「受容野」の版間の差分

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 受容野の最初の明確な定義はH. K. Hartline (1940) による<ref>'''H. K. Hartline '''<br>The receptive fields of optic nerve fibers. <br>Am. J. Physiol: 1940. 130. 690-699.</ref>。彼は、スポット光にたいするカエル網膜神経節細胞の活動を調べたところ、網膜のある範囲に光を照射したとき、あるいは光を取り除いたときにのみ細胞が興奮応答することを見いだし、この範囲を受容野と定義した。  
 受容野の最初の明確な定義はH. K. Hartline (1940) による<ref>'''H. K. Hartline '''<br>The receptive fields of optic nerve fibers. <br>Am. J. Physiol: 1940. 130. 690-699.</ref>。彼は、スポット光にたいするカエル網膜神経節細胞の活動を調べたところ、網膜のある範囲に光を照射したとき、あるいは光を取り除いたときにのみ細胞が興奮応答することを見いだし、この範囲を受容野と定義した。  


 後述するように、ネコの網膜神経説細胞は、受容野の中心付近に照射する場合とその周囲に照射する場合とで反応が異なり、一方では興奮応答し他方では抑制応答する<ref name="ref2"><pubmed> 13035466 </pubmed></ref>。このように細胞が刺激を受けとる様式は受容野内部で一様でなく、その内部的な構造は受容野構造(receptive field structure)と呼ばれている。    
 後述するように、ネコの網膜神経説細胞は、受容野の中心付近に光を照射する場合とその周囲に照射する場合とで反応が異なり、一方では興奮応答がみられ、他方では抑制応答がみられる<ref name="ref2"><pubmed> 13035466 </pubmed></ref>。このように細胞が刺激を受けとる様式は受容野内部で一様でなく、その内部的な構造は受容野構造(receptive field structure)と呼ばれている。    


 同じ感覚系でも受容野構造はその処理段階で大きく異なる。これは、感覚処理経路において前段階の出力が収斂と分散を繰り返しながら次段階へと送られていくためである。一般に初期段階では狭く単純な構造の受容野がみられるのにたいし、高次の段階になると広く複雑な構造の受容野がみられる。とくに、初期段階の細胞の受容野は、その内部に複数の刺激が呈示されても、入力信号は単純に線形加算(linear summation)されるだけの場合が多い。このような受容野は線形受容野(linear receptive field)と呼ばれ、その構造は単純な空間フィルターとして表すことができる。一方、高次の段階では、受容野内部での信号の加算の仕方は非線形(nonlinear)なものとなり、受容野構造は、複数の空間フィルターや整流機構(rectification)などを縦列、並列に組み合わせた複雑な回路様の機構として記述される。  
 同じ感覚系でも受容野構造はその処理段階で大きく異なる。これは、感覚処理経路において前段階の出力が収斂と分散を繰り返しながら次段階へと送られていくためである。一般に初期段階では狭く単純な構造の受容野がみられるのにたいし、高次の段階になると広く複雑な構造の受容野がみられる。とくに、初期段階の細胞の受容野は、その内部に複数の刺激が呈示されても、入力信号は単純に線形加算(linear summation)されるだけの場合が多い。このような受容野は線形受容野(linear receptive field)と呼ばれ、その構造は単純な空間フィルターとして表すことができる。一方、高次の段階では、受容野内部での信号の加算の仕方は非線形(nonlinear)なものとなり、受容野構造は、複数の空間フィルターや整流機構(rectification)などを縦列、並列に組み合わせた複雑な回路様の機構として記述される。  
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 古典的受容野の周辺には、刺激が単独で呈示されるときには細胞活動に影響しないが、古典的受容野内部の刺激と同時に呈示されると、細胞に主に抑制性の影響を及ぼす空間範囲があり、これを非古典的受容野と呼んでいる<ref name="ref20"><pubmed> 3885829 </pubmed></ref><ref name="ref21"><pubmed> 10981611 </pubmed></ref>。<br>  
 古典的受容野の周辺には、刺激が単独で呈示されるときには細胞活動に影響しないが、古典的受容野内部の刺激と同時に呈示されると、細胞に主に抑制性の影響を及ぼす空間範囲があり、これを非古典的受容野と呼んでいる<ref name="ref20"><pubmed> 3885829 </pubmed></ref><ref name="ref21"><pubmed> 10981611 </pubmed></ref>。<br>  


 非古典的受容野は網膜の段階ですでに存在しており、視覚経路のほとんど全ての段階でみられるが、ここでは最も多くの研究が行われてきたV1野の非古典的受容野について述べる。V1野ではこの構造は周辺領域と呼ばれることも多いが、これは網膜細胞の周辺領域とは全く異なるので注意が必要である。V1野でこの領域は古典的受容野の周囲に一様に広がるのではなく、ある程度の局在化がみられ、最適方位の延長上に広がるもの、最適方位と直交する軸方向に広がるもののほか、斜め方向に位置するものもある。多くは抑制性の影響を及ばすが興奮性の影響も報告されている。また非古典的受容野の抑制には特徴選択性があり、古典的受容野の最適な方位、空間周波数にたいして最も抑制が強くなる。これらの構造は、古典的受容野に最適な縞模様の境界部分を検出するのに適しており、テクスチャー分析に役立っているものと考えられている。とくに、古典的受容野と周辺領域が同じ向きに伸びているものが報告されており、このような構造は異なるテクスチャーのエッジ部分の検出に好都合である。これ以外にも非古典的受容野は、ポップアップや図地分化と呼ばれる知覚現象の基盤として、線分の長さや折れ線、曲線の角度や極率、主観的輪郭などさまざまな特徴を検出するための初期機構としても注目されている。
 非古典的受容野は網膜の段階ですでに存在しており、視覚経路のほとんど全ての段階でみられるが、ここでは最も多くの研究がなされたV1野の非古典的受容野について述べる。V1野ではこの構造は周辺領域と呼ばれることも多いが、これは網膜細胞の周辺領域とは全く異なるので注意が必要である。この領域は古典的受容野の周囲に一様に広がるのではなく、ある程度の局在化がみられ、古典的受容野の最適方位の延長上に広がるもの、最適方位と直交する軸方向に広がるもののほか、斜め方向に位置するものもある。多くは抑制性の影響を及ばすが興奮性の影響も報告されている。また非古典的受容野の抑制には特徴選択性があり、古典的受容野の最適な方位、空間周波数にたいして最も抑制が強くなる。これらの構造は、古典的受容野に最適な縞模様の境界部分を検出するのに適しており、テクスチャー分析に役立っているものと考えられている。とくに、古典的受容野と周辺領域が同じ向きに伸びているものが報告されており、このような構造は異なるテクスチャーのエッジ部分の検出に好都合である。これ以外にも非古典的受容野は、ポップアップや図地分化と呼ばれる知覚現象の基盤として、線分の長さや折れ線、曲線の角度や極率、主観的輪郭などさまざまな特徴を検出するための初期機構としても注目されている。


=== 高次視覚野における受容野構造  ===
=== 高次視覚野における受容野構造  ===
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