「微小管」の版間の差分

193 バイト除去 、 2013年11月2日 (土)
編集の要約なし
編集の要約なし
30行目: 30行目:
 MTOCで直接的に微小管の重合開始を担うのはγ-チュブリンである<ref><pubmed> 21993292</pubmed></ref>。γ-チュブリンは、[[γ-TuSC]]というタンパク質複合体を形成して機能する。[[wj:酵母|酵母]]などではこれが実際の微小管重合核となる。一方、[[哺乳類]]を含む多くの真核生物では、γ-TuSCにさらに多くのタンパク質が加わったγ-TuRCを形成する。MTOC以外にも微小管の重合開始点が存在することが知られており、多くの場合、中心体と同様γ-チュブリンが重合開始を担っていると考えられている<ref><pubmed> 17245416</pubmed></ref>。
 MTOCで直接的に微小管の重合開始を担うのはγ-チュブリンである<ref><pubmed> 21993292</pubmed></ref>。γ-チュブリンは、[[γ-TuSC]]というタンパク質複合体を形成して機能する。[[wj:酵母|酵母]]などではこれが実際の微小管重合核となる。一方、[[哺乳類]]を含む多くの真核生物では、γ-TuSCにさらに多くのタンパク質が加わったγ-TuRCを形成する。MTOC以外にも微小管の重合開始点が存在することが知られており、多くの場合、中心体と同様γ-チュブリンが重合開始を担っていると考えられている<ref><pubmed> 17245416</pubmed></ref>。


==結合タンパク質とモータータンパク質==
==翻訳後修飾==
 
 微小管はいくつか特徴的な翻訳後修飾を受ける。これらの修飾は、結合タンパク質やモータータンパク質の微小管に対する結合能を変化させるなどして、微小管の機能や安定性、構造に大きな影響を及ぼす<ref><pubmed> 22086369</pubmed></ref>。
 
===C末端の脱チロシン化および再チロシン化===
 α-チュブリンのC末端の[[チロシン]]は除去と付加を繰り返し受けている。チロシンが除去された状態で起こる脱[[グルタミン酸]](Δ2 チュブリンを生成する)は不可逆的である。
 
===グリシン化とグルタミン酸化===
 重合した状態のチュブリのC末端付近に存在する複数のグルタミン酸残基は[[グリシン]]もしくはグルタミン酸の付加を受ける。グリシンやグルタミン酸は次々と付加されていき、[[wj:ポリグリシン|ポリグリシン]]もしくは[[wj:ポリグルタミン酸|ポリグルタミン酸]]の側鎖となる。
 
===アセチル化===
 [[アセチル化]]は主に安定化した微小管に見出される。しかし、アセチル化により微小管構造が安定化されるわけではない。α-チュブリンのLys40が主要なアセチル化部位と考えられているが、他のアセチル化部位も同定されている。
 
==結合タンパク質==


 これまでに数多くの微小管に結合するタンパク質が発見されており、その機能は多岐にわたっている。[[古典的MAP]](Microtubule Associating Protein)もしくは構造的MAPに属する[[タウ]]や[[MAP2]]は微小管を安定化させることにより動態を変化させる<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref><ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。
 これまでに数多くの微小管に結合するタンパク質が発見されており、その機能は多岐にわたっている。[[古典的MAP]](Microtubule Associating Protein)もしくは構造的MAPに属する[[タウ]]や[[MAP2]]は微小管を安定化させることにより動態を変化させる<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref><ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。
50行目: 63行目:
 微小管が形成する繊維は長くて硬いため、細胞の形を決める重要な因子となる他、以下に概説するように、細胞内物質輸送、有糸分裂、鞭毛や繊毛の運動において重要な役割を果たしている。
 微小管が形成する繊維は長くて硬いため、細胞の形を決める重要な因子となる他、以下に概説するように、細胞内物質輸送、有糸分裂、鞭毛や繊毛の運動において重要な役割を果たしている。


===細胞内物質輸送===
===神経細胞内物質輸送===
 極性を持つ微小管線維をレールとして、積荷と結合したモータータンパク質が方向性を持って移動することにより、物質輸送が行われる。積荷はタンパク質、[[核酸]]、[[脂質]]([[小胞]]や[[オルガネラ]])など多岐に渡る。神経細胞は特に長い突起を持っており、その中の物質の移動はモータータンパク質による微小管に沿った輸送に大きく依存している。神経細胞内で行われる輸送の詳しい説明は [[軸索輸送]]、[[小胞輸送]]等の項目を参照されたい。
 極性を持つ微小管線維をレールとして、積荷と結合したモータータンパク質が方向性を持って移動することにより、物質輸送が行われる。積荷はタンパク質、[[核酸]]、[[脂質]]([[小胞]]や[[オルガネラ]])など多岐に渡る。特に、神経細胞は特に長い突起を持っており、その中の物質の移動はモータータンパク質による微小管に沿った輸送に大きく依存している。突起内には微小管が密に配列され構造を保つ役割を担うと同時に、モータータンパク質を介して突起の先端にその形態変化・維持に必要な物質を輸送している。微小管の脱重合は突起の伸長を阻害し、後退を引き起こす。神経細胞内で行われる輸送の詳しい説明は [[軸索輸送]]、[[小胞輸送]]等の項目を参照されたい。
 
====軸索と樹状突起における微小管====
 軸索内に存在する微小管は向きが揃っており、プラス端は先端に存在する<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>。これは、プラス端に向かって動く微小管モーターであるキネシンによって、非常に長い突起の先端に効率よく物質を運ぶために有利だと考えられる。
 
 伸長している軸索の[[細胞体]]に近い方に存在する微小管は安定で寿命が長く、脱チロシン化かつアセチル化されたチュブリンで構成されている。先端部に行くほど微小管はより動的で、チロシン化されているがアセチル化を受けていないチュブリンに富んでいる<ref><pubmed> 20541813</pubmed></ref>。特に[[成長円錐]](growth cone)では微小管は非常に動的で形態も複雑である<ref><pubmed> 19377501</pubmed></ref>。
 
 樹状突起では、近位部では異なる向きの微小管が混在し、総体としてみると極性の無い状態になっている。一方、遠位部では先端にプラス端を向けた極性を持っている<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]のニューロンでは、樹状突起の分岐点に存在する[[ゴルジ体]](Golgi outpostと呼ばれる)から微小管が伸長し、樹状突起の形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている<ref><pubmed> 23217741</pubmed></ref>。哺乳類のニューロンにおいても樹状突起の分岐点にGolgi outpostが見つかっているが、そこから微小管の伸長が起こるかは検討されていない<ref><pubmed> 16337914</pubmed></ref>。また、以前は樹状突起の[[棘突起]]([[spine]])には微小管は存在しないと考えられていたが、近年の研究で棘突起内に非常に動的な微小管が存在することが明らかになり、棘突起形成に関与していることが示されている。
 
 前述したように、軸索と樹状突起では結合タンパク質の分布が異なり、例えばタウは軸索に、[[MAP2]]は樹状突起にほぼ特異的に存在している<ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。また、[[MAP1A]]が成熟したニューロンに発現し、樹状突起に多く存在する一方で、MAP1Bは発生初期の段階で高発現し、伸長中の軸索、特に成長円錐に集積している<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref>。これらのMAPsは、微小管の安定化や他のタンパク質との結合を調節することにより、微小管の機能を制御していると考えられる。
 
====チュブリンの軸索輸送====
 傷害を受けて再生中など、特別な場合を除き、成熟した軸索にはタンパク質の合成を担う[[wj:小胞体|小胞体]]と[[wj:リボソーム|リボソーム]]が存在しないため、突起の先端で微小管が重合するためには、細胞体で新規に合成したチュブリンを先端まで運ぶ必要がある。チュブリンは一日当たりの移動速度が数mm以下の遅い[[軸索輸送]]で運ばれることが知られている。輸送の際は、チュブリンはサブユニットもしくは小さい重合体(オリゴマー)の状態でキネシンによって運ばれるとする説が有力である<ref><pubmed> 11051554</pubmed></ref><ref><pubmed> 11792545</pubmed></ref>。輸送の速度がキネシンの移動速度と比べて遥かに遅いのは、チュブリンがモータータンパク質に結合したり解離したりしながら、軸索の先端に運ばれていくからであると推測されているが、その詳しいメカニズムは不明な点が多い。
 
 また、細胞体の中心体から伸びる微小管がカタニンによって切断され、軸索へ運ばれる現象も観察されている。


===有糸分裂===
===有糸分裂===
80行目: 107行目:


 軸糸の微小管は基底小体を核として形成される。基底小体は中心小体と構造・機能的によく似ており、一次繊毛の基底小体は中心小体が基底小体に変化して形成される<ref><pubmed> 21536747</pubmed></ref>。
 軸糸の微小管は基底小体を核として形成される。基底小体は中心小体と構造・機能的によく似ており、一次繊毛の基底小体は中心小体が基底小体に変化して形成される<ref><pubmed> 21536747</pubmed></ref>。
==翻訳後修飾==
 微小管はいくつか特徴的な翻訳後修飾を受ける。これらの修飾は、結合タンパク質やモータータンパク質の微小管に対する結合能を変化させるなどして、微小管の機能や安定性、構造に大きな影響を及ぼす<ref><pubmed> 22086369</pubmed></ref>。
===C末端の脱チロシン化および再チロシン化===
 α-チュブリンのC末端の[[チロシン]]は除去と付加を繰り返し受けている。チロシンが除去された状態で起こる脱[[グルタミン酸]](Δ2 チュブリンを生成する)は不可逆的である。
===グリシン化とグルタミン酸化===
 重合した状態のチュブリのC末端付近に存在する複数のグルタミン酸残基は[[グリシン]]もしくはグルタミン酸の付加を受ける。グリシンやグルタミン酸は次々と付加されていき、[[wj:ポリグリシン|ポリグリシン]]もしくは[[wj:ポリグルタミン酸|ポリグルタミン酸]]の側鎖となる。
===アセチル化===
 [[アセチル化]]は主に安定化した微小管に見出される。しかし、アセチル化により微小管構造が安定化されるわけではない。α-チュブリンのLys40が主要なアセチル化部位と考えられているが、他のアセチル化部位も同定されている。
==ニューロンにおける微小管==
 軸索と樹状突起という特徴的な突起を持つニューロンの形態と機能は微小管に大きく依存している。突起内には微小管が密に配列され構造を保つ役割を担うと同時に、モータータンパク質を介して突起の先端にその形態変化・維持に必要な物質を輸送している。微小管の脱重合は突起の伸長を阻害し、後退を引き起こす。
===軸索と樹状突起における微小管===
 軸索内に存在する微小管は向きが揃っており、プラス端は先端に存在する<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>。これは、プラス端に向かって動く微小管モーターであるキネシンによって、非常に長い突起の先端に効率よく物質を運ぶために有利だと考えられる。
 伸長している軸索の[[細胞体]]に近い方に存在する微小管は安定で寿命が長く、脱チロシン化かつアセチル化されたチュブリンで構成されている。先端部に行くほど微小管はより動的で、チロシン化されているがアセチル化を受けていないチュブリンに富んでいる<ref><pubmed> 20541813</pubmed></ref>。特に[[成長円錐]](growth cone)では微小管は非常に動的で形態も複雑である<ref><pubmed> 19377501</pubmed></ref>。
 樹状突起では、近位部では異なる向きの微小管が混在し、総体としてみると極性の無い状態になっている。一方、遠位部では先端にプラス端を向けた極性を持っている<ref><pubmed> 19660553</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]のニューロンでは、樹状突起の分岐点に存在する[[ゴルジ体]](Golgi outpostと呼ばれる)から微小管が伸長し、樹状突起の形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている<ref><pubmed> 23217741</pubmed></ref>。哺乳類のニューロンにおいても樹状突起の分岐点にGolgi outpostが見つかっているが、そこから微小管の伸長が起こるかは検討されていない<ref><pubmed> 16337914</pubmed></ref>。また、以前は樹状突起の[[棘突起]]([[spine]])には微小管は存在しないと考えられていたが、近年の研究で棘突起内に非常に動的な微小管が存在することが明らかになり、棘突起形成に関与していることが示されている。
 前述したように、軸索と樹状突起では結合タンパク質の分布が異なり、例えばタウは軸索に、[[MAP2]]は樹状突起にほぼ特異的に存在している<ref><pubmed> 15642108</pubmed></ref>。また、[[MAP1A]]が成熟したニューロンに発現し、樹状突起に多く存在する一方で、MAP1Bは発生初期の段階で高発現し、伸長中の軸索、特に成長円錐に集積している<ref><pubmed> 16938900</pubmed></ref>。これらのMAPsは、微小管の安定化や他のタンパク質との結合を調節することにより、微小管の機能を制御していると考えられる。
===チュブリンの軸索輸送===
 傷害を受けて再生中など、特別な場合を除き、成熟した軸索にはタンパク質の合成を担う[[wj:小胞体|小胞体]]と[[wj:リボソーム|リボソーム]]が存在しないため、突起の先端で微小管が重合するためには、細胞体で新規に合成したチュブリンを先端まで運ぶ必要がある。チュブリンは一日当たりの移動速度が数mm以下の遅い[[軸索輸送]]で運ばれることが知られている。輸送の際は、チュブリンはサブユニットもしくは小さい重合体(オリゴマー)の状態でキネシンによって運ばれるとする説が有力である<ref><pubmed> 11051554</pubmed></ref><ref><pubmed> 11792545</pubmed></ref>。輸送の速度がキネシンの移動速度と比べて遥かに遅いのは、チュブリンがモータータンパク質に結合したり解離したりしながら、軸索の先端に運ばれていくからであると推測されているが、その詳しいメカニズムは不明な点が多い。
 また、細胞体の中心体から伸びる微小管がカタニンによって切断され、軸索へ運ばれる現象も観察されている。


==疾患との関連==
==疾患との関連==