「終脳」の版間の差分

4 バイト追加 、 2013年2月27日 (水)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
22行目: 22行目:
== 前脳、中脳と後脳の領域化に関与する転写因子  ==
== 前脳、中脳と後脳の領域化に関与する転写因子  ==


 発生過程の脳では数多くの遺伝子が発現し、特に異なる転写因子の発現の組み合わせにより区画化(コンパートメント)が行われている。ここでは発生過程の脳で発現し、脳の区画化に関わる代表的な転写因子の機能について述べる。<br> 終脳の形成においてOtx遺伝子とEmx遺伝子が協働して機能している。これらの遺伝子は転写因子であり、ショウジョウバエの相同遺伝子(orthodenticleやempty spiracle)と高い類似性を保っている。これらの遺伝子の機能は、ショウジョウバエの頭部形成や、脊椎動物の前脳と中脳の形成に関与している。Otx2/Emx2ダブル欠損マウスならびOtx1/Emx2ダブル欠損マウスの解析では、脳背側部および間脳領域(視床上部、視床)の欠損が認められ、両遺伝子が前脳形成に重要な役割を果たしている事が示されている。<br> 前脳の発生が進むと背側側に大脳皮質と腹側側に基底核原基が形成され、終脳と成る。終脳の大脳皮質には興奮性神経細胞(グルタミン酸作動性)と抑制性神経細胞(GABA作動性)が存在している。前者は大脳皮質の脳室帯にて生まれ、法線方向(脳室から脳表面)に移動し、後者は基底核原基で生まれ、大脳皮質内には接線方向に移入して、大脳皮質を構成している。近年、これらの興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の分化を制御する転写因子や分泌因子が同定されている。また興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の細胞移動に関しても解明が進んでいる。<br>中脳と後脳の境目の形成に関与する遺伝子としてOtx2やGbx2遺伝子が知られている。マウスの胎生7.5日目においてOtx2は前方にGbx2が後方に発現し、前後軸が決定される。このOtx2とGbx2の発現境界は中脳と後脳の境(菱脳峡)に一致し、菱脳峡では線維芽細胞増殖因子であるFgf8が発現する。このFgf8は前方の中脳胞から視蓋を、また後方の菱脳胞から小脳を誘導する。Gbx2遺伝子を欠損したマウスでは、Otx2の発現が後脳側に拡大し、通常中脳と後脳の境目に発現するFgf8は菱脳で発現する。
 発生過程の脳では数多くの遺伝子が発現し、特に異なる転写因子の発現の組み合わせにより区画化(コンパートメント)が行われている。ここでは発生過程の脳で発現し、脳の区画化に関わる代表的な転写因子の機能について述べる。<br> 終脳の形成においてOtx遺伝子とEmx遺伝子が協働して機能している。これらの遺伝子は転写因子であり、ショウジョウバエの相同遺伝子(orthodenticleやempty spiracle)と高い類似性を保っている。これらの遺伝子の機能は、ショウジョウバエの頭部形成や、脊椎動物の前脳と中脳の形成に関与している。Otx2/Emx2ダブル欠損マウスならびOtx1/Emx2ダブル欠損マウスの解析では、脳背側部および間脳領域(視床上部、視床)の欠損が認められ、両遺伝子が前脳形成に重要な役割を果たしている事が示されている。<br> 前脳の発生が進むと背側側に大脳皮質と腹側側に基底核原基が形成され、終脳と成る。終脳の大脳皮質には興奮性神経細胞(グルタミン酸作動性)と抑制性神経細胞(GABA作動性)が存在している。前者は大脳皮質の脳室帯にて生まれ、法線方向(脳室から脳表面)に移動し、後者は基底核原基で生まれ、大脳皮質内には接線方向に移入して、大脳皮質を構成している。近年、これらの興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の分化を制御する転写因子や分泌因子が同定されている。また興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の細胞移動に関しても解明が進んでいる。<br>中脳と後脳の境目の形成に関与する遺伝子としてOtx2やGbx2遺伝子が知られている。マウスの胎生7.5日目においてOtx2は前方にGbx2が後方に発現し、[[前後軸]]が決定される。このOtx2とGbx2の発現境界は中脳と後脳の境(菱脳峡)に一致し、菱脳峡では線維芽細胞増殖因子であるFgf8が発現する。このFgf8は前方の中脳胞から視蓋を、また後方の菱脳胞から小脳を誘導する。Gbx2遺伝子を欠損したマウスでは、Otx2の発現が後脳側に拡大し、通常中脳と後脳の境目に発現するFgf8は菱脳で発現する。


 後脳では、発生の一時期に、菱脳節(rohmbomerer)と呼ばれる7ないし8個の膨らみが形成される。これらの菱脳節はそれぞれ異なる神経核を持ち、異なった性質を有している。この菱脳節の分節間の違いは発現するHomeobox遺伝子により制御されている。マウスではゲノム4カ所にHoxA、HoxB、HoxCとHoxDという4つのホメオティック遺伝子群のクラスターを持つ。各クラスター内で遺伝子は全て同じ向きに転写され、前後軸に沿って発現する順番と遺伝子の並びが一致し、異なるHomeobox遺伝子の発現により菱脳節の分節間の違いが確立されている。ヒトのHoxa1遺伝子の欠損は脳幹の一部の神経核が欠損し、自閉症に関与する事が示されている。<br>  
 後脳では、発生の一時期に、菱脳節(rohmbomerer)と呼ばれる7ないし8個の膨らみが形成される。これらの菱脳節はそれぞれ異なる神経核を持ち、異なった性質を有している。この菱脳節の分節間の違いは発現するHomeobox遺伝子により制御されている。マウスではゲノム4カ所にHoxA、HoxB、HoxCとHoxDという4つのホメオティック遺伝子群のクラスターを持つ。各クラスター内で遺伝子は全て同じ向きに転写され、前後軸に沿って発現する順番と遺伝子の並びが一致し、異なるHomeobox遺伝子の発現により菱脳節の分節間の違いが確立されている。ヒトのHoxa1遺伝子の欠損は脳幹の一部の神経核が欠損し、自閉症に関与する事が示されている。<br>  


(執筆者:黒田一樹、佐藤真、担当編集者:大隅典子)
(執筆者:黒田一樹、佐藤真、担当編集者:大隅典子)