビンとともにTGF-βスーパーファミリータンパク質に含まれるサイトカインで、発生過程および成体において様々な細胞機能の調節を行っている<ref name=Burt1994><pubmed>8199356</pubmed></ref>。異なるTGF-βスーパーファミリーのメンバーは機能が重複している場合もあるが、互いの機能を拮抗させたりすることもある。ここでは哺乳類のTGF-βについて述べる。 | ||
[[ファイル:Nakajima TGFbeta Fig1.png|サムネイル|'''図1. TGF- | [[ファイル:Nakajima TGFbeta Fig1.png|サムネイル|'''図1. TGF-β1 (small latent complex) の模式図''']] | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
TGF-βは前駆体タンパク質(プレプロタンパク質)として細胞内で産生される'''(図1)'''<ref name=Blanchette1997><pubmed>9109442</pubmed></ref><ref name=Dubois1995><pubmed>7737999</pubmed></ref><ref name=Khalil1999><pubmed>10611753</pubmed></ref> | TGF-βは前駆体タンパク質(プレプロタンパク質)として細胞内で産生される'''(図1)'''<ref name=Blanchette1997><pubmed>9109442</pubmed></ref><ref name=Dubois1995><pubmed>7737999</pubmed></ref><ref name=Khalil1999><pubmed>10611753</pubmed></ref>。前駆体タンパク質は、N末端シグナルペプチド、潜在関連ペプチド(latency-associated peptide: LAP)、C末端成熟フラグメントの3つのフラグメントで構成されている。小胞体内腔で前駆体タンパク質からシグナルペプチドが切断された後、残りの前駆体タンパク質(プロタンパク質)はジスルフィド結合を介して二量体化し、ゴルジ装置に移行する。ゴルジ装置ではプロテアーゼであるフーリン(furin)によって成熟型(活性型)TGF-βと潜伏関連ペプチドの2つの部位に分解される。成熟TGF-βとLAPのそれぞれの二量体は非共有結合で相互作用し、small latent complex (SLC)と呼ばれる潜在型複合体となるが、このSLCは潜在型TGF-β結合タンパク質(latent TGFβ binding protein: LTBP)との結合によってlarge latent complex (LLC)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体となる。LLCはその後、細胞外マトリックスへ分泌される<ref name=Khalil1999><pubmed>10611753</pubmed></ref><ref name=Saharinen1996><pubmed>8617200</pubmed></ref>。実際に様々な生理学的作用を発揮するのはこの成熟TGF-βであり、TGF-βが生理的作用を発揮するにはLLC内のSLCから成熟型TGF-βが遊離される必要がある。LLCから分離した成熟TGF-βはC末端部分からの25kDaの二量体で、LAPはN末端領域からの65~75kDaの二量体である<ref name=Khalil1999><pubmed>10611753</pubmed></ref>。アシドーシスやタンパク質分解による切断など、LLCから成熟型TGF-βを遊離するメカニズム方法はin vitroの実験によっていくつか提唱されているが<ref name=Khalil1999><pubmed>10611753</pubmed></ref>、生体内での正確なメカニズムプロセスについては不明な点が多く残されている。 | ||
== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
哺乳類のTGF-βにはTGF-β1、-β2、-β3の3つのアイソフォームがある<ref name=Gentry1990><pubmed>2397217</pubmed></ref><ref name=Schlunegger1992><pubmed>1641027</pubmed></ref><ref name=tenDijke1990><pubmed>2375596</pubmed></ref><ref name=Derynck1985><pubmed>3861940</pubmed></ref><ref name=Clark1998><pubmed>9611771</pubmed></ref><ref name=Wang2023><pubmed>38067167</pubmed></ref>。各アイソフォームは別々の遺伝子の産物である。TGF-β1および-β3前駆体はそれぞれ、390と412個のアミノ酸からなる。一方で、TGF-β2前駆体にはアイソフォーム1と2の2つのアイソフォームが存在し、それぞれ414個と442個のアミノ酸からなる。一般に、これらのTGF-βはそれぞれβ1、β2、β3サブユニットの二量体からなる。 | |||
== 神経系における発現 == | == 神経系における発現 == | ||
ラット、マウス、ヒトの中枢神経系におけるTGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンは免疫染色あるいはin situ hybridizationを用いた研究によって調べられている。TGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンには若干の動物種差がある。ここでは成体ラット脳組織切片を用いて調べられたTGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンについて紹介する<ref name=Knuckey1996><pubmed>8840007</pubmed></ref><ref name=Unsicker1991><pubmed>1754055</pubmed></ref><ref name=Vincze2010><pubmed>20653032</pubmed></ref>。免疫組織化学によって検出されるTGF-β免疫性反応とin situハイブリダイゼーションで検出されるTGF-β mRNAシグナルの分布パターンは必ずしも一致していない。 | |||
TGF- | TGF-β1免疫反応性は海馬の錐体細胞、脳の髄膜、脈絡叢で検出されている。TGF-β2および -β3免疫反応性は大脳皮質、海馬、視床、視床下部、中脳、脊髄など様々な領域の神経細胞および白質内のアストロサイトで検出されている。 | ||
TGF-β1 | TGF-β1 mRNAに対する強いシグナルは大脳皮質、海馬、中心扁桃体核、内側視索前野、視床下部室傍核、黒質、脳幹網様体などで検出されている。TGF-β2 mRNAの強いシグナルは深部皮質層、歯状回、正中線視床核、後視床下部および乳頭体、上オリーブ核、モノアミン作動性ニューロンの領域、三叉神経脊髄路核、背側迷走神経複合体、小脳、および脈絡叢で検出されている。TGF-β3 mRNAの強いシグナルは大脳皮質、海馬、扁桃体基底核、外側中隔核、いくつかの視床核、弓状核および乳頭体上核、上丘、上オリーブ核、脳幹網様体、最後野、および下オリーブ核で検出されている。 | ||
グリア細胞におけるTGF-βの発現については培養細胞を用いたin vitroの研究でも報告されている。培養アストロサイトではTGF-β1、-β2、-β3 mRNAが検出されており、TGF-β1および-β2についてはタンパク質レベルでもその発現が確認されている<ref name=Flanders1993><pubmed>19912947</pubmed></ref>。培養ミクログリアでは、TGF-β1、-β2、-β3に対する免疫陽性反応が検出されているとともに、TGF-β1 mRNAが産生されていることも報告されている<ref name=daCunha1993><pubmed>8423208</pubmed></ref>。TGF-β1mRNAの産生は培養アストロサイトと培養オリゴデンドロサイトでも報告されている<ref name=Derynck2003><pubmed>14534577</pubmed></ref>。 | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
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==== 古典的シグナル伝達経路 ==== | ==== 古典的シグナル伝達経路 ==== | ||
細胞内シグナル分子であるSMADタンパク質を介したシグナル伝達経路で、最終的に遺伝子の新規発現につながる<ref name=Derynck2003><pubmed>14534577</pubmed></ref><ref name=Konig2005><pubmed>15781474</pubmed></ref>。 | |||
哺乳類ではSMADは8種類あることが知られている。これらのSMADはreceptor-regulated SMAD (R-SMAD)}{common-regulated SMAD (Co-SMAD), inhibitory SMAD (I- SMAD)の3タイプに分けられる。R-SMADはTGF-β受容体によるリン酸化を受けるSMADであり、このタイプにはSMAD1、2、3、5あるいは8(9とも呼ばれる)が含まれる。TGF-βの受容体はセリン/スレオニンキナーゼファミリーの受容体に属するI型受容体とII型受容体のサブユニットで構成されている。I型およびII型受容体はそれぞれ二量体を形成する。TGF-βがII型の受容体に結合すると、I型受容体と会合して四量体を形成し、II型受容体がI型受容体のセリン残基をリン酸化することでI型受容体が活性化し、R-SMADのリン酸化を引き起こす。 | |||
TGF- | TGF-βスーパーファミリータンパク質の受容体として、7種類のI型受容体と5種類のII型受容体がこれまでに同定されているが、そのうち、TGF-β RI/アクチビン様キナーゼ受容体5 (ALK 5)とアクチビン様キナーゼ受容体1 (ALK 1)がI型受容体として、TβRIIがII型受容体としてそれぞれ機能している。神経系におけるほとんどの細胞では、TGF-βはALK 5を介してシグナルを細胞内に伝達するが、ニューロンでは、ALK1を介してシグナルを細胞内に伝達することもある。Co-SMADはリン酸化されたR-SMADと複合体を形成し、R-SMADとともに核内に移行して転写制御因子として働く。Smad4はCo-SMADに分類される。また、I-SMADはR-SMADのI型受容体やCo-SMADへの結合の阻害やI型受容体のダウンレギュレーションなどを介してTGF-βシグナルの伝達を阻害する役割を持つ。I-SMADにはSMAD 6とSMAD 7が含まれる。 | ||
一般に、核内に移行したR-SMADとCo- | 一般に、核内に移行したR-SMADとCo-SMADの複合体はSMAD binding elements (SBEs)と呼ばれる遺伝子DNA上の塩基配列(5’-AGAC-3’)に結合して、その下流に位置する遺伝子のmRNAへの転写を促進する。 | ||
==== 非古典的シグナル伝達経路 ==== | ==== 非古典的シグナル伝達経路 ==== | ||
SMAD非依存的シグナル伝達経路である。TGF- | SMAD非依存的シグナル伝達経路である。TGF-βはextracellular signal-regulated kinase (Erk) 1/2、c-Jun N-terminal kinase (JNK)、p38 MAPKを含むmitogen-activated protein kinases (MAPKs)、nuclear factor-kappa B (NF-κB)、Rho-like GTPases、phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K)/AKTも活性化させる<ref name=Mu2012><pubmed>21701805</pubmed></ref><ref name=Choi2012><pubmed>22835455</pubmed></ref><ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。これらのシグナル伝達分子のうち、JNKとp38 MAPKはセリン/スレオニンキナーゼであるTGF-β-activated kinase1 (TAK1) 活性の経路によって活性化される。TAK1はTAK1-binding protein (TAB) 2およびUbiquitin ligase tumor necrosis factor receptor associated factor (TRAF) 6との複合体を形成することでTβRIと結合しているが、TGF-β1の受容体への結合によってTAK1はTβRIから遊離される。遊離したTAK1はTAB1と相互作用することで自己リン酸化を引き起こし、活性状態となる。活性化したTAK1はMKK3-p38やMKK4-JNKカスケードなどの下流のシグナル伝達経路を活性化することで、細胞内にTGF-βの刺激を伝達する<ref name=Mu2012><pubmed>21701805</pubmed></ref>。 | ||
このように、TAK1の活性を起点とするMAPKs経路の活性化はSMAD依存経路とは異なり、TGF-β受容体であるTβRIキナーゼ活性に依存せずに生じる。TGF- | このように、TAK1の活性を起点とするMAPKs経路の活性化はSMAD依存経路とは異なり、TGF-β受容体であるTβRIキナーゼ活性に依存せずに生じる。TGF-βによるTAK1の活性はIκB kinase (IKK)を介してNF-κBシグナル伝達を活性化し、IκBαのリン酸化、NF-κBサブユニットp65の核移行およびリン酸化、ならびにNF-κB下流標的の活性化をもたらす<ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。 | ||
=== 神経細胞での機能 === | === 神経細胞での機能 === | ||
TGF-βの神経細胞における細胞増殖/ | TGF-βの神経細胞における細胞増殖/細胞生存への影響がいくつかの研究グループによって評価されている。ウズラ神経堤細胞を用いたin vitro実験では、TGF-βは神経堤細胞の増殖を阻害する一方で、神経新生を著しく増加することが報告されている<ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。発達中のマウスの海馬および大脳皮質由来の初代培養神経細胞を用いた研究では、TGF-βは神経前駆細胞に対して増殖抑制効果を発揮することが報告されている<ref name=Vogel2010><pubmed>19587023</pubmed></ref>。また、ニワトリ胚由来培養運動ニューロンを用いた研究では、TGF-βは塩基性線維芽細胞増殖因子と相乗的に作用して運動ニューロンの生存を助けることが報告されている<ref name=Gouin1996><pubmed>8699531</pubmed></ref>。 | ||
=== グリア細胞での機能 === | === グリア細胞での機能 === | ||
In vitroの研究によって、グリア細胞の細胞増殖、細胞生存、貪食能、遺伝子発現を含む様々な細胞機能に対するTGF-βの影響が報告されている。 | |||
==== アストロサイトおよびミクログリアの細胞増殖能==== | ==== アストロサイトおよびミクログリアの細胞増殖能==== | ||
TGF-βのアストロサイト増殖能への影響についていくつかの研究グループによって評価されているが、その効果についての見解は研究グループ間で異なっている。LindholmらはTGF-β1は大脳皮質由来の培養アストロサイトに対して増殖抑制効果を発揮することを報告している<ref name=Lindholm1992><pubmed>1560032</pubmed></ref>。一方、JohnsらはTGF-β1は脳幹由来のアストロサイトに対して増殖促進効果を示すが、前脳由来のアストロサイトの増殖には影響を及ぼさないことを報告している<ref name=Johns1992><pubmed>1511306</pubmed></ref>。研究グループ間のTGF-β1のアストロサイト増殖能への影響の違いは培養条件などが考えられるが、詳細については不明である。 | TGF-βのアストロサイト増殖能への影響についていくつかの研究グループによって評価されているが、その効果についての見解は研究グループ間で異なっている。LindholmらはTGF-β1は大脳皮質由来の培養アストロサイトに対して増殖抑制効果を発揮することを報告している<ref name=Lindholm1992><pubmed>1560032</pubmed></ref>。一方、JohnsらはTGF-β1は脳幹由来のアストロサイトに対して増殖促進効果を示すが、前脳由来のアストロサイトの増殖には影響を及ぼさないことを報告している<ref name=Johns1992><pubmed>1511306</pubmed></ref>。研究グループ間のTGF-β1のアストロサイト増殖能への影響の違いは培養条件などが考えられるが、詳細については不明である。 | ||
TGF-β1はミクログリア増殖能にも影響する。TGF-β1はGM-CSFおよびM-CSFおよび特異的抗原活性化によって誘導されるミクログリアの増殖を阻害する <ref name=Suzumura1991><pubmed>1907214</pubmed></ref><ref name=Xiao1996><pubmed>8608649</pubmed></ref>。 | |||
==== ミクログリアおよびオリゴデンドロサイトの細胞生存/細胞死 ==== | ==== ミクログリアおよびオリゴデンドロサイトの細胞生存/細胞死 ==== | ||
TGF-β1のミクログリアの細胞生存/ | TGF-β1のミクログリアの細胞生存/細胞死への効果に対する見解は研究グループ間で異なっている。MitchellらはTGF-β1がミクログリアの細胞死を誘導することを報告している<ref name=Mitchell2014><pubmed>24251648</pubmed></ref>。これに対して、SalimiらはTGF-β1は無血清培地下でミクログリアの生存を維持することを報告している<ref name=Salimi2003><pubmed>12712323</pubmed></ref>。 | ||
TGF- | TGF-β1はオリゴデンドロサイトに対して細胞死を誘導することも報告されている<ref name=Schulz2008><pubmed>19002501</pubmed></ref>。 | ||
==== アストロサイトおよびミクログリアの遺伝子発現 ==== | ==== アストロサイトおよびミクログリアの遺伝子発現 ==== | ||
TGF- | TGF-β1はアストロサイトでのGFAP、ラミニン、フィブロネクチン、I型コラーゲンの発現レベルを上昇させる<ref name=Baghdassarian1993><pubmed>8454306</pubmed></ref>。また、TGF-β1はミクログリアにおいてKlf10、integrin β5、serpine、Smurf、fibronectin、furin、matrix metallopeptidase、thrombospondinなどの遺伝子発現レベルを上昇させる<ref name=Spittau2013><pubmed>23065670</pubmed></ref>。TGF-βは培養アストロサイトおよびミクログリアにおけるTNF-αやIL-1β、iNOSなどの炎症誘導性メディエーターの産生調節因子として機能することが示されている。アストロサイトでは、TGF-βはinterferon (IFN)- γ/lipopolysaccharide (LPS)、IFN-γ/IL-1βおよびTNF-αによって誘導されるTNF-α発現を抑制する一方で、IFN-γ/LPSによって誘導されるiNOS発現を促進する<ref name=Benveniste1994><pubmed>7963576</pubmed></ref><ref name=Hamby2006><pubmed>16921522</pubmed></ref>。一方、ミクログリアでは、TGF-βはLPSによって誘導されるiNOS、IL-1βおよびTNF-α発現を抑制する<ref name=Islam2018><pubmed>29269050</pubmed></ref>。 | ||
==== ミクログリアの貪食能 ==== | ==== ミクログリアの貪食能 ==== | ||
TGF-βはミクログリアのlatex beads貪食能を低下させるとの研究結果が報告されている<ref name=vonZahn1997><pubmed>9462454</pubmed></ref>。 | TGF-βはミクログリアのlatex beads貪食能を低下させるとの研究結果が報告されている<ref name=vonZahn1997><pubmed>9462454</pubmed></ref>。 | ||
=== 神経内分泌機構 === | === 神経内分泌機構 === | ||
視索前組織の組織片をTGF-β1とともに培養すると、個々のニューロンにおけるGnRH mRNA発現が用量依存的に有意に減少する。また、このTGF-β1誘導性のGnRH mRNA発現レベル減少は可溶性TGF-β受容体IIを培養培地に添加することで阻害される<ref name=Bouret2004><pubmed>14670985</pubmed></ref>。若いマウスの視交叉上核と室傍核では、TGF-βとSMAD3の発現の日内パターンが見られる<ref name=Beynon2009><pubmed>19609088</pubmed></ref>。 | |||
== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||
=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === | ||
アルツハイマー病患者やアルツハイマー病のマウスモデルの脳では、TGF-β1やTGF-β2の発現レベルが上昇している <ref name=Lippa1995><pubmed>8846236</pubmed></ref><ref name=Morimoto2011><pubmed>21368376</pubmed></ref><ref name=Wirths2010><pubmed>18657882</pubmed></ref>。しかしながら、アルツハイマー病患者やアルツハイマー病のマウスモデルの脳でのTGF-β発現レベル上昇のメカニズムは完全には理解されていない。一方で、TGF-βタイプII受容体がアルツハイマー病患者の脳のニューロンで減少していることが報告されている <ref name=Tesseur2006><pubmed>17080199</pubmed></ref>。そのため、アルツハイマー病患者脳でのTGF-β発現レベル上昇はTGF-βシグナル減衰の代償メカニズムである可能性が考えられている。 | |||
=== パーキンソン病 === | === パーキンソン病 === | ||
パーキンソン病では線条体に投射する黒質線条体ドーパミン細胞が喪失する。TGF-βは胎仔ラット中脳由来のチロシン水酸化酵素(TH)免疫反応性ドーパミン作動性ニューロンのin vitro生存を促進する<ref name=Krieglstein1994><pubmed>7700516</pubmed></ref>。また、胎仔ラット由来中脳細胞をTGF-βで処理すると、24時間以内にTH陽性ドーパミン作動性ニューロンの数が大幅に増加する。このTGF-β誘導性のTH陽性ドーパミン作動性ニューロン数増加はTGF-β中和抗体の添加によって完全に消失する<ref name=Farkas2003><pubmed>12832542</pubmed></ref>。 | |||
== 関連語 == | == 関連語 == | ||
2025年4月6日 (日) 01:00時点における版
英語:TGF-β(Transforming growth factor-β)
TGF-βは、骨形成因子やアクチビン、インヒビンなどと共にTGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインで、発生過程や成体において多様な細胞機能を調節する。哺乳類のTGF-βには、β1、β2、β3の3つのアイソフォームがあり、これらは神経系で異なる発現パターンを示す。TGF-βはN末端シグナルペプチド、潜在関連ペプチド(LAP)、C末端成熟フラグメントの3つのフラグメントからなる前駆体タンパク質として細胞内で産生される。前駆体タンパク質は細胞内でプロセッシングを受けた後、small latent complex (SLC)と呼ばれる二量体複合体となる。この二量体複合体はlatent TGF-β-binding protein (LTBP)と結合してlarge latent complex (LLC)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体となった後、細胞外へ分泌される。TGF-βが生理的作用を発揮するにはLLC内から成熟TGF-βが遊離される必要がある。遊離した成熟型TGF-βが細胞表面にある受容体に結合すると、細胞内シグナルタンパク質であるSMADが活性化する。活性化したSMADは細胞質から核に移行して標的遺伝子の発現を調節する。TGF-βの細胞内シグナル伝達にはSMADの代わりにMAP kinaseやNFBを介した経路もある。神経系でのTGF-βは、神経細胞やグリア細胞の機能に影響を与え、細胞増殖や生存に関与する。TGF-βはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患に関連していることが示唆されている。特にTGF-βはパーキンソン病と関連性が深い黒質線条体ドーパミン細胞の生存に寄与していることが示唆されている。
トランスフォーミング増殖因子βとは
トランスフォーミング増殖因子β (transforming growth factors; TGF) は骨形成因子、抗ミュラー管ホルモン、アクチビン、インヒビンとともにTGF-βスーパーファミリータンパク質に含まれるサイトカインで、発生過程および成体において様々な細胞機能の調節を行っている[1]。異なるTGF-βスーパーファミリーのメンバーは機能が重複している場合もあるが、互いの機能を拮抗させたりすることもある。ここでは哺乳類のTGF-βについて述べる。
構造
TGF-βは前駆体タンパク質(プレプロタンパク質)として細胞内で産生される(図1)[2][3][4]。前駆体タンパク質は、N末端シグナルペプチド、潜在関連ペプチド(latency-associated peptide: LAP)、C末端成熟フラグメントの3つのフラグメントで構成されている。小胞体内腔で前駆体タンパク質からシグナルペプチドが切断された後、残りの前駆体タンパク質(プロタンパク質)はジスルフィド結合を介して二量体化し、ゴルジ装置に移行する。ゴルジ装置ではプロテアーゼであるフーリン(furin)によって成熟型(活性型)TGF-βと潜伏関連ペプチドの2つの部位に分解される。成熟TGF-βとLAPのそれぞれの二量体は非共有結合で相互作用し、small latent complex (SLC)と呼ばれる潜在型複合体となるが、このSLCは潜在型TGF-β結合タンパク質(latent TGFβ binding protein: LTBP)との結合によってlarge latent complex (LLC)と呼ばれるさらに大きな潜在型複合体となる。LLCはその後、細胞外マトリックスへ分泌される[4][5]。実際に様々な生理学的作用を発揮するのはこの成熟TGF-βであり、TGF-βが生理的作用を発揮するにはLLC内のSLCから成熟型TGF-βが遊離される必要がある。LLCから分離した成熟TGF-βはC末端部分からの25kDaの二量体で、LAPはN末端領域からの65~75kDaの二量体である[4]。アシドーシスやタンパク質分解による切断など、LLCから成熟型TGF-βを遊離するメカニズム方法はin vitroの実験によっていくつか提唱されているが[4]、生体内での正確なメカニズムプロセスについては不明な点が多く残されている。
サブファミリー
哺乳類のTGF-βにはTGF-β1、-β2、-β3の3つのアイソフォームがある[6][7][8][9][10][11]。各アイソフォームは別々の遺伝子の産物である。TGF-β1および-β3前駆体はそれぞれ、390と412個のアミノ酸からなる。一方で、TGF-β2前駆体にはアイソフォーム1と2の2つのアイソフォームが存在し、それぞれ414個と442個のアミノ酸からなる。一般に、これらのTGF-βはそれぞれβ1、β2、β3サブユニットの二量体からなる。
神経系における発現
ラット、マウス、ヒトの中枢神経系におけるTGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンは免疫染色あるいはin situ hybridizationを用いた研究によって調べられている。TGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンには若干の動物種差がある。ここでは成体ラット脳組織切片を用いて調べられたTGF-βの局在およびその遺伝子発現パターンについて紹介する[12][13][14]。免疫組織化学によって検出されるTGF-β免疫性反応とin situハイブリダイゼーションで検出されるTGF-β mRNAシグナルの分布パターンは必ずしも一致していない。
TGF-β1免疫反応性は海馬の錐体細胞、脳の髄膜、脈絡叢で検出されている。TGF-β2および -β3免疫反応性は大脳皮質、海馬、視床、視床下部、中脳、脊髄など様々な領域の神経細胞および白質内のアストロサイトで検出されている。
TGF-β1 mRNAに対する強いシグナルは大脳皮質、海馬、中心扁桃体核、内側視索前野、視床下部室傍核、黒質、脳幹網様体などで検出されている。TGF-β2 mRNAの強いシグナルは深部皮質層、歯状回、正中線視床核、後視床下部および乳頭体、上オリーブ核、モノアミン作動性ニューロンの領域、三叉神経脊髄路核、背側迷走神経複合体、小脳、および脈絡叢で検出されている。TGF-β3 mRNAの強いシグナルは大脳皮質、海馬、扁桃体基底核、外側中隔核、いくつかの視床核、弓状核および乳頭体上核、上丘、上オリーブ核、脳幹網様体、最後野、および下オリーブ核で検出されている。
グリア細胞におけるTGF-βの発現については培養細胞を用いたin vitroの研究でも報告されている。培養アストロサイトではTGF-β1、-β2、-β3 mRNAが検出されており、TGF-β1および-β2についてはタンパク質レベルでもその発現が確認されている[15]。培養ミクログリアでは、TGF-β1、-β2、-β3に対する免疫陽性反応が検出されているとともに、TGF-β1 mRNAが産生されていることも報告されている[16]。TGF-β1mRNAの産生は培養アストロサイトと培養オリゴデンドロサイトでも報告されている[17]。
機能
シグナル伝達
TGF-βシグナルの細胞内伝達様式は古典的伝達経路と非古典的伝達経路に分けられる。神経系におけるTGF-βシグナルの古典的伝達経路の活性とその機能についてはよく調べられている。一方で、非古典的伝達経路が神経系を構成する各細胞で機能しているかについては不明な点が多い。
古典的シグナル伝達経路
細胞内シグナル分子であるSMADタンパク質を介したシグナル伝達経路で、最終的に遺伝子の新規発現につながる[17][18]。
哺乳類ではSMADは8種類あることが知られている。これらのSMADはreceptor-regulated SMAD (R-SMAD)}{common-regulated SMAD (Co-SMAD), inhibitory SMAD (I- SMAD)の3タイプに分けられる。R-SMADはTGF-β受容体によるリン酸化を受けるSMADであり、このタイプにはSMAD1、2、3、5あるいは8(9とも呼ばれる)が含まれる。TGF-βの受容体はセリン/スレオニンキナーゼファミリーの受容体に属するI型受容体とII型受容体のサブユニットで構成されている。I型およびII型受容体はそれぞれ二量体を形成する。TGF-βがII型の受容体に結合すると、I型受容体と会合して四量体を形成し、II型受容体がI型受容体のセリン残基をリン酸化することでI型受容体が活性化し、R-SMADのリン酸化を引き起こす。
TGF-βスーパーファミリータンパク質の受容体として、7種類のI型受容体と5種類のII型受容体がこれまでに同定されているが、そのうち、TGF-β RI/アクチビン様キナーゼ受容体5 (ALK 5)とアクチビン様キナーゼ受容体1 (ALK 1)がI型受容体として、TβRIIがII型受容体としてそれぞれ機能している。神経系におけるほとんどの細胞では、TGF-βはALK 5を介してシグナルを細胞内に伝達するが、ニューロンでは、ALK1を介してシグナルを細胞内に伝達することもある。Co-SMADはリン酸化されたR-SMADと複合体を形成し、R-SMADとともに核内に移行して転写制御因子として働く。Smad4はCo-SMADに分類される。また、I-SMADはR-SMADのI型受容体やCo-SMADへの結合の阻害やI型受容体のダウンレギュレーションなどを介してTGF-βシグナルの伝達を阻害する役割を持つ。I-SMADにはSMAD 6とSMAD 7が含まれる。
一般に、核内に移行したR-SMADとCo-SMADの複合体はSMAD binding elements (SBEs)と呼ばれる遺伝子DNA上の塩基配列(5’-AGAC-3’)に結合して、その下流に位置する遺伝子のmRNAへの転写を促進する。
非古典的シグナル伝達経路
SMAD非依存的シグナル伝達経路である。TGF-βはextracellular signal-regulated kinase (Erk) 1/2、c-Jun N-terminal kinase (JNK)、p38 MAPKを含むmitogen-activated protein kinases (MAPKs)、nuclear factor-kappa B (NF-κB)、Rho-like GTPases、phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K)/AKTも活性化させる[19][20][21]。これらのシグナル伝達分子のうち、JNKとp38 MAPKはセリン/スレオニンキナーゼであるTGF-β-activated kinase1 (TAK1) 活性の経路によって活性化される。TAK1はTAK1-binding protein (TAB) 2およびUbiquitin ligase tumor necrosis factor receptor associated factor (TRAF) 6との複合体を形成することでTβRIと結合しているが、TGF-β1の受容体への結合によってTAK1はTβRIから遊離される。遊離したTAK1はTAB1と相互作用することで自己リン酸化を引き起こし、活性状態となる。活性化したTAK1はMKK3-p38やMKK4-JNKカスケードなどの下流のシグナル伝達経路を活性化することで、細胞内にTGF-βの刺激を伝達する[19]。
このように、TAK1の活性を起点とするMAPKs経路の活性化はSMAD依存経路とは異なり、TGF-β受容体であるTβRIキナーゼ活性に依存せずに生じる。TGF-βによるTAK1の活性はIκB kinase (IKK)を介してNF-κBシグナル伝達を活性化し、IκBαのリン酸化、NF-κBサブユニットp65の核移行およびリン酸化、ならびにNF-κB下流標的の活性化をもたらす[21]。
神経細胞での機能
TGF-βの神経細胞における細胞増殖/細胞生存への影響がいくつかの研究グループによって評価されている。ウズラ神経堤細胞を用いたin vitro実験では、TGF-βは神経堤細胞の増殖を阻害する一方で、神経新生を著しく増加することが報告されている[21]。発達中のマウスの海馬および大脳皮質由来の初代培養神経細胞を用いた研究では、TGF-βは神経前駆細胞に対して増殖抑制効果を発揮することが報告されている[22]。また、ニワトリ胚由来培養運動ニューロンを用いた研究では、TGF-βは塩基性線維芽細胞増殖因子と相乗的に作用して運動ニューロンの生存を助けることが報告されている[23]。
グリア細胞での機能
In vitroの研究によって、グリア細胞の細胞増殖、細胞生存、貪食能、遺伝子発現を含む様々な細胞機能に対するTGF-βの影響が報告されている。
アストロサイトおよびミクログリアの細胞増殖能
TGF-βのアストロサイト増殖能への影響についていくつかの研究グループによって評価されているが、その効果についての見解は研究グループ間で異なっている。LindholmらはTGF-β1は大脳皮質由来の培養アストロサイトに対して増殖抑制効果を発揮することを報告している[24]。一方、JohnsらはTGF-β1は脳幹由来のアストロサイトに対して増殖促進効果を示すが、前脳由来のアストロサイトの増殖には影響を及ぼさないことを報告している[25]。研究グループ間のTGF-β1のアストロサイト増殖能への影響の違いは培養条件などが考えられるが、詳細については不明である。 TGF-β1はミクログリア増殖能にも影響する。TGF-β1はGM-CSFおよびM-CSFおよび特異的抗原活性化によって誘導されるミクログリアの増殖を阻害する [26][27]。
ミクログリアおよびオリゴデンドロサイトの細胞生存/細胞死
TGF-β1のミクログリアの細胞生存/細胞死への効果に対する見解は研究グループ間で異なっている。MitchellらはTGF-β1がミクログリアの細胞死を誘導することを報告している[28]。これに対して、SalimiらはTGF-β1は無血清培地下でミクログリアの生存を維持することを報告している[29]。
TGF-β1はオリゴデンドロサイトに対して細胞死を誘導することも報告されている[30]。
アストロサイトおよびミクログリアの遺伝子発現
TGF-β1はアストロサイトでのGFAP、ラミニン、フィブロネクチン、I型コラーゲンの発現レベルを上昇させる[31]。また、TGF-β1はミクログリアにおいてKlf10、integrin β5、serpine、Smurf、fibronectin、furin、matrix metallopeptidase、thrombospondinなどの遺伝子発現レベルを上昇させる[32]。TGF-βは培養アストロサイトおよびミクログリアにおけるTNF-αやIL-1β、iNOSなどの炎症誘導性メディエーターの産生調節因子として機能することが示されている。アストロサイトでは、TGF-βはinterferon (IFN)- γ/lipopolysaccharide (LPS)、IFN-γ/IL-1βおよびTNF-αによって誘導されるTNF-α発現を抑制する一方で、IFN-γ/LPSによって誘導されるiNOS発現を促進する[33][34]。一方、ミクログリアでは、TGF-βはLPSによって誘導されるiNOS、IL-1βおよびTNF-α発現を抑制する[35]。
ミクログリアの貪食能
TGF-βはミクログリアのlatex beads貪食能を低下させるとの研究結果が報告されている[36]。
神経内分泌機構
視索前組織の組織片をTGF-β1とともに培養すると、個々のニューロンにおけるGnRH mRNA発現が用量依存的に有意に減少する。また、このTGF-β1誘導性のGnRH mRNA発現レベル減少は可溶性TGF-β受容体IIを培養培地に添加することで阻害される[37]。若いマウスの視交叉上核と室傍核では、TGF-βとSMAD3の発現の日内パターンが見られる[38]。
疾患との関わり
アルツハイマー病
アルツハイマー病患者やアルツハイマー病のマウスモデルの脳では、TGF-β1やTGF-β2の発現レベルが上昇している [39][40][41]。しかしながら、アルツハイマー病患者やアルツハイマー病のマウスモデルの脳でのTGF-β発現レベル上昇のメカニズムは完全には理解されていない。一方で、TGF-βタイプII受容体がアルツハイマー病患者の脳のニューロンで減少していることが報告されている [42]。そのため、アルツハイマー病患者脳でのTGF-β発現レベル上昇はTGF-βシグナル減衰の代償メカニズムである可能性が考えられている。
パーキンソン病
パーキンソン病では線条体に投射する黒質線条体ドーパミン細胞が喪失する。TGF-βは胎仔ラット中脳由来のチロシン水酸化酵素(TH)免疫反応性ドーパミン作動性ニューロンのin vitro生存を促進する[43]。また、胎仔ラット由来中脳細胞をTGF-βで処理すると、24時間以内にTH陽性ドーパミン作動性ニューロンの数が大幅に増加する。このTGF-β誘導性のTH陽性ドーパミン作動性ニューロン数増加はTGF-β中和抗体の添加によって完全に消失する[44]。
関連語
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