「Tet on/offシステム」の版間の差分

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英:Tet-on/off systems
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0204069 平林 敬浩]、[http://researchmap.jp/read0076409 八木 健]</font><br>
''大阪大学 大学院生命機能研究科 時空生物学講座 心生物学グループ''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月19日 原稿完成日:2012年7月24日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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英:Tet-on/off systems, tetracycline-controlled transcriptional activation systems
同義語:Tetracycline-controlled transcriptional activation systems


同義語:テトラサイクリン遺伝子発現調節システム、テトラサイクリン遺伝子発現誘導系
 Tet-on/offシステムとは[[wikipedia:JA:抗生物質|抗生物質]][[wikipedia:JA:テトラサイクリン|テトラサイクリン]][[wikipedia:JA:誘導体|誘導体]]である[[wikipedia:JA:ドキシサイクリン|ドキシサイクリン]]を投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。
 
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 Tet-on/offシステムとは[[wikipedia:JA:抗生物質|抗生物質]][[wikipedia:JA:テトラサイクリン|テトラサイクリン]][[wikipedia:JA:誘導体|誘導体]]である[[wikipedia:JA:ドキシサイクリン|ドキシサイクリン]]を投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。このシステムは[[wikipedia:JA:大腸菌|大腸菌]]テトラサイクリン耐性[[wikipedia:JA:オペロン|オペロン]]で働くTetリプレッサー(TetR)とTetオペレーター配列(tetO配列)を利用し、TetRはテトラサイクリン非存在下でtetO配列に結合するが、テトラサイクリンが結合するとtetO配列に結合できなくなるという性質を利用している。 ドキシサイクリン存在下で目的遺伝子を発現するものをTet-Onシステム、逆にドキシサイクリン非存在下で目的遺伝子が発現し、ドキシサイクリン存在下では発現が抑制されるものをTet-Offシステムと呼ぶ<ref name=ref1><pubmed> 1319065 </pubmed></ref>。
}}


==Tet on/off システムとは==
==Tet on/off システムとは==
 Tet-on/offシステムとは大腸菌のもつTetリプレッサー、およびTetオペレーターを利用し、抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系であり、1990年代にHermann BujardとManfred Gossenによって開発された<ref name=ref1 />。これまでの遺伝子発現実験系では目的遺伝子の発現は「する」「しない」しか制御できなかったが、本システムでは発現量を段階的にかつ容易に調節できるという特徴を持つ。
 Tet-on/offシステムとは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。 このシステムは[[wikipedia:JA:大腸菌|大腸菌]]テトラサイクリン耐性[[wikipedia:JA:オペロン|オペロン]]で働くTetリプレッサー(TetR)とTetオペレーター配列(tetO配列)を利用し、TetRはテトラサイクリン非存在下でtetO配列に結合するが、テトラサイクリンが結合するとtetO配列に結合できなくなるという性質を利用している。 ドキシサイクリン存在下で目的遺伝子を発現するものをTet-Onシステム、逆にドキシサイクリン非存在下で目的遺伝子が発現し、ドキシサイクリン存在下では発現が抑制されるものをTet-Offシステムと呼ぶ<ref><pubmed> 1319065 </pubmed></ref>


== 基本要素==
== 基本要素==


===テトラサイクリン調節性トランス活性化因子===
=== tTA: tetracycline transactivator  ===
tetracycline transactivator (tTA)


 TetRと[[wikipedia:JA:ヘルペスウイルス|ヘルペスウイルス]]由来の[[wikipedia:JA:VP16|VP16]][[wikipedia:JA:転写活性|転写活性]]ドメイン (VP16AD)との融合タンパク質でありtetO配列に結合すると下流の[[プロモーター]]を活性化する。ドキシサイクリンと結合するとTetRがtetO配列に結合できなくなるためtetO配列下流のプロモーターは活性化しない。
 TetRと[[wikipedia:JA:ヘルペスウイルス|ヘルペスウイルス]]由来の[[wikipedia:JA:VP16|VP16]][[wikipedia:JA:転写活性|転写活性]]ドメイン (VP16AD)との融合タンパク質でありtetO配列に結合すると下流の[[プロモーター]]を活性化する。ドキシサイクリンと結合するとTetRがtetO配列に結合できなくなるためtetO配列下流のプロモーターは活性化しない。


===リバーステトラサイクリン調節性トランス活性化因子===
=== reverse tTA: reverse tetracycline transactivator  ===
reverse tetracycline transactivator (reverse tTAまたはrtTA)


 TetR のアミノ酸残基を一部改変して作製されたreverse TetR(rTetR)とVP16ADとの融合タンパク質である。tTAとは逆にドキシサイクリンと結合することでtetO配列に結合し、下流のプロモーターを活性化する。  
 TetR のアミノ酸残基を一部改変して作製されたreverse TetR(rTetR)とVP16ADとの融合タンパク質である。tTAとは逆にドキシサイクリンと結合することでtetO配列に結合し、下流のプロモーターを活性化する。  


===テトラサイクリン応答因子===
=== TRE (Tetracycline Respons Element)  ===
Tetracycline response element (TRE)


 大腸菌のtetO配列の繰り返し配列から成りtTAあるいはrtTAが結合すると下流のプロモーターを活性化する。
 大腸菌のtetO配列の繰り返し配列から成りtTAあるいはrtTAが結合すると下流のプロモーターを活性化する。


[[Image:Tetonoff図1.png|thumb|right|350px|'''図1 Tet-onシステム''']]
== Tet-onシステムの原理  ==


== Tet-onシステム==
[[Image:Tetonoff図1.jpg|thumb|right|350px|'''図1 Tet-onシステム''']]


 目的の遺伝子を発現する組織、細胞に適したプロモーターの制御下でrtTAを発現する制御ベクター (regular vector)、およびTRE配列をもつ最小プロモーター (minimal promoter)の下流に目的遺伝子をつなげた応答ベクター (response vector)の両者を細胞あるいは動物個体に導入する。 発現したrtTAはドキシサイクリン非存在下 (Dox-)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地への添加あるいは動物個体への投与 (Dox+)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はドキシサイクリン濃度依存的であるためドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図1)。  
 目的の遺伝子を発現する組織、細胞に適したプロモーターの制御下でrtTAを発現する制御ベクター (regular vector)、およびTRE配列をもつ最小プロモーター (minimal promoter)の下流に目的遺伝子をつなげた応答ベクター (response vector)の両者を細胞あるいは動物個体に導入する。 発現したrtTAはドキシサイクリン非存在下 (Dox-)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地への添加あるいは動物個体への投与 (Dox+)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はドキシサイクリン濃度依存的であるためドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図1)。  


[[Image:Tetonoff図2.png|thumb|right|350px|'''図2 Tet-offシステム''']]
== Tet-offシステムの原理  ==


== Tet-offシステム==
 細胞あるいは動物個体に導入するベクターのうち、制御ベクターが発現する遺伝子がtTAであることがTet-onシステムとの違いである。発現したtTAはrtTAとは逆にドキシサイクリン存在下 (Dox+)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地からの除去あるいは動物個体への投与中止(Dox-)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はTet-onシステムと同様にドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図2)。


 細胞あるいは動物個体に導入するベクターのうち、制御ベクターが発現する遺伝子がtTAであることがTet-onシステムとの違いである。発現したtTAはrtTAとは逆にドキシサイクリン存在下 (Dox+)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地からの除去あるいは動物個体への投与中止(Dox-)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はTet-onシステムと同様にドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図2)。
[[Image:Tetonoff図2.jpg|thumb|right|350px|'''図2 Tet-offシステム''']]


== システム使用上の注意点  ==
== システム使用上の注意点  ==
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<references />
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(執筆者:平林敬浩、八木健 担当編集委員:大隅典子) 

2012年5月25日 (金) 16:07時点における版

英:Tet-on/off systems

同義語:Tetracycline-controlled transcriptional activation systems

 Tet-on/offシステムとは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。

Tet on/off システムとは

 Tet-on/offシステムとは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。 このシステムは大腸菌テトラサイクリン耐性オペロンで働くTetリプレッサー(TetR)とTetオペレーター配列(tetO配列)を利用し、TetRはテトラサイクリン非存在下でtetO配列に結合するが、テトラサイクリンが結合するとtetO配列に結合できなくなるという性質を利用している。 ドキシサイクリン存在下で目的遺伝子を発現するものをTet-Onシステム、逆にドキシサイクリン非存在下で目的遺伝子が発現し、ドキシサイクリン存在下では発現が抑制されるものをTet-Offシステムと呼ぶ[1]

基本要素

tTA: tetracycline transactivator

 TetRとヘルペスウイルス由来のVP16転写活性ドメイン (VP16AD)との融合タンパク質でありtetO配列に結合すると下流のプロモーターを活性化する。ドキシサイクリンと結合するとTetRがtetO配列に結合できなくなるためtetO配列下流のプロモーターは活性化しない。

reverse tTA: reverse tetracycline transactivator

 TetR のアミノ酸残基を一部改変して作製されたreverse TetR(rTetR)とVP16ADとの融合タンパク質である。tTAとは逆にドキシサイクリンと結合することでtetO配列に結合し、下流のプロモーターを活性化する。

TRE (Tetracycline Respons Element)

 大腸菌のtetO配列の繰り返し配列から成りtTAあるいはrtTAが結合すると下流のプロモーターを活性化する。

Tet-onシステムの原理

図1 Tet-onシステム

 目的の遺伝子を発現する組織、細胞に適したプロモーターの制御下でrtTAを発現する制御ベクター (regular vector)、およびTRE配列をもつ最小プロモーター (minimal promoter)の下流に目的遺伝子をつなげた応答ベクター (response vector)の両者を細胞あるいは動物個体に導入する。 発現したrtTAはドキシサイクリン非存在下 (Dox-)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地への添加あるいは動物個体への投与 (Dox+)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はドキシサイクリン濃度依存的であるためドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図1)。

Tet-offシステムの原理

 細胞あるいは動物個体に導入するベクターのうち、制御ベクターが発現する遺伝子がtTAであることがTet-onシステムとの違いである。発現したtTAはrtTAとは逆にドキシサイクリン存在下 (Dox+)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地からの除去あるいは動物個体への投与中止(Dox-)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はTet-onシステムと同様にドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図2)。

図2 Tet-offシステム

システム使用上の注意点

 テトラサイクリンより誘導体ドキシサイクリンの方がより強い転写誘導活性を示すため発現調節にはドキシサイクリンが用いられる。特にTet-Onシステムの場合、rtTAとテトラサイクリンとの結合が弱いため、必ずドキシサイクリンを使用する必要がある。また、Tet-onシステムはTet-offシステムに比して厳密な遺伝子調節が制御しにくい傾向がある。

参考文献

  1. Gossen, M., & Bujard, H. (1992).
    Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline-responsive promoters. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 89(12), 5547-51. [PubMed:1319065] [PMC] [WorldCat] [DOI]


(執筆者:平林敬浩、八木健 担当編集委員:大隅典子)