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''岐阜大学大学院医学系研究科 精神病理学分野''<br> | ''岐阜大学大学院医学系研究科 精神病理学分野''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2017年3月13日 原稿完成日:2017年3月23日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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英語名:neurotic disorders 独:neurotische Störungen 仏:troubles névrotiques | |||
神経症性障害という国際疾病分類の大分類は、無意識の葛藤により症状が生まれ、現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害を示す「神経症」という歴史的概念の名残であり、恐怖症、パニック障害、強迫性障害、解離性(転換性)障害などを含む。 | {{box|text= 神経症性障害という国際疾病分類の大分類は、無意識の葛藤により症状が生まれ、現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害を示す「神経症」という歴史的概念の名残であり、恐怖症、パニック障害、強迫性障害、解離性(転換性)障害などを含む。}} | ||
「[[神経症]](neurosis [英]、 Neurose [独])」とは、元々、英国の医師[[wj:ウィリアム・カレン|ウィリアム・カレン]](1712~1790年)が精神機能を障害する[[神経疾患]]全般に対して用いた言葉であった。その後医学の発達に伴い、脳器質疾患、内分泌疾患などが独立した疾患として神経症から除外され、さらにいわゆる[[内因性精神病]]([[精神病性障害]])が区別され、最後に残ったその他の精神疾患が神経症と呼ばれた。 | |||
その後、器質的な原因の見当たらない「神経症」に関心を持った[[wj:ジグムント・フロイト|ジグムント・フロイト]]が、「無意識の葛藤により症状が生まれる」という病因論的解釈、「現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害」という病態の深さ、という2つの観点を混在させた形で神経症を再定義し、こうした考えが[[wj:米国精神医学会|米国精神医学会]]の診断基準である[[DSM-Ⅲ]]が確立するまで続いていた。病態水準の深さという観点から、精神疾患が精神病(psychosis)と神経症に二分するとも考えられていた。当時の主な神経症には、[[不安神経症]]、[[恐怖症]]、[[強迫神経症]]、[[抑うつ神経症]]、[[神経衰弱]]、[[ヒステリー]]、[[心気症]]などが含まれていた。この頃には、日本でも、[[ノイローゼ]](Neurose)という言葉は一般にも広く知られ、使われた。 | |||
その後、こうした疾患群から、[[パニック障害]]、[[強迫性障害]]などの生物学的な基盤を持つ障害が独立し、次第に神経症概念は解体された。 | |||
[[wj:世界保健機関|世界保健機関]][[wj:世界保健機関|WHO]]([[wj:世界保健機関|World Health Organization]])によって作成された、[[国際疾病分類]](International Classification of Disease)では、第9版(ICD-9)(1975)まで、器質性以外の精神疾患を「神経症」と「精神病」の2つに大別するという二分法が採用されていたが、[[ICD-10|第10版]]([[ICD-10]])(1992)では、こうした二分法は廃止された。ただし、序論に、『「神経症性 neurotic」という用語は、機会に応じて用いられるように、なお、残されている。』との記述があるように<ref name=ref1>'''融 道男、中根允文、小見山実、岡崎祐士、大久保善朗'''<br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン 新訂版<br>''医学書院''、東京、2005.</ref>、(無意識の葛藤によって起きる、あるいは現実検討の障害がないことを示すために)形容詞的に用いることは認められた。また、「神経症性障害 Neurotic disorder」という大分類も形の上では残され、それまで神経症とみなされていた障害は、「[[気分障害|気分(感情)障害]]」に含まれる[[抑うつ神経症]] ([[depressive neurosis]])および「生理的障害および身体的要因に関連した[[行動症候群]]」に含まれるいくつかの障害を除き、ほとんどが「神経症性障害、[[ストレス関連障害]]および[[身体表現性障害]]」に含まれている<ref name=ref1>'''融 道男、中根允文、小見山実、岡崎祐士、大久保善朗'''<br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン 新訂版<br>''医学書院''、東京、2005.</ref>。したがって、ICD-10における「神経症性障害」は、従来の「神経症」の一部を示すものであるといえる。 | |||
具体的には、従来「神経症」と言われていたもののうち、ICD-10で「神経症性障害」に含まれているのは、「[[恐怖症性不安障害]]」([[恐怖症]]を含む)、「他の[[不安障害]]」([[パニック障害]]を含む)、「[[強迫性障害]]」、「[[解離性(転換性)障害]]」(以前ヒステリーと呼ばれたもの)、身体表現性障害([[心気障害]]を含む)、その他の神経症性障害([[神経衰弱]]を含む)などである(表の下線)<ref name=ref1>'''融 道男、中根允文、小見山実、岡崎祐士、大久保善朗'''<br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン 新訂版<br>''医学書院''、東京、2005.</ref>。 | |||
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|+ | |+表.ICD-10診断 | ||
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| ◆ '''F40-48 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害'''<br> | |||
| ◆ '''F40- | |||
*F40 <u>恐怖症性不安障害</u> | *F40 <u>恐怖症性不安障害</u> | ||
*F41 <u>他の不安障害</u> | *F41 <u>他の不安障害</u> | ||
*F42 <u>強迫性障害</u> | *F42 <u>強迫性障害</u> | ||
* | *F43 [[重度ストレス反応]]〔重度ストレスへの反応〕および[[適応障害]] | ||
*F44 <u>解離性(転換性)障害</u> | *F44 <u>解離性(転換性)障害</u> | ||
* | *F45 <u>身体表現性障害</u> | ||
*F48 <u>他の神経症性障害</u> | *F48 <u>他の神経症性障害</u> | ||
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2017年3月24日 (金) 00:35時点における最新版
塩入 俊樹
岐阜大学大学院医学系研究科 精神病理学分野
DOI:10.14931/bsd.7418 原稿受付日:2017年3月13日 原稿完成日:2017年3月23日
担当編集委員:加藤 忠史(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:neurotic disorders 独:neurotische Störungen 仏:troubles névrotiques
神経症性障害という国際疾病分類の大分類は、無意識の葛藤により症状が生まれ、現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害を示す「神経症」という歴史的概念の名残であり、恐怖症、パニック障害、強迫性障害、解離性(転換性)障害などを含む。
「神経症(neurosis [英]、 Neurose [独])」とは、元々、英国の医師ウィリアム・カレン(1712~1790年)が精神機能を障害する神経疾患全般に対して用いた言葉であった。その後医学の発達に伴い、脳器質疾患、内分泌疾患などが独立した疾患として神経症から除外され、さらにいわゆる内因性精神病(精神病性障害)が区別され、最後に残ったその他の精神疾患が神経症と呼ばれた。
その後、器質的な原因の見当たらない「神経症」に関心を持ったジグムント・フロイトが、「無意識の葛藤により症状が生まれる」という病因論的解釈、「現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害」という病態の深さ、という2つの観点を混在させた形で神経症を再定義し、こうした考えが米国精神医学会の診断基準であるDSM-Ⅲが確立するまで続いていた。病態水準の深さという観点から、精神疾患が精神病(psychosis)と神経症に二分するとも考えられていた。当時の主な神経症には、不安神経症、恐怖症、強迫神経症、抑うつ神経症、神経衰弱、ヒステリー、心気症などが含まれていた。この頃には、日本でも、ノイローゼ(Neurose)という言葉は一般にも広く知られ、使われた。
その後、こうした疾患群から、パニック障害、強迫性障害などの生物学的な基盤を持つ障害が独立し、次第に神経症概念は解体された。
世界保健機関WHO(World Health Organization)によって作成された、国際疾病分類(International Classification of Disease)では、第9版(ICD-9)(1975)まで、器質性以外の精神疾患を「神経症」と「精神病」の2つに大別するという二分法が採用されていたが、第10版(ICD-10)(1992)では、こうした二分法は廃止された。ただし、序論に、『「神経症性 neurotic」という用語は、機会に応じて用いられるように、なお、残されている。』との記述があるように[1]、(無意識の葛藤によって起きる、あるいは現実検討の障害がないことを示すために)形容詞的に用いることは認められた。また、「神経症性障害 Neurotic disorder」という大分類も形の上では残され、それまで神経症とみなされていた障害は、「気分(感情)障害」に含まれる抑うつ神経症 (depressive neurosis)および「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」に含まれるいくつかの障害を除き、ほとんどが「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」に含まれている[1]。したがって、ICD-10における「神経症性障害」は、従来の「神経症」の一部を示すものであるといえる。
具体的には、従来「神経症」と言われていたもののうち、ICD-10で「神経症性障害」に含まれているのは、「恐怖症性不安障害」(恐怖症を含む)、「他の不安障害」(パニック障害を含む)、「強迫性障害」、「解離性(転換性)障害」(以前ヒステリーと呼ばれたもの)、身体表現性障害(心気障害を含む)、その他の神経症性障害(神経衰弱を含む)などである(表の下線)[1]。
◆ F40-48 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 |