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ブレビカンは脳における多様な生理的および病理生理学的可塑性プロセスに関与する神経系プロテオグリカンである。神経細胞の表面に局在し、成熟した神経組織におけるペリニューロナルネット(PNN)やペリシナプス、軸索初節、ランビエ絞輪などで、特定の種類の細胞外マトリックスの形成に寄与している。コンドロイチン硫酸(CS)鎖の結合度合いの変動、マトリックスメタロプロテアーゼによる限定的なプロテオリティック切断、選択的スプライシング、およびCa2+依存性の相互作用分子への結合を通じて、シナプス可塑性、グリオーマの浸潤における調節因子として機能する。さらに、脳の老化および脳疾患との関連からバイオマーカーとして注目されつつある<ref name=Frischknecht2012><pubmed>22537913</pubmed></ref>[5]。 | ブレビカンは脳における多様な生理的および病理生理学的可塑性プロセスに関与する神経系プロテオグリカンである。神経細胞の表面に局在し、成熟した神経組織におけるペリニューロナルネット(PNN)やペリシナプス、軸索初節、ランビエ絞輪などで、特定の種類の細胞外マトリックスの形成に寄与している。コンドロイチン硫酸(CS)鎖の結合度合いの変動、マトリックスメタロプロテアーゼによる限定的なプロテオリティック切断、選択的スプライシング、およびCa2+依存性の相互作用分子への結合を通じて、シナプス可塑性、グリオーマの浸潤における調節因子として機能する。さらに、脳の老化および脳疾患との関連からバイオマーカーとして注目されつつある<ref name=Frischknecht2012><pubmed>22537913</pubmed></ref>[5]。 | ||
[[ファイル:Ohashi Brevican Fig1.png|サムネイル|図1. ブレビカンアイソフォームの構造<br>文献<ref name=Frischknecht2012 />より改変]] | [[ファイル:Ohashi Brevican Fig1.png|サムネイル|'''図1. ブレビカンアイソフォームの構造'''<br>文献<ref name=Frischknecht2012 />より改変]] | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
アグリカンファミリーのプロテオグリカンコアプロテインは相同性の高いN末端G1ドメインとC末端G3ドメインとその間の非相同領域からなる<ref name=Frischknecht2012 /> [5]。G1ドメインはヒアルロン酸結合能をもつ。非相同(NH)領域はファミリー分子間で長さが異なり、その領域には異なる数のCS鎖が結合する。ブレビカンにはCS鎖が結合する部位が潜在的に1-5か所あるとされるが、CS鎖が結合していないブレビカンも検出されており、パートタイムプロテオグリカンである。さらに第8エクソンでスプライシングを受けずイントロン部分をリードスルーして転写され、結果として分泌型にない21アミノ酸残基が翻訳され、GPIアンカー型アイソフォームが形成される('''図1''') <ref name=Seidenbecher1995 /> [3]。GPIアンカー型アイソフォームはアグリカンファミリーの中でブレビカンにのみに存在する。NH領域にマトリックスメタロプロテアーゼの一種であるADAMTSによる切断箇所があるので、両アイソフォームとも翻訳後のプロセシングを受けることがある。プロテオグリカンのタンパク質分解断片はプロテオグリカンそのものとは独立した生物活性を持つことがあり、matrikinsあるいはmatricryptinsと呼ばれる。最近ブレビカンの分解断片もbrevikineと呼ぶことが提唱されている<ref name=Mead2022><pubmed>35785985</pubmed></ref>[6]。 | アグリカンファミリーのプロテオグリカンコアプロテインは相同性の高いN末端G1ドメインとC末端G3ドメインとその間の非相同領域からなる<ref name=Frischknecht2012 /> [5]。G1ドメインはヒアルロン酸結合能をもつ。非相同(NH)領域はファミリー分子間で長さが異なり、その領域には異なる数のCS鎖が結合する。ブレビカンにはCS鎖が結合する部位が潜在的に1-5か所あるとされるが、CS鎖が結合していないブレビカンも検出されており、パートタイムプロテオグリカンである。さらに第8エクソンでスプライシングを受けずイントロン部分をリードスルーして転写され、結果として分泌型にない21アミノ酸残基が翻訳され、GPIアンカー型アイソフォームが形成される('''図1''') <ref name=Seidenbecher1995 /> [3]。GPIアンカー型アイソフォームはアグリカンファミリーの中でブレビカンにのみに存在する。NH領域にマトリックスメタロプロテアーゼの一種であるADAMTSによる切断箇所があるので、両アイソフォームとも翻訳後のプロセシングを受けることがある。プロテオグリカンのタンパク質分解断片はプロテオグリカンそのものとは独立した生物活性を持つことがあり、matrikinsあるいはmatricryptinsと呼ばれる。最近ブレビカンの分解断片もbrevikineと呼ぶことが提唱されている<ref name=Mead2022><pubmed>35785985</pubmed></ref>[6]。 | ||
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== 発現 == | == 発現 == | ||
ブレビカンの発現は脳特異的とされ、生後に発現増加がみられる。げっ歯類では生後1週目の発現量は少ないが、2週目以降臨界期の終了にかけて発現が増加し成体ではある程度の発現レベルが維持される。ブレビカンはニューロンからもグリア細胞からも発現が認められる<ref name=Seidenbecher1998><pubmed>9751135</pubmed></ref><ref name=Gary2000><pubmed>11054543</pubmed></ref>[8, 9]。分泌型ブレビカンはPNNに代表されるように神経細胞周囲の細胞外マトリックス(ECM)に組み込まれ、GPIアンカー型ブレビカンは細胞表面に直接結合する形をとる(図2)。GPIアンカー型特異的な抗体がないため、アイソフォームによる発現細胞の違いの検出はもっぱらin situ hybridization (ISH)に依存している。しかしながら、近年ISHの感度が上がり、GPIアンカー型の発現の報告が目立ってきている<ref name=Favuzzi2017><pubmed>28712654</pubmed></ref><ref name=Hazlett2024><pubmed>38346480</pubmed></ref>[10,11]。ADAMTSメンバーの発現もISHにより調べられ、神経回路の形成に加え、ECMのリモデリングにおける役割が想定される<ref name=Levy2015><pubmed>25349050</pubmed></ref>[12]。 | ブレビカンの発現は脳特異的とされ、生後に発現増加がみられる。げっ歯類では生後1週目の発現量は少ないが、2週目以降臨界期の終了にかけて発現が増加し成体ではある程度の発現レベルが維持される。ブレビカンはニューロンからもグリア細胞からも発現が認められる<ref name=Seidenbecher1998><pubmed>9751135</pubmed></ref><ref name=Gary2000><pubmed>11054543</pubmed></ref>[8, 9]。分泌型ブレビカンはPNNに代表されるように神経細胞周囲の細胞外マトリックス(ECM)に組み込まれ、GPIアンカー型ブレビカンは細胞表面に直接結合する形をとる(図2)。GPIアンカー型特異的な抗体がないため、アイソフォームによる発現細胞の違いの検出はもっぱらin situ hybridization (ISH)に依存している。しかしながら、近年ISHの感度が上がり、GPIアンカー型の発現の報告が目立ってきている<ref name=Favuzzi2017><pubmed>28712654</pubmed></ref><ref name=Hazlett2024><pubmed>38346480</pubmed></ref>[10,11]。ADAMTSメンバーの発現もISHにより調べられ、神経回路の形成に加え、ECMのリモデリングにおける役割が想定される<ref name=Levy2015><pubmed>25349050</pubmed></ref>[12]。 | ||
[[ファイル:Ohashi Brevican Fig2.png|サムネイル|'''図2. ペリニューロナルネットと分子構成'''<br>BioRenderを使用し作製。]] | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
=== ペリニューロナルネット === | === ペリニューロナルネット === | ||
ブレビカンは、脳内で最も豊富なCSPGsの一つであり、PNNsの根本的な構成要素である('''図2''')<ref name=Fawcett2019><pubmed>31263252</pubmed></ref>[13]。PNNには、ECM成分が濃縮されており、恒常的にシナプス可塑性を安定化させているという静的なイメージがあったが、Ricoらの研究によると、海馬のPVニューロンではBCANがカリウムチャネルの局在化とシナプスAMPA受容体のレベルを制御することでPVニューロンの性質を動的に調節し、その機能が空間的作業記憶と短期記憶に根本的に必要であることを報告した<ref name=Hazlett2024 /> [11]。脳内のPNNは場所により成分も異なっており、さらに詳細な調査が必要である。 | |||
=== 軸索被膜 === | === 軸索被膜 === | ||
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=== 発作性転倒症候群 === | === 発作性転倒症候群 === | ||
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル犬にみられる発作性転倒症候群(EFS)の原因遺伝子がゲノムワイド関連解析を用いて第7染色体に同定され、BCAN遺伝子の15.7 kbの欠失がEFSと関連していることが判明した<ref name=Gill2012><pubmed>21821125</pubmed></ref>[28]。米国でのEFSの既往歴のない同犬種の大規模な集団を対象にした広範な検査では、保因動物が極めて一般的であることが判明した(12.9%)。EFSを有する動物の数を最小限に抑えることを目的とした選択的交配プログラムの実施を可能にする。なお、ヒトでは同様の疾患でのBCAN変異報告はない。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||